僕、逃亡中【BL】

いんげん

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自由な犬【兄視点】

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「あの日、理斗は俺を連れ去ろうとするアイツを撮影して、通報すると言ってカメラを起動していた。後先なんて考えないアイツは、すぐに、かっとなってナイフを持ちだし理斗に襲いかかった」
 当時の様子を想像するだけで、ゾッとする。やはり星野剛は糞野郎だった。

「俺は後ろから追いかけて、アイツを消そうとしたけど……三人が折り重なるように倒れて、気がついたら二人は消えてた。理斗の落としたスマホの録画を見たら、消えかけたアイツの手から落ちたナイフを握ってて、そのまま倒れ込んで……消えた。スマホは、何度も処分しようと思ったけど、アレには理斗の写真も、理斗のメールも、理斗が見てきた綺麗な物も、理斗の色んなものが残されてて。棄てられなかった。時々、電波の届かないような場所に行って、充電して眺めてた」
 星野紳一は、後悔し、泣いて叫んでいた。桜川警部補の言葉が蘇る。

 今の海棠も、当時の事を思い出しているのか、泣きそうな、でも自嘲しているような、複雑な表情をしている。

「……理斗のマスコットが戻って来て、俺の力が、消去じゃ無くて時間の移動かもと気がついたらもう……嬉しくて、嬉しくて泣いた。また、理斗に会えるかも知れないと最初は喜んだ」
それが、三年経っても強く残る思念だったのか。自分の中で納得がいった。

「でも、時間が経って、本当に理斗は無事なのか不安に襲われた。親父にも俺の能力や、理斗の事を話してたから、理斗の証拠品を持っていったのを知ったら、余計に裏切られたと思った」
 この後、自分が自首するつもりだったと、語る海棠を見ながら、思い出したことがある。

「ちょっと待て……お前の大きな力は、確か過去に二回感知されて、今回が三回目だったはずだ」
 理斗と星野剛を飛ばしたのが一回目だとすると、あと一回は何だ?

「理斗には関係無いので……黙秘します」
 瞼を閉じた海棠は、薄らと微笑んだ。
「洗いざらい話せよ……どうせ、お前は裁かれない」
「は?」
「今、必死に探しているのは、星野剛殺害の犯人じゃ無い、あの日発動された大きな力の持ち主だ。国にとって利用価値が高い能力者は優遇される」
「えー、やだよ。俺、自由なタイプの人間だから、政府の犬にはなりたくないよ」
 海棠は、フラフラと体をゆらし、わんわん言いだした。さっきまでの神妙さは消え失せている。

「貴様」
「理斗の消しちゃった十年分、俺が刑務所で償おうと思ってるから、逮捕は全然良いけど。何とか能力は内緒でさ、ね、お兄ちゃん」
「色々説明が付かないだろ! 理斗はどうするんだ。十年分年齢詐欺して生きるのか? 能力の悪影響も心配だ、ちゃんと色々調べさせたい!」
「確かに俺もそう思う。もー、なんで親父自首しちゃうかなぁ。何だかんだ逃げ切れると思ってたのにな」
 妙に嬉しそうに笑う海棠の足を蹴った。海棠はフラフラとよろけるフリをして前屈みになった。

「実はね、本物の夕太郎を殺した男。見つけ出して、アレしちゃって飛ばしたから、ソイツもゴーバックする予定でさ。よいしょっと」
 体を起こした海棠の手に、手錠は填まっていなかった。能力で消したのか?

「おい……」
「えー、だって。もう政府の犬確定でしょ。力使い放題でしょ。色々消していこう……例えば、政府が消したい人間とか? 十年先送りにしたい問題とか? とにかく色々消して実験しようよ。消されたものにどんな影響があるのかね」
 ヘラヘラと笑う海棠の目は真剣そのものだった。俺の警察官としての本能が、コイツはヤバいと警鐘を鳴らしている。

「俺さぁ、お兄さんと同じ部署はやだなぁ。もっと偉くて格好いい方が良いなぁ。エリート官僚みたいなの? 理斗とタワマンとか住まなきゃかな?」
「……お前、そうえば、よくも俺の弟を毒牙に掛けてくれたな……理斗は、お前となんて暮らさない! 俺が迎えに来た。もうすぐ目が覚める。ストックホルム症候群だ!」

 本気でボディに一発入れようと殴り掛かったが、よけられた。
 おぉ、そうだった。腹を攻撃しても仕方ない。理斗に余計な手出しが出来ないように、アソコを不能にする必要がある。

「ちょ、お兄さん。何処見てるの、やーめーてー。理斗、助けてぇ」
 海棠が走り出した。その後ろ姿を、本気で射殺したいと思った。
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