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おまけ
しおりを挟むザーン様の民族は鶏肉をたべない。
禁止じゃなくて、馴染みがないみたいだ。
確かに、駆け抜ける広大な大地で、見かけるのは羊が多い。
「この辺に鳥が居たとして、どうやって捕まえるんですか?」
鳥の肉が食べたいな。
ポロッと言ったのは、数日前だ。
その時、近くにいたザーン様は、ノーリアクションだった。視線すら感じなかった。
なのに、今日、突然
「狩りに行く」
と言い出したのだ。
聞いてたんだ。
あの時。
しかも、それから密かに計画してくれていたのだろう。
この、何食わぬ顔で。
今日の俺は1人で馬に乗っている。
この馬は、とても大人しい妙齢の女性らしい。
ザーン様は、弓を手にして騎乗している。
「どう捕まえるだと?」
「あっ、え? 弓ですか!?」
俺がビックリして大きな声を上げると、ザーン様の眉はぎゅっとしかめられた。
「野蛮だとでも言うのか?」
「いえ、いえ、違います! 野生の鳥を弓で射るなんて無理だと思って。だって、私、公園の鳩っていう人馴れしてる鳥すら捕まえられませんでした」
保育園のお散歩で訪れた公園で、足に紐が絡まってる鳩を見かけた。
「そろり、そろりと近づいたんですけど、無理でした」
「……」
「そういえば、今まで平和だったからアレですけど、みなさん弓の名手なんでしたっけ? じゃあ、日暮れまでに何とか捕まえられるかなぁ。ザーン様、ガンバってください!」
「……」
鳥さんが可哀想。
そんな気持ちは微塵も生まれなかった。
ありがたく頂きたい。
羊のお肉は、美味しいけど、やっぱり魚とか鶏とか食べたい。
俺とアリスは、食いしん坊な所も似ていたのかもしれない。
ザーン様は、呆れ顔で俺を見ている。
まぁ、アレかな。
「先生、あのアニメの曲弾いて!」
とキラキラの目でリクエストしてくる子どもみたいな感じかな。
無理だよ。今のアニメの曲って、アーティストが転調しまくりの難しい曲を作るから、弾けないよ。だが、そんなやる前から諦める姿勢は見せられない、だから頑張る……頑張って、簡易バージョンを検索する。
「ザーン様、もし……もしも鳥、居なかったら、木の実とか、そういうのも私好きです」
妥協案を提示してみた。
ザーン様は皇子様。
手ぶらじゃプライドが傷つくかと心配したのだ。
「……」
ザーン様は、目を閉じてため息をついた。
「そこで待っていろ」
「えっ、置いてけぼりですか!一緒がいいです!」
馬の向きを変えたザーン様を、追いすがるように見つめた。
熊とか野盗とか出たら怖すぎる。
なにせ転生前には強盗が来たのだ。
「行かないで」
「……鳥はどうするのだ」
「食べたいです。でも行かないで。そうだ、他の人にお願いするとか!」
俺は、思いついた妙案に微笑んだ。
ね、そうしよう。
説得するように、アリスのキラキラの瞳で見つめた。
「……駄目だ」
「え? なんで?」
なぜか怒った顔をしているザーン様に、俺はキョトンだ。
ザーン様は、いつも色々と仲間に頼んでいる。なぜ今は駄目なの? 俺は首を傾げた。
「私が……今、狩りをしたいからだ」
ザーン様は、目をそらして、顔を背けた。
「……付近は他の奴らが見張っている。問題ない。すぐ戻る」
「あーー、ザーン様!」
あっという間にザーン様は、林の中に消えて行ってしまった。
□□□□
俺は、ソワソワ、キョロキョロしていた。
林の方から物音が聞こえるたびに「ひぃ!」と叫んだ。
「ザーンさま」
林に向かって声をかけた。
「ザーンさまぁ」
返事はない。
時計もスマホもないから時間はわからず、気も紛れない。
現代ならGPSで位置情報共有とかできるのに。
この世は、とても予想がつかない。
さっき別れた人と、また会える。そう信じられない。
「ザーンさま、帰って来てくださーい」
俺は、ザーン様を待って
待って
待った
気分はもう数時間たってるんだけど、太陽の位置はほとんど変わってない。
「ザーンさまぁ」
不安で黙ってられなくて、呼びかけ続けていると、林の奥から物音が近づいてきた。
馬の駆ける足音だ。
「ザーンさま!」
「何だ」
現れたのは、待ち焦がれたザーンさまだった。タルカンも現れた。
「ザーンさまぁぁ」
安堵で半泣きになり、馬の手綱を離し、腕を伸ばした。目の前まで来てくれたザーンさまは、目を見開いた。
若干、体を引いたのは何故ですか。
「なぜ泣く……」
「遅いですよぉ」
さぁ、さっさと引き寄せろ。
いつも荷物のように馬から馬に移動させられる。
その時みたいに両手を伸ばしたら、戸惑いながら引き寄せてくれた。
ザーン様の厚い胸に飛び込んで、ホッとした俺は、もう重症だ。
ぎゅー、と隙間なく抱きついて額でドリルみたいにグリグリした。
たまらん。
安心感、無限大。
「んー、急速充電」
更に、フガフガとザーン様の胸の匂いを嗅いだ。
いい匂いがする。
あと、狩りしてきたからか、ザーン様の心拍数は、ドッコ、ドッコ、爆速だ。
しばしザーン様を吸って
「あー、やっと落ち着いた」
クイッと顔を上げてザーン様をみあげたらザーン様は、天を仰いでいた。
「ザーン様、おかえりなさい」
「……あぁ」
「鳥いました?」
「……あぁ」
「沢山手に入りましたよ」
近くにいたタルカンが、紐でぶら下げた鳥を見せてくれた。
「凄い! ありがとう、ザーン様!」
俺が礼を言うと、やっとザーン様が、こっちを見てくれた。
ふっ、と口角を上げて微笑したザーン様は、文句無しにかっこよかった。
同じ男として、凄い痺れる!!
「ザーン様、カッコいい!どうして、そんなに素敵なんですか」
「知らん」
「ちょっと考えてみますね」
「……」
何言ってるんだ、コイツ。
視線がそう語っている。
「もういい、戻るぞ」
「はい!」
俺は、ザーン様の首に腕を回して、よっこいしょ、と体の向きを変えた。
□□□□
鳥料理で満腹になった俺は、大満足でご機嫌最高潮だ。
「ザーン様、最高。ザーン様、狩りの天才。ザーン様、素敵」
今日も向かいで酒を飲むザーン様。
その後ろに回って、抱きついて、ハーフアップの髪に顔を埋めて、ザーン様を賛辞しまくった。
「お前の、そういう現金な所は、嫌いじゃない」
「へへへ、好きって事ですか?」
「……」
「アリス、顔、超可愛いですもんね」
「自分で言うのか……」
「だって、本当ですもん」
「まぁ、お前の外見もアレだが……むしろ……」
ザーン様は、言葉につまって杯を置いた。
「むしろ?」
「……お前の、変なところが愉快で」
「愉快で?」
ザーン様は、かすかな声で言った。
「愛らしい」
俺は、へなへなになって、しゃがみこんだ。
ザーン様が振り返った気配がしたけど、顔が上げられない。
「今日は、取り込むのか」
「……ザーン様が、私のこと好きで好きで、溜まらないよぉーって言うなら!」
ソワソワしすぎて、イライラした俺は生意気な顔をしてザーン様をみた。
「……」
ほら、言えないでしょ。
ふふん、俺は立ち上がり、腕を組んだ。
すると、ザーン様も立ち上がって、俺の耳に顔を寄せた。
えっ……まさか
愛の囁きを!?
「お前が欲しがっていた、豆から作った、塩辛い調味料を手に入れた」
「ザーン様大好き! 愛してます!」
俺は、ジャンプしてザーン様に飛びついた。
足でも、しっかりザーン様に巻き付く。
「ザーンさまぁぁ」
ザーン様が、クスクス笑ってて、首筋がくすぐったい。
「よ、よーし、じゃあ、ちょっと、ちょっとだけ、取り込んじゃおっかな」
ザーン様は声を上げて笑った。
「お前は、本当に……わかりやすくて良い。そのままで居ろ。私が、お前の望むもの――全て手に入れてやる」
「ザーン様、好きぃぃ」
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お父様に会う所や結婚式なんかもみたいです。タルカン視点とかも気になります。お時間あれば番外編お願いします(⁎⁍̴̆Ɛ⁍̴̆⁎)
まだまだザーン様とアリスを見ていたいです
とま様、感想ありがとうございます。
可愛いと言っていただけて嬉しいです♡
意外とちょろいザーン様がお気にいりですwww
大陸の支配者になった恐ろしいザーンパパに、どんなミラクルを起こすのか、想像するだけで笑います。
いつか、書けたら、よろしくお願いします!