時計仕掛けのダリア

クレシャス・ブレイク

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前篇

二階堂由香①

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 いつもと同じ朝。朝食を作り、家族に食べさせて仕事に行く。しかし、僕は昨夜のことが頭から離れなかった。夢精はしていなかったのが幸いだった。あんな夢見ると、たいがい出ているから後始末に困る。
 しかし…夢のようで夢じゃなかったのかな?

 その日の夜、妻とささいなことでけんかした。妻が「ベランダ菜園の野菜の種類を増やしてほしい」と言ってきた。が、朝は家事で忙しいし、夜も子供を風呂に入れたり皿洗いで忙しい。時間がないのだ。そう答えると「もういい!」とすねて寝てしまった。
 一体何なんだ、子供か……。
 そんなこともあり、僕はまたダリア・クロックを使うことにした。

 そこは同窓会の場面だった。どうやら中学時代の同窓会のようだ。少し広めの会館を借り切って、アルコールやオードブルを並べてある。
「トッキー、久しぶり!」
 クラスメートだった男子や女子と再会する。大人になっていたが、みんな面影があって懐かしい。ちなみにトッキーとは中学時代のニックネームだ。
「トッキーも変わらないね」
 なれなれしくこづいてくる女子は、確か河野愛さんだ。けっこう仲がよかったが、恋愛感情を持つより、異性の友達という感じだった。この人、部活はソフトボールだったっけ。
「あ、由香。こっちこっち」
 河野さんが手招きする方には、一人の女性がいた。飛び抜けてかわいいというわけではないが、優しくて穏やかな雰囲気がよい。セミロングの髪と細めの目が印象的だ。
 その女性……二階堂由香さんは……僕が中学時代、ずっと好きだった人だ。中学二年で一緒のクラスになって、隣同士の席になり、よく話をするようになった。明るい笑顔、誰にでも優しい性格から徐々に気になり始め、気が付いたら好きになっていた。でも、彼氏がいるって噂があり、告白はできずに中学三年のクラス替えで別々になった。その後、接点もなく卒業したのだ。
「…由香ー、久しぶりー!」
 抱き合う女子同士。いいなあ……。
「…時任(ときとう)くん?」
 え、覚えてくれている?
「二階堂さん、久しぶり。元気だった?」
「うん。懐かしいね」
 相変わらず微笑みが明るい。その後、みんなで飲み食いし、昔話に花を咲かせる。誰と誰が付き合っていただの、よくあの先生にしかられただの、十五年近く経っているのに、昨日のことのように思い出す。
 僕はビールの入ったグラスを持って移動していた。すると、二階堂さんと目が合った。少し恥ずかしくて目を反らしたが、二階堂さんは近づいてきて「そこに座らない?」と、空いている椅子二つを指した。
 座って軽く乾杯する。せっかくだから、当時のことを話してみた。二年生でクラスが一緒になり、よく話をしたこと。三年生では別々のクラスになってさみしかったこと。
「そんなこと思ってくれていたんだ、嬉しいな」
 はにかみながらビールを飲む。かわいい顔して酒豪なのだろうか?

 同窓会の二次会に行こうとする一団を二人で抜け出し、駅に来た。中学の時ずっと好きだった女の子と二人っきりになれるなんて……。
「これからどうしようか?」
 首を傾げながら聞いてくる。少し前屈みになっているので、胸の谷間が見えた。僕の視線に気付いているはずだけど、由香さんは微笑んだままだ。ほろ酔いのため、頬の赤みが色っぽい。
「あ、あのさ…二人で飲み直さない? 隣駅に移動してさ」
「いいね。いこっ」
 そう言うと、由香さんは僕の腕に手をからめてきた。胸があたっている……。
「あの時より、大きくなったでしょ?」
 え? あの時?
「覚えている? 時任くんさ、体育祭の綱引きの時、私の隣にいたでしょ?」
 覚えている。あの頃は由香さんと身長が同じくらいだったから、由香さんが左の少し前より、僕が右の少し後ろ側に配置された。で、審判の合図で綱を握った瞬間、僕の右手が由香さんの右の胸にあたった。
「あっ」と思ってずらそうとしたのに、由香さんの右腕で締め付けられてしまい、動かせなくなったのだ。仕方なく、綱を引いている間、右手を彼女の柔らかい胸に押しつけたままだった。頭の中は綱引きどころではなかった。
「終わった後、時任くんって顔真っ赤にしていたんだもん。かわいかったなあ」
 はにかみながらくすくす笑う。というか、覚えていてくれたんだ。はずかしいとともに嬉しくなる。そう言えば、あの時から彼女を意識し始めたような……我ながら単純なきっかけだ。
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