時計仕掛けのダリア

クレシャス・ブレイク

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前篇

四宮友美

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 さて、休憩時間も終わるので着替えることにしよう。一時間の休憩なら、ユニフォームは着替えずにそのままでいるのだが、昼は厨房、夕方はデリバリーと仕事が変わる。汚れている服でお客さんの前に行くのはまずいので、まっさらなものと取り替えるのだ。
 男女兼用の更衣室に入り、ズボンを履き替える。次に紺色のポロシャツ……と思ったら、更衣室のドアが開いた。
「きゃっ!?」
 そこにいたのは丸い眼鏡をかけた女の子だ。年は高校を卒業したかどうか、というところである。
 僕は上半身裸のまま、固まっていた。
「ご、ごめんなさい!」
 その女の子は慌ててドアを閉めた。こういう時、見ても見られても悲鳴を上げるのはなぜか女子なのだ。
 ポロシャツを着て部屋の外に出ると、先ほどの女の子が顔を赤くして立っている。由希姉はというと、ニヤニヤしている。
「かずくーん、だめよ-。使用中の札、ノブにかけ忘れたでしょう?」
 ああ、やっぱり……。それでこの子はドアを開けてしまったのか。
「す、すみません。私もノックしなくて……」
 女の子は、眼鏡の奥の大きな目を潤ませている。ボブが似合う、かわいい子だ。
「いや、僕も失礼した。自己紹介するね、アルバイトの時任計希です」
「私、同じくアルバイトの四宮友美です。二週間前に入ったばかりです。よろしくお願いします」
 そういえば、ここのところ何人か新人が入ったって聞いたな。その中の一人か。
「かずくん、こういうこともあるから、日々筋肉を鍛えておこうね」
「大きなお世話だ」
 由希姉は細マッチョが好きらしく、事ある毎に「鍛えろ」とつっかかってくる。談笑はこの辺にして、三人で夕方からの仕事に入った。

 四宮友美さんの仕事ぶりを見ていると、笑顔がかわいくて接客が上手だ。やや地味な第一印象だったが、カウンターが向いているのかも。一方で、厨房とカウンターの間にあるフライヤー業務は、まだ慣れていないようだ。YFCでは、ポテトを詰めたりサイドメニューを準備したりするのはカウンダーやデリバリーの仕事である。
 ピークまで時間があったので、少し教えることにした。僕は、Sサイズポテトの袋を左手に持ち、右手に詰める器具を持って棒状のポテトを流していく。
「こんな感じでやってみて」
「はい」
 コツをつかむのは早いようだ。さっきより上手になっている。
「ありがとうございます。時任さん、教え方上手ですね」
 彼女が一歩こちらに近寄ったので胸が僕の腕に当たった。かなり大きい……少なくとも由希姉よりは。
 少しドキドキしていた時、副店長が事務所からやってきた。
「時任、今日はフライヤー付近で指揮とっていてくれ」
「何かあったんですか?」
「店長が急に休んだ」
「え!」
 最近、店長が急に休むことがある。仕事が辛いのか、元気がない。副店長はというと、「まったく、何で俺が……」とぶつくさ文句を言っている。
 大人の世界って理不尽なことがあるから大変だ……と思っていると、デリバリーの電話が鳴った。もう一人デリバリーで来たアルバイトの男性が電話を取る。切るとまた鳴った。二つの注文伝票を見ると、チキンが合計四十ピース出て行く。
 さらに「いらっしゃいませー」と、由希姉がドライブスルーで注文を受ける。チキンが十ピース、さらにその次に来た車は二十ピースだ。
 プルルル、とまた電話が鳴る。応対した男性の口から「チキン二十ピース」という言葉が。僕はすぐキャビネット内のチキンを数えた。六トレイあり、一トレイが三十六ピースだから、三トレイ弱がなくなる。
 時刻は午後四時。ピークはこれから始まる。僕は厨房にいたアルバイトに「すぐにチキン四トレイいって!」と指示した。「十分前に三トレイ作ったぞ?」との返答だが、訳を話すと、すぐに取りかかってくれた。
 カランカラン、と店のドアが開き、家族連れが来る。四宮さんが「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」と接客する声を聞き、その家族もチキンを十ピース頼んできた。
 四宮さんがオーダーを取り、パックする。その横から僕は「今日はチキンがすごい早さで注文されるんですが、何かあるんでしょうか?」と、その家族に聞いた。すると、「今夜、サッカー日本代表の試合があるんだ。ワールドカップ出場が決まりそうな、大事な一戦だよ」
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