時計仕掛けのダリア

クレシャス・ブレイク

文字の大きさ
15 / 40
前篇

仕事の最中に

しおりを挟む
 しまった、今日だったか。皆さん、ピザやチキンをとってテレビで応援するんだろう。
 今、四トレイを作っているが、それもあっという間になくなる。揚がったら次のターンでさらに四トレイいってもらおう。今日はベテランのバイトだから大丈夫だ。サイドメニューはというと、デリバリーの伝票にはポテトやサンド、サラダ、ビスケットパンが多く記載されている。こりゃ忙しくなる。
 今日の布陣は、厨房はベテラン一人、カウンターは由希姉と新人の四宮さん、あともう一人。デリバリーは僕を含めて三人だが、副店長が「フライヤーで指揮しろ」と言っていたから、ほとんど配達には行けないだろう。実質、二人で配達を回す。

 僕は四宮さんを呼んだ。
「今日は忙しくなりそうなんだ。店内でもドライブスルーでも、とにかくパックミスに気をつけて焦らずにやってほしい。チキンがすごい早さでなくなるから、できるだけキャビネットを見て数を気にしておいて」
「そうなんですね、分かりました」
 笑顔が少し強ばる。
「あ、笑顔はそのままにね」
 緊張がほぐれ、さっきまでの笑顔に戻った。もう一人の女の子にも同様に伝える。
 デリバリー二人には様子見ながら「配達には四十~五十分かかる」ことをお客さんに伝えるようにさせる。厨房には、これから十九時までに、一時間あたりチキン二百ピースは出るだろうと伝え、売れ残らないよう気をつけつつ作らせる。
「由希姉! フライヤー入って」
 ここは僕ら二人で回す。オーダーがどんどん入ってくるので、ポテトもビスケットもサンドもフル稼働で作った。
 サッカーの試合はキックオフが十九時頃のことが多い。ここから二時間、僕はサイドメニューを作りながらパックをし続けた。

 結局十九時半まで、僕は一度もデリバリーに出ずにフライヤーにいた。ピークは過ぎたのか、店内もドライブスルーもあまり来なくなった。キャビネット内のチキンは二トレイ。デリバリーが三つあって、チキンは合計で二十ピース。サイドメニューもだいぶ減ったが、ここから作る時は数をぐんと減らして回せばよい。ああ、乗り切った……。壁に寄りかかって息をつくと、四宮さんが目をきらきらさせてやってきた。
「時任さん、すごいですね」
「え?」
「だって、パックしながらフライヤーやって、デリバリーの電話とって、ドライブスルーもとって、商品の数をコントロールして……」
 ああ、それは副店長に鍛えられたからだ。僕も二年前に入った時は、たいしたことができなかった。初めてのバイトだったし。それで副店長に怒られていた。そこで辞める人間も多いらしいのだが、僕は負けず嫌いなので見返す気持ちで仕事を覚えた。それで「骨のあるヤツ」と評価され、いろいろ教えてもらえるようになったのだ。
 でも、今振り返ると、社員が楽できる人材を育成していただけのような……まあ、いいか。「何事も継続さ」としたり顔で返した後に
「さて、片付けられるところから片付けるか……」
 と、フライヤーの片方を掃除しようとした時、ポテトを揚げる網が油の中に落ちた。
「危ないっ!」
 と僕は、とっさに四宮さんの体を抱き寄せる。油がはね、僕の腕にかかった。
「つぅ!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
 幸い、油がかなり冷めていたから火傷には到っていない。それでも少し痛かった。
「大丈夫大丈夫。四宮さんは?」
 と言ってから気付く。彼女と体が密着していた上に、手で彼女の胸を軽くわしづかみにしていた。
「あ、ごめん……」
「い、いいえ」
 お互いに顔を赤くする。その様子を、由希姉がじーっと見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...