面談

玉木白見

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泰年

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 「何だ。ここは。」
 泰年(やすとし)はコンクリートの壁に囲われた幅2m弱の狭い通路をドタドタと走り進んでいた。天井は高さ3mほどか。天井もコンクリートで頼りない小さな蛍光灯が等間隔に薄暗く道を照らしている。そのいくつかは壊れかけているようで点滅しているものもある。
 坊主に近い頭から油汗がにじんでいる。細い目はつり上がり、鼻の穴と口からはうっすらと湯気が出ている。頭だけではなく全身汗だくだ。普段運動しないことを象徴するその醜い腹や全身についた無駄な肉の重さが股関節や心臓に大きな負担をかけ、そのせいで全身がプルプルと震え時折足がもたつく。高血圧のせいか少し走るだけで心臓がバクバク鼓動し苦しい。隔週で通っている病院でもらったいつも飲んでいる薬も手元にない。数時間前から頭の上のあたりからピューフー、ピューフー、と音がする。その今まで聞いたこともない音が自分の呼吸と同期して通路に響く。何度か、何か得体のしれないものが頭の近くを飛んでいるのかと勘違いして振り返り探すが当然なにもなかった。

 誰だ。こんなところに俺を閉じ込めたのは。道を少し進むと分岐がある。どちらに行けば良いのかわからない。感を頼りに進むが、また同じような道が続く。先程から同じような場所を行き来しているだけにしか思えない。いったい何の嫌がらせだ。誰だ、俺をこんな目に合わせるのは。許せない。
 たまに道の横に錆びた鉄の扉があり、恐る恐る開けると小さな暗い空間がある。真っ暗で、その先には道らしきものはない。この部屋の意味もわからないのですぐに部屋から出る。そんな事が数回続いた。扉はただのギミックだ。誰かが俺が部屋を開けている様子をみてほくそ笑んでるに違いない。そう思うとまた腹が立つ。何度か八つ当たりした扉はもう全て無視することにした。どこかに出口があるはずだ。どこなんだ。動かない体を必死に動かし前に進む。
 
 ここに来る直前のことは良く覚えていない。会社帰りだったはずだ。耳に高額を叩いて買った高性能イアホンをつけ動画配信サイトの音声を聞きながら気分良く歩いていた。目の前をゆっくり歩いている女がいて邪魔だったので横に並び、聞こえるように大きく舌打ちし追い抜いた。前から自転車が来た。自転車も車道を走るルールになったはずだ。ルールを守れない奴なんて許せない。腹を立てわざと横歩きをし進路を邪魔してやると自転車の男は驚いたようにブレーキをかけ少し迷惑そうにした。「へへ、ざまあみろ。元はと言えばルールを守らないお前が悪いんだ。身にしみて反省するが良い。」満足で気分が良くなる。
 そのまま駅へと続く階段を上り陸橋を歩いていたところまでは覚えている。何か周りが少し騒がしかったような気がするがイアホンをしていて確かではない。覚えているのはそれだけだ。気がついたらここで横になっていた。そう言えば、持っていたリュックもない。俺の自慢のデバイスが入っている。あれは俺の生きがいだ。それも盗られてしまったのか。また血圧が上がる。
 
 ヘトヘトになりながら進む。たまに壁に寄り掛かり休む。
 納得が行かない。誰でもいい。説明を求めたい。なぜ俺がこんな目に合うのか。俺が何をしたというのか。
 
 また歩き始める。何もないここに居ても仕方がない。
 ふと通路の奥の方を見ると少し明るいように見えた。ついに出口か。慌てて足を早めたせいで躓き体を壁に打ちつける。痛みを気にせず脂汗を撒き散らしながら前へ急ぐ。
 進むと重役室の扉のような扉があった。行き止まりだ。ついにゴールにたどり着いた。努力すれば人は報われるのだ。達成感でいっぱいになる。
 
 扉を開けるとそこには15~30平方メートル程度の部屋にテーブルと椅子が備え付けられていた。壁には絵画が飾られている。会社の応接室のようだ。少しすると奥の扉がゆっくりと開き、スーツ姿の男が姿を現した。こいつが悪の親玉か。でもいきなり突っ掛かるのは良くない。少し様子を見てやろう。
 「泰年さんですね。お待ちしておりました。」
 「はい」と返事をする。怒りを抑えるのが大変だ。
 「突然で申し訳ございません。事情をご説明しますのでそちらにお掛け下さい。」
 
 スーツの男は何やら一方的に説明を始めた。全く納得が行かないまま面談につき合わされる事になった。
 
 
 
 
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