愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
38 / 86
第3章 開戦

第36話「私は嫉妬してしまいました」

しおりを挟む
 あまりの衝撃に、リュールはただ立ち尽くしていた。十年以上前のことが昨日のように思い浮かんでくる。

「久しぶりだな、リュール」

 ルヴィエらしき男が手を差し出した。リュールは握手に応じるのを躊躇ってしまう。

「ルヴィエ、なのか?」

 本人だとは到底思えず、同じ質問を二回してしまった。我ながら、間抜けな顔をしているのだろうと思う。

「そうだよ。この傷、忘れたのか?」

 そう言った男は、長い前髪を持ち上げた。左目の横から頬にかけて、大きな傷があった。

「ああ、忘れるわけがない」
「そういうことさ」

 ルヴィエは再度リュールに向かい手を差し出す。今度はしっかりとその掌を握った。お互いに、あの頃より分厚く細かい傷だらけの掌だった。
 ブレイダは珍しく、その光景を黙って見つめていた。

 町の酒場を離れ、宿の食堂を借りた。二人での話は、大勢の中ではできそうにない。

「生きてたんだな、ルヴィエ」
「ああ、なんとか。お前は随分有名になってたな」
「たまたまだよ」

 ルヴィエは傭兵としてそれなりに名を上げたリュールを知っていたようだ。それならば、なぜ今になって現れたかという疑問を抱いてしまう。
 死地に晒され続けて染み付いてしまった警戒心は、再会した親友に対しても働いていた。リュールはそれを悲しいとは思えなかった。

「お前は、どうしてたんだ?」
「リュールと同じだよ。独りで傭兵してた」
「そんなこと、知らなかった」
「ひっそりとやってたからな」
「そうか」

 ただ、あの頃のように会話が続けられない。どうしても、探るような話し方になってしまう。それは寂しかった。

「あ、そちらのお嬢ちゃんは?」

 ルヴィエはリュールの隣に座るブレイダに目をやった。彼も同じく、会話に困っていたのかもしれない。

「ブレイダと申します。リュール様に命を救っていただいてから、付き人をさせていただいています」

 ブレイダは本当のことを言わなかった。彼女の口から出たのは、以前から決めていた嘘だ。おそらく、リュールから話すまでは嘘を通すつもりだ。

「そうか、俺はルヴィエ。聞いててわかったかもしれないけど、リュールの古い友人だよ」
「ルヴィエさん。先程はリュール様のご友人とは知らず、大変失礼しました」
「気にしないでくれ。よろしくね、ブレイダちゃん」
「はい、ありがとうございます」

 ルヴィエはブレイダに向けて微笑んだ。それはリュールの知らない表情だった。

「今日は遅いし、そろそろ帰るよ。また明日会えるか?」
「ああ、もちろん」

 翌日の待ち合わせを確認すると、ルヴィエは宿から出ていった。去り際に握手と共に「ブレイダちゃんと仲良くな」と言い残して。

 宿のベッドに寝転がったリュールは、漠然とルヴィエのことを思い出していた。
 あの傭兵団は比較的年齢が若かった。それでもリュールの年代はルヴィエとの二人くらいだった。必然的に練兵で一緒になることが多く、意気投合するのに時間はかからなかった。
 戦場でも同じだった。大人たちには置いていかれ、二人で庇いあって命を繋いでいた。彼の傷も、リュールを矢から救った時にできたものだ。

 生き別れてから十年以上、時間という溝は深いものがある。再び以前のように関係を築けるのだろうか。そもそも、それに意味はあるのだろうか。
 嬉しいという感情よりも困惑が勝っている自分に、あまり良い気持ちはしなかった。

「リュール様」
「あん?」

 隣のベッドに座ったブレイダの声。今となっては、リュールの相棒は彼女だった。

「差し出がましいことを言います。しかも武器としては有るまじきことです。お許しいただけないでしょうか」
「ああ、いいよ」
「私は嫉妬してしまいました。リュール様はとても安心されたお顔をされていましたので。剣の私では、リュール様にあんな顔をさせられないです」
「そうだったか?」
「はい。少なくとも私は知らないお顔でした」

 リュールはブレイダの言う差し出がましいことの意味を理解した。リュールをずっと見てきた彼女の意見なら、信用できる。
 明日はもっと素直にルヴィエと話してみようと決めた。

「そうか。ありがとう」
「いえ、少しでもお悩みが晴れたら幸いです」
「あと、差し出がましいことって言わなくてもいいぞ。武器にあるまじきことでも、相棒なら問題ない」
「あ……はいっ!」

 ブレイダの横顔は、開いた窓からの月明かりで輝いて見えた。リュールは見とれると同時に、彼女が彼女であることを嬉しく思っていた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...