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第5章 魔剣と魔人
第73話『今の自分、なかなか好きなんです』
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移動し始めてから、ほぼ一日。黒紫の剣と槍の反応は、かなり近付いていた。彼らもそれが認識できているはずだが、動く様子はない。つまり、もう逃げる必要はなくなったということだ。
周囲の景色は、しばらく続いた平野から森に変わりつつある。リュールには、ルヴィエがそれに出会った場所だという確信があった。
『お疲れではないですか?』
「ああ、全くな」
『さすが、魔人ですね』
「そうだな」
愛用の剣は、その呼び方が随分と気に入った様子だった。リュール自身も悪い気はしない。
『もうすぐですね』
「ああ」
既に引き返せる状況ではないが、それでも逃げ出すことくらいはできる。ブレイダは主人に向かい、最後の決断を促してるようだった。
「白と黒の違いな、なんとなくわかったよ」
『はい』
「主人の想いに沿うってやつだと思う。恨みとか憎しみみたいなのが強ければ黒になるんだろうな」
森でそれと出会ったルヴィエは大怪我をしていたらしい。きっと酷い目にあったのだろう。
ジルはあの性格で、ゴウトは孤児院の件があった。トモルやレミルナと戦った女も、それ相応の何かがあったと想像できる。
『では、白は?』
「黒の逆さ。レミルナなんかはどう見てもマリムのおかげだな」
『ですね……』
ブレイダは言葉を濁す。彼女が本当に聞きたいのは別のことだ。いくら心の機微に鈍いリュールでも、それくらいのことはわかる。
「俺はな、独りになってから、自分にも他人にも興味がなかったんだと思う。だからお前は結果的に白くなった。それだけだと思う」
それが剣に宿ったであろう時、リュールは強い衝動を持っていなかった。少なくともそんな自覚はない。とりあえず食い扶持を稼ぐために用心棒をしていただけだ。
ブレイダは返事をしなかった。困らせてしまっただろうか。
「でも、今は少し変わったと思う。あの頃みたいにとは言えないけどな」
森は深くなり、剣と槍の反応は目前だ。それでもリュールは足を止めなかった。ブレイダならば言外にでもその意味を理解してくれるはずだ。
「魔獣と戦うようになってから、人の生活を改めて見るようになったよ。騎士団の連中とも関わるようになった」
『はい』
相づちだけは打ってくれる。律儀な剣だ。
「俺は人を守りたいと思った」
『ならば、あの人たちを殺りますか?』
「いや、前に話した通りだ。殺すつもりはない。力ずくで止める。ゴウトと同じようにしたくはない」
『わかりました』
いつかの天幕で話したことを思い出す。あの時よりも、リュールの思いは強かった。
スクアの髪色の変化も、リュールに希望を与えていた。白にはならずとも、少しは黒が薄まるのではないか。
『正直なことを言いますと、私は白とか黒とかどうだっていいんですよ』
「ほう」
『リュール様はリュール様ですし、そもそも私は人殺しの道具ですからね。白くても黒くても、どっちでもいいんです』
「まぁな」
これまでのブレイダがしてきた言動から考えれば、その通りだと思う。剣は人が使うものであり、自ら善し悪しを判断しない。
『でも、リュール様がそうおっしゃるなら、私は白く在ります。今の自分、なかなか好きなんです。黒髪では赤い髪紐が似合いません』
「そうか。それが本音だな、魔剣よ」
『ふふ、バレてしまいました。私はもうただの剣ではありませんので』
物にも意思が宿るとはこういうことなのかもしれない。相棒は自分よりも人間的だと、リュールは改めて思った。
『例えばリュール様が何かの拍子に黒い気持ちになっても、白く戻しますね。たぶん今のお心が本物だと思いますから』
「ああ、その時は頼むな」
『はいっ!』
ブレイダの返事を合図にするように、リュールは足を止めた。ブレイダを鞘から取り出す。白銀の刃が、木漏れ日を反射して輝いた。
「よう、よく来たな」
眼前にそびえ立つ大木の下、親友が口元を歪めている。彼の持つ黒い大剣は、木漏れ日を吸い込むように暗かった。
周囲の景色は、しばらく続いた平野から森に変わりつつある。リュールには、ルヴィエがそれに出会った場所だという確信があった。
『お疲れではないですか?』
「ああ、全くな」
『さすが、魔人ですね』
「そうだな」
愛用の剣は、その呼び方が随分と気に入った様子だった。リュール自身も悪い気はしない。
『もうすぐですね』
「ああ」
既に引き返せる状況ではないが、それでも逃げ出すことくらいはできる。ブレイダは主人に向かい、最後の決断を促してるようだった。
「白と黒の違いな、なんとなくわかったよ」
『はい』
「主人の想いに沿うってやつだと思う。恨みとか憎しみみたいなのが強ければ黒になるんだろうな」
森でそれと出会ったルヴィエは大怪我をしていたらしい。きっと酷い目にあったのだろう。
ジルはあの性格で、ゴウトは孤児院の件があった。トモルやレミルナと戦った女も、それ相応の何かがあったと想像できる。
『では、白は?』
「黒の逆さ。レミルナなんかはどう見てもマリムのおかげだな」
『ですね……』
ブレイダは言葉を濁す。彼女が本当に聞きたいのは別のことだ。いくら心の機微に鈍いリュールでも、それくらいのことはわかる。
「俺はな、独りになってから、自分にも他人にも興味がなかったんだと思う。だからお前は結果的に白くなった。それだけだと思う」
それが剣に宿ったであろう時、リュールは強い衝動を持っていなかった。少なくともそんな自覚はない。とりあえず食い扶持を稼ぐために用心棒をしていただけだ。
ブレイダは返事をしなかった。困らせてしまっただろうか。
「でも、今は少し変わったと思う。あの頃みたいにとは言えないけどな」
森は深くなり、剣と槍の反応は目前だ。それでもリュールは足を止めなかった。ブレイダならば言外にでもその意味を理解してくれるはずだ。
「魔獣と戦うようになってから、人の生活を改めて見るようになったよ。騎士団の連中とも関わるようになった」
『はい』
相づちだけは打ってくれる。律儀な剣だ。
「俺は人を守りたいと思った」
『ならば、あの人たちを殺りますか?』
「いや、前に話した通りだ。殺すつもりはない。力ずくで止める。ゴウトと同じようにしたくはない」
『わかりました』
いつかの天幕で話したことを思い出す。あの時よりも、リュールの思いは強かった。
スクアの髪色の変化も、リュールに希望を与えていた。白にはならずとも、少しは黒が薄まるのではないか。
『正直なことを言いますと、私は白とか黒とかどうだっていいんですよ』
「ほう」
『リュール様はリュール様ですし、そもそも私は人殺しの道具ですからね。白くても黒くても、どっちでもいいんです』
「まぁな」
これまでのブレイダがしてきた言動から考えれば、その通りだと思う。剣は人が使うものであり、自ら善し悪しを判断しない。
『でも、リュール様がそうおっしゃるなら、私は白く在ります。今の自分、なかなか好きなんです。黒髪では赤い髪紐が似合いません』
「そうか。それが本音だな、魔剣よ」
『ふふ、バレてしまいました。私はもうただの剣ではありませんので』
物にも意思が宿るとはこういうことなのかもしれない。相棒は自分よりも人間的だと、リュールは改めて思った。
『例えばリュール様が何かの拍子に黒い気持ちになっても、白く戻しますね。たぶん今のお心が本物だと思いますから』
「ああ、その時は頼むな」
『はいっ!』
ブレイダの返事を合図にするように、リュールは足を止めた。ブレイダを鞘から取り出す。白銀の刃が、木漏れ日を反射して輝いた。
「よう、よく来たな」
眼前にそびえ立つ大木の下、親友が口元を歪めている。彼の持つ黒い大剣は、木漏れ日を吸い込むように暗かった。
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