Mr.ナイチンゲールシリーズ

令和フローレンス

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Mr.ナイチンゲール

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平成25年12月。南諏訪高原療養病院・朝7時ころ。4階15号室の3番ベッド。内科・花岡隆という札がベッドの上にかけられている。 掛川十(25)、花岡隆(89)の点滴を替えている。花岡、ベッドに横になって点滴を変える十の様子を微笑んでみている。

十「よしっと、出来た」

十、手際よく片付けて花岡の布団をかけなおす。花岡、微笑む。

花岡「掛川君、 いつも悪いね。ありがとう」
十「また何かありましたらいつでも呼んで 下さいね」
花岡「あぁ、そうさせてもらうよ」

十、医療カートを押しながら左側の出口から足早にout

十「失礼しました」


同・4階フロアの廊下。リハビリのために歩く患者やストレッチャーや車いすで移動する患者が数名いて、看護助手や医者、看護師たちが忙しそうに動いている。
十、医療用カートを押して笑顔で勇んでルンルンと歩いている。十、とある一つの部屋の前で立ち止まって、何か懐かしいものを見るような目でその部屋を見る。ドアは空いており空室。しっかりと環境整備がなされており、換気のために窓が開いており、冬の冷たい風がカーテンを揺らしている。十、部屋の中をまじまじ見つめる

ー回想シーンー

同病院・緊急治療室。平成3年・深夜。掛川十(3)、ベッドに横たわったままぐったりとして動かない。傍らの椅子に掛川朝香(53)と掛川綴(18)と掛川茶和(16)が必死に声掛けをしている。看護師たちと医師たち、十の処置をする。十、たくさんの機械を体につけられている。

朝香「十! 十! しっかりして!」
綴「十、お姉ちゃんよ。 分かる?」
茶和子「お姉ちゃん、お母さん、十は?大丈夫なの?」
朝香「茶和子、大丈夫よ…十はきっと大丈夫」
中郡勉(37)、処置を終える

朝香「先生!十は?十はどうなんですか?」

朝香、興奮をして息を切らしている。

中郡「最善は尽くしました。しかし奇跡が起きない限り回復は難しいでしょう」
朝香「そ…それって十はもう二度と目を覚まさないかもしれないっていう事?」
中郡「もしも目を覚ましたとしても、脳に後遺症を負ってしまう可能性が高いです」
綴「つまり十は」

中郡、黙って申し訳なさそうに首を振る。綴、茶和子、朝香、ショックを起こして固まる。

中郡「いえ、今はまだ何とも言えません。十君の生命力に任せましょう」
朝香「そんな…」

朝香、めまいを起こして倒れそうになる。綴と茶和子がそれを支える。中郡out

茶和子「十は!?死んじゃうの?」
綴「大丈夫…十は必ず元気になるわ」

1週間後の朝。古い旧病棟の一人部屋。畳で木のベッド、壁には古い六角時計がかけられているが医療設備はしっかりしている。

時計がきしみながら現在時刻を指している。早朝の6時。カーテンの隙間から少
しずつ太陽が差し込みだす。
十が呼吸器具をつけて眠っている。容体は落ち着いているが意識がない。側で転寝する朝香。そこに水筒を持った掛川弥穂(55)in

掛川「朝香…」
   
朝香、飛び起きて掛川を見る

朝香「あぁ…あなた」
掛川「十の様子は?」
朝香「相変わらずよ。容体は落ち着いているけど意識がまだ戻らない」
掛川「そうか」
朝香「あなた、十は元気になるわよね。この子は目を覚ますわよね」
掛川「朝香」

掛川、朝香を抱き寄せる

掛川「十を信じよう。この子はきっと大丈夫だよ」

1か月後の5月・深夜。入り口から瀬戸内ツタキ(25)がin

ツタキ「可哀想な子…」

朝香を見て微笑み、十の手をそっと握る

ツタキ「十君…あなたには生きなくちゃだめ」

ツタキ、十の両手を握りながら額に口づけ

ツタキ「お休みなさい…」

3日後の朝。十、かすかに動く。

十「んん…」

朝香、うとうとと椅子に座っているが飛び起きる

朝香「え!?」

十、うっすら目を開けて朝香を見つめる

十「ん…マム?」

朝香、急いで椅子から立ち上がって十に駆け寄り、十の手を握る。

朝香「十!?十なの!?生きてる十なの!」
十「ここは…何処? 僕…」
朝香「十!」
十「マム?」

朝香、涙を流しながら強く十を抱きしめる

朝香「待っててね。いま看護婦さんや先生呼んでくるからね」

朝香、急いで部屋を飛び出ていく。十、だんだんに目を開き、辺りをきょろきょろする。

同・プレイルーム。昼間。古いプレイルームにはちゃぶ台と古いアップライトピアノが置かれている。多くの子供たちが本を読んだりして遊んでいる
 十、柿澤梅乃(37)に本を読んでもらっている

柿澤梅乃「はい、おしまい」
十「ねえ梅乃ちゃん、もっと何か読んで!」
梅乃「いいわよ、じゃあ次は何読もうか?」

梅乃、本棚から本を選び出す。

梅乃「十君、元気になってきて本当によかったわね」
十「うん!」

ボンワリと思い出すようにしてニコニコと無邪気な笑顔を浮かべる。

十「僕ね、夢の中でおばあちゃんに会ったんだよ」
梅乃「おばあちゃん?」
十「うん。僕のおばあちゃん、戦争の時この病院で死んじゃったんだ。だから今もこの病院にいるんだって。今まで会った事なかったんだけど初めて会ったんだ。すごく優しかったんだよ」
梅乃「そう…よかったわね」

意味深に

梅乃「十君のおばあちゃんってなんていうお名前なの?」
十「うーん…なんだっけな?忘れちゃった」

十、無邪気に考える。梅乃可愛いその顔を見て思わず微笑む。
1カ月後の6月の終わり。同病院・正面入り口。朝8時ころ、通院や来院のヒトの出入りが多い。朝香と綴、両方から十の手をつないで病院から出てくる。

中郡、十と目線を合わせるようにかがんで十に微笑む。

中郡「十君、退院おめでとう」
十「うん!」
梅乃「十君、元気でね」
十「うん!梅乃ちゃん、ありがとう」

十、梅乃に抱き着く。梅乃、十を抱きしめる

梅乃「あ、十君」
   
大きなテディベアを十に手渡す。十の背丈くらいあり、十は抱えるがよろけそうになる。梅乃、笑って十を支える。

梅乃「これ、私からの退院のお祝いよ。魔法のくまちゃんなの。大切にしてね」
十「可愛い!梅乃ちゃんが作ってくれたの?」
梅乃「そうよ」
   
十、テディベアを抱きながら頭部のチャックに手をかける

梅乃「あ、それは開けちゃ駄目よ」
十「え?」
梅乃「まだ開けないで」
十「何で?」
梅乃「そこにね、十君を幸せにしてくれる魔法が詰まっているから。今開けちゃったらもう魔法が効かなくなっちゃうわ」
十「分かった」
梅乃「ん」
 
十、残念そうに開けようとする手を止める

十「じゃあいつになったら空けていいの?」
梅乃「十君が大人になったらかな。覚えていたらね」
十「分かった!」
梅乃「じゃあね…」
十「うん!」
   
十、手を振りながら車に乗る。梅乃、中郡、微笑んで手を振り続ける。
旧病棟1回の左から3番目の窓、ツタキが微笑んで十の車を見送っている

十「あ!」

十、窓を開けて大きく微笑み、ツタキに手を振り返す。

朝香「十、誰に手を振ったの?」
十「おばあちゃんだよ」
朝香「おばあちゃん?」

理解したように微笑む

朝香「そうか」

十、無邪気で元気に車の中ではしゃぐ

十「僕ね、決めたの!大きくなったらここの看護師さんになるんだ」
綴「どうして看護師さんになりたいの?」
十「お母さんから前に聞いたんだ。ここに僕のおばあちゃんがいるの。僕、おばあちゃんに会ってお話ししたんだ。だから僕、ここの看護師さんになって働いて、おばあちゃんを助けてあげるんだ!病院から出してあげるんだ!」

掛川家の車out

病院正面入り口。梅乃と中郡が立っている。中郡、伸びと欠伸をしながら先に入っていく。入れ違いにツタキがエントランスにやって来る。梅乃、ツタキに気が付いて近づく。他の者にツタキは見えていない。

ツタキ「上手くいった見たい」
梅乃「ありがとう、ツタキさん」
ツタキ「いいえ…」

ツタキ、微笑んで消えてゆく。

M.T/「Mr.ナイチンゲール」

ーOP/credit and tema songー

オープニングソング『暗き夜にかつての様に』

ーEndー

回想が終わり、同病院の4階病棟ナースステーション。多くの看護師がそれぞれに仕事をしている。十、ナースワゴンを押してin
小山タミ恵(25)、意味深に十を見る。

タミ恵「あ、十だ」
   
   タミ恵、十に手招き

タミ恵「ちょっと」
十「何だよ?」
タミ恵「あんた、明日は夜勤よね?」
十「夜勤だよ。誰とだっけ?」
タミ恵「田苗と…修と…Me」
十「ふーん…って」

十、思いっきり顔をしかめる

十「ゲッ!お前もいるの!?」
タミ恵「あんた何よ、その顔」
十「だってタミ恵となんて」
タミ恵「それは私のセリフだよ!」
タミ恵・十「えうーっ!」

二人、大げさに吐く真似をする。他看護師たち、笑う。


翌日・ 夜勤。
ナースセンターには十、タミ恵、五味田苗(25)、丸山修(25)、梅乃しかいない。裏の休憩室では十、あくびをしてマシュマロを口に入れ、紅茶を飲む

田苗「お疲れですね」
十「お疲れだよ、疲れた何処の話じゃない」

十、うとうとしながらいくつも口にキャラメルマシュマロを入れては紅茶をすする

十「カフェイン飲んで甘いもの食べなくちゃやってらんないよ」

そこに鬼の形相のタミ恵が仁王立ちをして十を睨みつける

タミ恵「掛川十…」
十「な…なんだよ」

十、びくりとしてタミ恵を見る

タミ恵「もう休憩は終わりだよ。業務に戻りな!」

十、時計を見る

十「えー…もうそんな時間?三時間って早いなぁ」

十、怠そうに立ち上がる。タミ恵、マシュマロを手に取っていくつも十に投げつける

タミ恵「早くしろ!」
十「痛い!痛いって!」

同病院・病院の廊下。午後2時。十、懐中電灯を照らしながら歩く。

十N「以前にマムから聞いた話…この病院にはマムのマム、つまり僕のおばあちゃんに当たる人がいる。でもその人は戦争が終わる年に空襲で亡くなってしまったから、僕もお姉ちゃん達もおばあちゃんに会った事がない。おばあちゃんの顔を知っているのはマムだけ、写真も見た事がないから顔も知らない。この病院で亡くなって今でもこの病院にいるって事なんだけど…」
ツタキ、瀬戸内隆彦(105)の車いすを押して十とすれ違う。十、黙って頭を下げて二人は通り過ぎる。ツタキ、立ち止まって振りかえり十を見る

ツタキ「掛川十君?」

十、驚いて懐中電灯を落として立ち止まり、振り返る

十「え?」
ツタキ「よね?」
十「はい…」 
ツタキ「はーるかぶりね。私の事、覚えてる…かしら?」
十「え?」

落とした懐中電灯を拾い上げてツタキをまじまじ見つめる

十「はーるかぶり?どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
ツタキ「まぁ…覚えてないのね」

小粋に微笑む

ツタキ「まぁいいわ。きっとその内思い出すと思う」

十、 思い出そうとしながらも不思議そうにツタキを見る。ツタキ、吸い込まれて
しまいそうな眼差しで一度も目を離さずに十を見つめている。十、おどおど。廊下には他に誰もいないし、看護師たちも歩いていない。十とツタキの会話は二人にしか聞こえていない。

十「僕は今年の四月から4階病棟で働いております、看護師の掛川十です」

ツタキ、微笑んだまま十を見つめる

十「よ、宜しくお願いします。失礼ですが、どちらの看護師さんですか?まだ僕、皆さんの顔も名前も知らなくて…」
ツタキ「瀬戸内ツタキ。隔離病棟の看護師をしているわ。また会うでしょうし、これからよろしくね」

ツタキと瀬戸内、十とは反対方向にout
瀬戸内、微笑んで十に軽く会釈。

十「隔離療養病棟…って」
  
二人、通り過ぎる。十、歩きながらも考えて悩む

十「何処?」

同病院・ナースステーション。夜勤看護師たち、真面目に仕事はしていない。おしゃべりしたりふざけたりしている。十、スタッフ入り口からin
懐中電灯を元あった場所に戻して自分の席に腰かける。

タミ恵「あ、十が帰って来た」
丸山修「お疲れ、どうだった?」
十「何も異常なし」
タミ恵「何よ、そのやる気のない声」
十「そんな声出してないよ…ただ怠くて眠いだけ」
タミ恵「十…」

   十を睨んでじわじわ近づく。

タミ恵「あんた、私にぶっ飛ばされたい?」
十「何だよ?僕、何もしてないし言ってないだろ」
タミ恵「そういうあんたの顔と態度が私をイラつかせてるんだよ!」

タミ恵、十に食って掛かりながら胸ぐらをつかみ上げる

十「はぁ!?そんなのただの八つ当たりじゃん」
タミ恵「てめぇ…掛川十」

十、慣れっこの様に強気に出ながらタミ恵を負けじと睨みつける

十「だったらいいよ、やれるもんならぶっ飛ばしてみろ!」
タミ恵「もう我慢できねぇ…」

タミ恵、殺気立った顔をして十に顔を近づける

タミ恵「だったらお望み通りぶっ飛ばしたるわ!」

   タミ恵、思いっきり強く十を壁側に投げつける。十、ナースステーション左端の壁に投げ飛ばされ、床に落ちる。棚が倒れて十の上に崩れ落ち、十は書類の山の下敷きになる

丸山「うぉ怖っ…あいつ本当にぶっ飛ばしやがった」
田苗「甘く見ちゃいけないよ。あいつ、言った事は本当にやるから」

数時間後。夜勤メンバーたち、欠伸や伸びをしながら事務作業を始める。

十「ところでさ、さっき廊下で瀬戸内ツタキさんっていう看護師さんと出会ったんだけど、みんな知ってる?」
タミ恵「瀬戸内…ツタキ? どんな人?」
十「すっごい美人で若い…うーん、僕らと同じ年くらいに見えたな」
丸山「新人看護師?」
十「それは分からないけど、僕には結構ベテランっぽく見えたな」
タミ恵「何処の部署?」
十「それが隔離療養病棟ってとこだって。どこにあるか知ってる?」
タミ恵「隔離療養病棟?そんなとこあったっけ?」
丸山「僕らももう2年ここにいるけど…聞いた事ない」

丸山、タミ恵、田苗、十、梅乃を見る。梅乃、4人に見つめられていることに気づいて驚いた顔をする

タミ恵「柿澤さんなら知ってるんじゃないですか?」
梅乃「隔離療養病棟の瀬戸内ツタキさん? 」

意味深な顔をしながら考える

梅乃「隔離療養病棟って言ったら多分、旧病棟の事だと思うし」
十「旧病棟?」
丸山「って…かつての結核の?」
タミ恵「それまさか!だってあそこは…」
田苗「使われていたとしても専属で配属されてる看護師や医者はいないね」
田苗・タミ恵・丸山・十「うーん…」
4人、悩んで考える。梅乃、意味深にふふっと笑って事務作業に戻る。

4階病棟廊下・また別の日の夜勤。ツタキ、車いすを押してin
十、懐中電灯を持って反対側からin

十「こんばんは!ツタキさん…でしたっけ?」
 ツタキ「こんばんは、覚えててくれてうれしいわ。今日もまた見回り?」
十「えぇ」
ツタキ「仕事にはなれたかしら」
十「えぇ。何とかまぁ、少しずつ」
ツタキ「そう、頑張ってな」
十「ありがとうございます。ツタキさんもね」

二人、会釈をして別々の方向に歩き出す。

また別の日。夜間見回りのたびに十はツタキと会って話をする。

十「ツタキさん!」
ツタキ「十君、こんばんは」
十「ツタキさん、今日は見回りが終わったら一緒に飲み物でもどうですか?」
ツタキ「え?」
十「僕がおごりますから、そのラウンジで待っていてください」
ツタキ「いいに、何時ころ向かえばいいら?」
十「じゃあ…1時間後くらいに会いましょう」
ツタキ「OK!」

ラウンジ。電気ついていないため真っ暗。十、懐中電灯をつけたまま上向きにして机に立てる。

十「ほら、これで明るくなった。ちょっと待ってて」

十、近くの自販機に向かう。
 
十「ツタキさん、コーヒー飲める?」
ツタキ「飲めるに」
十「分かった!」
十、自動販売機で飲み物を二つ買って一つをツタキに渡す。

ツタキ「ありがとう」
   
   二人、テーブル越しの机に腰を下ろして飲みだす。ツタキはミルクコーヒー、十は紅茶のフルーツティー。

ツタキ「あら?十君はお紅茶なの?コーヒーは嫌い?」
十「いいえ、コーヒーは大好き。でもまだ仕事も残ってるし、コーヒーだとトイレ行きたくなっちゃうから勤務中はお茶にしてるんです」

ツタキと十、笑う。

十「だからその分休みの日の朝なんて、パン食べながら4、5杯はコーヒー飲んじゃうかな」
ツタキ「まぁ!」
十「ツタキさんはいつもこんな時間に、患者さんと一緒に何をしているんですか?」
ツタキ「さぁね…何故かしら?自分でも何をしているのか分からないわ。私も…隆彦さんも」
十「隆彦さんって? こちらの患者さんの事?」
ツタキ「そう…」

瀬戸内、十を見つめて優しく微笑む。

つたき「この方は私が長年担当をしている患者さんなの」
   
ツタキ、長々と話を続ける。十、うとうとしながら話を聞いている。

ラウンジの時計が6時の放送を流す。十、椅子に座ったまま机に突っ伏せて転寝をしている。十、ゆっくりと動き出して少しずつ目を開く。十が目覚めるより少し前にツタキfo

十「んんん…」

目を擦って辺りをきょろきょろ。日差しが少しずつ差し込んで、窓辺のプリズムがきらめき出す。
十「あれ…僕…」
   
   タオルケットが一枚、十の体にかけられている。ツタキと瀬戸内の姿はもうない。

十「寝ちゃってたんだ」

十、ナースステーションに目を擦りながら戻る。タミ恵、丸山、田苗、病室に見回りに行く準備をしている。

十「ただいま戻りました」
タミ恵「十、今何時だと思ってんだよ!もう検温や血圧に行く時間だぞ!」
田苗「ご飯ももうすぐ来るね」
十「うわぁそうだった!」

時計を見る。6時まわっている

十「ごめんなさい!寝過ごした!」
タミ恵「寝過ごしただ!?どこで!?」
十「ラウンジ…」

十、ラウンジの方向を指さす。

十「また瀬戸内ツタキさんと会ってさ、しばらくはツタキさんと話をしていたんだ。でもいつの間にか寝ちゃってた」
タミ恵「この大馬鹿野郎!早く、さっさと行くよ!準備しろ!」
十「はい」

4人、それぞれに医療用カートを押してナースステーションを出て病室に入ってゆく。

ツタキfi
ラウンジの椅子に座って、タミ恵にこき使われながら動く十を見てふふっと笑う。
十、ツタキの姿には気が付かずにタミ恵にこき使われて動き回っている。

富士見駅前・リリャースパスティーリャ亭。朝から店は混んでいる。十、タミ恵、丸山修、田苗、奥のカウンター寄りの席に座ってティーカップを掲げて乾杯。スペイン風の小粋な音楽がかかり、中央ステージではラテンダンスが踊られている。

十「やっと終わった!」
タミ恵「みんなお疲れ! いやー、この為だけに生きてるっていうもんですなぁ」
十「本当本当! じゃなくちゃやってらんないって!」
丸山「流石に朝だから酒じゃなくてスキムミルクだけどな…」
十「何を言う!」
   
   グラスをサルヴァトーレに差し出す。サルヴァトーレin

十「サルヴァート、いつものお願い」
サルヴァトーレ「…」
   
   無言で準備。サルヴァトーレ、十にマンサニーリャの瓶を渡す。

十「お、これこれ!ムーチョグラシアス!」

   十、得意げにコルクを抜いてグラスにそそぐ

丸山「お、おい…お前、マジか?」
タミ恵「バカ!?」
十「はい?」
タミ恵「まだ朝食もしてないんだろ? それなのにそんな強くて辛い酒飲むってありえんだけど!?」
十「いいじゃん、君が飲むわけじゃないんだから。疲れて怠い時こそ僕にはこれが美味いの!」
田苗「十、朝から酒って…あんたアル中になるよ」
丸山「その前に体壊すな」
タミ恵「大体あんただって医療従事だろ。呆れてものも言えんわ」
十「うるさいなぁ」
丸山「管理栄養士からもなんか言ってやれよ」
千歳「んー?」

清水千歳(25)、マンサニーリャにパンを浸しながら食べている
千歳「何?」
丸山「お前も酒かよ…」
千歳「こうやってフランスパンにマンサニーリャをしみこませて食べるとおいしいんだ。君もやってみれば?」
丸山「僕は遠慮します」
十「残念ながら、千歳も僕の味方みたいだね。さぁ!」   

マンサニーリャを一気飲みして立ち上がる

十「よっしゃあ、テンション上がって来た!見てな!」
   
   サルヴァトーレ、カウンター下からマイクとマラカスやカスタネットを出して十と千歳に渡す

十「ありがとう。千歳もどう?」
千歳「お、いいね」

   十、 踊りながら歌う

ー挿入歌ー

『マイアミ』
(十千歳)

what is the tropic spot that people love a lot?
M-i-i-i-ami
what is the melting pot that is both cool and hot?
M-i-i-i-ami 

even the hurricanes can’t resist it 
no hurricanes has even missed it
I hear the timbales,I teste the tamales
it’s calling,it’s calling to me

we’ve got to get to Miami
my goodness,my gracious Miami
we’ve got to get to Miami
that hot melting pot by the sea

the days are palmy
the night are balmy
there’s hot pastrami
and key lime pie for to die for

what’s full of crowded streets and Afro-cuban beats?
Mi-i-i-ami
what has that lazy lilt,yet with a turbo tilt?
Mi-i-i-ami

we’re feeling h-i-i-gh on the idea
of jai alai and hialeah
we’ll snorkel and scuba
explore little cuba
it’s calling,it’s calling to me

we’ve got to get to Miami
tell daddy and mammy we’ve gone to Miami
it’s rough and it’s tumble
but stagger or stumble
we’ll get Miami or bust
let’s get to Miami,we must!

(十)

conga!

(千歳)

arrrrrrr!

(十)

arriba!

(客達全員)

Mi-i-i-ami

(千歳)

hotcha,hotcha,hotcha-cha
(客達全員)

Mi-i-i-ami

(二人)

we’ve got to get to Miami
my goodness,my gracious Miami
we’ve got to get to Miami
that hot melting pot by the sea

ーEndー

十、歌が終わると酔いつぶれてその場に眠り崩れる。千歳、慌てて駆け寄る

千歳「十君!?」

丸山、タミ恵、田苗も駆けつけて十の上体を起こす

丸山「おい十!全く、言わんこっちゃない」

十をおぶる

丸山「ほら、帰るぞ」

十、丸山の背中で朦朧としながらうめき声を出す

十「んんん」
丸山「ダメだこりゃ…」

丸山、財布を取り出して伝票を持ち、レジに向かう。

田苗「何? 修ももう帰るの?」
丸山「仕方ないだろ、こいつを家まで連れていかなくちゃいけないんだから」

小粋に財布を見せる

丸山「お代は払っておくからタミ恵と田苗はゆっくり食べてな。じゃあ…お先に」
タミ恵・田苗「ほーい…ご馳走様でーす」

丸山、十をおぶりながらゆっくり歩いて店out。タミ恵、田苗、呆れて顔を見合わせる。

翌日・正午。掛川家・十の寝室。十、ゆっくりと目を覚ます

十「んんん…あれ?」

目を擦りながら上体を起こしてきょろきょろ

十「ここは? 僕の部屋?」

ベッドの傍らに掛川綴(40)と掛川茶和子(38)が呆れ顔で十を見つめている。

綴「やっと起きた?」
十「綴お姉ちゃん? 何で?」
綴「何で? じゃないの。あんた昨日、リリャ―スパスティーリャ亭で食事前にマ
ンサニーリャを飲んで、そのまま酔いつぶれたんだって?」
十「え?」
綴「丸山君があんたを負ぶって送ってきてくれたのよ」
十「え…昨日?修が?」
   
   思い出すように考える

十「って事はもしかして今日は…」
綴「そう。今は翌日の朝。あんたは丸一日熟睡していたって事」
十「うわぁぁ…」

十、驚いて飛び起きるが頭痛を感じて頭を押さえる

十「いたたたた…」
   
片手で頭を擦りながら、片手で胸をさすって、すっかり青ざめた顔でうなだれる

十「おえぇ、気持ち悪い…」
茶和子「バカね、朝からそんなに飲むからよ」
 十「茶和子お姉ちゃんもいたんだ」

十、調子が悪そうに布団から出てふらふらと着替えを始める。

綴「今日は休みなんでしょ、無理しないでもう少し寝てれば?」
十「もう気持ち悪くて寝てられないよ…起きる」
茶和子「大丈夫?」
十「うん…」

   十、着替え終わって髪をとかし、小さな欠伸をしながら部屋を出ようとする。茶和子、トマトジュースを十に渡す

十「ん?」
茶和子「まずはこれ飲みな、二日酔いに効くよ」
十「うん…ありがとう」
茶和子「あんたも少しは野菜とらないとね。夜勤お疲れ様」
十「うん…」
十、鼻をつまんでトマトジュースを一気に飲み干す

十「おえ…」

口を手で拭ってからティッシュで口を押える

十「やっぱり僕、トマトジュースって嫌い」

缶を茶和子に渡す。

十「まぁいいや、いただきました。リコピンサンキュー」
茶和子「かわいくない子!私にお礼言いなさいよね!」
綴「それともう一つ、缶ぐらい自分で捨てなさい」
十「はーい」

十、不貞腐れた様にあくびをしながらout。二人の姉、笑いながらその後を追って戸を閉めてout


南諏訪高原病院・4階病棟。朝10時ころ。看護師や看護助手、石や療法士が忙しそうに動いている。15号の3ベッド。十、花岡の血圧を測っている。

花岡「十君、いつも本当にありがとう」
十「いえいえ、とんでもないです」

花岡申し訳なさそうに十を見て微笑む

十「何です?」
花岡「これで注射さえもっと上手くやってくれりゃあ、何も文句はねーんだけどなぁ」
十「え?」

十、ぎくりと固まって持っていた血圧計とチューブを落とす

花岡「悪い悪い。しかし言っちゃあ悪いが、十君に注射を打たれた時はいつもそ
の後が痛くてねぇ」

十、急に動揺をし出してきょろきょろおどおど

十「ほ、本当に!? も、申し訳ございません! もっときちんと…えーと、次回からは…はい」

十、申し訳なさそうに下を向く。花岡、それを見て笑う。十、ばつが悪そうに急いで片付けをして急いでカートを出口に向ける。

十「そ…それでは終わりました。し、失礼いたしました」

十、ワゴンを押して退出しようとするが、ワゴンがドアの溝に挟まる。十、慌
   てて元に戻そうとするが焦ってワゴンを横転させる

十「あぁぁぁぁぁ」

新しい注射針の袋や点滴の交換袋などを全てばらまく。十、慌てて片付ける。
そこに急いでタミ恵が飛んでくる。

タミ恵「ちょっと十! あんた何やってるのよ!?」
十「あ、タミ恵」
タミ恵「あ、タミ恵…じゃないわよバカ十!」

タミ恵も片づけを手伝い出す。

十「バカっていうなよ…」
タミ恵「もぉ! ここは私がやっておくからあんたは早くせり君と歩未君のところに行きなさい よ!」
十「はい…ありがとう」
タミ恵「ったく、余計な仕事を増やすなっつーの」

十、頭を下げて退室。タミ恵の気まずそうに笑って頭を下げる。

タミ恵「皆さん本当にご迷惑をおかけいたしました。申し訳ございません」

十、速足でout

同病棟・小児部屋。2人部屋で結城せり(6)と新岸歩未(6)歩未、せり、二人で静かに絵本を読んでいる。十、入り口ドアからin

歩未「あ、十君だ!」
せり「本当だ! 十君おはう!」
十「歩未君にせり君おはよう。二人ともご飯は食べたかな?」
   
   歩未とせりの食事。ほとんど残されており、コッペパンとヨーグルトのみ完食。おかずのスクランブルエッグとABCスープは全く手を付けられていない。

十「二人ともおかず全然食べてないじゃないか。もっとしっかり食べなくちゃ」
    
   せり、歩未、顔をしかめて顔を見合わす

歩未「だって、ここの給食まずいんだもん」
せり「僕も…食べたくない」

十、二人の体を見る。二人ともやせ形で小柄でがりがり

十「だから二人ともそんなに…」
十、二人と目線を合わせてまじまじ見つめながら微笑む

十「そんな事を言ったらだめだよ。栄養士さんもみんなの体の事を考えて作ってくれてるんだもん。栄養士さんの為にも君たちの為にも食べなくちゃ」
せり「じゃあ十君も毎日このごはんを食べてるの?」
十「え?」
歩未「そうだよ! 十君だってお昼食べるんでしょ? このまずいごはんを食べてるの?」
十「僕たちは…君たちと同じご飯は食べないよ」
歩未「ずるい!」
せり「十君ばっかり美味しいもの食べてるなんてずるい!」
十「ずるいといわれても…」
せり・歩未「僕らも美味しいご飯食べたい!」

二人、十に猛抗議。十、困り果てて頭をかく

せり「じゃあ分かった!僕、十君も同じ給食をここで食べるまで僕も食べない!」
歩未「僕も! 十君が食べないんなら食べない!」
十「えぇ…そんなわがまま言うなよ」
せり・歩未「十君が食べないんなら僕らは食べないもん!」

   膨れてそっぽを向くせりと歩未。十、困って頭をかきながら困り笑い。

十「まぁ…いいや。二人とも今日も体温と血圧測らせてくれるかな?」
歩未「いいよ」
せり「注射しないならね」

十、まずはせりの腕をめくりあげて血圧計をまいて、口に体温計を差し込みながら

十「残念ながら、注射もしないといけないんだな」
歩未・せり「えー…十君の注射!?」
十「何だよ…その顔」

二人、顔を見合わせる
歩未・せり「えうーっ…」
十「酷い!」

十、歩未の腕に血圧計をまいて口に体温計を差し込む

歩未「Oh,police!」
せり「Have mercy!」
十「How rude!」

   十、二人の記録をカルテに書き込む。

十「二人とも血圧と体温は正常だね。後は…」
せり・歩未「うわぁぁ!」

十、チューブと注射器を準備。せりと歩未、ベッドから降りて逃げる準備。

同・ナースステーション。十、医療用カートを押してin。気が抜けたように大きなため息をついて椅子に座り込む。

田苗「十、お帰り」
十「ただいま戻りました」
田苗「せり君と歩未君、変わりはなかった? 」
十「変わりはなかったよ、でもさ…はぁ」
田苗「どうしたの?」

富士見駅前・リリャースパスティーリャ亭。混みあっている夕方の店内。十、鼻歌を歌いながらベーコンステーキを切ってご満悦そうに微笑みながら頬張る。丸山、心底呆れながらも十を心配した顔で見る

丸山「お前さぁ、この店に来るたびにベーコンステーキとスウェディッシュ卵ばっかり食べて大丈夫?」
タミ恵「しかもミートボールのクリームスープに…」
田苗「デザートにはシベリアケーキパフェ」
十「だって美味しいんだもん」
タミ恵「美味しいんだもんじゃねぇよ…」

   立て続けに飲んだり食べたり
十「マンサニーリャ、ボトル追加!」
丸山「おい!もうやめろって」
十「うっさい!」

十、腕をつかんで制止する丸山を振り払ってどんどん食べ続ける。

タミ恵「ところで? せり君と歩未君の部屋で何があった?」
十「えぇ?」
田苗「何か二人に言われたんだろ?」

十、食事をしながら田苗とタミ恵を見る。十、食べながら、時々むせ込んで水を飲みながら話をし出す。
   
田苗「なるほどね。給食がまずいか」
十「そうなんだ」

マンサニーリャの瓶をラッパ飲みする

十「クァァ! 千歳、何とかしろよ」
千歳「何とかしろって…僕に言われても」
丸山「そうだよ、お前管理栄養士だろ」
千歳「そうだけど…僕はまだ高原病院の勤務じゃないから何とも言えないよ。大体そのせり君と歩未君って子とも会った事ないしさ」

十、フォークでサラダをトントンとつつきながらごたっちく口に入れる

十「確かにそれもそうでした」
千歳「でも僕も力になれればなりたいから色々と考えてみるよ」

   千歳、紅茶をつぎながら淑やかにすする

十「宜しくお願いします」
千歳「そんな改まられるとちょっと気恥ずかしい」
十「それにさ、みんな酷いんだよ。みんな僕の注射は痛いからいやだって言うんだ。看護師としての自信無くすよ…」
全員「それは同感」
十「みんなまで酷い!」
  
南諏訪高原病院・4階病棟廊下。深夜3時。十、暗がりからin。目を大きく見開いて輝かせている。暗くて少し不気味な誰もいない廊下。見回りをしながらツタキを探して歩く

十「ツタキさん、今日はいないのかな?」
   
   懐中電灯で左右を照らしながら歩いている。十の前方3mくらいにツタキfi、十の方を向いて立っている

十「うわぁ! びっくりした!」
ツタキ「あら、十君こんばんは」
十「いつの間に来たんですか!全然気が付かなかった」

ツタキ、涼しげに微笑む。

ツタキ「大分涼しくなったわね、調子はどう?」
十「えぇ、お陰様で仕事にも大分慣れました」

大きくため息をついてお手上げのポーズをしてうなだれる

十「でもみんな僕の注射が下手くそだっていうんです。僕、本当に看護師に向いてるのかな」
ツタキ「それくらいでなに弱音を吐いているの! まだ若いんだからこれからなんじゃないの?」

    ツタキ、クールに微笑む。十、子犬の様に上目でツタキを見る。

十「それは、そうかもしれないけど…花岡さんなんて“注射さえ上手ければ文句なしなんだけどね”なんて言われて、せり君と歩未君にだって注射のたびに逃げられて…流石に傷つくし自信失くします」

ツタキ、優しく十の肩を抱いて十に耳を近づける

ツタキ「大丈夫よ、みんな初めはそんなもん。あなたはよく頑張ってるわ。だからそんなこと思ってたらだめ、自信をお持ちなさい」
十「ツタキさん、ありがとう」

十とツタキ、あいさつのキッスを頬に交し合う。

同病院・泌尿器科外来診察室内。中郡、パソコンとレントゲン写真を見ている。十、他看護師たちと点滴の準備などをして動き回っている。

十「はぁ…外来の応援だなんて。こんな事もやるんだ」

十、点滴の計算にてこずっている。後ろに丸山が立ってみている。

十「はぁ…僕、こういう計算苦手。修、代わりにやって」
丸山「十、しっかりしろよ!小学校高学年の計算だぜ?」
十「僕は算数苦手なの!おじいちゃん譲りで」
丸山「おじいちゃん?」
十「何でもない…」

何度も書いては紙を丸めながら

十「ダメだ!全然頭が回らない」

十、近くに置いてある自分用の紅茶ペットボトルを飲みながらイライラ。更にポケットから砂糖の塊を取り出して口に入れる。丸山、呆れたように目を細めて十を見る

丸山「お前よく、国家試験受かったな」
十「うるさいなぁ…」
丸山「どうした?高校まではあんなに成績優秀の天才十君だったんのに」
十「僕も年取ったって事じゃない?頭の回転が鈍くなったの」
丸山「それはそれは…ご愁傷さまですな」
十「嫌味かよ…」
   
   胃を擦る

十「はぁ…なんか気分も悪いし最悪」

十、今にも吐きそうな顔をして前かがみに立っている。丸山、十の背を擦る。梅
乃、受付からカルテを持って戻って来る。真っ青の顔の十に気が付いて立ち止まる。

梅乃「大丈夫? 顔色悪いわよ」
十「胃の調子が悪くって」
梅乃「また何か変なものでも食べたんでしょ」 
十「僕がいつも変なもの食べているみたいに言わないでくださいよ」
丸山「紅茶を飲んで、なおかつでかい砂糖の塊を5個も立て続けに一気食べするからなんじゃねーの?」
十「うるさいなぁ…」
梅乃「今日は休んでいた方がいいんじゃない?」
十「いえ、大丈夫です! 」
梅乃「本当に?」
十「はい!」

十、無理に明るくふるまって、丸山に計算後はよろしくと押し付けて受付の方に出ていく。

丸山「ったく…」

丸山、十に押し付けられた仕事をし出す。

泌尿器科外来・受付。昼13時ころ。だんだん混んでくる。
山崎清孝(85)、受付入り口側からin
威張ったように長椅子に腰かける。

山崎「おい、看護師さん」
十「はい、はい?」
山崎「わしゃ予約で来とるんだが、ちっとも呼ばれんぞ。いつになったら診察してもらえるのかね?」
十「えーと…少々お待ちくださいね」
   
   十、動揺して診察室に入る。山崎の座る長椅子の左隣は壁。火災報知器がついている。山崎、杖を伸ばして知らぬ顔で火災報知器を押す。ベル 、院内に鳴り響く。

十「え、何? 何?」

十、慌てて受付にかけ戻る

十「火事!?」

タミ恵と田苗も、病室からストレッチャーで患者の搬送をしているが、異常事態に気が付いて立ち止まる。

田苗「まさか!? どこから!?」
タミ恵「分からない」
田苗「どうすりゃいい?私もこんなの対応したことないに」

看護師たち、動揺してきょろきょろ。患者たちも不安そうに顔を見合わせる。
山崎、得意げにタバコをふかしている

十「え…まさか」
田苗・タミ恵「山崎さん!?」

スプリンクラーが作動して泌尿器科受付フロア中に水が降る。十、びしょびしょになって立ち尽くす。

十「冷たいよ…寒いよ…」
   
   山崎、タバコをふかしながら知らん顔で得意げ。田苗、火災報知機を見る。

田苗「はは…なるほど」
タミ恵「山崎さん!」 

山崎、タミ恵に気が付くと途端に満面の笑顔になる

山崎「おぉ、いつもの看護師さん」
タミ恵「いつもの看護師さんじゃないですよ!どうしてくれるんですか!?」
山崎「何がじゃ?」
タミ恵「火災報知機を押したの、山崎さんですよね?」
山崎「いやいやわしゃ押しとらんよ。ただちぃと杖が当たっちまってなぁ」
タミ恵「いやいやいやいや、杖が当たったくらいじゃあこんな事にはなりませんって」

仁王立ちになって山崎を鬼の形相で睨みつける

タミ恵「今回ばかりは、最悪警察沙汰も覚悟してください」
 山崎「何だねあんたは! わしは患者としてここに来とるんじゃぞ! 」
   
   タミ恵、山崎につかみかかろうとする。田苗、十、丸山がタミ恵を強く止める。タミ恵と田苗に搬送され途中のストレッチャーの患者、起き上がってこれは見ものだとばかりに修羅場を見つめる。


富士見駅前・リリャースパスティーリャ亭。夜のご飯時。店内はほぼ満員。

十、田苗、丸山タミ恵、それぞれに食事をしている。タミ恵、イライラとマンサニーリャを自棄のみ

タミ恵「ったく、ム・カ・ツ・ク! あのジジイ!」
   
   十のベーコンステーキとスウェディッシュ卵を奪ってやけ食い

十「おい! それ僕のだろ!」
タミ恵「うるさい!」
   
   飲み食いの手を止めないまま

タミ恵「ただでさえくそ忙しい午後なのにさ、余計な仕事は増やされるわ、ジジイの対応に追われるわ、他の患者さんのケアには終われるわで最悪な一日よ!」 

丸山、タミ恵の肩をもみながらご機嫌取り

丸山「まぁまぁ、もう済んだことなんだからいい加減に忘れようぜ。山崎さんだって悪気があった訳じゃないと思うし」

タミ恵、キッと丸山を睨みつける。丸山、ぎくりとして手を止めて話す。

タミ恵「悪気があった訳じゃないですって?いいえ、あれは明らかに悪意があってやっているとしか思えないわ! 私が担当して以来、あの人はいつもなの! くそジジイが!」

タミ恵、フォークをぐさりとベーコンの塊に突き刺す。丸山、タミ恵と目を合わさない様に十の方を見て話題をすり替える

丸山「お前は?大丈夫だった?」
十「何とかね…」
   
   時々咳をしている

十「でも寒い…風邪ひきそう」
丸山「おい…お前、移すなよ」
十「その心配かよ」
丸山「咳出てんじゃん」
十「ただむせただけ」
   
十、アケビのから揚げを食べる

十「ん、ウマ!」

次に食べながらマンサニーリャを飲む

十「うーん!酒最高!」
丸山「おい十!だから酒の暴飲はやめろって!」
十「放っとけ!」

丸山、十からボトルを取り上げる

丸山「何が放っとけだよ!介抱する僕らの身にもなれって」
十「僕だって今は死ぬほどストレス溜まってるんだから。飲まなくちゃやってられないっつーの!今夜だけは見逃してくれよ」

十、ボトルを丸山から奪い取ってラッパ飲みを始める

丸山「今夜だけはって…その言葉、毎晩聞いてる気がする」
十、立ち上がってカウンターの中に入る。お皿にいくつものタパスを盛り出す。

丸山「おい…今度はそんなに食べるの!?」
田苗「しかもイソギンチャクって…旨い?」
十「実は僕、これ大好きなんだ!サルヴァトーレ!このイソギンチャク、フリッターにして!」
千歳「じゃあ僕も!」
十「よーし!出来てくるまでの間、恒例の歌でもやろうかな!」

   アコーディオンを構える

十「楽師!」

ー挿入歌ー

『マンゴーはどこ行った?』

(十)

Viejo Gómez, vos que estás
De manguero doctora'o
Y que un mango descubrís
Aunque lo hayan enterra'o
Definíme, si podés
Esta contra que se ha da'o
Que por más que me arremango
No descubro un mango ni por equivocación
Que por más que la pateo un peso no veo en circulación
¿Dónde hay un mango, viejo Gómez?
Los han limpia'o con piedra pómez
Dónde hay un mango que yo lo he buscado
Con lupa y linterna y estoy afiebrado
Dónde hay un mango
Pa' darle la cana si es que se la deja dar
Dónde hay un mango
Que si no se entrega lo podamos allanar
Dónde hay un mango
Que los financistas ni los periodistas
Ni perros ni gatos, noticias ni datos
De su paradero no me saben dar
Viejo Gómez, vos que sos
El Viancarlos del goman
Concretamente, si podes
¿Los billetes, dónde están?
Nadie sabe dar razón
Y del seco hasta el bacán
Todos, en plena palmera
Llevan la cartera
Con cartel de defunción
Y jugando a la escondida
Colman la medida de la situación
¿Dónde hay un mango, viejo Gómez?
Los han limpia'o con piedra pómez
Dónde hay un mango que yo lo he buscado
Con lupa y linterna y estoy afiebrado
Dónde hay un mango
Pa' darle la cana si es que se la deja dar
Dónde hay un mango
Que si no se entrega lo podamos allanar
Dónde hay un mango
Que los financistas ni los periodistas
Ni perros ni gatos, noticias ni datos
De su paradero no me saben dar
Concretamente, si sabes
¿Los billetes, dónde están?

十、食べて飲みながら自分でも何をしたいか分からない様な感じで歌って踊って騒いだりしている。タミ恵、田苗、丸山、呆気にとられて、十を見つめている

ー終わりー

南諏訪高原病院・4階病棟廊下。深夜で誰もいない真っ暗な廊下。十とツタキのみ。十、照れて笑う。

ツタキ「どうしたの? 今夜はいつもより嬉しそうね」
十「ツタキさんと今日も会えたなーって。それだけで嬉しくてさ」
ツタキ「何よ、いつも会って話をしているらに」
十「そうだけどさ…なんとなく、ね」
ツタキ「変な人」

  十、大きく 伸びをする

十「今日も疲れた…もう毎日てんやわんやで散々だよ。スプリンクラーが作動して水被害に会うし…最悪」
ツタキ「あららら…それは災難だったわね」
十「本当…」
ツタキ「明日もまた山崎さんがお見えになるのよね」
   
   十、思い出した様に大きくため息

十「そうだった」
怠そうに腕のストレッチをしながら現実逃避したいというように目を閉じる。

十「この間の一件から、僕もどうもあの人の事が苦手になっちゃって。なんだか明日も又、嫌な予感しかしないな」

ツタキ、十の肩を励まして叩く

ツタキ「十君ドンマイ。いつでも私でよければ愚痴でも悩みでも何でも聞くに」
十「ありがとう。本当にツタキさんといると…」

   笑う

十「何でもない…」
ツタキ「何よ、男なら最後まで言いなさいよ」

同病院の泌尿器科・内科外来待合室。昼過ぎ・とても混んでいる。熱を出してぐったりしている人、咳をする人が多くいる。医療従事者、全員マスク着用。看護師や看護助手、忙しく動き回っている。

十「やっぱり…かなりいるね」
タミ恵「全く、インフルエンザかもしれないのに病院なんか来るなっつーの」
十「みんな具合悪いから来てるんだろ」
丸山「それもそうだ。元気なら来ないわな」
十「確かに」
3人、笑う。山崎が来院

丸山「お?」
タミ恵・十「げ…」
   
   山崎が受付にin マスクをせずに咳ばかりしている

タミ恵「うわぁ、咳してるくせにマスクしてないよ」
   
山崎、怪しい笑いを浮かべて十に近づく

十「山崎さんこんにちは」
山崎「おぉおぉ、この間の看護師さん」
十「山崎さん、いい加減名前覚えてくださいよ。僕は掛川、彼女は小山です」

タミ恵、十の耳を引っ張って十に耳を近づける

タミ恵(小声)「バカ十!あんなくそジジイに私の名前を教えるんじゃないよ!」
   
山崎、十の目の前で大袈裟に咳をする。十、丸山、タミ恵、手で顔を覆って顔を背ける。 

山崎「悪い悪い。実は最近高熱と咳が続いてねぇ…」
十「でしたら本日は内科を受診された方が…」
   
   山崎、咳をしながら胸を擦る

十「如何なされましたか?大丈夫ですか?」
山崎「吐き気が…」
十・タミ恵・丸山「吐き気!?」
山崎「おぇぇ…」
タミ恵М「うわぁぁ…こんなところで吐いたよ」
   
山崎、その場で豪快に嘔吐する。タミ恵、険悪そうに顔をしかめて身を避ける。丸山、タミ恵、十、急いでモップや消毒等を持ってくる
山崎「悪いねぇ、わしゃ入院かい?」
タミ恵М「入院かいって…知らねぇよそんなの!」

十、丸山、田苗、床を掃除しだす。タミ恵、山崎を睨みつつストレッチャー
   を持ってきて、山崎を処置室に連れてゆく。

同病院・4階泌尿器科小児部屋。夕方。十、せりと歩未に順番に食事を運んでくる。せりの部屋のカーテンが閉まっている。

十「せり君に歩未君、夕ご飯の時間だよ」
歩未「あぁ…十君」

十、歩未の机にせりの分と歩未の分の食事を置く。

十「歩未君、どうした?せり君は?」

心配そうにカーテンの方を見る。

十「カーテンしまってるけど、せり君寝てるのかな?」
歩未「ううん、せり君はおしっこしてる」
十「そうか、おしっこ中か」

十、安心したように微笑む

歩未「十君、せり君の事見てあげて」
十「どうかしたの?」
歩未「うん…」

カーテン越しに

歩未「せり君、十君が来たよ。カーテン開けていい?」
せりの声「いいよ…」
   
せり、ズボンをあげながら立っているが具合悪そうに咳をしている

十「せり君どうした?具合悪い?」
せり「十君…僕、お熱があるの。咳も出て苦しいよ」
十「せり君、いいよ。横になりな」

   十、せりを支えてベッドに寝かして布団をかける

十「いつから?」
せり「おやつの後から気持ち悪くなっちゃて吐いちゃったの。それからお熱が高くなっちゃったんだ」

十、せりの脈を測ったりしている

せり「それと…」

泣きそうな顔で十に耳打ち。十、同情しながらも困った顔をしてせりの話を聞いている。数分後。中郡先生と十と梅乃も駆けつけて、せりの検査をしている

中郡先生「せり君、インフルエンザだね」
せり「インフルエンザ?」
中郡先生「歩未君にもうつってしまったらいけないから、治るまでお部屋の移動…いいかな?」
せり「うん…」

せり、泣きそうな顔でとても寂しそう

歩未「せり君…」
梅乃「歩未君は大丈夫かな?」
歩未「うん、僕は元気」

不安そうに梅乃と十を見る。

歩未「せり君、治るんだよね?元気になるよね?」
梅乃「心配しないで、大丈夫よ」

梅乃、十に合図。

十「じゃあせり君、お部屋の準備するからちょっと待っててね」
せり「うん…」
歩未「せり君…」
十、部屋を出ながら首をかしげて胸を擦る

同病院・4階病棟ナースステーション。一週間後の朝。十、スタッフ入り口からin

十「おはようございます」
梅乃「十君、おはよう。あら大丈夫? どうしたの?」
十「大丈夫です。ただ、朝から少し胃がムカムカして…」
十、真っ青な顔をして微笑むが、常に胸やお腹を擦り、今にも吐きそうな雰囲気。

梅乃「又?大丈夫?」
タミ恵「ちょっとあんた、インフルエンザとかじゃないでしょうね?」
十「どうなんだろ」
   
   咳をする

十「寒いよ…」
   
   十、デスクの椅子に丸くなって震える。タミ恵、キッと十を睨みつけてじわじわ顔を近づける。

タミ恵「この野郎…うしたら打つよ!」
十「労いの言葉もないのかよ」

  十、今度は 具合悪そうにデスクに突っ伏せる
  
丸山「おい、マジで大丈夫か?病院行けよ」
タミ恵「バカ、ここが病院だろ!」
丸山「あ、そうか」

田苗、十に毛布をかけながら

田苗「無理しなんでさ、あんた休憩室行って休めば」
十「優しくしてくれるのは田苗だけだ…」

肩を落として怠そうにうなだれる

十「そんなこと言ってられないよ。この時期なんてただでさえ人手不足なんだから…僕は大丈夫」

   咳をしながら怠そうに働く

十「せり君の様子が心配だから様子を見て来ますね」

十、医療用カートを押してout

4階病棟廊下。リハビリ患者や見舞いで結構人がいる。十、ワゴンを押しながらボンワリ歩く。十の目線…十の目の前、かすんでゆがむ。

十М「あれ…足がもつれて思うように歩けない…」

十ふらついて歩いている。

十М「目の前が、ぼやけてる」

   十、倒れる。十の目線fo

4階男性4人部屋。10時ころ。十、ベッドの上で目を覚ます。点滴、心電図、血圧計などをつけられている。近くの椅子に梅乃。十の目線fi

梅乃「目が覚めた?」
十「柿澤先生? 僕、一体…」 

十、横になったまま辺りを見回す。十の隣の4番ベッドと十の相向かいの2番ベッドには人が寝ており、カーテンが閉まっている。1番ベッドは空でカーテンは空いて、ベッドが整えられている。

梅乃「バカねぇ、具合が悪いのに無理するなんて」
   
   梅乃、十の血圧と体温を測る。

梅乃「39度5部…検査の結果も間違いなくインフルエンザ」
十「インフルエンザか…情けない」
梅乃「十君、大丈夫よ。ただ今は…」
梅乃、十の点滴を調整しながら優しく微笑む

梅乃「体力も大分なくなってるし、嘔吐と下痢も大分酷かったみたいだから、暫くは入院ね。ご家族にも連絡しておきました」  
十「そう…ですか」
梅乃「じゃあ、ゆっくり休んでね。また様子を見に来ます」

梅乃、十の布団をかけなおして、微笑んで退室。

夜になり消灯の時間になる。21時。十、眠れずにベッドに横になりながら目を開いている。ベッドスタンドのみ付けてあり、十の周りは明るい

十「はぁ…今日は眠れないなぁ。頭痛いし気持ち悪い」

夜中0時ころ。十、うとうとし出す。ツタキ、十の側にゆっくり現れて十の寝顔を優しく微笑んで見守るfi。十、寝返りを打ちながらゆっくりと目を開いてツタキの方を見る。ツタキと目が合う。

十「ん…うぅぅ…」

十、驚いて飛び起きる

十「うわぁ!びっくりした!」
ツタキ「十君…」

   ツタキ、十を再び寝かして毛布をかける

ツタキ「ごめんなさい、起こしてしまったわね」
十「ツ…ツタキさんか。どうして?」
ツタキ「あなたが倒れたって知ったから心配で見に来たの」
十「そうだったんですか…ありがとう」
ツタキ「本当にごめんなさい。脅かすつもりじゃなかったのよ」
十「ツタキさんが来てくれて嬉しいよ…僕こそ驚いたりしてごめん」
ツタキ「いいの…」

   微笑んで、十の額に手を当てる

ツタキ「あなたがそんなに苦しんでいなくて良かった」

立ち上がって出入り口に向かう。

ツタキ「じゃあね、叉見に来るわ。今度はあなたに気が付かれない様に」
十「いや…行かないで」
ツタキ「えぇ?」
   
   十、ツタキの手を握る

十「ねぇツタキさん、今夜は朝になるまで僕の側にいて」
ツタキ「私に?」
十「僕の側に、ここにいて欲しいんだ」
ツタキ「分かった、いいわよ。私でいいのなら朝になるまでここにいてあげる」
十「ありがとう。ツタキさんの手って冷たいんだね」
ツタキ「そう?冬だからじゃないかしら?」

   十、ツタキの手を握ったまま眠りに落ちる。朝の陽と共にツタキは消える様にいなくなるfo

   翌朝6時30分。十のベッドの隣に花岡。十、少しずつ目を覚まして、花岡を見る。花岡、ベッドで薬を飲んでいる。

十「花岡さん、おはようございます」
花岡「十君、おはよう」
十「ここ、花岡さんの部屋だったんですね」
花岡「そうだよ。気が付かなかったのかい?」
十「はい。花岡さんは僕がいる事を知っていたんですか?」
花岡「君がここに連れて来られた日は本当に心配したんだよ」
十「そう…だったんですか。忝い」

恥ずかしそうに下を向いて微笑む

十「っていう事は、僕が寝かされているのは…」

自分の名前が書かれた札を見る。

十「泌尿器科及び内科…掛川十」

十、驚いて飛び起きる。

十「内科と泌尿器科!?何で?」

タミ恵が医療カートに器具や荷物をいっぱい乗せて入室。入り口よりin

タミ恵「それは…泌尿器の状態に問題があったからに決まってんでしょ」
十「タミ恵!」
タミ恵「それでここは泌尿器科のインフルエンザ隔離のための病棟」
十「隔離病棟!?」

一番初めのツタキを思い出す

十М「そう言う事か!ツタキさんはこういう感染症専門って事か」
タミ恵「何一人でぶつぶつ言ってんのよ!」
十「え…いや、何でもない」
タミ恵「変なの」

十の血液を採り始める

十「バカ!痛いよ!ちゃんとやれ!」

タミ恵、血液を取り終わった後に十を小突く

タミ恵「あんた…そういう事言ったら覚えときな。復帰したら引っぱたいてぶっ飛ばす」

タミ恵、カートを押してフンっと鼻を鳴らして速足でout


12時。正午の鐘が鳴る。廊下は配膳で慌ただしくにぎやかくなる。

十「あ、もうお昼か」
花岡「そうじゃな。医療従事者さんはいつもどんなものを食べているんだい? 」
十「僕らは…レストランで食べたり、お弁当だったりですかね」
花岡「病院食など食べんじゃろう」
十「えぇ、大人になってからは全くです」
   
   思い出したように

十「あ…」
   
   看護助手、給食を運んでくる。

十「なるほど、これがまずいと噂の給食か」
   
   十、お膳の匂いを嗅ぐ

十「匂いはとても美味しそうだな…」
花岡「給食がまずいか…十君もその話は知っているのじゃな」
十「えぇ、子供部屋の男の子が言っていました。まずいって言って少しも食べないんです」
   
  苦笑いしながら箸で給食をつつく。

十「でももし、僕が食べるところを見れば食べるとか言ってましたね」
   
   せり、歩未、駆け込んで入室する。入り口からin

十「せり君!? 歩未君!?」
せり・歩未「十君!」
十「良かった!せり君元気になってきたんだね!」

せり、はしゃいでぴょんぴょん飛び上がりながら興奮して話をする。

せり「うん!あとちょっとお熱が下がって咳が治ったら歩未君と同じ病室に戻れるって!歩未君とももう会っていいって言われたし、廊下も歩いていいって言われたから来たんだ!」
十「そうだったんだ。歩未君は、元気か?」
歩未「うん、ありがとう。僕は元気いっぱいだよ」
十「良かった」
せりと歩未、十のベッドに腰かける。

せり「ねぇ十君、十君こそ大丈夫?」
十「え?」
せり「十君が入院しちゃったって聞いたから僕ら、お見舞いに来たんだ。大丈夫なの?」
十「ありがとう、僕は大丈夫だよ」
歩未「それに、給食食べる十君が見たいから来たんだ」
十「そんな事まだ覚えていたんだ。じゃあ、君たちの目の前で頂きます」
   
十、恐る恐る給食を食べ出す。せりと歩未、十をまじまじ見つめる。

十「ん…ん…」

もぐもぐとしながらお膳を見つめたまま。ごにょごにょ喋る。

十「約束だぞ。僕だってちゃんと残さず給食食べるんだから、君らもこれからは食べる事。いいね」
せりと歩未「はーい」

十、ニコニコしながらどんどんとペースを上げて食べる。

十「凄い美味しいじゃん!」
せり・歩未「嘘だぁ!」
十「嘘じゃないよ!君たちも戻って食べてごらん」

花岡と山崎も恐る恐る口に入れるが、一口食べてからペースを上げて嬉しそうに食べる。

花岡「うむ…本当だ。今までとは比べもんにならんくらいにうまい!」
山崎「確かにだ!こりゃお代わりをして食いたいくらいだ」

   せり、歩未、顔を見合わせる

3日後の朝。十、仰向けに横になってぼんわり。花岡のベッド、カーテンで囲まれている。

十M「あれからどれくらい経つのかな」
   
   十、咳き込む。

十M「やだな、早く仕事にも戻りたいのに。ちっとも熱が下がらないし…」
   
   花岡、大きく咳き込む

十M「花岡さんも大丈夫かな、本来なら僕が助けてあげなくちゃいけないのに」
   
   花岡のベッド、心電図が鳴り出す

十「え!?」
   
タミ恵、田苗、丸山、梅乃、中郡が駆け込んで来て、花岡を緊急処置。5人、入り口からin  十、不安そうにカーテンを見つめる
   
   十五分後、心電図が止まる音

十「え…花岡さん?」

十、驚いて飛び起きる。

女性の声「お父さん…亡くなる様な病気じゃなかったのに何でよ…」
   
十、横になったまま無言で涙を流す。直後、緊急コール。タミ恵、丸山、田
   苗、走って退室。中郡と梅乃、花岡を処置。中郡、梅乃と花岡の家族に何かを話している。家族、泣いている

十「中郡先生! 柿澤さん!」

十、たまらなくなって花岡のカーテンを開けて飛び込んでくる

梅乃「十君、起きてたの!?」
十「花岡さんは?」
梅乃「十君…」
十、花岡のベッドに近付く。

十「花岡、さん?」
   
   恐る恐るカーテンを開ける。花岡、微笑んだまま横たえている

十「花岡さん!」
   
   花岡の体に泣きくずれる

十「何で?どうして?昨日まであんなに笑って話していたのに…」

同病院・旧病棟にある霊安室。花岡が遺体ベッドで眠っている。
十、ツタキと二人で花岡の側に立っている。十、涙をこらえている。
十「花岡さん…本当にごめんね」
ツタキ「十君…」
十「ツタキさん…僕、どうすればいいの?僕、僕…」
ツタキ「十君…」
十「ツタキさん…」

十、こらえきれずに泣き崩れて下を向く。旧病棟の木の床に大量の涙が零れ落ちる。

十「僕は看護師失格です。担当患者さんが一番辛い時に何もしてあげられなくて、寧ろ迷惑や心配ばかりかけてしまって…僕にはもう看護師でいる資格はありません! だって僕は何も出来ないまま患者さんを殺してしまったんだ…」   

ツタキ、崩れて泣き続ける十を抱き締める

ツタキ「十君は本当によく頑張ってる、十君のせいなんかじゃない」
十「ツタキさん…」

十、しばらくツタキの腕の中で泣いている

十が去った後、せりが来る。ツタキ、せりの方を向く。せり、暗い廊下からin

ツタキ「あら?」
せり「ツタキさん…だよね」
ツタキ「坊やには…私が見えるの?」
せり「うん。結城せりって言うんだ、6歳なの」
ツタキ「せり君ね。私に何か用?」
せり「ツタキさんがいつも夜になると十君とお話してるの僕、知ってるんだ。ツタキさんが十君と仲良しな事、ツタキさんは患者さんを治せるって事も僕、知ってるの」
ツタキ「せり君…」

   ツタキに抱き着く

せり「お願いツタキさん!十君は僕の大事な、大好きな看護師さんなんだ!僕、十君の泣いてるところ見たくないの!だからお願いです、十君のために、花岡さんのために、どうか花岡さんを生き返らせてあげて!ツタキさんだったら出来るんでしょ!?」

ツタキも心を痛めるが、困った表情でかつ悲しそうにせりを見つめる

ツタキ「せり君…でもそれは」
せり「お願いします!僕、何でもするよ!だからどうか…十君を助けると思って僕の願いを聞いてください!」
ツタキ「…」
せり「僕、十君の事も花岡のおじいちゃんの事も大好きなんだ!」

一週間後。同病院・4階病棟ナースステーション。十、仕事が手に着かず抜け殻状態。

丸山「もう元気出せよ…」

十、独り言を呪いのように何度もつぶやいている

十「僕は人殺しだ…花岡さんは僕が殺したんだ」

丸山、十の目を覚まさせるように十の肩を持って体を大きくゆする。

丸山「だからもうやめろって!誰もお前のせいだなんて思ってもないし、責めてもいないって言ってるだろ」
田苗「そうだよ、十だって具合悪かったんだもん。仕方ないじゃん」
タミ恵「あんまり自分を責めるなよ」

丸山、十の肩を持ったまましゃがみ込んで十と目線を合わせる。

丸山「落ち込んでたって何も変わらないだろ。花岡さんだってお前の事を責めようだなんて思ってないだろうし、恨んでもいないと思う。亡くなった時の花岡さんの顔を見ただろ、とっても安らかな顔をして笑ってたじゃないか」

   十、涙をこらえていたが堪えきれなくなってワッと泣き出す。丸山、タミ恵、田
苗、笑って十の体をそれぞれに抱いて慰める。十、泣き続けたまま


富士見駅前・リリャースパスティーリャ亭。夜遅い時間。混んでいる店内。

丸山「サルヴァトーレ、こんにちは!」
サルヴァトーレ「…」
丸山「サルヴァトーレ、こいつにいつものやつ用意してやって。そして僕らにも4人分、マンサニーリャ頼む」
   
   サルヴァトーレ、無言で準備。

丸山「あの店主、いつ来てもしゃべらないしぶっきらぼうだよな」
   
   タミ恵、田苗、丸山、飲み食いを始める。

田苗「ほら、そんなしけた顔してないで十も食べなよ」
千歳「十君、大丈夫?」
田苗「この泣きはらした目…こいつらしくないだろ。花岡さんの事で業務中ずっと泣いてたからさ、こいつ今日は仕事にもならなかったんだよ」
タミ恵「給与泥棒ってところね…今日は」
丸山「落ち込んでる同僚にそういうこと言うなよ」
千歳「何かあったの?」

丸山、千歳の肩をポンポン叩いて頷きながら

丸山「千歳、今は何も聞いてくれるな…」
千歳「?」

タミ恵、十の皿にベーコン安ウェディッシュ卵をいくつも乗せる

タミ恵「ったく、ほら!あんたの好きなベーコンとスウェーディッシュ卵とマンサニーリャ、今日は特別に許す! な!だから食べよう!」

十のグラスをジョッキに変えて、ジョッキにマンサニーリャをたっぷり注ぐ

十「ん…」
田苗「だったらさ、気分転換に同窓会を開くとかどうよ?プチ同窓会でも 楽しいかもよ?」
丸山「同窓会か…」
タミ恵「田苗、それ名案!やろう!」
十「…」

少しずつマンサニーリャを飲んだり、少しずつ食べ始める。

南中学校・校庭。真冬1月の半ば。真昼の校庭、冬の日差しが差し込む 。十、丸山、田苗、タミ恵、他ニ十一人の嘗ての同級生

丸山「それでは、12年ぶりの同窓会のしめは?」
全員「タイムカプセル開封だ!」
丸山「うむ…それでは」
     
    全員、拍手で盛り上がる。丸山、大きなショベルを持つ

丸山「じゃあ、掘るぞ…確かこの辺だよな」
   
   全員、掘りだす。夕焼け空。風が強くなる

田苗「あ! 何かあった、これじゃない?」
   
   掘り出す。ブリキの箱

タミ恵「そうよ! これだこれ! 早速みんなで開封してみよう」
   
一人ずつ開封して、思い出を語る。

丸山「それで十ったらさ…」
十「おい!もうその話はよそうぜ!そうやって僕の黒歴史ばっかりを掘り返すなよ」
丸山「いいじゃんか!今となっちゃあ笑い話だろ?」
十「僕にとっちゃあ黒歴史でしかないよ…」
丸山「僕にとっちゃあ笑い話でしかないね」
十「How rude!」

丸山を小突く

丸山「何で叩くんだよ!」

談笑してそれぞれに盛り上がっている。風が強むなり、みんなコートを強く握って震え出す。

タミ恵「寒い…風が強くなってきたね」
田苗「私達は全員開け終わった。あとは十だけだ」
十「うん…」
   
小さなブリキのクッキー缶を開ける

十「え…?」
   
小さな鍵を取り出す

十「これだけ?」
タミ恵「何が入っていたの?」
田苗「鍵?」
十「うん…これだけだった。何の鍵なんだろ?」
丸山「ピアノとか?」
十「まさか!ピアノなんてずっと使ってるし、鍵もちゃんと僕の部屋にあるよ」
  
十、不思議そうに鍵をまじまじ見る。スペード型の持ち手に、不思議で特殊な形の鍵の差込口をしている
田苗「じゃあ車?」
十「どうして小6のタイムカプセルに車のキーを入れるんだよ!」
タミ恵「じゃあ日記帳とか?」
十「日記帳か…」

掛川家・十の部屋。その日の夜。夕食前の6時台の時間。薪ストーブがたかれて、シャンソンの音楽がかかっている。十、ベッドに横になって鍵を眺める

十「本当に一体これ、何の鍵なんだ?」
   
起き上がって、手当たり次第に鍵を差仕込む

十「これも違う、これも違う、か。これも、ん?」
   
思い出したようにクローゼットを開けて、ピンク色のかなり大きな箱を手に取る

十「これ?」
   
鍵を回す

十「開いた!」
   
箱を開ける。紫色で、幼児の背丈くらいあるテディベアが一つだけ入っている。十、不思議そうに手に取ってマジマジ

十「テディベアだ。こんなの僕、持ってたっけ?それよりもなんでこんなところ
にしまわれてるんだ?」

頭部のチャックを開ける

十「ん? 何か入ってる…何この箱? 宝石?」
   
笑う。

十「それまさかだろ!」

十、独り言をつぶやきながら鼻歌交じりに箱を開けるが、目を大きく見開いて箱
の中に釘付け。二つのオパールの指輪とオパールの水中花。十、驚いて青ざめる。

十「マ、マジか!? マジで宝石!? しかも…オパールだ!指輪と…造花!?」

   スマホで値段を調べて十、青ざめる。驚きのあまりに落として割りそうになるが、間一髪受け止める。

十「5…500万円相当!?で、でも何で?誰が…こんなのをくれたの?」

同・居間。十、綴、朝香、茶和子、夕食をしている。

綴「えぇ!? あんた、あのクマの事覚えてないの?」
朝香「覚えてなくても無理ないわよ。十はまだ3歳だったんだから」

十、食事をもぐもぐしながら

十「それで? それってどんな話なの?あのテディベアをくれたのは誰?何のために?」
朝香「あのねぇ…」

朝香、二人の姉と顔を見合わせる。二人の姉、頷く。

南諏訪高原病院・4階ラウンジ。十、梅乃、長椅子に座って飲み物を飲んでいる

梅乃「それで十君、私に聞きたい事って何?」
十「うん…あの、もう覚えていないかもしれないんですけど…昔の事、いいですか?」
梅乃「何でも聞いて」
十「柿澤さんは、22年前にこの病院に入院していた3歳の男の子の事、覚えていますか?」
梅乃「3歳の男の子?どんな子?」
十「脳の病気でこの病院に入院していた子なんですけど…」
   
梅乃、真剣に十の話を聞く。十、思い出しながらジェスチャーを交えて話す。

十「ってことがあったらしいんです」
梅乃「それでその子、今どうしているの?」
十「当時の夢をかなえて、現在は看護師として働いているとか」
梅乃「やっぱり…この病院でよね?」
十「え?はい…」
梅乃「えぇ、えぇ」

大きく息を吸い込んで懐かしそうに微笑む。

梅乃「その子の事ならよく覚えていますとも。とってもかわいそうな子だったの。もう助からないって、余命まで言われていたのね。何か月も意識不明で日に日に衰弱して行っちゃうし、本当に死んでしまうんじゃないかって思ってた」

3歳の頃の十の回想が映し出される。

梅乃「でも男の子は奇跡的に回復した」

   懐かしそうに十を見ながら

梅乃「元気 になったその子は本当に明るくて可愛い、笑顔の素敵な男の子だったわ。あんな可愛い印象的な子誰が忘れられるかしらね」

十を意味深にマジマジ見つめて微笑む

梅乃「だから大人になって再会してからも顔を見た瞬間、すぐに分かったわ。だって当時の面影そのままなんですものね。明るくて可愛くて、笑顔が素敵なあなたがあの時の掛川十君だって。そうでしょ」
十「え…」
梅乃「立派な男性になったわね、十君」

十、震え出し、小さなか細い声を出す。

十「柿澤さん、柿澤さんはずっと覚えていてくれたの? 僕が忘れちゃっている間も、僕が入社してきた時も…」
梅乃「えぇもちろん」
十「そんな…」
     
十、泣き出しそう

十「柿澤さん…」

梅乃、笑って十を抱き寄せながら母親のように優しくささやく

梅乃「そして覚えてる?あのテディベアの事…」
十「はい…」
梅乃「そう…」
不思議なまなざしを十に向ける。

梅乃「私が大人になるまで開けてはだめよって言った頭のファスナーは?開けてみた?」
十「え?」
梅乃「十君を幸せにしてくれる魔法がいっぱい詰まっているのよって言ったあのファスナーの中身よ」
十「はい。でも何で!?本物のオパールの指輪が二つ入っていたんです!それとオパールで出来た石の造花。何で、柿澤さんはまだ3歳だった僕へのプレゼントにそんな高価なものを入れてくれたの!?柿澤さんの物を間違って入れ違えてしまった?」

梅乃、笑って首を振る。

梅乃「そうじゃないわ。あれは紛れもなくあなたにあげたもの」
十「どうして?」
梅乃「あなたは多分覚えていないかもしれないけどね、瀕死だって言われて余命も宣告されていて、どの先生ももう手を施すことができないと言っていた時、あなたを助けてくれた、唯一の看護師さんがいたの」
十「誰?」
梅乃「どの先生にも他のどの看護師さんにも何もできなかったのに…彼女だけが懸命にあなたを助けてくれた…」

   静かに微笑んで

梅乃「その方は今でもこの病院にいるわよ。あなたも良く知る看護師さんかもね。しかもあなたとすごく関係のある看護師さん」
十「誰…」
梅乃「さぁ…」
意味深に笑い、踵を返して歩きながら

梅乃「その指輪もその方と深く関係のあるものかもかもしれない。その内、使い道とその理由が分かるかもね」


掛川家・十の寝室。深夜、十、眠れずにベッドに横になったままテディベアを抱いて見つめている。部屋の電気は消されておりベッドサイドスタンドのみついている。

十「使い道と理由が分かる…か。一体何なんだろ」
  
    ぼんわり

十「僕を助けてくれた看護師さんと深く関係があるんだよな?一体何なんだろ」

   欠伸をする

十「まぁいいや…もう寝よう。考えれば考えるほどわからなくなって頭が痛くなりそうだ…」

   十、目を閉じてうとうととし出す

ー十の夢の中ー

旧病棟の隔離療養病棟。昭和20年、多くの医療従事者や患者がいる。

十「ん?ここは何処?」

きょろきょろ。十はとある病室の一室にいる。患者は誰もいない。

十「病院の旧病棟かな?」

遠くで空襲警報が聞こえる

十「何かのサイレンが聞こえる…こんな夜中になんだろう?」

ミサイルが落ちるような轟音がする
十「うわぁぁぁ!何!?」

ツタキ、夜の旧病棟を車椅子を押して歩いているのが遠くに見えてくるfi

十М「あれはツタキさんと瀬戸内さんの車椅子だ!」

十、安心したように微笑でツタキに駆け寄ろうとするが足がすくむ

十「ツタキさん!」

声が固まってうまく出てこない

十М「何でだろ…怖い時みたいに声が出ないよ。足が前に進まない」

ツタキ、いつもの優しい声を響かせながら近づいてくる

ツタキの声「十君?十君なの?」

十、声にならない声を出す

十「僕はここにいるよ!ツタキさん!掛川十はここにいるよ!」
ツタキの声「十君?あら、今日はいないのかしら?」
十「待ってよ!だからここにいるんだって!待って!今すぐに君のもとに行くから!」

ツタキ、だんだん十に近づく。十もツタキに駆け寄ろうとするが、足が凍り付いたように進まない。

十М「何で?なんでだろ、いつも会ってるツタキさんじゃないか。何で?ツタキさんの側に行きたいのに怖くて体が動かない。ツタキさんに僕の側に来てほしいのに、大声で君の名前を呼びたいのに少しも声が出ないよ」

ツタキ、病室の前で止まる

ツタキの声「十君、ここにいるの?」
十「そうだよツタキさん、掛川十は中にいる!」
ツタキ「十君?」
十、やっとかすかに声が出る。ツタキ、十の声を聴いてかすかに優しく微笑む。

ツタキの声「分かったわ、じゃあ私からあなたのもとに行く。開けてもいい…かしら?」

十、嬉しそうにドアノブに手をかけようとするが手がとてつもなく震えている

十「嫌だ、いやだいやだ、こっちに来るな!助けてくれ!」
ツタキの声「え?」
十「え、いや違う!ツタキさん、こっちに来て!」
ツタキ、ドアを開けて中に入って来る

十М「ツタキさん!って…ツタキさん!?」

ツタキ、体中から血を流して内臓物が出た状態で悲し気に十を見つめる。十、ツタキを見て凍り付く。

ー夢から覚めるー

2015年2月の終わり。

十「うわぁぁぁぁ!」

夜中に飛び起きる

十「夢…?」

息を切らして汗びっしょり。十、目を見開いて硬直した顔できょろきょろ

十「怖かった…」
   
ぼんわりしながらベッドライトをつけて、サイドテーブルのお茶を飲む。

十М「またこの夢だ。何でいつも同じ夢ばっかり見るんだよ…しかもいつもツタキさんが出てくる」

オパールの指輪を取り出して二つを自分ではめる

十「これ…ん?」

指輪に「Born 1915/12/31 Szetoutzi Oszam」「Born 1919/4/1 Amikla Tztaki」とそれぞれ一つずつに彫られている。

十「瀬戸内修…?網倉ツタキ…?」

指輪をしばらく見ているが、何かを思い出した様にふと顔をあげる。

十「網倉ツタキって…ツタキさんの事?」

南諏訪高原病院・4階病棟廊下。十、テディベアを抱いて歩く。
   
十「ツタキ! ツタキさん!いたら出てきて 」
   
ツタキ、十の後ろに現れるfi。十、びくりとして振り向く

ツタキ「十君?」
十「うわぁぁぁぁ!」
  
十、転びそうになる。ツタキ、笑いながら十を支える。

ツタキ「自分から呼んでおいて驚くなんて失礼じゃない?」
十「ツタキさん!」
ツタキ「何かあった?」
十「あぁ…」

緊張してもごもごしながらツタキの方を見る

十「ツタキさん、今日は一緒に旧病棟に来てくれませんか?そこで話をしたいん
だ」

同病院・旧病棟廊下。

ツタキ「なるほど」
十「そう…」
ツタキ「それで?」
十「それで?」
ツタキ「貰ったテディベアには何が入っていたの?」
十「本物のオパールで出来た指輪とオパールで作られた造花です」
ツタキ「え?」
十「今日、その実物も持ってきたの。でもそれは後で見せます。その前に僕の話を聞いてもらえますか?」
ツタキ「いいわよ。何でも話して」

十、テディベアを古い木のベッドの上に置いてから改めてツタキと向き合う。

十「まず、一つ目。僕の夢の話をツタキさんに聞いてほしい」
ツタキ「夢?どんな?」
十「この半年くらい、毎晩ずっと同じ夢ばかり見るの。出てくるのはこの病院の旧病棟の病室、いつもみたいにツタキさんは瀬戸内さんの車椅子を押して歩いているの。そして僕はいつもその病室の中にいる」

ツタキ、表情一つ変えずに優しいまなざしを向けて聞いている

十「ツタキさんは外の廊下で僕の事を呼んでるんだ。だから僕、ツタキさんのもとに急いでいこうとするの。ツタキさんに会って声をかけたい、なのに何故か声が出ない。早く寒い部屋を出てツタキさんの近くに行きたい、なのに体が動かなくて一歩も前に進めないしドアも開けられない。ツタキさんに早く気が付いてほしいのになぜか怖くなって…お願い来ないで!助けてって叫んでしまう」

十、話しながらも震えだしが来る。ツタキ、優しく十を落ち着かせるように両手を握ってそっと長椅子に座らせる。

十「ありがとう…」

一息ついて話を続ける。

十「遠くではいつも何かの警報が鳴り響いていて、大きな爆発音もしていてとっても怖いんだ。しばらくするとツタキさんから僕が中にいる事に気が付いてドアの前まで来てくれて僕を呼ぶ野。そしてドアを開けて中に入って来てくれるんだけど…」
ツタキ「私の…」
十、言いにくそうに口ごもる。ツタキ、初めて不思議そうに口をはさむ。

ツタキ「夢を見るって事?」
十「そう。ツタキさんが夢にまで出てきてくれるのは本当に嬉しい。でも夢の中の僕はなぜか、あなたをとても怖がって避けてる。そして夢の終わりに振り向いたあなたが見せる顔はいつもとても悲しそうで、頬も生きている女性とは思えないほど真っ白で、服も肌も血まみれ。しかも…」

再び言いにくそうに

十「体の中の物、つまり内臓物が全て体の外に出てきてしまっている。とてもじゃないけど、今の綺麗で美しいツタキさんの姿からは想像が出来ないほど、もう見ていられないほど哀れで残酷な姿で出てくるんだ」

ツタキ、表情を変えぬまま優しく相槌を打つ

ツタキ「そう…それで?」
十「ねぇ、ツタキさん…僕は何を聞いても驚かないしショックも起こさない。だから本当の事を教えて。あなたは一体誰?一体何があったの?」

   十、震えながらも真剣に

十「僕、これが到底単なる夢だとは思えないんだ。だからツタキさんの口から真実を聞きたい。君の秘密の過去が何か…あるんだろ?」

ツタキ、大きく深呼吸をして長く息を吐く。

ツタキ「ついに話す時が来たか…」
   
   寂しそうに笑う

ツタキ「そう、あなたの想像通り。私はあなたに秘密にしていた事がある。し
かもあなたの見た夢と大いに関係のある事かも」
十「話して…」

   ツタキ、大きく深呼吸。十、緊張したようにツタキを見る。

ツタキ「私はねぇ、約70年前に死んだ地縛霊なの。大正8年4月1日生まれよ。大正から昭和の戦前と戦中を生きて来たわ。でも私は終戦前に命を落としたの」
十「なんで?ツタキさんだってまだ若かったんだろ?どうして亡くなってしまったの?」
ツタキ「第二次世界大戦…空襲よ」
十「第二次…世界大戦?空襲?」
ツタキ「そう。私は戦時中にこの病院で働いていた看護師なのね。でも昭和20年4月1日、病院に落とされた空襲爆弾で私は死んだ。皮肉なもので私自身の誕生日が私自身の命日になっちゃったって訳。私だけじゃないわ…この病院で当時働いていた私の友達や他の人、患者さんたちもみんな死んでしまった」
十「そんな…そうだったんだ」
ツタキ「私の当時配属されていた病棟はもう、空襲でめちゃくちゃだったからもうないけど…」

   十、涙を流す。ツタキ、十を見て笑いながら自分のスカートの裾で十の涙をぬぐう。

ツタキ「あら?何を聞いてもショックを受けないって約束じゃなかった?」
十「ごめんなさい…でも…でも」

   涙をこらえながら拭うが堪えきれない様子。ツタキ、笑いながら十の肩を抱き寄せる。

ツタキ「あなたが泣くことじゃないでしょ。さ、これで私の身の上は分かったわね。じゃあ、見せてくれる?」
十「うん…」

呼吸を置く

十「でもその前にもう一つ質問…いい?」
ツタキ「どうぞ」
十「僕がこの間インフルエンザで高熱を出して寝込んだ時、そして僕が幼い時に瀕死の重症だった時、僕の事を助けてくれたのって、ひょっとしてみんなツタキさんだったの?」

ツタキ、静かに笑う
ツタキ「あららら…そんな事までばれちゃったんだ」
十「やっぱりそうだったんだね、本当にありがとう。でもツタキさんはどうして僕をそこまで必死になって助けてくれるの?」
ツタキ「それは…私があなたのお母さんの、産みの母親だからじゃない?」
十「僕のマムが…ツタキさんの」

まじまじ考える

十「えぇぇ!?」
ツタキ「そうよ。実はね、あなたのお母さんの朝香も私がここにいる存在を知っていた。そしていつもこっそりと私に会いに来ては、幼いあなたが看護師になりたいって言ってるって、またその看護師になってこの病院で働きたいって言ってる理由も、あなたの成長もいっつも話してくれたわ。本当に嬉しかった」
十「じゃ…じゃあもしかして」
ツタキ「そう。あなたのずっと探してるあなたのおばあちゃんってのはこの私だったの。今まで黙っていてごめんなさいね」

十、納得したように目を細める

十「そうだったんだ。だから僕、ツタキさんといる時はいつも僕のマムと一緒にいるような温かい気持ちになったんだね。ツタキさんといるとすごく安心できたんだ。だってあなたこそが僕の実のおばあちゃんなんだもんね」
ツタキ「私もずっと同じ気持ちだったわ。それにあなたは私の旦那、つまりあなたのおじい様に当たる方にそっくり」
   
十、テディベアの中からオパールの指輪を取り出してツタキの前に差し出す。ツタキ、驚いたように目を丸くして見つめる

十「これがテディベアの中に入っていた指輪と造花だよ」
ツタキ「え…」
   
目を丸くして震える

ツタキ「何故、この指輪と造花が!?」
十「え?」
ツタキ「信じられないわ…この指輪と造花は確かに」
確信したように何度も見返しては目を見開いて頷く。

ツタキ「そうよ…あの時の指輪と造花…オパールの水中花だわ」
十「オパールの水中花?」
ツタキ「えぇ…実はこれ、私にあなたのおじい様がプロポーズをして下さったときに私に下さった指輪なの。オパールの水中花もそうよ。石工の職人だった夫のご親友が私達のために作って下さった世界で一つしかない宝物」
十「この指輪に書いてある…瀬戸内修さんって方だよね?」
ツタキ「えぇ…」

悲しそうに微笑む

ツタキ「でも彼はもう、ご親友の小河原勉さんと共に私が死ぬ3か月前に空襲で亡くなってしまったわ」

ツタキ、懐から白黒の古い写真を取り出す。ツタキと修と勉がピアノの前で笑って写っている。ツタキと修は一人ずつ赤ちゃんを負ぶっている

ツタキ「この方が修さん…この方が勉さんよ」
十「ううん…」

十、ツタキをここで待ってるように強く言って走り去る。ツタキ、不思議層に十を見つめる。

   数十分後。どこかに行っていた十が戻って来る。眼鏡をかけていて髪が黒くなっている。ツタキ、驚いて口をポカーンと開けて十を見つめる。

ツタキ「え…じゅ…十君…よね?」

十「僕、生まれつき髪は赤茶色だからちょっと黒く染めてきた。実は前に女性患者さんに貰った白髪染めがあったから」

   笑う

十「このメガネは僕の。実は僕、かなり目が悪いんだ。いつもはコンタクトなんだけど、ピアノ弾いたり本を読むときは眼鏡だからいつも持ち歩いてる。どう?」
ツタキ「一瞬ドキッとしちゃった。本当に修さんが来たかと思ったもの」

   十、笑いながらツタキに指輪を二つはめる

十「ツタキさん…修さんは、まだこの地域にいるよ」
ツタキ「え?」

十、言葉を隠すように照れ笑い。

十「しばらくは孫息子の僕が修さんの代わりになる。僕だってあなたと修さんの血を分けた実の孫なんだもん!」

   膝まついてツタキにオパールの水中花を渡す

十「だから修さんとは絶対にまた会えるよ。だから信じてあえる日を待とう!」
ツタキ「十君…」
十「実はね、僕…おじいちゃんとは会ったことがあるんだ。だからどこにいるかは分かってる」

ツタキ、驚いたように十を見つめる

十「修さんとツタキさんがこの世にいるんだもん、勉さんって方もきっとどこかにいるはずだ!勉さんは…何処で亡くなったの?」
ツタキ「勉さんも…この病院よ」
十「え?」
ツタキ「私の親友の名取カヨちゃんって女性と一緒に」
十「この病院!?の何処!?」
ツタキ「旧産婦人科病棟」
十「産婦人科病棟か」
ツタキ「私も実は死んでから行った事がないの」
十「うん、じゃあ今度行って見よう。もしかしてそこにお二人がいるなら」

少し間を置いてから十、青ざめて死に際の様な声を出す

ツタキ「どうしたの!?」
十「だったら早く他のお二人を助け出さないと、取り返しのつかないまずい事になるかも!お二人だけじゃない!修さんの事も、ツタキさんの事も!」
ツタキ「どういう事?」
十「実はね…」

死にそうな震える声で

十「落合小学校も…この病院の旧病棟も…この2020年までには取り壊されて新しくされるって話が出てるんだ」
ツタキ「そうなの?」
十「何のんきな返事してるんだよ!?僕、前に本で読んだんだ!地縛霊さんは建物の崩壊と共に消滅してしまうから、建物が取り壊される前に黄泉に行かなければならないって!」

ツタキ、静かに笑う

ツタキ「そしたらそれはそれで…私たちの運命って事なんじゃないかしら?どうせ私達はもう幽霊なのだもの」

十、泣きそうになって声を荒げる

十「ツタキさん!そんな事言うなよ!ツタキさんだって再び修さんや勉さん、カヨさんに会いたいんだろ!だったらあきらめるなよ、地縛が解ける方法を一緒に考えよう!」

ツタキに抱き着く

十「僕、ツタキさんがこのまま空気の泡となって消えちゃうだなんて嫌だよ!建物の取り壊しに間に合わなかったら!?ツタキさんは他のみんなにも会えないし、もう黄泉にも行けない。霊体が消滅してしまうんだ!どこにも行けずに空気の泡になってしまうんだよ!そんなの嫌だろ!?僕は嫌だよ!」

十、ツタキに抱き着いて泣き出す。ツタキ、優しく微笑んで十を抱きしめ、十の背中を優しく擦りながら片手に二つはめた指輪を見る。

ツタキ「プリズムが本当にきれいだわ…昔の輝きと全く変わっていない」
十「え…」
 
ツタキ、静かに微笑む
ツタキ「そうね。私、やっぱりこのまま人知れず消えたくない。もう一度だけでいいから愛しい修さんにお会いしたい」
十「うん…」

十、再び泣きながらツタキに抱き着く。

十「ツタキおばあちゃん…」

夜明けが近づく。徐々に朝日で窓辺のプリズムが輝き出す。十、ツタキの手をしっかり握って旧病棟の階段を上って二階に行く。

旧二階病棟。十とツタキ、バルコニーに立って朝日を見る。富士見の3月のまだまだ冷たい風が吹いている。病院の周りはまだ一面に深い雪景色。

ーED/credit and tema songー

『マッティナータ』

ーENDー
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