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第2章 幼馴染と崖っぷちの未来
太陽とお転婆娘
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カイルが静かに自らの決意を新たにしていた、まさにその時だった。
遠い廊下の向こうから、彼の予測通り、タタタタッ!という、小さな竜巻が接近してくるかのような、性急で元気な足音が響いてきた。
侍女たちの「まあ、マリア様! 廊下は走らないでくださいませ!」という、普段から聞き慣れた、諦めを半分含んだような制止の声が微かに聞こえる。
もちろん、その声に足音が緩む気配は一切ない。
そして、次の瞬間。
「カイル、お誕生日おめでとー! さあ、探検に行くよ!」
バーン!という擬音が聞こえそうなほどの勢いで扉が開け放たれ、一人の少女が室内に飛び込んできた。
その姿は、まるで部屋の中に小さな太陽が昇ったかのようだった。
幼馴染のマリア・クレストン。
艶やかな亜麻色の髪を、動きやすそうに高い位置でポニーテールに揺らし、生命力にあふれた翠色の瞳を朝の光の中でキラキラと輝かせている。
服装は、貴族の令嬢が着るようなフリルのついたドレスではなく、活発に動き回るためのシンプルなチュニックとショートパンツ。膝には、昨日どこかで転んだのであろう、小さな擦り傷の痕跡が誇らしげに残っていた。
貴族であるカイルに対して、彼女は一切の物怖じも、身分への遠慮もしない。
ただ、「大好きな友達」として、全力でぶつかってくる。
それが、前世と今世でどこか他者と一線を引いてしまいがちなカイルにとって、何よりも心地よく、得難い関係なのだった。
(来たな、太陽の形をした台風が……)
カイルは内心でそんなことを思いながら、わざとらしくため息をついてみせる。
『おはよう、マリア。君はいつも元気だね。少しは落ち着いたらどうかな。それと、入る時はノックをしてくれと言っているだろう』
『えー? 細かいことはいいの! それよりカイル、早く準備して! 今日は森の奥にある、秘密の崖の上まで探検に行くんだから! とっておきの場所なんだよ!』
腕を組み、胸を張り、まるで偉大な発見でもしたかのように目を輝かせるマリア。
彼女の中では、すでに計画の全てが完璧に組み上がっているらしかった。
考えるより先に体が動くお転婆な彼女に、カイルはやれやれと肩をすくめてみせる。
内心では、彼女のその曇りのない明るさに、凝り固まった自分の心がどれだけ救われているかを自覚している。
だが、それを素直に口に出せないのは、六歳の身体に宿った三十六歳の魂が持つ、厄介な照れ隠しのせいでもあった。
『今日は僕の誕生日なんだ。本来であれば、城の中で大人しく父上や母上に挨拶をして、一日を過ごすべきなんだが』
『だーかーらー!誕生日は、カいるが一番楽しいことをしなくちゃダメなの! お城でじっとしてるより、森を探検する方が絶対楽しいもん!』
それがマリアの理屈だった。彼女にとっての「楽しい」は、絶対的な正義であり、どんな常識や建前よりも優先されるべき事項なのだ。
そして、カイルが一番楽しいこととは、彼女と一緒に探検に行くことだと、固く、微塵も疑うことなく信じている。その純粋な思い込みは、あまりにも眩しかった。
(まあ、確かにこの城の中で一日中、貴族の作法に則って過ごすよりは、よほど健康的でいいか)
それに、とカイルは思う。外に出ていた方が、何か「滅びのフラグ」が立った時に対応しやすいかもしれない。
そんなプログラマー的なリスクヘッジ思考が、彼の行動原理の根底には常にあった。
カイルは結局、マリアの勢いに押し切られる形で、彼女の立案した「誕生日記念・秘密の崖まで大探検」に付き合うことにした。
『わかった、わかったよ。着替えるから少し待っていてくれ』
『やったー!』
満面の笑みで喜ぶマリアを見ながら、カイルはクローゼットに向かう。
目的地は、領地の森の奥にある見晴らしの良い崖。
そこは、街や森を一望できる、二人がよく遊ぶお気に入りの場所でもあった。
この時の彼は、まだ知らなかった。そのお気に入りの場所が、今日、忘れられない悪夢の舞台へと変わることを。
そして、彼女のその太陽のような笑顔を、自分が命を懸けて守ることになるということを。
遠い廊下の向こうから、彼の予測通り、タタタタッ!という、小さな竜巻が接近してくるかのような、性急で元気な足音が響いてきた。
侍女たちの「まあ、マリア様! 廊下は走らないでくださいませ!」という、普段から聞き慣れた、諦めを半分含んだような制止の声が微かに聞こえる。
もちろん、その声に足音が緩む気配は一切ない。
そして、次の瞬間。
「カイル、お誕生日おめでとー! さあ、探検に行くよ!」
バーン!という擬音が聞こえそうなほどの勢いで扉が開け放たれ、一人の少女が室内に飛び込んできた。
その姿は、まるで部屋の中に小さな太陽が昇ったかのようだった。
幼馴染のマリア・クレストン。
艶やかな亜麻色の髪を、動きやすそうに高い位置でポニーテールに揺らし、生命力にあふれた翠色の瞳を朝の光の中でキラキラと輝かせている。
服装は、貴族の令嬢が着るようなフリルのついたドレスではなく、活発に動き回るためのシンプルなチュニックとショートパンツ。膝には、昨日どこかで転んだのであろう、小さな擦り傷の痕跡が誇らしげに残っていた。
貴族であるカイルに対して、彼女は一切の物怖じも、身分への遠慮もしない。
ただ、「大好きな友達」として、全力でぶつかってくる。
それが、前世と今世でどこか他者と一線を引いてしまいがちなカイルにとって、何よりも心地よく、得難い関係なのだった。
(来たな、太陽の形をした台風が……)
カイルは内心でそんなことを思いながら、わざとらしくため息をついてみせる。
『おはよう、マリア。君はいつも元気だね。少しは落ち着いたらどうかな。それと、入る時はノックをしてくれと言っているだろう』
『えー? 細かいことはいいの! それよりカイル、早く準備して! 今日は森の奥にある、秘密の崖の上まで探検に行くんだから! とっておきの場所なんだよ!』
腕を組み、胸を張り、まるで偉大な発見でもしたかのように目を輝かせるマリア。
彼女の中では、すでに計画の全てが完璧に組み上がっているらしかった。
考えるより先に体が動くお転婆な彼女に、カイルはやれやれと肩をすくめてみせる。
内心では、彼女のその曇りのない明るさに、凝り固まった自分の心がどれだけ救われているかを自覚している。
だが、それを素直に口に出せないのは、六歳の身体に宿った三十六歳の魂が持つ、厄介な照れ隠しのせいでもあった。
『今日は僕の誕生日なんだ。本来であれば、城の中で大人しく父上や母上に挨拶をして、一日を過ごすべきなんだが』
『だーかーらー!誕生日は、カいるが一番楽しいことをしなくちゃダメなの! お城でじっとしてるより、森を探検する方が絶対楽しいもん!』
それがマリアの理屈だった。彼女にとっての「楽しい」は、絶対的な正義であり、どんな常識や建前よりも優先されるべき事項なのだ。
そして、カイルが一番楽しいこととは、彼女と一緒に探検に行くことだと、固く、微塵も疑うことなく信じている。その純粋な思い込みは、あまりにも眩しかった。
(まあ、確かにこの城の中で一日中、貴族の作法に則って過ごすよりは、よほど健康的でいいか)
それに、とカイルは思う。外に出ていた方が、何か「滅びのフラグ」が立った時に対応しやすいかもしれない。
そんなプログラマー的なリスクヘッジ思考が、彼の行動原理の根底には常にあった。
カイルは結局、マリアの勢いに押し切られる形で、彼女の立案した「誕生日記念・秘密の崖まで大探検」に付き合うことにした。
『わかった、わかったよ。着替えるから少し待っていてくれ』
『やったー!』
満面の笑みで喜ぶマリアを見ながら、カイルはクローゼットに向かう。
目的地は、領地の森の奥にある見晴らしの良い崖。
そこは、街や森を一望できる、二人がよく遊ぶお気に入りの場所でもあった。
この時の彼は、まだ知らなかった。そのお気に入りの場所が、今日、忘れられない悪夢の舞台へと変わることを。
そして、彼女のその太陽のような笑顔を、自分が命を懸けて守ることになるということを。
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