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第9章 魔大陸への上陸と最後の料理人 ~灼熱の将軍vsエプロンの聖女~
死の大地と、飢えたエルフの姫君 ~魔大陸への上陸~
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人魚たちに見送られ、僕たちは「死の海」を渡り、数日間の航海を経て水平線の向こうに巨大な陸地が姿を現した。
魔王城が存在するという、魔族の本拠地――『魔の大陸』だ。
「……空気が、重いですね」
アーク・ロイヤルの甲板で篠原真美(しのはら まみ)が不安そうに呟いた。
彼女の言葉通りだった。
海の上はあんなに青かった空が、大陸に近づくにつれてドス黒い紫色に淀み始めている。
風には腐敗臭と硫黄の匂いが混じり、鼻をつく。
「これが、魔の大陸……」
僕、相田ミナトは手すりを握りしめた。
目の前に広がるのは見渡す限りの荒野だ。
かつては森だったのだろうか。
黒く炭化した木の残骸が墓標のように立ち並び、地面はひび割れ、赤い瘴気が陽炎のように立ち上っている。
生命の気配が絶望的なまでに薄い。
「相田くん!前方、戦闘音を確認!」
索敵担当の牧野樹里(まきの じゅり)が叫んだ。
彼女はヘッドホンを押さえ顔をしかめている。
「ノイズが酷い……。でも、確かに聞こえるよ!誰かが襲われてる!
「映像、出します!」
滝川ののか(たきがわ ののか)がモニターに現地の様子を映し出す。
荒野の一角で、少数の集団が巨大な魔物の群れに包囲されていた。
「あれは……エルフ?」
美しい金髪と尖った耳を持つ、緑色の衣装を纏った一団。
だが、その衣装はボロボロで彼ら自身も痩せ細っている。
対する魔物はライオンと山羊と蛇が混ざったようなキメラや、腐肉を垂れ流すドラゴンゾンビたちだ。
「守れ!姫様を死なせるな!」
「くっ、数が多すぎる……!」
エルフたちは必死に魔法や弓で応戦しているが、多勢に無勢。
今にも食い殺されそうだ。
「助けるぞ!総員、戦闘配置!」
僕が号令をかけるとヒロインたちの表情が引き締まる。
「了解ッ!♡」
「アーク・ロイヤル、上陸!主砲、威嚇射撃用意!」
ズズズズズ……!
巨大な船体が砂浜に乗り上げその威容を現す。
ドォォォォォン!!!
『ラブ・バスター』の出力を絞った威嚇射撃が魔物の群れの中心に着弾した。
爆風でキメラたちが吹き飛ぶ。
「な、なんだあの白い巨城は!?」
エルフたちが呆然と見上げる中、僕は次なる指示を出した。
「美鈴、莉央!前衛を頼む!残党を蹴散らせ!」
「アイヨッ!運動不足解消ネ!」
「任せて!速攻で終わらせるよ!」
二人の武闘派ヒロインが甲板から飛び出す。
王美鈴(ワン・メイリン)の拳がドラゴンゾンビの頭蓋を砕き、日向莉央(ひなた りお)の蹴りがキメラを薙ぎ払う。
圧倒的な蹂躙劇。
数分後、魔物の群れは壊滅し荒野には静寂が戻った。
「だ、大丈夫ですか?」
僕たちが降り立つと、エルフの中心にいた一人の少女が進み出てきた。
透き通るような金髪と翡翠色の瞳。
本来なら絶世の美少女なのだろうが、頬はこけ、肌は土気色をしている。
それでもその身に纏う高貴なオーラは失われていない。
「……助太刀、感謝します。私はハイエルフの王女、セレスティアと申します」
彼女は気丈に振る舞おうとしたがその体は限界だったのだろう。
言葉の途中でふらりと傾き倒れそうになった。
「っと、危ない!」
僕はとっさに彼女を抱き留めた。
「……申し訳、ありません……。少し、目眩が……」
彼女の体は驚くほど軽かった。
羽毛のように軽く、そして骨の形がわかるほどに痩せていた。
「姫様!ご無事ですか!
護衛のエルフたちが駆け寄ってくるが、彼らも同様に痩せ細り目は落ち窪んでいる。
これはただの疲労ではない。
「……飢餓ですね」
真美が悲痛な声で呟いた。
「皆さん、長いことまともな食事を摂っていない……」
「と、とりあえず、安全な場所へ行きましょう。私たちの拠点へ」
セレスティアは弱々しく首を振った。
「いえ……私たちの里へ案内します。……あなた方に見ていただきたいものがあるのです」
案内されたのは枯れた森の奥深くにある「隠れ里」だった。
結界によって辛うじて瘴気は遮断されているが、里の中は死のような静けさに包まれていた。
そして里の中央広場。
そこに天を突くほどの巨木が聳え立っていた。
だが、その木は死んでいた。
「これが……『世界樹』?」
相崎莉奈(あいざき りな)が息を呑む。
幹は黒く炭化し葉は一枚も残っていない。
根元からはどす黒い液体が滲み出し、大地を汚染しているように見えた。
「はい。かつてはこの大陸の浄化装置であり、魔王の力を抑える要でした」
セレスティアが悲しげに見上げる。
「ですが、四天王最後の将軍……『火魔将軍(かましょうぐん)・イグニス』の手により、根を焼かれ、毒を流し込まれてしまったのです
「火魔将軍イグニス……」
「奴は言いました。『炎こそが浄化であり、再生には破壊が必要だ』と。……奴はこの森を焼き払い、世界樹を枯らすことで魔王軍の活性化を図っているのです」
世界樹の死は、エルフたちにとってただの象徴の喪失ではなかった。
それは「食」の喪失を意味していた。
「世界樹が枯れてから、この土地は呪われました。……作物は育たず、水は濁り、森の動物たちは毒を持つ魔物へと変貌しました」
セレスティアが拳を握りしめる。
「私たちは抵抗を続けてきましたが……もう、限界です。戦うための力はおろか、子供たちに食べさせる物すら……」
里の隅には虚ろな目をした子供たちが座り込んでいる。
彼らは泣く力さえなく、ただ枯れた土をいじっていた。
その光景に真美の顔色が蒼白になる。
「そんな……ひどすぎる……」
料理人である彼女にとって飢えほど辛い光景はない。
「相田さん、私……炊き出しをします!」
真美が決意の表情で僕を見た。
「アーク・ロイヤルの備蓄を使えば、とりあえず全員にお腹いっぱい食べさせてあげられます!」
「ああ、わかった。頼む、真美」
「はいっ! ……みんな、待っててね!すぐに温かいスープを作るから!」
真美の指揮の下、アーク・ロイヤルのキッチンカー機能が展開された。
備蓄していた野菜、肉、保存食をふんだんに使い、大鍋で特製のシチューを作る。
「いい匂い……」
「なんだ、この香りは……?」
死んでいた里に、生命の香り――料理の匂いが漂い始める。
エルフたちがふらふらと集まってきた。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてくださいね」
真美は笑顔で、一人ひとりにスープとパンを配った。
「お、美味しい……!」
「あぁ……温かい……」
「女神様だ……」
エルフたちが涙を流しながら食事をする。
子供たちも夢中でパンにかじりついている。
その光景を見て僕たちは少しだけ安堵した。
だが、真美の表情だけは晴れていなかった。
その夜。
アーク・ロイヤルのキッチンで、真美が一人、在庫リストと睨めっこをしていた。
「……真美?まだ起きてたのか」
僕が声をかけると彼女はビクリと肩を震わせた。
「あ、相田さん……」
「お疲れ様。みんな喜んでたよ。さすがだね」
僕は彼女を労ったが彼女は力なく首を振った。
「……ダメなんです」
「え?」
「全然、足りないんです」
彼女は在庫リストを僕に見せた。
「今日、里のみんなに振る舞った分で備蓄の野菜の2割を使いました。……このペースだと、あと一週間も持ちません」
彼女の声が震える。
「この大陸では食材が手に入らないんです。樹里ちゃんに探してもらっても、見つかるのは毒草や腐った肉ばかり……」
「……そうか」
アーク・ロイヤルの備蓄は、あくまで僕たち十数人が旅をするための量だ。
数百人のエルフを養い続けるには圧倒的に足りない。
「私……怖いです」
真美が俯く。
「今日、あの子たちが『明日は何?』って聞いてくれたんです。……キラキラした目で。でも、私……『明日もあるよ』って、胸を張って言えなかった」
彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「お腹いっぱいにしてあげたいのに……。料理人なのに……材料がなきゃ何も作れない。……私、無力です」
彼女の豊満な胸が悲しみで震えている。
料理への愛情が深いからこそ、彼女は「飢餓」という現実の重さに押し潰されそうになっていた。
根本的な解決――つまり、この死の大地で「食」を生産できるようにしなければ彼らは救えない。
だが、イグニスの炎に焼かれた大地はあまりにも不毛だった。
「……諦めるな、真美」
僕は彼女の肩を抱いた。
「君は無力じゃない。今日のスープで彼らは命を繋いだんだ。……方法はあるはずだ」
「相田さん……」
「世界樹だ。……あれを蘇らせれば大地も生き返るかもしれない」
「世界樹を……?」
「ああ。そのためにはイグニスを倒し、大地を浄化する必要がある。……君の【調合】スキルと、莉奈の【浄化】があれば何か手がかりが見つかるかもしれない」
その時だった。
里の外から爆発音と下品な笑い声が聞こえてきた。
「ギャハハハ!ここかぁ?生き残りのネズミどもが隠れてる場所は!」
「おいおい、なんだか美味そうな匂いがするじゃねぇか!」
敵襲だ。
モニターには、全身から炎と瘴気を撒き散らす醜悪な魔人たちの姿が映っていた。
火魔将軍イグニスの直属部隊。
彼らは手にドラム缶のような容器を持っていた。
中身は――ヘドロのような汚物と、猛毒の液体。
「おい、エルフども!イグニス様からの差し入れだ!」
魔人たちが、エルフたちが必死に守り真美がスープを配っていた広場へその汚物をぶちまけ始めた。
「や、やめろ!」
「私たちの……食事が!」
スープの鍋が蹴り飛ばされ、パンが泥と毒にまみれる。
「ハハハ!喰う必要などねぇよ!どうせ全員、燃え尽きて灰になるんだからなぁ!」
「……ッ!」
モニターを見ていた真美の目が見開かれた。
涙が止まり、その瞳に今まで見たことのない暗く激しい炎が宿る。
おっとりとした彼女から慈愛が消え失せた。
「……食べ物を」
彼女がエプロンの紐をきつく握りしめる。
「食べ物を……粗末にするなんて」
その声は地の底から響くようなドスが効いていた。
「絶対に……許しません」
最後の料理人が、静かに、しかし激しく激怒した瞬間だった。
彼女の怒りは、やがてこの死の大地を蘇らせる「奇跡のレシピ」へと繋がっていく。
魔王城が存在するという、魔族の本拠地――『魔の大陸』だ。
「……空気が、重いですね」
アーク・ロイヤルの甲板で篠原真美(しのはら まみ)が不安そうに呟いた。
彼女の言葉通りだった。
海の上はあんなに青かった空が、大陸に近づくにつれてドス黒い紫色に淀み始めている。
風には腐敗臭と硫黄の匂いが混じり、鼻をつく。
「これが、魔の大陸……」
僕、相田ミナトは手すりを握りしめた。
目の前に広がるのは見渡す限りの荒野だ。
かつては森だったのだろうか。
黒く炭化した木の残骸が墓標のように立ち並び、地面はひび割れ、赤い瘴気が陽炎のように立ち上っている。
生命の気配が絶望的なまでに薄い。
「相田くん!前方、戦闘音を確認!」
索敵担当の牧野樹里(まきの じゅり)が叫んだ。
彼女はヘッドホンを押さえ顔をしかめている。
「ノイズが酷い……。でも、確かに聞こえるよ!誰かが襲われてる!
「映像、出します!」
滝川ののか(たきがわ ののか)がモニターに現地の様子を映し出す。
荒野の一角で、少数の集団が巨大な魔物の群れに包囲されていた。
「あれは……エルフ?」
美しい金髪と尖った耳を持つ、緑色の衣装を纏った一団。
だが、その衣装はボロボロで彼ら自身も痩せ細っている。
対する魔物はライオンと山羊と蛇が混ざったようなキメラや、腐肉を垂れ流すドラゴンゾンビたちだ。
「守れ!姫様を死なせるな!」
「くっ、数が多すぎる……!」
エルフたちは必死に魔法や弓で応戦しているが、多勢に無勢。
今にも食い殺されそうだ。
「助けるぞ!総員、戦闘配置!」
僕が号令をかけるとヒロインたちの表情が引き締まる。
「了解ッ!♡」
「アーク・ロイヤル、上陸!主砲、威嚇射撃用意!」
ズズズズズ……!
巨大な船体が砂浜に乗り上げその威容を現す。
ドォォォォォン!!!
『ラブ・バスター』の出力を絞った威嚇射撃が魔物の群れの中心に着弾した。
爆風でキメラたちが吹き飛ぶ。
「な、なんだあの白い巨城は!?」
エルフたちが呆然と見上げる中、僕は次なる指示を出した。
「美鈴、莉央!前衛を頼む!残党を蹴散らせ!」
「アイヨッ!運動不足解消ネ!」
「任せて!速攻で終わらせるよ!」
二人の武闘派ヒロインが甲板から飛び出す。
王美鈴(ワン・メイリン)の拳がドラゴンゾンビの頭蓋を砕き、日向莉央(ひなた りお)の蹴りがキメラを薙ぎ払う。
圧倒的な蹂躙劇。
数分後、魔物の群れは壊滅し荒野には静寂が戻った。
「だ、大丈夫ですか?」
僕たちが降り立つと、エルフの中心にいた一人の少女が進み出てきた。
透き通るような金髪と翡翠色の瞳。
本来なら絶世の美少女なのだろうが、頬はこけ、肌は土気色をしている。
それでもその身に纏う高貴なオーラは失われていない。
「……助太刀、感謝します。私はハイエルフの王女、セレスティアと申します」
彼女は気丈に振る舞おうとしたがその体は限界だったのだろう。
言葉の途中でふらりと傾き倒れそうになった。
「っと、危ない!」
僕はとっさに彼女を抱き留めた。
「……申し訳、ありません……。少し、目眩が……」
彼女の体は驚くほど軽かった。
羽毛のように軽く、そして骨の形がわかるほどに痩せていた。
「姫様!ご無事ですか!
護衛のエルフたちが駆け寄ってくるが、彼らも同様に痩せ細り目は落ち窪んでいる。
これはただの疲労ではない。
「……飢餓ですね」
真美が悲痛な声で呟いた。
「皆さん、長いことまともな食事を摂っていない……」
「と、とりあえず、安全な場所へ行きましょう。私たちの拠点へ」
セレスティアは弱々しく首を振った。
「いえ……私たちの里へ案内します。……あなた方に見ていただきたいものがあるのです」
案内されたのは枯れた森の奥深くにある「隠れ里」だった。
結界によって辛うじて瘴気は遮断されているが、里の中は死のような静けさに包まれていた。
そして里の中央広場。
そこに天を突くほどの巨木が聳え立っていた。
だが、その木は死んでいた。
「これが……『世界樹』?」
相崎莉奈(あいざき りな)が息を呑む。
幹は黒く炭化し葉は一枚も残っていない。
根元からはどす黒い液体が滲み出し、大地を汚染しているように見えた。
「はい。かつてはこの大陸の浄化装置であり、魔王の力を抑える要でした」
セレスティアが悲しげに見上げる。
「ですが、四天王最後の将軍……『火魔将軍(かましょうぐん)・イグニス』の手により、根を焼かれ、毒を流し込まれてしまったのです
「火魔将軍イグニス……」
「奴は言いました。『炎こそが浄化であり、再生には破壊が必要だ』と。……奴はこの森を焼き払い、世界樹を枯らすことで魔王軍の活性化を図っているのです」
世界樹の死は、エルフたちにとってただの象徴の喪失ではなかった。
それは「食」の喪失を意味していた。
「世界樹が枯れてから、この土地は呪われました。……作物は育たず、水は濁り、森の動物たちは毒を持つ魔物へと変貌しました」
セレスティアが拳を握りしめる。
「私たちは抵抗を続けてきましたが……もう、限界です。戦うための力はおろか、子供たちに食べさせる物すら……」
里の隅には虚ろな目をした子供たちが座り込んでいる。
彼らは泣く力さえなく、ただ枯れた土をいじっていた。
その光景に真美の顔色が蒼白になる。
「そんな……ひどすぎる……」
料理人である彼女にとって飢えほど辛い光景はない。
「相田さん、私……炊き出しをします!」
真美が決意の表情で僕を見た。
「アーク・ロイヤルの備蓄を使えば、とりあえず全員にお腹いっぱい食べさせてあげられます!」
「ああ、わかった。頼む、真美」
「はいっ! ……みんな、待っててね!すぐに温かいスープを作るから!」
真美の指揮の下、アーク・ロイヤルのキッチンカー機能が展開された。
備蓄していた野菜、肉、保存食をふんだんに使い、大鍋で特製のシチューを作る。
「いい匂い……」
「なんだ、この香りは……?」
死んでいた里に、生命の香り――料理の匂いが漂い始める。
エルフたちがふらふらと集まってきた。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてくださいね」
真美は笑顔で、一人ひとりにスープとパンを配った。
「お、美味しい……!」
「あぁ……温かい……」
「女神様だ……」
エルフたちが涙を流しながら食事をする。
子供たちも夢中でパンにかじりついている。
その光景を見て僕たちは少しだけ安堵した。
だが、真美の表情だけは晴れていなかった。
その夜。
アーク・ロイヤルのキッチンで、真美が一人、在庫リストと睨めっこをしていた。
「……真美?まだ起きてたのか」
僕が声をかけると彼女はビクリと肩を震わせた。
「あ、相田さん……」
「お疲れ様。みんな喜んでたよ。さすがだね」
僕は彼女を労ったが彼女は力なく首を振った。
「……ダメなんです」
「え?」
「全然、足りないんです」
彼女は在庫リストを僕に見せた。
「今日、里のみんなに振る舞った分で備蓄の野菜の2割を使いました。……このペースだと、あと一週間も持ちません」
彼女の声が震える。
「この大陸では食材が手に入らないんです。樹里ちゃんに探してもらっても、見つかるのは毒草や腐った肉ばかり……」
「……そうか」
アーク・ロイヤルの備蓄は、あくまで僕たち十数人が旅をするための量だ。
数百人のエルフを養い続けるには圧倒的に足りない。
「私……怖いです」
真美が俯く。
「今日、あの子たちが『明日は何?』って聞いてくれたんです。……キラキラした目で。でも、私……『明日もあるよ』って、胸を張って言えなかった」
彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「お腹いっぱいにしてあげたいのに……。料理人なのに……材料がなきゃ何も作れない。……私、無力です」
彼女の豊満な胸が悲しみで震えている。
料理への愛情が深いからこそ、彼女は「飢餓」という現実の重さに押し潰されそうになっていた。
根本的な解決――つまり、この死の大地で「食」を生産できるようにしなければ彼らは救えない。
だが、イグニスの炎に焼かれた大地はあまりにも不毛だった。
「……諦めるな、真美」
僕は彼女の肩を抱いた。
「君は無力じゃない。今日のスープで彼らは命を繋いだんだ。……方法はあるはずだ」
「相田さん……」
「世界樹だ。……あれを蘇らせれば大地も生き返るかもしれない」
「世界樹を……?」
「ああ。そのためにはイグニスを倒し、大地を浄化する必要がある。……君の【調合】スキルと、莉奈の【浄化】があれば何か手がかりが見つかるかもしれない」
その時だった。
里の外から爆発音と下品な笑い声が聞こえてきた。
「ギャハハハ!ここかぁ?生き残りのネズミどもが隠れてる場所は!」
「おいおい、なんだか美味そうな匂いがするじゃねぇか!」
敵襲だ。
モニターには、全身から炎と瘴気を撒き散らす醜悪な魔人たちの姿が映っていた。
火魔将軍イグニスの直属部隊。
彼らは手にドラム缶のような容器を持っていた。
中身は――ヘドロのような汚物と、猛毒の液体。
「おい、エルフども!イグニス様からの差し入れだ!」
魔人たちが、エルフたちが必死に守り真美がスープを配っていた広場へその汚物をぶちまけ始めた。
「や、やめろ!」
「私たちの……食事が!」
スープの鍋が蹴り飛ばされ、パンが泥と毒にまみれる。
「ハハハ!喰う必要などねぇよ!どうせ全員、燃え尽きて灰になるんだからなぁ!」
「……ッ!」
モニターを見ていた真美の目が見開かれた。
涙が止まり、その瞳に今まで見たことのない暗く激しい炎が宿る。
おっとりとした彼女から慈愛が消え失せた。
「……食べ物を」
彼女がエプロンの紐をきつく握りしめる。
「食べ物を……粗末にするなんて」
その声は地の底から響くようなドスが効いていた。
「絶対に……許しません」
最後の料理人が、静かに、しかし激しく激怒した瞬間だった。
彼女の怒りは、やがてこの死の大地を蘇らせる「奇跡のレシピ」へと繋がっていく。
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