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後日譚 世界で一番幸せなマイホーム ~パパになった最強オーナー~
産声は高らかに ~最強の要塞に、最初の天使が舞い降りる~
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その瞬間、超銀河級統合リゾート要塞『ラス・ベガス・ドリーム』の空気が変わった。
煌びやかなネオンも、カジノの喧騒も、遠くの出来事のように感じられる。
世界の中心は今、この部屋――『ロイヤル・メディカル・タワー』の最上階、特別分娩室にあった。
「っ……うぅ……ッ! 痛っ……!」
「清花! 頑張れ、息を吸って!」
「ひっ、ふぅ……っ、んぐぅッ!」
ベッドの上で一ノ瀬清花(いちのせ さやか)が苦悶の声を上げていた。
彼女の額には大粒の汗が滲み、乱れた黒髪が頬に張り付いている。
普段の眼鏡をかけてテキパキと指示を飛ばす「クールな秘書」の面影はない。
そこにいるのは、未知の痛みと闘い、命を懸けて新しい命を送り出そうとしている一人の女性、そして「母」の姿だった。
「相田くん……手が、痛くない?」
陣痛の波が引いた一瞬の隙に、清花が掠れた声で気遣った。
彼女は僕の手を骨がきしむほどの強さで握りしめていた。
「全然、痛くないよ。……清花の痛みに比べたらこんなの蚊に刺されたようなもんだ」
僕、相田ミナトは彼女の汗をタオルで拭いながら力強く微笑んだ。
嘘だ。
実際は指が折れそうなくらい痛い。
けれどそれが嬉しい。
彼女の苦しみを少しでも分かち合えている気がするから。
「子宮口、8センチ開きました!順調ですよ!」
足元で声を上げたのは、助産師役を務める相崎莉奈(あいざき りな)だ。
彼女もまた、大きくなったお腹(妊娠8ヶ月)を抱えながら聖女としての使命を果たしている。
「清花さん、赤ちゃんの心音も元気です!あと少しですよ!」
「莉奈ちゃん……ありがとう……っ、また、来る……ッ!」
再び、大きな波が彼女を襲った。
「あぁぁぁぁッ!んーッ!い、痛いぃッ!」
「清花さん!お水です、口を湿らせてください!」
篠原真美(しのはら まみ)がストロー付きの水を差し出す。
彼女のお腹も臨月近いはずだが、母性溢れる彼女は献身的にサポートしてくれている。
「ありがとう……真美ちゃん……」
分娩室のガラス越しには他のヒロインたちが見守っていた。
日向莉央、王美鈴、江藤くるみ、星奈歌恋、牧野樹里、滝川ののか、そして魔王ルル。
全員が、大小様々な大きさのお腹を抱え、祈るような表情でガラスに張り付いている。
「清花……がんばれ……」
「ワタシ、見てるだけで力が入っちゃうヨ……」
「怖い……でも、すごい……」
ルルが自分の大きなお腹をさすりながら、震える声で呟く。
「余も……もうすぐこうなるのか?……あんなに痛そうなのに、清花の顔、綺麗なのじゃ……」
そう。
清花は苦しんでいるが、その表情は決して不幸ではない。
痛みの中に、確かな希望と、愛する人との結晶に会える喜びが混在している。
それはどんな戦場の戦士よりも気高く、美しかった。
「相田くん……」 清花が、潤んだ瞳で僕を見上げた。 「私……ちゃんと、産めるかな……?」 「産めるさ。清花は、僕の自慢のパートナーだろ?」 僕は彼女の前髪を優しく撫でた。 「このリゾートをここまで大きくした君だ。……赤ちゃんのひとりくらい、どーんと受け止めてやれるさ」 「ふふっ……そうね。……貴方の子だもの、きっと元気すぎて困ってるのね……♡」 彼女は弱々しく、でも愛おしそうに笑った。 「会いたい……。早く、この子に会いたいわ……」
「清花さん!全開大です 次、いきんでください!」
莉奈の声が響く。
いよいよその時が来た。
「相田くん、背中支えて!」
「わかった!」
僕は彼女の上半身を起こし背後からしっかりと抱き支えた。
「いくよ、清花。せーの!」
「んんんーーーーッ!!!くぅぅッ!!!」
清花が顔を真っ赤にして下腹部に全ての力を込める。
「上手です!頭が見えてきました!」
「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」
「もう一回!長く、強く!」
「んんッ!あぁぁぁぁぁぁッ!!!」
僕の腕の中で清花の命が燃えている。
血管が浮き上がり、全身が痙攣するほどの力。
(頑張れ……! 頑張れ、僕たちの赤ちゃん!)
僕も心の中で叫びながら、彼女に力を送る。
「頭が出ました!あと肩だけ!清花さん、力を抜いて、短く呼吸して!」
「ひっ、ふっ、ひっ、ふっ……!」
「そうです!その調子!」
莉奈が金色の光を纏った手で、赤ちゃんを導く。
【聖女の加護・安産誘導(セーフ・デリバリー)】。
彼女の魔法が母子の負担を最小限に抑え、スムーズな誕生を助ける。
「出るよ……!出る!」
「あぁッ!……あぁぁぁぁッ!♡」
ヌルンッ。
僕の腕に伝わる、何かが抜け出たような感覚。
そして、一瞬の静寂の後。
「オギャアアアアアアッ!オギャアアアアアッ!」
世界一高らかな、そして世界一愛おしい産声が、部屋中に響き渡った。
「産まれた……!」
「産まれました!元気な男の子です!」
莉奈がへその緒がついたままの小さな体を高く掲げた。
全身を羊水と血で濡らし、手足をバタつかせ、懸命に「生きている」ことを主張する小さな生命の塊。 「男の子……」
清花の目から堰を切ったように涙が溢れ出した。
「私の……赤ちゃん……」
「おめでとう、清花!よく頑張った!」
僕も涙が止まらなかった。
視界が滲んで清花の顔がよく見えない。
莉奈が手早く処置をし、綺麗なタオルに包んで清花の胸元へと連れてきた。
カンガルーケア。
「はい、ママですよ~」
清花の胸に赤ちゃんが乗せられる。
まだ温かく、柔らかく、そしてずっしりと重い。
「あぁ……」
清花が震える手で我が子を抱きしめた。
「ちっちゃい……。でも、温かい……」
赤ちゃんは、母親の匂いと心音を感じたのか、泣き止んでスヤスヤと落ち着き始めた。
「見て、相田くん。……貴方に似てる」
「そうかな?……目は清花にそっくりだよ。賢そうで綺麗な黒目だ」
僕たちは二人で小さな顔を覗き込んだ。
黒い髪、整った顔立ち。
確かに、僕と清花の特徴を半分ずつ受け継いでいる。
「可愛い……。世界一、可愛いわ……♡」
清花が赤ちゃんの額にキスをした。
その瞬間、彼女の顔つきが変わった。
今までの「恋人」としての甘い表情とも「秘書」としての凛々しい表情とも違う。
全てを包み込み、全てを捧げる絶対的な「母親」の顔。
ガチャッ。
分娩室のドアが開き、待機していたヒロインたちが雪崩れ込んできた。
「清花ーっ!おめでとう!」
「聞こえた!?すごい元気な声だったヨ!」
「男の子!?やったぁ!」
みんな、涙と笑顔でぐちゃぐちゃだ。
「見せて見せて!うわぁ、小さい!」
「プニプニしてる……!」
「私の赤ちゃんも……もうすぐこうなるのね……」
真美が自分のお腹を愛おしそうに撫でる。
「余の子は双子じゃからな……負けないくらい元気に産むぞ!」
ルルもライバル心を燃やしつつ、その目は優しく細められていた。
「……名前」
清花が、僕を見上げた。
「決めてくれた?」
「ああ。……ずっと考えてたんだ」
僕は腕の中の小さな手――僕の指一本をぎゅっと握り返してくるその手を優しく包み込んだ。
この子が生きる世界は、僕たちが作り上げたリゾートであり、かつては魔界と呼ばれた場所だ。
でも、ここから世界中へ、空へ、未来へと羽ばたいてほしい。
「『遥斗(ハルト)』。……遥か彼方まで、自由に翔けていけるように」
「ハルト……。遥斗くん」
清花がその名を口の中で転がした。
「素敵ね。……このリゾート(ラス・ベガス)よりももっと広くて高い場所へ……」
彼女は赤ちゃん――遥斗に向かって優しく語りかけた。
「聞こえる?貴方の名前よ。……ハルトくん。パパとママのところに生まれてきてくれて、ありがとう♡」
「きゃっきゃっ!」
遥斗が、まるで返事をするように小さな声を上げた。
「わぁっ!笑った!」
「可愛い~♡」
「ハルトくん、よろしくね!おばちゃ……お姉さんたちがいっぱい遊んであげるからね!」
「ののか、今おばちゃんって言いかけた?」
笑い声が広がる。
最強の要塞に最初の天使が舞い降りた瞬間だった。
その夜。
清花と遥斗は、莉奈の魔法で完全に回復し、オーナーズルームのベッドで安らかに眠っていた。
僕はバルコニーに出て夜風に当たっていた。
眼下には、今日も眠らない不夜城の光が広がっている。
(【拠点設営】……) 僕は自分の手のひらを見つめた。
最初はゾンビから身を守るための、ただの壁を作るスキルだった。
それが家になり、要塞になり、城になり、国になった。
そして今。
このスキルは、かけがえのない「家族」を守るための「揺り籠」になった。
「……パパ、か」
口に出してみると、こそばゆくて、でも誇らしい響きだった。
責任は重大だ。
清花だけじゃない。
ここにいる全員が僕の子供を宿している。
これから数ヶ月、毎月のように出産ラッシュが続くのだ。
真美の子はきっと食いしん坊だろう。
莉奈の子は優しい子に。
ルルの子は……やんちゃな魔王様になるかもしれない。
「忙しくなるぞ」
僕は苦笑いしながら、でも心の中は希望で満ちていた。
勇者が来ようが、神が来ようが、絶対にこの幸せは渡さない。
僕は世界最強のオーナーであり、世界最強のパパになるんだから。
「相田くん……?」
背後から声がかかった。
振り返ると、大きなお腹を抱えた篠原真美が立っていた。
「どうしたの、真美?」
「ハルトくんの寝顔見てたら……興奮して、眠れなくて」
彼女は頬を赤らめ、僕に近づいてきた。
「相田さん。……私のお腹の子も撫でてくれませんか?」
「もちろん」
僕は彼女の温かいお腹に手を当てた。
ドクン、ドクン。
力強い胎動が伝わってくる。
「元気だね」
「はい。……清花さんの出産を見て、この子も『早く出たい』って言ってるみたいです」
真美は僕の手をぎゅっと握った。
「私……頑張ります。清花さんみたいに立派なお母さんになりますから」
「ああ。楽しみにしてるよ」
夜空を見上げると満天の星が輝いていた。
その一つ一つが、これから生まれてくる子供たちの命のように思えた。
僕たちの物語はここで終わりじゃない。
むしろ、ここからが本当の「設営」の始まりなのだ。
愛と、家族と、未来を作るための。
煌びやかなネオンも、カジノの喧騒も、遠くの出来事のように感じられる。
世界の中心は今、この部屋――『ロイヤル・メディカル・タワー』の最上階、特別分娩室にあった。
「っ……うぅ……ッ! 痛っ……!」
「清花! 頑張れ、息を吸って!」
「ひっ、ふぅ……っ、んぐぅッ!」
ベッドの上で一ノ瀬清花(いちのせ さやか)が苦悶の声を上げていた。
彼女の額には大粒の汗が滲み、乱れた黒髪が頬に張り付いている。
普段の眼鏡をかけてテキパキと指示を飛ばす「クールな秘書」の面影はない。
そこにいるのは、未知の痛みと闘い、命を懸けて新しい命を送り出そうとしている一人の女性、そして「母」の姿だった。
「相田くん……手が、痛くない?」
陣痛の波が引いた一瞬の隙に、清花が掠れた声で気遣った。
彼女は僕の手を骨がきしむほどの強さで握りしめていた。
「全然、痛くないよ。……清花の痛みに比べたらこんなの蚊に刺されたようなもんだ」
僕、相田ミナトは彼女の汗をタオルで拭いながら力強く微笑んだ。
嘘だ。
実際は指が折れそうなくらい痛い。
けれどそれが嬉しい。
彼女の苦しみを少しでも分かち合えている気がするから。
「子宮口、8センチ開きました!順調ですよ!」
足元で声を上げたのは、助産師役を務める相崎莉奈(あいざき りな)だ。
彼女もまた、大きくなったお腹(妊娠8ヶ月)を抱えながら聖女としての使命を果たしている。
「清花さん、赤ちゃんの心音も元気です!あと少しですよ!」
「莉奈ちゃん……ありがとう……っ、また、来る……ッ!」
再び、大きな波が彼女を襲った。
「あぁぁぁぁッ!んーッ!い、痛いぃッ!」
「清花さん!お水です、口を湿らせてください!」
篠原真美(しのはら まみ)がストロー付きの水を差し出す。
彼女のお腹も臨月近いはずだが、母性溢れる彼女は献身的にサポートしてくれている。
「ありがとう……真美ちゃん……」
分娩室のガラス越しには他のヒロインたちが見守っていた。
日向莉央、王美鈴、江藤くるみ、星奈歌恋、牧野樹里、滝川ののか、そして魔王ルル。
全員が、大小様々な大きさのお腹を抱え、祈るような表情でガラスに張り付いている。
「清花……がんばれ……」
「ワタシ、見てるだけで力が入っちゃうヨ……」
「怖い……でも、すごい……」
ルルが自分の大きなお腹をさすりながら、震える声で呟く。
「余も……もうすぐこうなるのか?……あんなに痛そうなのに、清花の顔、綺麗なのじゃ……」
そう。
清花は苦しんでいるが、その表情は決して不幸ではない。
痛みの中に、確かな希望と、愛する人との結晶に会える喜びが混在している。
それはどんな戦場の戦士よりも気高く、美しかった。
「相田くん……」 清花が、潤んだ瞳で僕を見上げた。 「私……ちゃんと、産めるかな……?」 「産めるさ。清花は、僕の自慢のパートナーだろ?」 僕は彼女の前髪を優しく撫でた。 「このリゾートをここまで大きくした君だ。……赤ちゃんのひとりくらい、どーんと受け止めてやれるさ」 「ふふっ……そうね。……貴方の子だもの、きっと元気すぎて困ってるのね……♡」 彼女は弱々しく、でも愛おしそうに笑った。 「会いたい……。早く、この子に会いたいわ……」
「清花さん!全開大です 次、いきんでください!」
莉奈の声が響く。
いよいよその時が来た。
「相田くん、背中支えて!」
「わかった!」
僕は彼女の上半身を起こし背後からしっかりと抱き支えた。
「いくよ、清花。せーの!」
「んんんーーーーッ!!!くぅぅッ!!!」
清花が顔を真っ赤にして下腹部に全ての力を込める。
「上手です!頭が見えてきました!」
「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」
「もう一回!長く、強く!」
「んんッ!あぁぁぁぁぁぁッ!!!」
僕の腕の中で清花の命が燃えている。
血管が浮き上がり、全身が痙攣するほどの力。
(頑張れ……! 頑張れ、僕たちの赤ちゃん!)
僕も心の中で叫びながら、彼女に力を送る。
「頭が出ました!あと肩だけ!清花さん、力を抜いて、短く呼吸して!」
「ひっ、ふっ、ひっ、ふっ……!」
「そうです!その調子!」
莉奈が金色の光を纏った手で、赤ちゃんを導く。
【聖女の加護・安産誘導(セーフ・デリバリー)】。
彼女の魔法が母子の負担を最小限に抑え、スムーズな誕生を助ける。
「出るよ……!出る!」
「あぁッ!……あぁぁぁぁッ!♡」
ヌルンッ。
僕の腕に伝わる、何かが抜け出たような感覚。
そして、一瞬の静寂の後。
「オギャアアアアアアッ!オギャアアアアアッ!」
世界一高らかな、そして世界一愛おしい産声が、部屋中に響き渡った。
「産まれた……!」
「産まれました!元気な男の子です!」
莉奈がへその緒がついたままの小さな体を高く掲げた。
全身を羊水と血で濡らし、手足をバタつかせ、懸命に「生きている」ことを主張する小さな生命の塊。 「男の子……」
清花の目から堰を切ったように涙が溢れ出した。
「私の……赤ちゃん……」
「おめでとう、清花!よく頑張った!」
僕も涙が止まらなかった。
視界が滲んで清花の顔がよく見えない。
莉奈が手早く処置をし、綺麗なタオルに包んで清花の胸元へと連れてきた。
カンガルーケア。
「はい、ママですよ~」
清花の胸に赤ちゃんが乗せられる。
まだ温かく、柔らかく、そしてずっしりと重い。
「あぁ……」
清花が震える手で我が子を抱きしめた。
「ちっちゃい……。でも、温かい……」
赤ちゃんは、母親の匂いと心音を感じたのか、泣き止んでスヤスヤと落ち着き始めた。
「見て、相田くん。……貴方に似てる」
「そうかな?……目は清花にそっくりだよ。賢そうで綺麗な黒目だ」
僕たちは二人で小さな顔を覗き込んだ。
黒い髪、整った顔立ち。
確かに、僕と清花の特徴を半分ずつ受け継いでいる。
「可愛い……。世界一、可愛いわ……♡」
清花が赤ちゃんの額にキスをした。
その瞬間、彼女の顔つきが変わった。
今までの「恋人」としての甘い表情とも「秘書」としての凛々しい表情とも違う。
全てを包み込み、全てを捧げる絶対的な「母親」の顔。
ガチャッ。
分娩室のドアが開き、待機していたヒロインたちが雪崩れ込んできた。
「清花ーっ!おめでとう!」
「聞こえた!?すごい元気な声だったヨ!」
「男の子!?やったぁ!」
みんな、涙と笑顔でぐちゃぐちゃだ。
「見せて見せて!うわぁ、小さい!」
「プニプニしてる……!」
「私の赤ちゃんも……もうすぐこうなるのね……」
真美が自分のお腹を愛おしそうに撫でる。
「余の子は双子じゃからな……負けないくらい元気に産むぞ!」
ルルもライバル心を燃やしつつ、その目は優しく細められていた。
「……名前」
清花が、僕を見上げた。
「決めてくれた?」
「ああ。……ずっと考えてたんだ」
僕は腕の中の小さな手――僕の指一本をぎゅっと握り返してくるその手を優しく包み込んだ。
この子が生きる世界は、僕たちが作り上げたリゾートであり、かつては魔界と呼ばれた場所だ。
でも、ここから世界中へ、空へ、未来へと羽ばたいてほしい。
「『遥斗(ハルト)』。……遥か彼方まで、自由に翔けていけるように」
「ハルト……。遥斗くん」
清花がその名を口の中で転がした。
「素敵ね。……このリゾート(ラス・ベガス)よりももっと広くて高い場所へ……」
彼女は赤ちゃん――遥斗に向かって優しく語りかけた。
「聞こえる?貴方の名前よ。……ハルトくん。パパとママのところに生まれてきてくれて、ありがとう♡」
「きゃっきゃっ!」
遥斗が、まるで返事をするように小さな声を上げた。
「わぁっ!笑った!」
「可愛い~♡」
「ハルトくん、よろしくね!おばちゃ……お姉さんたちがいっぱい遊んであげるからね!」
「ののか、今おばちゃんって言いかけた?」
笑い声が広がる。
最強の要塞に最初の天使が舞い降りた瞬間だった。
その夜。
清花と遥斗は、莉奈の魔法で完全に回復し、オーナーズルームのベッドで安らかに眠っていた。
僕はバルコニーに出て夜風に当たっていた。
眼下には、今日も眠らない不夜城の光が広がっている。
(【拠点設営】……) 僕は自分の手のひらを見つめた。
最初はゾンビから身を守るための、ただの壁を作るスキルだった。
それが家になり、要塞になり、城になり、国になった。
そして今。
このスキルは、かけがえのない「家族」を守るための「揺り籠」になった。
「……パパ、か」
口に出してみると、こそばゆくて、でも誇らしい響きだった。
責任は重大だ。
清花だけじゃない。
ここにいる全員が僕の子供を宿している。
これから数ヶ月、毎月のように出産ラッシュが続くのだ。
真美の子はきっと食いしん坊だろう。
莉奈の子は優しい子に。
ルルの子は……やんちゃな魔王様になるかもしれない。
「忙しくなるぞ」
僕は苦笑いしながら、でも心の中は希望で満ちていた。
勇者が来ようが、神が来ようが、絶対にこの幸せは渡さない。
僕は世界最強のオーナーであり、世界最強のパパになるんだから。
「相田くん……?」
背後から声がかかった。
振り返ると、大きなお腹を抱えた篠原真美が立っていた。
「どうしたの、真美?」
「ハルトくんの寝顔見てたら……興奮して、眠れなくて」
彼女は頬を赤らめ、僕に近づいてきた。
「相田さん。……私のお腹の子も撫でてくれませんか?」
「もちろん」
僕は彼女の温かいお腹に手を当てた。
ドクン、ドクン。
力強い胎動が伝わってくる。
「元気だね」
「はい。……清花さんの出産を見て、この子も『早く出たい』って言ってるみたいです」
真美は僕の手をぎゅっと握った。
「私……頑張ります。清花さんみたいに立派なお母さんになりますから」
「ああ。楽しみにしてるよ」
夜空を見上げると満天の星が輝いていた。
その一つ一つが、これから生まれてくる子供たちの命のように思えた。
僕たちの物語はここで終わりじゃない。
むしろ、ここからが本当の「設営」の始まりなのだ。
愛と、家族と、未来を作るための。
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