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第14章 魅惑のポーションは誰のため? どきどき☆恋愛サバイバル!
プロローグ 恋する乙女と、禁断の魔導書
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カイザーとの激闘から数週間。
王都に訪れた束の間の平穏は、悪の組織「どきどき☆世界征服同盟」の幹部であるルージュ・ブリッツにとって、生殺しのような時間だった。
工房での日常は、確かに、賑やかで、退屈しない。
だが、それは、彼女が望んだ刺激とは、少し、いや、かなり違っていた。
「アルト!はい、これ、今日の新作パン!名付けて『恋する乙女のいちごデニッシュ』よ!」
「主殿!そのような軟弱なものではなく、拙者が握った『武士の魂』おにぎりを!」
「二人とも、彼の栄養バランスを考えなさい。論理的に、最適なのは…」
「あらあら、うふふ。皆さん、朝からお元気ですね」
アルトという名の、たった一つの太陽を巡って、四つの惑星が、毎日、激しい公転軌道争いを繰り広げている。
もちろん、そこに、惑星Eエレク・ハートである、このアタシが割って入らないわけがない。
「はいはい、子供のおままごとはそこまでよ。あんたたち、本物の『大人の女』の味ってやつを、見せてあげるわ」
そう言って、魔王城から取り寄せた、最高級のフォアグラを使ったスクランブルエッグを、アルトの口元へと運ぶ。
だが、その企みは、いつも、寸でのところで、打ち砕かれるのだ。
「「「「抜け駆けは許さない(でござる)!」」」」
リゼットのパンに押し返され、クラウディアの理屈に阻まれ、菖蒲の分身に囲まれ、エミリアの聖母の微笑みに、なぜか毒気を抜かれる。
アルトへの想いは日に日に募るが、戦いがなければ、彼にアプローチする劇的な口実もない。
タイミングを見て、チャンスと思えば、アプローチしようとするが、リゼット達に邪魔されて、いつも通り。
思い切って、お風呂に裸で突入してセクシーアピールしようとしたけど、またまた失敗。
「アルト!背中、流してあげるわ!」と、完璧なタイミングで浴室の扉を開けたはずだった。
だが、湯気の中から現れたのは、アルトではなく、なぜか仁王立ちするリゼットと、氷の刃を構えるクラウディアだったのだ。
「…遅かったわね、電撃女」
「アルトなら、さっき、もう上がったわよ」
その背後で、菖蒲の「主殿の背中は、拙者がお流ししたでござる」という声が、無情に響き渡った。
ドタバタしている毎日は、楽しい。
楽しいけど…。
このままでは、ジリ貧だ。
「世界征服」という大義名分すら、この平和な日常の前では色褪せて聞こえた。
「このままじゃ、アタシの存在、あの朴念仁の中で、ただの居候Aで終わっちゃうじゃない…!」
その夜、ルージュは、一人、自室のベッドの上で、悶絶していた。
焦燥感に駆られた彼女は、ついに禁断の手段に手を伸ばす。
魔王城の禁書庫の、最も奥深く。
数千年の封印を施された一角に眠る、伝説の魔導書『サキュバスの口づけ』
そこには、どんな朴念仁の理性の城壁をも、内側からトロトロに溶かすという、究極の「惚れ薬」のレシピが記されているという。
「…これしか、ないわね」
彼女の瞳に、悪の組織の幹部としての、そして、恋に焦がれる一人の乙女としての、決意の光が灯った。
ーーーーー
彼女は「これも世界征服の一環よ!」と自らに言い聞かせ、深夜、アルトたちの工房を抜け出し、魔王城へと潜入した。
使い慣れた転移魔法で、懐かしき我が城へと降り立つ。
だが、そこは、彼女の記憶にある、静かで威厳に満ちた魔王城ではなかった。
「うおおおおおっ!ワンハンド・ダンベルカール!
1001回!
1002回!
これも全ては、ルージュ様のためにィィィッ!」
城の地下トレーニングルームから、地鳴りのような雄叫びが響き渡る。
怪力将軍ブロッケンだ。
彼の、筋肉への、そしてルージュへの、純粋すぎる情熱は、時として、無用な騒音を生み出す。
(相変わらず、暑苦しいわね、あの脳筋は…)
ルージュは、気配を完全に消し、その横を通り過ぎる。
目指すは、最上階の禁書庫。
だが、その途中、図書館エリアから、怨念のこもったような、か細い声が聞こえてきた。
「…ああ、我が麗しのルージュ様…。あなたの、その気高き瞳は、夜空に輝くシリウスのよう…。あなたの、その深紅の唇は、血塗られた戦場に咲く、一輪の薔薇…。この想い、届け…届け、このポエムよ…」
百面相のインテリ・ピエロが、蝋燭の灯りを頼りに、自作のポエムノートに、何事か書きつけている。
その姿は、あまりにも痛々しく、そして、ホラーだった。
(…見なかったことにしましょ)
ルージュは、得意の魔法で、自らの姿を完全に透明化させ、二人の、あまりにも個性的な同僚たちを掻い潜り、目的の魔導書を、見事、手に入れるのだった。
禁書庫から、意気揚々と引き上げようとした、その時。
背後から、気の抜けた声が、かけられた。
「あら、ルージュじゃないの。随分と、ご熱心なこと」
振り返ると、そこには、玉座の間で、寝そべりながら、ポテトチップスを頬張る、主君、魔王ゼノビアの姿があった。
その手には、なぜか、恋愛リアリティショーが映し出された、小型の魔力水晶が握られている。
「ま、魔王様!これは、その、世界征服のための、古代魔法の調査でして…!」
慌てて、魔導書を背中に隠すルージュ。
だが、ゼノビアは、そんな彼女の嘘を、全て見透かしたように、ニヤニヤと笑っていた。
魔王はすっかり「恋する乙女」になったルージュを生暖かい目で見ていた。
「ふーん。まあ、せいぜい、頑張んなさいよ。その朴念仁、あんたが思ってるより、手強いわよ?アタシを封印した、あの朴念仁の勇者に、そっくりなんだから」
「…っ!」
図星を突かれたルージュは、顔を真っ赤にして、何も言い返せない。
ゼノビアは、そんな彼女の姿を、心底楽しそうに眺めながら、ひらひらと手を振った。
「いいわよ、行きなさい。世界征服なんて、いつでもできるんだから。あんたの、その、青臭い初恋の方が、よっぽど、見てて面白いわ」
その言葉は、主君としての激励か、それとも、ただの野次馬根性か。
ルージュは、感謝とも、屈辱ともつかない、複雑な表情で、一礼すると、魔王城を後にした。
その手には、禁断の魔導書が、確かに握られている。
彼女の、そして、僕たちの、カオスな一日の幕が、今、静かに上がろうとしていた。
王都に訪れた束の間の平穏は、悪の組織「どきどき☆世界征服同盟」の幹部であるルージュ・ブリッツにとって、生殺しのような時間だった。
工房での日常は、確かに、賑やかで、退屈しない。
だが、それは、彼女が望んだ刺激とは、少し、いや、かなり違っていた。
「アルト!はい、これ、今日の新作パン!名付けて『恋する乙女のいちごデニッシュ』よ!」
「主殿!そのような軟弱なものではなく、拙者が握った『武士の魂』おにぎりを!」
「二人とも、彼の栄養バランスを考えなさい。論理的に、最適なのは…」
「あらあら、うふふ。皆さん、朝からお元気ですね」
アルトという名の、たった一つの太陽を巡って、四つの惑星が、毎日、激しい公転軌道争いを繰り広げている。
もちろん、そこに、惑星Eエレク・ハートである、このアタシが割って入らないわけがない。
「はいはい、子供のおままごとはそこまでよ。あんたたち、本物の『大人の女』の味ってやつを、見せてあげるわ」
そう言って、魔王城から取り寄せた、最高級のフォアグラを使ったスクランブルエッグを、アルトの口元へと運ぶ。
だが、その企みは、いつも、寸でのところで、打ち砕かれるのだ。
「「「「抜け駆けは許さない(でござる)!」」」」
リゼットのパンに押し返され、クラウディアの理屈に阻まれ、菖蒲の分身に囲まれ、エミリアの聖母の微笑みに、なぜか毒気を抜かれる。
アルトへの想いは日に日に募るが、戦いがなければ、彼にアプローチする劇的な口実もない。
タイミングを見て、チャンスと思えば、アプローチしようとするが、リゼット達に邪魔されて、いつも通り。
思い切って、お風呂に裸で突入してセクシーアピールしようとしたけど、またまた失敗。
「アルト!背中、流してあげるわ!」と、完璧なタイミングで浴室の扉を開けたはずだった。
だが、湯気の中から現れたのは、アルトではなく、なぜか仁王立ちするリゼットと、氷の刃を構えるクラウディアだったのだ。
「…遅かったわね、電撃女」
「アルトなら、さっき、もう上がったわよ」
その背後で、菖蒲の「主殿の背中は、拙者がお流ししたでござる」という声が、無情に響き渡った。
ドタバタしている毎日は、楽しい。
楽しいけど…。
このままでは、ジリ貧だ。
「世界征服」という大義名分すら、この平和な日常の前では色褪せて聞こえた。
「このままじゃ、アタシの存在、あの朴念仁の中で、ただの居候Aで終わっちゃうじゃない…!」
その夜、ルージュは、一人、自室のベッドの上で、悶絶していた。
焦燥感に駆られた彼女は、ついに禁断の手段に手を伸ばす。
魔王城の禁書庫の、最も奥深く。
数千年の封印を施された一角に眠る、伝説の魔導書『サキュバスの口づけ』
そこには、どんな朴念仁の理性の城壁をも、内側からトロトロに溶かすという、究極の「惚れ薬」のレシピが記されているという。
「…これしか、ないわね」
彼女の瞳に、悪の組織の幹部としての、そして、恋に焦がれる一人の乙女としての、決意の光が灯った。
ーーーーー
彼女は「これも世界征服の一環よ!」と自らに言い聞かせ、深夜、アルトたちの工房を抜け出し、魔王城へと潜入した。
使い慣れた転移魔法で、懐かしき我が城へと降り立つ。
だが、そこは、彼女の記憶にある、静かで威厳に満ちた魔王城ではなかった。
「うおおおおおっ!ワンハンド・ダンベルカール!
1001回!
1002回!
これも全ては、ルージュ様のためにィィィッ!」
城の地下トレーニングルームから、地鳴りのような雄叫びが響き渡る。
怪力将軍ブロッケンだ。
彼の、筋肉への、そしてルージュへの、純粋すぎる情熱は、時として、無用な騒音を生み出す。
(相変わらず、暑苦しいわね、あの脳筋は…)
ルージュは、気配を完全に消し、その横を通り過ぎる。
目指すは、最上階の禁書庫。
だが、その途中、図書館エリアから、怨念のこもったような、か細い声が聞こえてきた。
「…ああ、我が麗しのルージュ様…。あなたの、その気高き瞳は、夜空に輝くシリウスのよう…。あなたの、その深紅の唇は、血塗られた戦場に咲く、一輪の薔薇…。この想い、届け…届け、このポエムよ…」
百面相のインテリ・ピエロが、蝋燭の灯りを頼りに、自作のポエムノートに、何事か書きつけている。
その姿は、あまりにも痛々しく、そして、ホラーだった。
(…見なかったことにしましょ)
ルージュは、得意の魔法で、自らの姿を完全に透明化させ、二人の、あまりにも個性的な同僚たちを掻い潜り、目的の魔導書を、見事、手に入れるのだった。
禁書庫から、意気揚々と引き上げようとした、その時。
背後から、気の抜けた声が、かけられた。
「あら、ルージュじゃないの。随分と、ご熱心なこと」
振り返ると、そこには、玉座の間で、寝そべりながら、ポテトチップスを頬張る、主君、魔王ゼノビアの姿があった。
その手には、なぜか、恋愛リアリティショーが映し出された、小型の魔力水晶が握られている。
「ま、魔王様!これは、その、世界征服のための、古代魔法の調査でして…!」
慌てて、魔導書を背中に隠すルージュ。
だが、ゼノビアは、そんな彼女の嘘を、全て見透かしたように、ニヤニヤと笑っていた。
魔王はすっかり「恋する乙女」になったルージュを生暖かい目で見ていた。
「ふーん。まあ、せいぜい、頑張んなさいよ。その朴念仁、あんたが思ってるより、手強いわよ?アタシを封印した、あの朴念仁の勇者に、そっくりなんだから」
「…っ!」
図星を突かれたルージュは、顔を真っ赤にして、何も言い返せない。
ゼノビアは、そんな彼女の姿を、心底楽しそうに眺めながら、ひらひらと手を振った。
「いいわよ、行きなさい。世界征服なんて、いつでもできるんだから。あんたの、その、青臭い初恋の方が、よっぽど、見てて面白いわ」
その言葉は、主君としての激励か、それとも、ただの野次馬根性か。
ルージュは、感謝とも、屈辱ともつかない、複雑な表情で、一礼すると、魔王城を後にした。
その手には、禁断の魔導書が、確かに握られている。
彼女の、そして、僕たちの、カオスな一日の幕が、今、静かに上がろうとしていた。
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