【R18オムニバス】彼女の日記は『淫らな文字』で濡れている 〜あの顔の裏側で、彼女たちは今夜も筆(さお)を濡らす〜

のびすけ。

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社長秘書『二階堂 冴子』排卵日の記録

排卵日、深夜のオフィスにて。

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[記録媒体:生理・体調管理アプリ『Luna Rhythm』メモ欄]
4月12日(月) 23:45
基礎体温: 36.72℃(高温期3日目)
体重: 48.2kg
気分の波: ▽不調(イライラ、倦怠感)
身体症状: 乳房の張り、下腹部の重み、むくみ
性欲レベル: ★★★☆☆(ホルモンバランスの影響と推測)

【メモ】: 
最悪だ。 
この私が、スケジュールの管理ミスをするなんて。 
牧村の作成した資料に致命的な欠陥。
リカバリーのため、深夜までの残業が確定した。 
外は春の嵐。気圧の低下のせいか、頭の奥が重い。 
ブラジャーのワイヤーが肋骨に食い込んで苦しい。
今すぐホックを外して、冷たいシーツにダイブしたい。 
……あの子の「すいません!」という無駄に大きな声が、鼓膜に響いて不快だ。 
男の人って、どうしてあんなに体温が高いの?
近くにいるだけで、空気がムッとする。 
早く終わらせて。早く、私を一人にして。

ーーーーー

⚫︎プロローグ:嵐の夜のノイズ

窓を叩きつける雨音が、思考の邪魔をする。 
東京都心を見下ろす高層オフィスの28階。 
普段なら夜景が美しいはずのガラス窓は、今は激しい雨風に晒され世界からここだけが切り離されたような閉塞感を作り出していた。

「……あの、二階堂さん。ここ、直しました。確認お願いします」

遠慮がちな、けれど妙に湿り気を帯びた男の声。 
私は眉間に寄ろうとする皺を意思の力で押しとどめ、完璧な「秘書の顔」を作って顔を上げた。

「……牧村君。さっきも言いましたよね?ここの数字の根拠、前期比じゃなくて前年同期比で出すようにって」

私のデスクの横に立っているのは入社2年目の牧村。 
身長180センチを超える大柄な体躯を安っぽい量販店のスーツに包んだ、いかにも「体育会系」上がりの大型犬みたいな男だ。 
仕事は遅いし、気は利かない。
私の指示がないとコピー機ひとつまともに動かせないような私が最も苦手とするタイプの手合いだ。

「あっ……す、すいません!俺、てっきり前期だと勘違いしてて……すぐ直します!」

彼が慌てて身を屈め私の手元にあるタブレットを覗き込んでくる。 
その瞬間。

ふわり、と。 
雨に濡れたアスファルトのような匂いと、微かな制汗剤、そして隠しきれない若い男特有の**「体臭」**が私の鼻腔を強引に侵犯した。

(……っ)

私は反射的に息を止めそうになった。
不快だ。

不潔ではないけれどあまりにも「生(ナマ)」の匂い。 
私のようにアロマオイルで殺菌された空間で生きている人間にとってそれは異物以外の何物でもない。

けれど――。

(……なによ、今の)

鼻の奥がつん、と痺れた。 
不快感と一緒に、下腹部の深いところ、子宮の入り口あたりがきゅうっと収縮するような感覚が走ったのだ。 
アプリの記録通り、今は高温期。
身体が水分を溜め込もうとして、感覚が過敏になっている。 
ただでさえ張っている胸の先端が、衣類の内側で硬く尖りシルクのブラウスと擦れる感触がやけに鮮明に感じられた。

「……二階堂さん?顔、赤いっすけど……大丈夫ですか?」

牧村が無遠慮に私の顔を覗き込んでくる。
彼の瞳は、私がつけている「上司」という仮面の下を無邪気に見透かそうとしているようで腹立たしい。

「……なんでもないわ。室温が高すぎるだけ。早く修正して」
「はい!あ、その前にコーヒー淹れ直しますね!二階堂さん、ブラックでしたよね」

彼は私の返事も待たずに給湯室へと走っていく。
その後ろ姿を見送りながら私は小さく溜め息をつき、無意識に自分の二の腕を抱いた。

スーツの袖越しでも分かる。
私の肌は冷え切っている。 

それなのに、身体の内側だけが妙に熱い。 
まるで、熱を持った泥のようなものが骨盤の底に溜まっていくような感覚。

(……生理前だからよ。全部、ホルモンのせい)

私は自分自身にそう言い聞かせ、眼鏡の位置を指先で直した。 
カチャリ、という金属音が静まり返ったオフィスに冷たく響く。 

この完璧な理性の檻から一歩も出てはいけない。 
私は社長秘書で彼は出来の悪い部下。

それだけの関係。 
そう、それだけのはずなのに。

***

「お待たせしました。熱いので気をつけてください」

10分後。 
牧村がマグカップを二つ持って戻ってきた。 
私のデスクに置かれた黒い液体からは湯気が立ち上っている。

「ありがとう」

私は視線をパソコンの画面から外さずにマグカップの取っ手に手を伸ばした。 
その時だ。

「あ、そこ濡れてるんで拭きます!」

彼が私の手元に気づき、慌てて手を伸ばしてきた。 
私の指と、彼の指が、マグカップの上で交差する。

――ビクリ、と。 
指先から電流のようなものが走った。

「っ……!」
「あ……」

私の細く冷たい指を、彼の大きく、分厚く、そして驚くほど熱い手が包み込んでしまった。 
熱い。 
異常なほど、熱い。 
まるで暖房器具に触れたみたいに彼の体温が私の冷え切った皮膚を溶かして浸透してくる。

普通ならすぐに手を引っ込める場面だ。 

「何してるの」と冷たく言い放てばいい。 
なのに、私の指は強張ったまま動かなかった。

彼の掌の豆の感触。
少し湿った指の腹。 
それらが私の肌に吸い付いている。 
至近距離で見える彼の手首には、太い血管が浮き出ていて、ドク、ドク、と脈打っているのが見えた。 
生きている。 
私の管理下にはない、制御不能な「オス」の生命力がそこにあった。

(……離さなきゃ)

頭では分かっている。 
けれど、身体がその熱を貪るように求めてしまっている。 
子宮の奥が、とくん、とくん、と彼の手の脈動に合わせて疼き始めた。 
下着の中で秘肉がじわりと湿り気を帯びていくのが分かる。 
自分自身の体液で、粘膜同士が張り付くような、卑猥な感覚。

(嘘……なんで?たかが手が触れただけで……)
(私、そんなに欲求不満だったの……?)

眼鏡の奥で私の瞳が揺れた。 
牧村も何かを感じ取ったのか、手を離そうとしない。 
むしろ、無意識なのか、彼の親指が私の手の甲をいやらしく撫でるように動いた。

「二階堂さん……手、冷たいですね……」

彼の声がさっきよりも1オクターブ低くなっている。 
その声に含まれる成分が私の耳の産毛を震わせ、背筋をゾクゾクと駆け上がった。

その時だった。

ピカッ――――――!!!

窓の外が昼間のように白く閃光に包まれた。 
一瞬の静寂の後。

ドォォォォォォォンッ!!

ビル全体を揺るがすような轟音が炸裂した。 
近くに落ちたのだ。

「きゃぁっ……!?」

私は思わず短い悲鳴を上げ身を竦ませた。 
完璧な秘書の仮面が、恐怖という本能の前で剥がれ落ちる。 
椅子の上でバランスを崩しそうになった私を、黒い影が覆いかぶさるようにして抱きとめた。

「危ないッ!」

ガシッ、と。 
強い力で肩を掴まれ、逞しい胸板の中に閉じ込められる。 
牧村だ。 
彼がとっさに私を庇うようにして抱きしめたのだ。

一瞬にして視界が真っ暗になった。 
停電だ。 
非常灯の緑色の薄明かりだけがオフィスを不気味に照らし出す。

「……ッ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫ですか、二階堂さん!」

耳元で彼の荒い呼吸が聞こえる。 
暗闇の中、私の背中は硬いデスクの縁に押し付けられ、目の前には牧村の身体が密着していた。

近すぎる。 
さっきの指先なんて比じゃない。 
胸が、太ももが、下腹部が、彼の身体と隙間なく押し付け合っている。 
彼のワイシャツ越しに伝わる体温が、私の冷たい肌を灼くようだ。 
そして、何よりも。

(……な、に……これ……)

私のお腹――ちょうど、おへその下のあたりに。 
硬くて、熱くて、存在感のある「棒」のようなものが、ぐり、と押し当たっていた。

まさか。 
いや、間違いない。 
こいつ、この状況で。
上司である私を抱きしめながら。 
勃起しているのだ。

「……牧村、くん……」

抗議しようとした私の声は、自分でも驚くほど甘く震えていた。 
暗闇と、雷の余韻と、密室。 
そして、目の前にある理性を失いかけたオスの匂い。

アプリの管理などもう役に立たない。 
私の身体の奥底で、鍵をかけていた扉が、ギイィ……と音を立てて開き始めていた。
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