117 / 214
第十章 封印の神域と千年の夢
【エピローグ】風の中に残る祈り
しおりを挟む
星が静かにまたたく夜、イッセイはひとり、小高い丘の上に立っていた。
王都の明かりも届かぬその場所は、風の音だけが耳に心地よく、月の光が草原を青白く照らしていた。
手には、旅の地図と一本の剣。腰には、精霊剣リアナ。
その柄に触れながら、彼は空を見上げ、そっと言葉を漏らす。
「……あの人は、もういない」
月の光が揺れる。草を撫でる風が、ほんのわずかに耳元で囁いたような気がした。
「けれど、俺の中に、あの想いはある」
リアナ。世界の記憶から消え去った、もうひとりの聖女。人々に祈りを捧げ、未来のために自らを封じた少女。
その微笑みと痛みは、今もなお、イッセイの魂に刻まれている。
「……寂しい顔、してるにゃ」
柔らかな声と共に、ミュリルが隣に立った。ふわりとした白銀の尾が、夜風に揺れる。
「イッセイくんの隣は、空けておかないと決めたんだにゃ」
その背中に寄り添うように、もう一人の影が現れる。
「まったく。寂しがりのミュリルに先を越されては、王女の名折れですわね」
クラリスが上品に笑う。肩に掛けた外套の裾が風に踊る。
続いて、ルーナ、シャルロッテ、リリィ、サーシャ、フィーナ、セリアが順に現れ、静かに輪を作るようにイッセイの周囲に集まっていく。
言葉はない。ただ、その瞳がすべてを語っていた。
「この旅が、どこへ続いても」
ルーナがぽつりと呟く。
「わたしたちは、一緒にいる」
クラリスの声に、皆が頷く。
イッセイは、そっと剣の柄から手を離し、代わりに地図を広げた。
風にひらめいた羊皮紙の上には、未知の地名と、まだ見ぬ空白が並んでいる。
「……行こう。次の冒険が、俺たちを待ってる」
その言葉を合図に、東の空がゆっくりと白み始める。
夜明けの気配。
やがて、朝日が世界を照らすように、丘の上にも一筋の光が差し込んだ。
それはまるで、祈りのような、風の中の答えだった。
過去に別れを告げ、未来へと向かう者たちの背を、光がそっと押していた。
――リアナの祈りは、風となって今もこの空にある。
そして、物語はまた歩き出す。
その先に、どんな冒険が待っていようとも。
彼らの旅は、終わらない。
王都の明かりも届かぬその場所は、風の音だけが耳に心地よく、月の光が草原を青白く照らしていた。
手には、旅の地図と一本の剣。腰には、精霊剣リアナ。
その柄に触れながら、彼は空を見上げ、そっと言葉を漏らす。
「……あの人は、もういない」
月の光が揺れる。草を撫でる風が、ほんのわずかに耳元で囁いたような気がした。
「けれど、俺の中に、あの想いはある」
リアナ。世界の記憶から消え去った、もうひとりの聖女。人々に祈りを捧げ、未来のために自らを封じた少女。
その微笑みと痛みは、今もなお、イッセイの魂に刻まれている。
「……寂しい顔、してるにゃ」
柔らかな声と共に、ミュリルが隣に立った。ふわりとした白銀の尾が、夜風に揺れる。
「イッセイくんの隣は、空けておかないと決めたんだにゃ」
その背中に寄り添うように、もう一人の影が現れる。
「まったく。寂しがりのミュリルに先を越されては、王女の名折れですわね」
クラリスが上品に笑う。肩に掛けた外套の裾が風に踊る。
続いて、ルーナ、シャルロッテ、リリィ、サーシャ、フィーナ、セリアが順に現れ、静かに輪を作るようにイッセイの周囲に集まっていく。
言葉はない。ただ、その瞳がすべてを語っていた。
「この旅が、どこへ続いても」
ルーナがぽつりと呟く。
「わたしたちは、一緒にいる」
クラリスの声に、皆が頷く。
イッセイは、そっと剣の柄から手を離し、代わりに地図を広げた。
風にひらめいた羊皮紙の上には、未知の地名と、まだ見ぬ空白が並んでいる。
「……行こう。次の冒険が、俺たちを待ってる」
その言葉を合図に、東の空がゆっくりと白み始める。
夜明けの気配。
やがて、朝日が世界を照らすように、丘の上にも一筋の光が差し込んだ。
それはまるで、祈りのような、風の中の答えだった。
過去に別れを告げ、未来へと向かう者たちの背を、光がそっと押していた。
――リアナの祈りは、風となって今もこの空にある。
そして、物語はまた歩き出す。
その先に、どんな冒険が待っていようとも。
彼らの旅は、終わらない。
22
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる