侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十章 封印の神域と千年の夢

【エピローグ】風の中に残る祈り

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 星が静かにまたたく夜、イッセイはひとり、小高い丘の上に立っていた。



 王都の明かりも届かぬその場所は、風の音だけが耳に心地よく、月の光が草原を青白く照らしていた。



 手には、旅の地図と一本の剣。腰には、精霊剣リアナ。



 その柄に触れながら、彼は空を見上げ、そっと言葉を漏らす。



「……あの人は、もういない」



 月の光が揺れる。草を撫でる風が、ほんのわずかに耳元で囁いたような気がした。



「けれど、俺の中に、あの想いはある」



 リアナ。世界の記憶から消え去った、もうひとりの聖女。人々に祈りを捧げ、未来のために自らを封じた少女。



 その微笑みと痛みは、今もなお、イッセイの魂に刻まれている。



「……寂しい顔、してるにゃ」



 柔らかな声と共に、ミュリルが隣に立った。ふわりとした白銀の尾が、夜風に揺れる。



「イッセイくんの隣は、空けておかないと決めたんだにゃ」



 その背中に寄り添うように、もう一人の影が現れる。



「まったく。寂しがりのミュリルに先を越されては、王女の名折れですわね」



 クラリスが上品に笑う。肩に掛けた外套の裾が風に踊る。



 続いて、ルーナ、シャルロッテ、リリィ、サーシャ、フィーナ、セリアが順に現れ、静かに輪を作るようにイッセイの周囲に集まっていく。



 言葉はない。ただ、その瞳がすべてを語っていた。



「この旅が、どこへ続いても」



 ルーナがぽつりと呟く。



「わたしたちは、一緒にいる」



 クラリスの声に、皆が頷く。



 イッセイは、そっと剣の柄から手を離し、代わりに地図を広げた。



 風にひらめいた羊皮紙の上には、未知の地名と、まだ見ぬ空白が並んでいる。



「……行こう。次の冒険が、俺たちを待ってる」



 その言葉を合図に、東の空がゆっくりと白み始める。



 夜明けの気配。



 やがて、朝日が世界を照らすように、丘の上にも一筋の光が差し込んだ。



 それはまるで、祈りのような、風の中の答えだった。



 過去に別れを告げ、未来へと向かう者たちの背を、光がそっと押していた。



 ――リアナの祈りは、風となって今もこの空にある。



 そして、物語はまた歩き出す。



 その先に、どんな冒険が待っていようとも。



 彼らの旅は、終わらない。
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