125 / 214
【番外編】―風と商機とスライム風呂―
商機は国境を越えて① 国際スパアイドル、誕生!?
しおりを挟む
「ぷるぷるスライムケア、本店に国際便で依頼書が届いたウサよ!」
リリィが両手を振り上げて叫んだのは、いつもの試作泡風呂実験が終わった直後だった。ミュリルとフィーナが泡まみれになって天を仰ぎ、セリアが「ああ、また排水溝にスライムが詰まります……」とため息をついたその隙間を縫って、興奮気味にリリィは文書を読み上げる。
「隣国ヴェルナリアの大手商会《ノイエ商連》からの正式提携依頼! うちのスライムスパを支店展開したいって!」
「おおお……それは、すごい話だにゃ……!」
「これが現代風に言うなら……国際進出! グローバルスパ戦略ウサ!」
鼻息荒く立ち上がったリリィの隣で、イッセイが落ち着いた声で呟く。
「王都での成功を見て、海外でも需要があると踏んだんだろうな。悪くない話だが――」
そこに割り込んできたのが、ピンク髪の精霊系アイドル(自称)、フィーナだった。
「つまり、今こそ私の出番ウサ! その名も《国際スパアイドル・フィーナ計画》発動ウサ!」
キラキラと星が飛び交うポーズで両手を広げる彼女の背後で、セリアが冷静に指を折って数えていた。
「ちなみにその命名計画、今月で七案目です」
「ウサ……!?」
「ですが、商標やスパ構造の設計書、それにスライム素材の加工法――すべて国外へ持ち出すリスクがあります。契約書は私が厳重に整備しておきます」
その目は完全に弁護士。リリィがペンを持ちつつそっと呟く。
「セリアってば、そういう時のプロ感、マジで助かるウサ……」
その日の夕刻。
本店会議室では、リリィ、イッセイ、フィーナ、セリア、そして商会の若手たちが集まり、“海外フランチャイズ戦略会議”が開かれていた。
「ブランド名は維持。各店舗ごとにローカルカラーを加えることはOK。ただし、製品基礎設計と製法は一括管理。これは譲れない」
イッセイの明瞭な指示に、一同が頷く。
「じゃあ、販促はやっぱり私の歌と泡ショーで――」
「泡まみれライブは禁止です、フィーナさん」
セリアの厳しい突っ込みに、フィーナが涙目になる。
リリィは立ち上がり、決意を込めた声で言った。
「うちの“ぷるぷる”は、誰かの肌と心を癒すためのもの。形だけ真似されるなんて、絶対ダメウサ!」
その気迫に、一同が引き締まる。
「契約書はすでに三重構造にしました。金銭、知財、技術漏洩、すべてに罰則を。加えて、魔法的な署名認証も」
セリアが見せたのは、まるで魔導書のように輝く契約巻物。見ただけで「反故にしたら爆発しそうだ……」と誰もが口を閉じた。
その夜、イッセイとリリィは商会のテラスで静かに話していた。
「いよいよ、ここまで来たウサね」
「ああ。だけど本当に試されるのはこれからだ」
イッセイは、空に浮かぶ月を見上げた。
「世界は広い。悪意もある。だからこそ、信頼を積み重ねていこう。泡みたいに儚くない、確かな“ぷるぷる”をな」
「……うん。任せてウサ。わたし、絶対に守り抜くウサ」
握られた拳に、静かな炎が宿っていた。
リリィが両手を振り上げて叫んだのは、いつもの試作泡風呂実験が終わった直後だった。ミュリルとフィーナが泡まみれになって天を仰ぎ、セリアが「ああ、また排水溝にスライムが詰まります……」とため息をついたその隙間を縫って、興奮気味にリリィは文書を読み上げる。
「隣国ヴェルナリアの大手商会《ノイエ商連》からの正式提携依頼! うちのスライムスパを支店展開したいって!」
「おおお……それは、すごい話だにゃ……!」
「これが現代風に言うなら……国際進出! グローバルスパ戦略ウサ!」
鼻息荒く立ち上がったリリィの隣で、イッセイが落ち着いた声で呟く。
「王都での成功を見て、海外でも需要があると踏んだんだろうな。悪くない話だが――」
そこに割り込んできたのが、ピンク髪の精霊系アイドル(自称)、フィーナだった。
「つまり、今こそ私の出番ウサ! その名も《国際スパアイドル・フィーナ計画》発動ウサ!」
キラキラと星が飛び交うポーズで両手を広げる彼女の背後で、セリアが冷静に指を折って数えていた。
「ちなみにその命名計画、今月で七案目です」
「ウサ……!?」
「ですが、商標やスパ構造の設計書、それにスライム素材の加工法――すべて国外へ持ち出すリスクがあります。契約書は私が厳重に整備しておきます」
その目は完全に弁護士。リリィがペンを持ちつつそっと呟く。
「セリアってば、そういう時のプロ感、マジで助かるウサ……」
その日の夕刻。
本店会議室では、リリィ、イッセイ、フィーナ、セリア、そして商会の若手たちが集まり、“海外フランチャイズ戦略会議”が開かれていた。
「ブランド名は維持。各店舗ごとにローカルカラーを加えることはOK。ただし、製品基礎設計と製法は一括管理。これは譲れない」
イッセイの明瞭な指示に、一同が頷く。
「じゃあ、販促はやっぱり私の歌と泡ショーで――」
「泡まみれライブは禁止です、フィーナさん」
セリアの厳しい突っ込みに、フィーナが涙目になる。
リリィは立ち上がり、決意を込めた声で言った。
「うちの“ぷるぷる”は、誰かの肌と心を癒すためのもの。形だけ真似されるなんて、絶対ダメウサ!」
その気迫に、一同が引き締まる。
「契約書はすでに三重構造にしました。金銭、知財、技術漏洩、すべてに罰則を。加えて、魔法的な署名認証も」
セリアが見せたのは、まるで魔導書のように輝く契約巻物。見ただけで「反故にしたら爆発しそうだ……」と誰もが口を閉じた。
その夜、イッセイとリリィは商会のテラスで静かに話していた。
「いよいよ、ここまで来たウサね」
「ああ。だけど本当に試されるのはこれからだ」
イッセイは、空に浮かぶ月を見上げた。
「世界は広い。悪意もある。だからこそ、信頼を積み重ねていこう。泡みたいに儚くない、確かな“ぷるぷる”をな」
「……うん。任せてウサ。わたし、絶対に守り抜くウサ」
握られた拳に、静かな炎が宿っていた。
21
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる