侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十一章 異邦からの来訪者と、東京スカイツリー防衛戦

【エピローグ】泡の記憶、風の未来へ

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 風が吹き抜けた。



 王都郊外、《ぷるぷるスパランド》の屋上庭園。夜明け前の空は、群青から淡い茜へと色を変えつつある。



 イッセイは一人、湯けむりの漂う屋上に立っていた。



 指先に残るのは、あの東京の空気。そして、泡の中で交わした数々の言葉、笑い声、そして別れ。



「まさか、もう一度……あの世界に戻る日が来るなんてな」



 小さく息をついたそのとき、背後から規則正しい足音が響いた。



「……ここにいらっしゃいましたか。まったく、勝手に抜け出して……心配をかけないでください」



「セリアか。すまん、目が冴えててな」



「……べ、別に、心配なんてしてません。警護として当然の行動です」



 少し顔を背けながらも、彼女はイッセイの隣に立った。



「お前も……思い出したか? 東京でのこと」



「……ええ。初めて“銀座”という街に降り立ったときの衝撃は、今でも記憶に焼き付いています」



 セリアは懐から、小さな瓶を取り出す。



「これは……?」



「“資生堂泡ミスト”。あちらで買い込んでおいた分を、貴族向けスパメニューに転用する予定です」



 その言葉には、微かに誇らしげな響きが混じっていた。



「さすがはセリア。お前のそういう真面目さ、俺は結構……いや、かなり助けられてる」



「べ、別にっ……嬉しくなんて、そんな……!」



 彼女は顔を赤くしながらも、しっかりと立ったまま、イッセイを見つめた。



「ですが……改めて、思いました。私はやはり、あなたにお仕えするために生まれてきたのだと」



「セリア……」



「ですから。これからどこへ行こうとも、私はあなたの背中を護り続けます。……それが、この不器用な私にできる、唯一のことですから」



 照れ隠しに少し早口になったその台詞に、イッセイは自然と笑みを浮かべた。



「ありがとう。……心強いよ」



 そんな二人の間に、ふわりと風が吹き抜けた。



 屋上の扉が開き、次々と顔を覗かせる仲間たち。



「イッセイくーん! 朝風呂の時間だよぉ!」



 ルーナが手を振って駆け寄り、



「“泡寝起き顔パック”の効果、検証しますにゃ!」



 ミュリルが洗面器片手に飛び込んでくる。



「朝からうさぎも泡立て全開ウサ!」



 フィーナが泡だらけのタオルを持ってぴょんぴょん跳ね、



「静かにしてください。……まったく、騒がしいんだから」



 クラリスがいつもの優雅な所作で扇をひらく。



「皆、元気そうだな……」



 イッセイはゆっくりと目を細めた。



 ――あの日々も、あの世界も、すべては「泡の記憶」。



 けれど、そこに流れていた絆と笑顔は、確かに彼の胸に残っていた。



 ふと見上げた空に、風が踊る。



 その風に乗って、微かな泡が一粒――朝焼けの中に消えていく。



 それはまるで、あの騒がしくも眩しい“東京の旅”が、永遠のアルバムの1ページにそっと収まっていくような、そんな瞬間だった。



「さあ、そろそろ……次の旅の準備だな」



 イッセイは仲間たちの顔を見渡しながら、静かに言った。



 どんな未来が待っていようとも、彼らは笑って進むだろう。



 ――泡と共に、風と共に、絆と共に。



 それが、彼らの歩む“物語の続き”なのだから。
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