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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い
風の死角、侵食される空
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方舟の中枢区画。金属と風の精霊が織りなす光の回廊を抜け、イッセイたちはアエリス族の案内を受けながら、都市内部の異常調査へと乗り出していた。
「この先が、“風の滞り”が最も顕著な区画です」
案内役の青年アエリス族が、羽衣のような衣を揺らしながら指を差す。目の前に広がる通路は、どこか淀んだ空気に包まれていた。
「風が……流れてないにゃ」
ミュリルが耳をぴくりと動かし、違和感を告げた。たしかにこの空中都市では常に微細な風が流れ、都市の浮力や精霊の活動を支えているはずだ。しかし今、その風が“止まっている”。
「ここ……空気の温度も違います。風が循環していない証拠ウサ」
フィーナの長い耳が揺れた。その直後、セリアが警戒の声を上げる。
「イッセイ様、何かいます。肉眼では見えませんが……気配があります」
空の民にしか見えないという“風喰らいの霧”――黒いもやが、彼らには視認できているようだった。
「なら、見えるようにしよう」
イッセイは言いながら腰のポーチから工具と結晶を取り出す。
「まさか、またその場で即席魔導具を作る気か?」
ルーナが呆れ混じりに言うが、イッセイはうなずく。
「シャルロッテ、魔力振動の検出装置。フィーナ、風の流れを可視化できるようにしてくれ」
「了解。私の解析と、精霊導管の共鳴データを使うわ」
「任せてウサ。風の“歌”を聴き取ってあげる!」
即席チームが動き出す。十数分後、小型の浮遊球体が完成し、霧のある区画に放たれた。
「……出た」
イッセイが目を細める。魔導具の魔石が霧の流れをトレースし、空間に淡い青紫色の粒子として表示された。
「まるで、風を吸い取っているみたいだウサ……」
フィーナの声が震える。
その中心に、明らかに“人為的な魔力の痕”があった。
「これは……人工の封印術式。だが、不完全で歪んでる」
シャルロッテが険しい表情で言った。「誰かが、故意に風の循環を止めようとしているわ」
「つまり、都市崩壊を狙ってるってことだな」
ルーナが眉を寄せる。
「いや、これはもしかすると……」
イッセイは推論を立てる。「この霧を“武器”として開発した誰かが、実験的に使用しているのかもしれない」
「ってことは、また黒幕案件?」
ミュリルが鼻をひくひくさせる。
「ねえねえ、それってもしかして――空調の制御に使えたりしない?」
リリィが急に顔を輝かせた。
「この風を吸う構造……応用すれば、個室スパに“無風無音の完全密室泡風呂”が作れるんじゃない? 防音性も完璧で、髪も肌もぷるぷるになるかも……!」
「リリィ……状況を考えてくれ」
クラリスが額に手を当てた。
だが、場にほんの少しだけ笑いが戻った。仲間たちがいる。この混乱も、皆で乗り越えていける。
だが、その直後、アエリス族の長老から通信が入る。
『《方舟崩落まで、残り10日》……このまま風の循環が止まれば、我らの都市は墜ちる』
緊張が走る。
かつて見上げた空。その空を支える存在が、今まさに崩れようとしていた。
「やるぞ。方舟を守る」
イッセイの言葉に、全員がうなずいた。
――空の記憶と、風の祈り。その中枢へ、彼らは進む。
「この先が、“風の滞り”が最も顕著な区画です」
案内役の青年アエリス族が、羽衣のような衣を揺らしながら指を差す。目の前に広がる通路は、どこか淀んだ空気に包まれていた。
「風が……流れてないにゃ」
ミュリルが耳をぴくりと動かし、違和感を告げた。たしかにこの空中都市では常に微細な風が流れ、都市の浮力や精霊の活動を支えているはずだ。しかし今、その風が“止まっている”。
「ここ……空気の温度も違います。風が循環していない証拠ウサ」
フィーナの長い耳が揺れた。その直後、セリアが警戒の声を上げる。
「イッセイ様、何かいます。肉眼では見えませんが……気配があります」
空の民にしか見えないという“風喰らいの霧”――黒いもやが、彼らには視認できているようだった。
「なら、見えるようにしよう」
イッセイは言いながら腰のポーチから工具と結晶を取り出す。
「まさか、またその場で即席魔導具を作る気か?」
ルーナが呆れ混じりに言うが、イッセイはうなずく。
「シャルロッテ、魔力振動の検出装置。フィーナ、風の流れを可視化できるようにしてくれ」
「了解。私の解析と、精霊導管の共鳴データを使うわ」
「任せてウサ。風の“歌”を聴き取ってあげる!」
即席チームが動き出す。十数分後、小型の浮遊球体が完成し、霧のある区画に放たれた。
「……出た」
イッセイが目を細める。魔導具の魔石が霧の流れをトレースし、空間に淡い青紫色の粒子として表示された。
「まるで、風を吸い取っているみたいだウサ……」
フィーナの声が震える。
その中心に、明らかに“人為的な魔力の痕”があった。
「これは……人工の封印術式。だが、不完全で歪んでる」
シャルロッテが険しい表情で言った。「誰かが、故意に風の循環を止めようとしているわ」
「つまり、都市崩壊を狙ってるってことだな」
ルーナが眉を寄せる。
「いや、これはもしかすると……」
イッセイは推論を立てる。「この霧を“武器”として開発した誰かが、実験的に使用しているのかもしれない」
「ってことは、また黒幕案件?」
ミュリルが鼻をひくひくさせる。
「ねえねえ、それってもしかして――空調の制御に使えたりしない?」
リリィが急に顔を輝かせた。
「この風を吸う構造……応用すれば、個室スパに“無風無音の完全密室泡風呂”が作れるんじゃない? 防音性も完璧で、髪も肌もぷるぷるになるかも……!」
「リリィ……状況を考えてくれ」
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だが、場にほんの少しだけ笑いが戻った。仲間たちがいる。この混乱も、皆で乗り越えていける。
だが、その直後、アエリス族の長老から通信が入る。
『《方舟崩落まで、残り10日》……このまま風の循環が止まれば、我らの都市は墜ちる』
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かつて見上げた空。その空を支える存在が、今まさに崩れようとしていた。
「やるぞ。方舟を守る」
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――空の記憶と、風の祈り。その中枢へ、彼らは進む。
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