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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い
空の民と、風の契約者
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白銀の光がまとう巨大な門が、ゆっくりと開いていく。
方舟ソラ・ノアの正門に到着した《アルセア号》を見下ろすように、数名の人影が現れた。
「来訪者よ、ここは《アエリス族》の聖域。汝らの風、敵意なきことを祈る」
宙に舞う布のようなローブ、耳元に風鈴のような装飾。全身を覆う淡い布は風と共に揺らぎ、その姿はまさに“空の民”だった。
「敵意はない。我々は、世界の風の乱れを正すために来た。交渉の機会をいただきたい」
イッセイが一歩前に出て頭を下げると、先頭の人物はしばらく黙した後、ふわりと微笑んだ。
「……ならば、族長がお会いになる前に、一つの“風”を通ってもらおう。私はエリュア。族長の娘にして《風読の巫女》」
名乗った少女は、イッセイたちとそう変わらぬ年頃に見える。銀白色の長髪は風と一体化するように流れ、その目は空色に澄んでいた。
「あなたたちの風が、私たちと交わるに値するものか……確かめさせてください」
「試されるってわけかにゃ」
ミュリルが笑うと、ルーナが小さく肩をすくめて言う。
「まあ、こっちはいつものことよね。初対面の洗礼、ってやつ」
「空の民には、空の礼儀があるのね。ふふ、面白いわ」
クラリスも笑みを浮かべながら、先に進んだ。
道中、彼女たちは方舟の内部を案内された。都市の内部は、地上とはまったく異なる構造をしていた。上下左右が曖昧で、通路は風に乗って移動する“浮遊板”が主な交通手段。各所に設置された《風導柱》が、気流を制御して建物を浮かせていた。
「うわ、これ……建築素材、全部“浮霊石”か……。いや、いっそ店ごと浮かせて移動販売とか……いけるな。マジでいけるな……!」
リリィの目がすでに計算モードに入っているのを見て、セリアが眉をひそめた。
「浮遊販売店は契約リスクが高すぎます。あれ、風に煽られて一歩間違えれば失踪案件です」
「えー、それちょっとロマンない……」
そんな掛け合いをしつつ、イッセイたちは中央広場へとたどり着く。そこには、巨大な《風の竜骨》と呼ばれるクリスタルの構造体が立っていた。
「この竜骨が……この都市の核、なのね」
シャルロッテが見上げて呟いた。だが、その輝きは弱々しく、ところどころヒビが入っていた。
「これが……墜落の原因か」
「はい」と、エリュアが静かに頷く。
「精霊雨は、方舟から世界に降り注ぐ“風の祝福”の一つ。でも、風の流れが歪んでしまった今、この竜骨が維持できないの。このままでは……《ソラ・ノア》は、空から落ちてしまう」
一同の表情が引き締まる。空の民の命だけではない。世界の精霊環境自体が崩壊しかねない。
「どうして、風が乱れたんだ?」
イッセイの問いに、エリュアは小さく首を振る。
「わからないの。けれど……“風の精霊王”が眠りから目覚めぬ限り、根本の解決にはならないと、風たちは囁いているわ」
「風の……精霊王?」
ルーナが目を丸くする。
「その名、初めて聞いたウサ。今までそんな存在、どの文献にも載ってなかったウサ」
「方舟に伝わる神話の中にだけ、密かに語られてきた存在。けれど、それがただの“昔話”じゃないとしたら……」
エリュアはゆっくりとイッセイの方を見つめた。
「あなたは……風に選ばれている。だから、聞きたい。あなたは、私たちの空を救う意思がありますか?」
真っ直ぐな瞳。風を映す瞳。
イッセイは一拍おいて、確かに頷いた。
「そのために来たんだ。空を守る。それが、風の精霊たちが俺たちをここへ導いた理由なら」
エリュアの表情が柔らかく崩れる。
「ありがとう。では、正式に《風の契約者》として――私たちは協力するわ」
風が囁いた。
新たな絆の誕生を、空が祝福していた。
方舟ソラ・ノアの正門に到着した《アルセア号》を見下ろすように、数名の人影が現れた。
「来訪者よ、ここは《アエリス族》の聖域。汝らの風、敵意なきことを祈る」
宙に舞う布のようなローブ、耳元に風鈴のような装飾。全身を覆う淡い布は風と共に揺らぎ、その姿はまさに“空の民”だった。
「敵意はない。我々は、世界の風の乱れを正すために来た。交渉の機会をいただきたい」
イッセイが一歩前に出て頭を下げると、先頭の人物はしばらく黙した後、ふわりと微笑んだ。
「……ならば、族長がお会いになる前に、一つの“風”を通ってもらおう。私はエリュア。族長の娘にして《風読の巫女》」
名乗った少女は、イッセイたちとそう変わらぬ年頃に見える。銀白色の長髪は風と一体化するように流れ、その目は空色に澄んでいた。
「あなたたちの風が、私たちと交わるに値するものか……確かめさせてください」
「試されるってわけかにゃ」
ミュリルが笑うと、ルーナが小さく肩をすくめて言う。
「まあ、こっちはいつものことよね。初対面の洗礼、ってやつ」
「空の民には、空の礼儀があるのね。ふふ、面白いわ」
クラリスも笑みを浮かべながら、先に進んだ。
道中、彼女たちは方舟の内部を案内された。都市の内部は、地上とはまったく異なる構造をしていた。上下左右が曖昧で、通路は風に乗って移動する“浮遊板”が主な交通手段。各所に設置された《風導柱》が、気流を制御して建物を浮かせていた。
「うわ、これ……建築素材、全部“浮霊石”か……。いや、いっそ店ごと浮かせて移動販売とか……いけるな。マジでいけるな……!」
リリィの目がすでに計算モードに入っているのを見て、セリアが眉をひそめた。
「浮遊販売店は契約リスクが高すぎます。あれ、風に煽られて一歩間違えれば失踪案件です」
「えー、それちょっとロマンない……」
そんな掛け合いをしつつ、イッセイたちは中央広場へとたどり着く。そこには、巨大な《風の竜骨》と呼ばれるクリスタルの構造体が立っていた。
「この竜骨が……この都市の核、なのね」
シャルロッテが見上げて呟いた。だが、その輝きは弱々しく、ところどころヒビが入っていた。
「これが……墜落の原因か」
「はい」と、エリュアが静かに頷く。
「精霊雨は、方舟から世界に降り注ぐ“風の祝福”の一つ。でも、風の流れが歪んでしまった今、この竜骨が維持できないの。このままでは……《ソラ・ノア》は、空から落ちてしまう」
一同の表情が引き締まる。空の民の命だけではない。世界の精霊環境自体が崩壊しかねない。
「どうして、風が乱れたんだ?」
イッセイの問いに、エリュアは小さく首を振る。
「わからないの。けれど……“風の精霊王”が眠りから目覚めぬ限り、根本の解決にはならないと、風たちは囁いているわ」
「風の……精霊王?」
ルーナが目を丸くする。
「その名、初めて聞いたウサ。今までそんな存在、どの文献にも載ってなかったウサ」
「方舟に伝わる神話の中にだけ、密かに語られてきた存在。けれど、それがただの“昔話”じゃないとしたら……」
エリュアはゆっくりとイッセイの方を見つめた。
「あなたは……風に選ばれている。だから、聞きたい。あなたは、私たちの空を救う意思がありますか?」
真っ直ぐな瞳。風を映す瞳。
イッセイは一拍おいて、確かに頷いた。
「そのために来たんだ。空を守る。それが、風の精霊たちが俺たちをここへ導いた理由なら」
エリュアの表情が柔らかく崩れる。
「ありがとう。では、正式に《風の契約者》として――私たちは協力するわ」
風が囁いた。
新たな絆の誕生を、空が祝福していた。
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