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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い
静穏の風、束の間の余韻
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雲海を割るように浮かぶ巨大都市《蒼穹方舟》。
その空に揺れる塔の尖端から、再び穏やかな風が流れ始めていた。
「ふぅ、やっと……方舟が、息を吹き返してきたな」
イッセイは展望デッキの縁に腰を下ろし、顔に流れる風を心地よさそうに受け止めた。
隣ではミュリルが猫のように丸まり、風に乗ってふわふわと髪をなびかせている。
「にゃふ~、風がごちそうって、初めて思ったにゃ……」
「それ、詩人の感性よね。悪くないわ」
そう言ったのはシャルロッテだった。彼女は膝に古文書を載せ、ひたすら何かを書き込んでいる。
方舟を蝕んでいた“風喰らい”の霧は、ガイアルという裏切り者によって引き起こされたものだった。
撃退後、エリュアの歌と結界の修復により風の循環は徐々に安定し始め、空の民《アエリス族》の間にも安堵の空気が広がっていた。
「……ほんとに、よかったね。あのままだったら、墜落してたかも」
フィーナがふと呟いた。彼女は浮遊パネルの上でぴょんぴょんと跳ねながら、広場の中央にある《精霊の泉》を見下ろしている。
「そうね。でも、まだ“根本”は解決してないわ」
シャルロッテの指摘に、一同の表情が引き締まる。
その静かな余韻を破るように、エリュアがやってきた。
「皆さん、お疲れさまでした。少しだけ、方舟の“心”を見に来ませんか?」
そう言って案内されたのは、《精霊の泉》の奥、静かに水が湧き出す神聖な空間だった。
水面に映る空は、地上のそれとは違い、どこまでも透き通っている。
「これは……風の源?」
「ええ。この泉は、方舟が空を舞う力の根源といわれています。けれど……」
エリュアの言葉が、曇ったように揺らいだ。
彼女はそっと水面を指差す。そこに現れたのは、紫紺の靄のような影――異形の“残滓”。
「まだ残っているのか……」
イッセイの声に、シャルロッテが古文書を開く。そこには古代の文字で、こう綴られていた。
――風の神は十二の力を授け、それを柱とせしめ、都を守らしむ。
「……これは、柱? 建築物のことじゃないわね。何かの象徴、もしくは実在する存在」
「“神柱”……?」
フィーナの呟きに、イッセイの心が妙な鼓動を刻んだ。
その夜――
エリュアは、久しぶりに深い眠りについた。だが、その夢は、静かなものではなかった。
蒼穹の空。風の精霊たちの囁きが遠くなる。
そこに現れたのは、幾つもの目と口を持つ黒き影――風の渦に潜む異形の存在。
《目覚めの時が来た。封印が……崩れる。》
「……だれ? あなたは……!」
《十二の柱は、もう力を保てぬ。……“あれ”が、目を覚ます》
目を見開いたエリュアの額に、冷たい汗が伝う。
彼女が寝床で跳ね起きた時、夜空を流れる風が、かすかに悲鳴を上げていた。
「……シャルロッテ、イッセイ。すぐに、集まって」
夢で聞いた声の恐ろしさが、現実へと滲み出していた。
方舟の運命を揺るがす新たな“風の災い”が、確かに息を吹き返し始めていた――。
その空に揺れる塔の尖端から、再び穏やかな風が流れ始めていた。
「ふぅ、やっと……方舟が、息を吹き返してきたな」
イッセイは展望デッキの縁に腰を下ろし、顔に流れる風を心地よさそうに受け止めた。
隣ではミュリルが猫のように丸まり、風に乗ってふわふわと髪をなびかせている。
「にゃふ~、風がごちそうって、初めて思ったにゃ……」
「それ、詩人の感性よね。悪くないわ」
そう言ったのはシャルロッテだった。彼女は膝に古文書を載せ、ひたすら何かを書き込んでいる。
方舟を蝕んでいた“風喰らい”の霧は、ガイアルという裏切り者によって引き起こされたものだった。
撃退後、エリュアの歌と結界の修復により風の循環は徐々に安定し始め、空の民《アエリス族》の間にも安堵の空気が広がっていた。
「……ほんとに、よかったね。あのままだったら、墜落してたかも」
フィーナがふと呟いた。彼女は浮遊パネルの上でぴょんぴょんと跳ねながら、広場の中央にある《精霊の泉》を見下ろしている。
「そうね。でも、まだ“根本”は解決してないわ」
シャルロッテの指摘に、一同の表情が引き締まる。
その静かな余韻を破るように、エリュアがやってきた。
「皆さん、お疲れさまでした。少しだけ、方舟の“心”を見に来ませんか?」
そう言って案内されたのは、《精霊の泉》の奥、静かに水が湧き出す神聖な空間だった。
水面に映る空は、地上のそれとは違い、どこまでも透き通っている。
「これは……風の源?」
「ええ。この泉は、方舟が空を舞う力の根源といわれています。けれど……」
エリュアの言葉が、曇ったように揺らいだ。
彼女はそっと水面を指差す。そこに現れたのは、紫紺の靄のような影――異形の“残滓”。
「まだ残っているのか……」
イッセイの声に、シャルロッテが古文書を開く。そこには古代の文字で、こう綴られていた。
――風の神は十二の力を授け、それを柱とせしめ、都を守らしむ。
「……これは、柱? 建築物のことじゃないわね。何かの象徴、もしくは実在する存在」
「“神柱”……?」
フィーナの呟きに、イッセイの心が妙な鼓動を刻んだ。
その夜――
エリュアは、久しぶりに深い眠りについた。だが、その夢は、静かなものではなかった。
蒼穹の空。風の精霊たちの囁きが遠くなる。
そこに現れたのは、幾つもの目と口を持つ黒き影――風の渦に潜む異形の存在。
《目覚めの時が来た。封印が……崩れる。》
「……だれ? あなたは……!」
《十二の柱は、もう力を保てぬ。……“あれ”が、目を覚ます》
目を見開いたエリュアの額に、冷たい汗が伝う。
彼女が寝床で跳ね起きた時、夜空を流れる風が、かすかに悲鳴を上げていた。
「……シャルロッテ、イッセイ。すぐに、集まって」
夢で聞いた声の恐ろしさが、現実へと滲み出していた。
方舟の運命を揺るがす新たな“風の災い”が、確かに息を吹き返し始めていた――。
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