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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い
囁く風、蠢く影
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「《風核》の共鳴が……乱れている」
広場の中枢、風の導管を束ねる巨大な結晶装置。その根本部に位置する《風核》が、不規則な脈動を始めていた。
エリュアの報告に応じて集まったイッセイたちは、変調の波にただならぬ気配を感じていた。
「これは……霧の時とは違う。もっと奥深い、“本質”のようなものが……揺らいでいる」
シャルロッテが指を鳴らし、携帯していた風圧観測装置に魔力を注ぐと、周囲に薄く浮かぶ“波”のようなパターンが視える化される。
「精霊の根源が共鳴してる……まるで、目覚めようとする心臓みたいに」
フィーナが囁いた瞬間、地下深くから空気が逆流するような“ドウッ”という重い圧が突き上げてきた。
風核の下層――封印された禁域《風の根ね》が、呼吸を始めたのだ。
「エリュア。そこに、入ることは可能なのか?」
イッセイの問いに、彼女は神妙にうなずいた。
「伝承では《風の根》は“精霊の揺籃”……風の誕生地であり、神柱の眠る場所。でも、私も入ったことはありません。神聖すぎる場所として、禁じられてきたから」
「今は非常時だ。誰かの許可より、未来を守る判断が先よ」
そう静かに言い切ったのは、シャルロッテだった。
こうして、一行は方舟の最深部《風の根》へと降下を開始した。
*
導管を縫うように張り巡らされた透明の風路を通り抜けた先に広がっていたのは、まるで“風の洞”と呼ぶべき神秘の空間だった。
「ここ……空気が違う……」
フィーナが耳を澄ませると、風が小さく囁いていた。
《……試す……風を守る者か……風を奪う者か……》
突如、音もなく現れた影――霊体のように揺らめく“風の守護獣”が三体、行く手を阻む。
「警告のつもりらしいにゃ。でも、行かせてもらうにゃ!」
ミュリルが飛び出すと同時に、イッセイも構えを取り、リリィが飛翔装置で宙に舞う。
シャルロッテは後方から結界を展開し、敵の動きに対応した魔術式を解析。
フィーナの脚が閃き、風のような回転蹴りが守護獣を裂く。その一撃で、風の流れが変わった。
だが、戦いは長引かなかった。
「やめて……! 彼らは、敵じゃない……!」
その声とともに、エリュアが飛び込んできた。彼女は歌うように詠唱を始めた。
──風の子らよ、眠りを妨げる者に怒らず
──ただ、試す心を風に流して
その調べが届くと、守護獣たちの姿は霧のようにほどけ、風と一体となって消えていく。
代わりに、風の音が言葉を紡いだ。
《十二柱……我らが記憶を継ぐ者たちよ……》
「十二柱……それが、神柱……?」
「そう。そして、あなたたちは選ばれし者……封印の継承者」
エリュアがそう告げた時、《風の根》の最奥が音もなく開いた。
その奥から、まるで空そのものが囁くような声が届いた。
《風の契約者たちよ……残る十一柱を起こし、風の均衡を……》
「やっぱり、ここに何かが眠ってる……それも、ただの“力”じゃない」
イッセイはそう呟くと、仲間たちを見渡した。
「この世界を“空から守る”ために、俺たちはこの先の道を進む。覚悟はいいか?」
その問いに、仲間たちはそれぞれのやり方で応えた。
──そして彼らは、静かに歩を進めた。
眠り続ける神柱と、空の未来を紡ぐために。
広場の中枢、風の導管を束ねる巨大な結晶装置。その根本部に位置する《風核》が、不規則な脈動を始めていた。
エリュアの報告に応じて集まったイッセイたちは、変調の波にただならぬ気配を感じていた。
「これは……霧の時とは違う。もっと奥深い、“本質”のようなものが……揺らいでいる」
シャルロッテが指を鳴らし、携帯していた風圧観測装置に魔力を注ぐと、周囲に薄く浮かぶ“波”のようなパターンが視える化される。
「精霊の根源が共鳴してる……まるで、目覚めようとする心臓みたいに」
フィーナが囁いた瞬間、地下深くから空気が逆流するような“ドウッ”という重い圧が突き上げてきた。
風核の下層――封印された禁域《風の根ね》が、呼吸を始めたのだ。
「エリュア。そこに、入ることは可能なのか?」
イッセイの問いに、彼女は神妙にうなずいた。
「伝承では《風の根》は“精霊の揺籃”……風の誕生地であり、神柱の眠る場所。でも、私も入ったことはありません。神聖すぎる場所として、禁じられてきたから」
「今は非常時だ。誰かの許可より、未来を守る判断が先よ」
そう静かに言い切ったのは、シャルロッテだった。
こうして、一行は方舟の最深部《風の根》へと降下を開始した。
*
導管を縫うように張り巡らされた透明の風路を通り抜けた先に広がっていたのは、まるで“風の洞”と呼ぶべき神秘の空間だった。
「ここ……空気が違う……」
フィーナが耳を澄ませると、風が小さく囁いていた。
《……試す……風を守る者か……風を奪う者か……》
突如、音もなく現れた影――霊体のように揺らめく“風の守護獣”が三体、行く手を阻む。
「警告のつもりらしいにゃ。でも、行かせてもらうにゃ!」
ミュリルが飛び出すと同時に、イッセイも構えを取り、リリィが飛翔装置で宙に舞う。
シャルロッテは後方から結界を展開し、敵の動きに対応した魔術式を解析。
フィーナの脚が閃き、風のような回転蹴りが守護獣を裂く。その一撃で、風の流れが変わった。
だが、戦いは長引かなかった。
「やめて……! 彼らは、敵じゃない……!」
その声とともに、エリュアが飛び込んできた。彼女は歌うように詠唱を始めた。
──風の子らよ、眠りを妨げる者に怒らず
──ただ、試す心を風に流して
その調べが届くと、守護獣たちの姿は霧のようにほどけ、風と一体となって消えていく。
代わりに、風の音が言葉を紡いだ。
《十二柱……我らが記憶を継ぐ者たちよ……》
「十二柱……それが、神柱……?」
「そう。そして、あなたたちは選ばれし者……封印の継承者」
エリュアがそう告げた時、《風の根》の最奥が音もなく開いた。
その奥から、まるで空そのものが囁くような声が届いた。
《風の契約者たちよ……残る十一柱を起こし、風の均衡を……》
「やっぱり、ここに何かが眠ってる……それも、ただの“力”じゃない」
イッセイはそう呟くと、仲間たちを見渡した。
「この世界を“空から守る”ために、俺たちはこの先の道を進む。覚悟はいいか?」
その問いに、仲間たちはそれぞれのやり方で応えた。
──そして彼らは、静かに歩を進めた。
眠り続ける神柱と、空の未来を紡ぐために。
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