侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

風詩の巫女、眠れる旋律

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「この先に……《風歌の窟》があるって、神柱シリルが……」



リリィの声が、淡い風の音に溶けていく。イッセイたちは、風の神柱の指し示した方角に従い、《風王の音叉》を手に、空の裂け目へと続く渦巻く風の流路を進んでいた。



「空気が……柔らかいのに、どこか切ない」

フィーナが耳を澄ませる。「風の音が……泣いてるウサ」



「確かに、ただの気流じゃない……これは、“旋律”だ」

シャルロッテは目を細めながら風の粒子を読み取る。「どうやら、誰かが“歌”を残したまま眠っているらしい」



「……じゃあ、そこにいるのは……次の神柱、ってことか」



イッセイは思わず《音叉》を握りしめた。

それは確かな共鳴を返し、今までの神柱たちとは違う“気配”を響かせる。どこか、哀しげで、懐かしい――そんな、旋律。



《風歌の窟》は、巨大な風の洞窟だった。音叉が導くように歩みを進めるごとに、壁面に彫られた無数の紋様が淡く光り始める。



「……この場所、空の民にすら伝わってない秘境よ」

シャルロッテが言う。「そして……この歌……」



――♪ 風よ めぐる命に ゆるしを

    空よ 還る夢に こたえを――



声が、響いた。



「っ、誰か……歌ってるウサ!?」



「いや……違う、これは――」



イッセイの音叉が強く鳴動した。



そして、風の中心――洞窟の奥に設けられた、神聖な舞台のような場所。そこにひとり、静かに膝を抱える少女がいた。



長く、淡いミントブルーの髪。目を閉じて、ゆるやかに呼吸するその姿は、まるで“歌そのもの”のようだった。



「……眠ってる?」



「いえ、違う」

シャルロッテが一歩前に出る。「意識は、歌の中にいる。あの旋律に、閉じこもってるのよ。自分で、自分を封じたのかも」



「……じゃあ、どうすれば……」



イッセイの問いに、セリアがぽつりと答える。



「歌には……答えてあげるしかない。呼びかけに、心で、返す……」



「なるほどにゃ。恋文の返事みたいなもんにゃ」



「それはちょっと違う気がするけど……」



ミュリルの軽口に、誰もが苦笑する。



イッセイは深く息を吸い、《音叉》を構えた。



「俺たちも……歌おう。風の民じゃなくても、声は、届くはずだ」



「なら、リリィがリードするわよ。商売の声張りで鍛えてるんだから!」



「にゃはっ、じゃあフィーナはコーラス担当ウサ!」



「……仕方ない、私も混ざるわ」



セリアの珍しく優しい声に、全員が驚きつつ笑った。



そして――



イッセイたちは、歌った。風の中で、響き合うように。想いを重ねるように。眠る少女に届くように。



――♪ 風よ 迷いを越えて つなげて

    空よ 君の歌に 応えて――



その時。



少女のまぶたが、そっと開かれた。

瞳は、まるで朝焼けのような淡い金色。そして、微かに震える声で、彼女は呟いた。



「……だれ……あなたたちは……?」



「イッセイ・アークフェルド。王都から来た。君の歌に導かれて、ここに来た」



「……イッセイ……」



少女の口元に、ほんの僅かな笑みが浮かぶ。



「わたしの名前は……ティレシア。風詩の巫女。……いいえ、違う。……“眠れる神柱”、シリル……」



彼女の身体から風の光が舞い上がり、周囲に結界が展開される。



「試すのね……私たちを」



「ええ」

シリル――ティレシアは、風に乗せてささやいた。



「私の旋律に、最後まで寄り添えるなら……風王の座に進む資格がある」



「その勝負、受けて立つにゃ!」



「……うん。歌でつながったんだ。今度は、力でも伝える」



イッセイは、一歩、風の巫女へ踏み出した。



そして――風の試練が、静かに始まろうとしていた。
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