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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い
風に還るとき、空は歌う
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目を閉じれば、耳に届くのは、風の詩だった。
優しく、けれど確かに主張する旋律。空を撫で、大地に降りて、世界を巡る風の記憶。
イッセイは静かに、肩で息をついた。
「……ここまで来たか」
《風王の音叉》が、彼の腰の装具から小さく澄んだ音を鳴らす。まるで、先を急げと促すかのように。
「……イッセイ、顔がちょっと怖いよ」
声をかけてきたのはリリィだった。いつもの陽気な笑顔。けれど、その目は真剣で、心配を隠しきれていなかった。
「……ああ、そうか。怖い顔、してたか」
「うん。珍しく」
「それだけ……覚悟、してるんだよ」
呟くようにイッセイが返すと、リリィはそっと隣に腰を下ろした。
彼らの視線の先には、《風の殻》――十二神柱の第三の封印が眠る、古の大地の空中域が広がっている。
「次で、三柱目……まだ三人目だってのに、これだけ心が重いんだ」
イッセイは拳を握りしめた。
「……みんな、“自分を封印に変えてまで”この空を守った。シリルだって、ヴェイアだって……戦いのためじゃない、願いのために残った」
その決意と、純粋な強さが、ただ眩しかった。
「俺たちは、その願いを引き継げるだけの“器”になれているのか……まだ、答えは出てない」
「……ううん。違うと思うよ」
リリィがぽつりと言った。
「器じゃない。器になる、って思うんじゃない。“なる”って、どこか他人事に聞こえるでしょ?」
「他人事……?」
「うん。わたしはね、こう思ってる。“託されたなら、自分の形で答えたい”って」
リリィは、胸元に手を当てた。
「シリルは“歌”だった。ヴェイアは“盾”だった。イッセイは……きっと、“心”だと思う。誰かを導く、燃える心」
イッセイの胸に、何か熱いものが宿った。
「……リリィ、お前、いつも冗談ばっか言ってるくせに、たまに真面目なこと言うよな」
「ふふん、かわいいだけじゃなくて、しっかり者でしょ?」
その笑顔は、風のように明るくて、そして――今は、少し切なげだった。
「……ねぇ、イッセイ」
「ん?」
「これが全部終わったら、わたし、もう一度あなたに……“自分の言葉”で、伝えたいことがあるの」
風がそよいだ。
イッセイは一瞬だけ、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。
だが、それ以上の言葉はなかった。リリィも言わなかった。ただ、その約束だけが、胸の奥で柔らかく響いた。
──
「――風読みの結界、安定してます!」
前方で、シャルロッテが魔導端末を手に叫んだ。
彼女の銀髪が風に舞い、真剣な表情に知性と気迫が宿っていた。
「気流の向きも調整完了。ヴェイアの風印があれば、あの渦の中も突破できる」
「……やっぱり、行くのか」
フィーナがぽつりとつぶやく。
「空の民の予言だと、あの先に“最も重い記憶”が眠っているウサ。風王が、最後に何を願ったのか……」
イッセイは、全員の顔を順に見渡した。
シャルロッテは覚悟の眼差しで魔力計測器を調整し、セリアは無言で剣の柄を握りしめていた。ミュリルはいつものように笑っていたが、その手は微かに震えていた。
「みんな……ありがとう。俺一人じゃ、ここまで来られなかった」
「当然だ。おまえが誰より真剣だから、ついてきたんだ」
セリアの声は、どこまでも不器用で、優しかった。
「……次で終わりじゃない。きっとまだ、その先がある」
イッセイは前を向いた。空の最奥、風王の眠る領域へ。
「でも、ここを越えなきゃ、俺たちは……誰にも託されたものに応えられない」
彼は《風王の音叉》を掲げた。
「さぁ、行こう。風の未来へ!」
「「「おう!!!」」」
仲間たちの声が重なり、方舟の最上層に、風のうねりが巻き上がった。
風の音が鳴る。
その音は、確かに――“歌”だった。
優しく、けれど確かに主張する旋律。空を撫で、大地に降りて、世界を巡る風の記憶。
イッセイは静かに、肩で息をついた。
「……ここまで来たか」
《風王の音叉》が、彼の腰の装具から小さく澄んだ音を鳴らす。まるで、先を急げと促すかのように。
「……イッセイ、顔がちょっと怖いよ」
声をかけてきたのはリリィだった。いつもの陽気な笑顔。けれど、その目は真剣で、心配を隠しきれていなかった。
「……ああ、そうか。怖い顔、してたか」
「うん。珍しく」
「それだけ……覚悟、してるんだよ」
呟くようにイッセイが返すと、リリィはそっと隣に腰を下ろした。
彼らの視線の先には、《風の殻》――十二神柱の第三の封印が眠る、古の大地の空中域が広がっている。
「次で、三柱目……まだ三人目だってのに、これだけ心が重いんだ」
イッセイは拳を握りしめた。
「……みんな、“自分を封印に変えてまで”この空を守った。シリルだって、ヴェイアだって……戦いのためじゃない、願いのために残った」
その決意と、純粋な強さが、ただ眩しかった。
「俺たちは、その願いを引き継げるだけの“器”になれているのか……まだ、答えは出てない」
「……ううん。違うと思うよ」
リリィがぽつりと言った。
「器じゃない。器になる、って思うんじゃない。“なる”って、どこか他人事に聞こえるでしょ?」
「他人事……?」
「うん。わたしはね、こう思ってる。“託されたなら、自分の形で答えたい”って」
リリィは、胸元に手を当てた。
「シリルは“歌”だった。ヴェイアは“盾”だった。イッセイは……きっと、“心”だと思う。誰かを導く、燃える心」
イッセイの胸に、何か熱いものが宿った。
「……リリィ、お前、いつも冗談ばっか言ってるくせに、たまに真面目なこと言うよな」
「ふふん、かわいいだけじゃなくて、しっかり者でしょ?」
その笑顔は、風のように明るくて、そして――今は、少し切なげだった。
「……ねぇ、イッセイ」
「ん?」
「これが全部終わったら、わたし、もう一度あなたに……“自分の言葉”で、伝えたいことがあるの」
風がそよいだ。
イッセイは一瞬だけ、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。
だが、それ以上の言葉はなかった。リリィも言わなかった。ただ、その約束だけが、胸の奥で柔らかく響いた。
──
「――風読みの結界、安定してます!」
前方で、シャルロッテが魔導端末を手に叫んだ。
彼女の銀髪が風に舞い、真剣な表情に知性と気迫が宿っていた。
「気流の向きも調整完了。ヴェイアの風印があれば、あの渦の中も突破できる」
「……やっぱり、行くのか」
フィーナがぽつりとつぶやく。
「空の民の予言だと、あの先に“最も重い記憶”が眠っているウサ。風王が、最後に何を願ったのか……」
イッセイは、全員の顔を順に見渡した。
シャルロッテは覚悟の眼差しで魔力計測器を調整し、セリアは無言で剣の柄を握りしめていた。ミュリルはいつものように笑っていたが、その手は微かに震えていた。
「みんな……ありがとう。俺一人じゃ、ここまで来られなかった」
「当然だ。おまえが誰より真剣だから、ついてきたんだ」
セリアの声は、どこまでも不器用で、優しかった。
「……次で終わりじゃない。きっとまだ、その先がある」
イッセイは前を向いた。空の最奥、風王の眠る領域へ。
「でも、ここを越えなきゃ、俺たちは……誰にも託されたものに応えられない」
彼は《風王の音叉》を掲げた。
「さぁ、行こう。風の未来へ!」
「「「おう!!!」」」
仲間たちの声が重なり、方舟の最上層に、風のうねりが巻き上がった。
風の音が鳴る。
その音は、確かに――“歌”だった。
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