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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い
風の墓標、眠りし風王
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冷たい風が吹いた。
それは、今まで感じたどの空の風とも違った。
湿り気を帯びた風。……まるで、誰かの涙が混じったかのような。
「ここが……《風王の墳墓》……」
イッセイは音叉を握りしめながら、そびえる封印の塔を見上げた。
彼らがたどり着いたのは、方舟の中心よりさらに上空――神域とも呼べる層。
そこには風で浮遊する大理石の大地と、柱のように空へ突き出た巨大な封印があった。
塔の中央には、まるで“風の核”そのもののように脈動する光球が浮いている。
「……この鼓動、すごいウサ……風が……泣いてる?」
フィーナが、耳をすませながらぽつりとつぶやく。
「泣いてる……いや、“呼んでる”のかもしれない」
シャルロッテが前へ出た。目を細め、術式を確認する。
「ここにいるのは、風王そのもの……正確には、“風そのものが意思を持った存在”。精霊王とも呼ばれるわ。おそらく、十二神柱のすべてが彼女の意思で選ばれた」
「じゃあ、俺たちは今、その……女王陛下の、寝室の前ってことか……?」
ミュリルの冗談まじりの言葉に、場の空気がすこし和んだ。
だが、すぐにセリアの鋭い視線が飛ぶ。
「……冗談を言うには、空気が重すぎる」
「ごめんにゃ」
「でも、正直、冗談のひとつでも言ってないと押し潰されそうウサ」
フィーナの言葉に、イッセイも小さく頷いた。
――この空間に立っているだけで、心が軋む。
誰かの“強すぎる想い”が、空間そのものに染み込んでいるのだ。
「……ここには、想いが残ってる」
イッセイは音叉を胸に当てた。
「風王は、何を守ろうとしたのか。なぜ、自らを封じたのか。その理由を、俺は……知りたい」
その時だった。
塔の中から、風が、唄を運んできた。
――すべての風は、わたしだった。
――わたしは、空を歌い、大地を撫で、人の声を聞いてきた。
――けれど……人は、風を忘れた。
その声は、誰かの“心そのもの”だった。
声と名乗るにはあまりに淡く、しかし、心臓を直接揺さぶるような強さがあった。
「これは……詩文?」
シャルロッテが目を見開いた。
「封印の中の……風王の、意識の残響……!」
「……風王様……」
イッセイは無意識に跪いていた。
その存在に圧されてではない。ただ――何かが、彼の心を突き動かした。
「……忘れてしまったなら、思い出せばいい」
「え?」
「人が、風をどう受け止めていたのか……どれだけ大切だったのか……もう一度、届けてみせる」
イッセイは立ち上がった。音叉が、再び微かに音を奏でる。
「そのために、ここまで来た。十二柱を巡り、“声”を繋いで、あなたの想いを受け止める。それが……俺たちに託された役目なんだろ?」
「イッセイ……」
リリィがそっと寄り添う。
「……あなたの言葉が、“風そのもの”に届いてる。なんだかそんな気がする」
その時、塔の上部にひびが走った。
音もなく、空間が震え――風の光が流れ落ちる。
「な、なに?!」
ミュリルが慌てて結界を張る。
だが、爆発ではなかった。
光の中から、ひとつの“人影”がゆっくりと現れる。
それは――
「……あれは、神柱……?」
セリアが剣に手をかけたまま、声を詰まらせた。
少女の姿をした風の柱。
けれど、どこか異質だった。
その身体から発せられる風は――暖かく、けれど深い孤独を孕んでいた。
「……風に……還れ」
その少女の唇が、そう動いた刹那――
風が、吼えた。
そして、最終試練が――始まろうとしていた。
それは、今まで感じたどの空の風とも違った。
湿り気を帯びた風。……まるで、誰かの涙が混じったかのような。
「ここが……《風王の墳墓》……」
イッセイは音叉を握りしめながら、そびえる封印の塔を見上げた。
彼らがたどり着いたのは、方舟の中心よりさらに上空――神域とも呼べる層。
そこには風で浮遊する大理石の大地と、柱のように空へ突き出た巨大な封印があった。
塔の中央には、まるで“風の核”そのもののように脈動する光球が浮いている。
「……この鼓動、すごいウサ……風が……泣いてる?」
フィーナが、耳をすませながらぽつりとつぶやく。
「泣いてる……いや、“呼んでる”のかもしれない」
シャルロッテが前へ出た。目を細め、術式を確認する。
「ここにいるのは、風王そのもの……正確には、“風そのものが意思を持った存在”。精霊王とも呼ばれるわ。おそらく、十二神柱のすべてが彼女の意思で選ばれた」
「じゃあ、俺たちは今、その……女王陛下の、寝室の前ってことか……?」
ミュリルの冗談まじりの言葉に、場の空気がすこし和んだ。
だが、すぐにセリアの鋭い視線が飛ぶ。
「……冗談を言うには、空気が重すぎる」
「ごめんにゃ」
「でも、正直、冗談のひとつでも言ってないと押し潰されそうウサ」
フィーナの言葉に、イッセイも小さく頷いた。
――この空間に立っているだけで、心が軋む。
誰かの“強すぎる想い”が、空間そのものに染み込んでいるのだ。
「……ここには、想いが残ってる」
イッセイは音叉を胸に当てた。
「風王は、何を守ろうとしたのか。なぜ、自らを封じたのか。その理由を、俺は……知りたい」
その時だった。
塔の中から、風が、唄を運んできた。
――すべての風は、わたしだった。
――わたしは、空を歌い、大地を撫で、人の声を聞いてきた。
――けれど……人は、風を忘れた。
その声は、誰かの“心そのもの”だった。
声と名乗るにはあまりに淡く、しかし、心臓を直接揺さぶるような強さがあった。
「これは……詩文?」
シャルロッテが目を見開いた。
「封印の中の……風王の、意識の残響……!」
「……風王様……」
イッセイは無意識に跪いていた。
その存在に圧されてではない。ただ――何かが、彼の心を突き動かした。
「……忘れてしまったなら、思い出せばいい」
「え?」
「人が、風をどう受け止めていたのか……どれだけ大切だったのか……もう一度、届けてみせる」
イッセイは立ち上がった。音叉が、再び微かに音を奏でる。
「そのために、ここまで来た。十二柱を巡り、“声”を繋いで、あなたの想いを受け止める。それが……俺たちに託された役目なんだろ?」
「イッセイ……」
リリィがそっと寄り添う。
「……あなたの言葉が、“風そのもの”に届いてる。なんだかそんな気がする」
その時、塔の上部にひびが走った。
音もなく、空間が震え――風の光が流れ落ちる。
「な、なに?!」
ミュリルが慌てて結界を張る。
だが、爆発ではなかった。
光の中から、ひとつの“人影”がゆっくりと現れる。
それは――
「……あれは、神柱……?」
セリアが剣に手をかけたまま、声を詰まらせた。
少女の姿をした風の柱。
けれど、どこか異質だった。
その身体から発せられる風は――暖かく、けれど深い孤独を孕んでいた。
「……風に……還れ」
その少女の唇が、そう動いた刹那――
風が、吼えた。
そして、最終試練が――始まろうとしていた。
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