侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

風の誓い、空の果てまで

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「くるよ……!」



シャルロッテが叫ぶと同時に、空間がきしむような音とともに風が逆巻いた。



風柱の少女――その存在が放つ風圧は、もはや天災の域だった。



「みんな、構えて! この風……今までの神柱とは格が違う!」



イッセイが指揮を取りながらも、音叉を握る手が震えていた。



まるで風そのものに意志があるかのように、激流が彼らを飲み込もうとしていた。



「風に還れ……風に還れ……」



少女の声は、まるで祈りのようだった。



だが――その祈りが意味するものは、「排除」だった。



「イッセイくん! 左から来るウサ!」



「っ、助かる!」



フィーナの風感知による警告がなければ、イッセイは突風に叩き落とされていただろう。



「風脚術――迅雷穿!」



フィーナの脚が光を切り、反転した気流を強引に捻じ伏せる。



「くっ……こっちも“風”を使ってるってのに……まるで格が違う!」



ミュリルが結界を張り直しながら、歯噛みした。



「これは、“風王の娘”……いや、分身かもしれないわ。風そのものの化身。きっと、私たちが風を操ってるってだけじゃ認めてくれない」



シャルロッテが歯を食いしばる。彼女の周囲には三重結界が張られ、だがそれでも押されていた。



「――なら、証明するしかない!」



イッセイは叫ぶと同時に、音叉を構えた。



「俺たちは風を奪うためにここに来たんじゃない! 守るために、繋ぐために、歩いてきたんだ!」



その言葉に呼応するように、リリィが前に出た。



「風よ……あなたが伝えたかった想い、きっと誰かに届くって……わたしたちが証明してみせる!」



彼女の手には、風の導管と魔導スピーカーを繋いだ《風歌の杖》。エリュアから託された希望の象徴だった。



リリィは、微笑んだ。



「ここで歌うのは、巫女じゃなくて――商人で、仲間で、未来を信じる者!」



彼女の声が、空に響いた。



最初はかすれたような旋律だった。

だが、空の風がそれを包み、増幅させていく。



「……届いて……お願い……!」



シャルロッテが涙声でささやくと、神柱の少女が動きを止めた。



「……風に……声が……?」



その瞳に、はじめて“戸惑い”が浮かんだ。



イッセイはその一瞬を見逃さなかった。



「今だ――!」



音叉を地面に突き立てる。風の魔力が共鳴し、封印塔の土台が震える。



「風よ、忘れられた願いを思い出してくれ……!」



彼の呼びかけに、風が応えた。



神柱の少女が、静かに両手を胸の前で組んだ。



「……見えた……あなたたちの風が」



「……!」



「わたしは、“名もなき風”……風王の意思の欠片。眠っていたのは、あなたたちの想いを待っていたから……」



風が静かになっていく。



そして、少女の身体が淡い光に包まれ――次の瞬間、空の高みへと昇っていった。



「……行っちゃったウサ……?」



「いや……“解放された”んだよ、きっと」



イッセイは、空を見上げながらつぶやいた。



「風王が本当に望んでいたのは、風を縛ることじゃない。“風を理解してくれる誰か”が現れること……なんだとしたら」



風がそっと頬をなでる。



それは、かつての激しい突風ではなかった。

ただ――優しく、確かに存在する、記憶のような風。



「……イッセイ。次は?」



セリアが、肩越しに問いかける。



「行くよ。残る神柱を起こして、“風王”に会うために。きっと、彼女がまだ……語っていない“空の詩”があるから」



「ふっ……やれやれ。また歌うことになるのかな、私は」



リリィが笑うと、フィーナが元気よく手を挙げた。



「空スパの宣伝歌なら任せてウサ!」



「まだ言ってる……」



セリアのため息が、やけに温かかった。



そして、空の高みで――誰もが気づかぬうちに、風王の墓標の封印が、そっと、ほどけ始めていた。



それは、次なる“風の誓い”の始まりだった。
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