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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い
風の祭壇、詩の儀式
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空の夜明けは、光よりも先に“風”で訪れる。
方舟の最上層、精霊の風が吹き抜ける《風の祭壇》。そこに、白い霧のような風が満ちていた。
「……ここが、“風王の墓標”……」
シャルロッテが小さく呟く。
視線の先には、荘厳な石柱群と浮遊する光輪が交差する神域――そこが、神柱たちの中心、《詩の祭壇》だった。
「感じる……風が震えてる……」
ミュリルがそっと耳を澄ませると、低く重い“鼓動”のような風鳴りが聞こえた。
「この場所に“風王”が……?」
イッセイが音叉を握りしめながら、一歩踏み出す。
不意に、空気がぴたりと張りつめた。
「……来たね。風の継承者たちよ」
天上から降るような声――それは誰かの言葉であり、風の記憶だった。
「おまえたちに問う。風とは何か。奪うものか、与えるものか。それとも――分かち合うものか」
「問い……?」
セリアが剣に手をかけたが、殺気は感じられない。
ただ、その言葉は確かに“選ばれた者”へ向けられていた。
「答えなくていい。ただ……感じて。風が、語りかけてる」
エリュアが静かに前に出る。巫女衣装の裾が風に揺れ、彼女の歌声が漏れた。
「――風よ、記憶を解いて。王の言葉を、いま、紡がせて」
その瞬間、祭壇に刻まれた紋章が光り始める。
音もなく浮かび上がる“詩の文字”たち。過去の継承者たちが残した、風の詩だった。
「これは……風王の願い……?」
シャルロッテが解読を進める傍らで、リリィが呟く。
「“風の支配ではなく、共鳴を望む”……だって」
「共鳴……か」
イッセイは自分の胸に手を当てる。
これまで出会った風、守った風、感じた風――それはすべて、“誰かの想い”だった。
「だったら……この儀式も、きっと“風との対話”なんだ」
「じゃあさ、イッセイ。あたしにもできることある?」
リリィが、はにかんだように笑って言う。
「……商人の言葉も、届ける力になるなら、歌ってみようかなって」
「もちろんだよ、リリィ」
彼は微笑みながら、そっと音叉をリリィに渡した。
「君の“風”を、歌にしてくれ」
「ふふっ、任せて」
リリィは深呼吸し、風を抱くように両手を掲げた。
「――風よ、遊び心と夢を運んで。声と想いが、世界を結ぶ」
その声は、初めての“風の詩”だった。
緊張も不安も、けれどリリィらしい自由さと輝きに満ちていた。
やがて、風が応えた。
祭壇に巻き起こる螺旋の風。音叉の振動が広がり、彼女の歌声が空を満たしていく。
「届いてる……!」
エリュアの頬に、風精の光が触れた。
「精霊たちが……笑ってる……!」
その一瞬、誰もが見た。
空の果てに、淡く浮かぶ巨大な影。
それは、翼を広げた“風王の魂”のように――彼らを見つめていた。
「イッセイくん……これは、きっと“最後の問い”だよ」
シャルロッテが小さく囁いた。
「風王は、自分の魂を封じてまで、“未来に委ねた”……その答えを、私たちが出さなきゃいけないの」
イッセイは頷いた。
「そのために――全ての神柱を目覚めさせよう。“空の未来”を、この手で選ぶために」
そして、彼らは再び歩き出す。
風が後ろから押してくれた。
それはもう、ただの空気の流れじゃない。
仲間たちの想い、失われた風王の願い――
すべてを繋ぐ、歌のような風だった。
方舟の最上層、精霊の風が吹き抜ける《風の祭壇》。そこに、白い霧のような風が満ちていた。
「……ここが、“風王の墓標”……」
シャルロッテが小さく呟く。
視線の先には、荘厳な石柱群と浮遊する光輪が交差する神域――そこが、神柱たちの中心、《詩の祭壇》だった。
「感じる……風が震えてる……」
ミュリルがそっと耳を澄ませると、低く重い“鼓動”のような風鳴りが聞こえた。
「この場所に“風王”が……?」
イッセイが音叉を握りしめながら、一歩踏み出す。
不意に、空気がぴたりと張りつめた。
「……来たね。風の継承者たちよ」
天上から降るような声――それは誰かの言葉であり、風の記憶だった。
「おまえたちに問う。風とは何か。奪うものか、与えるものか。それとも――分かち合うものか」
「問い……?」
セリアが剣に手をかけたが、殺気は感じられない。
ただ、その言葉は確かに“選ばれた者”へ向けられていた。
「答えなくていい。ただ……感じて。風が、語りかけてる」
エリュアが静かに前に出る。巫女衣装の裾が風に揺れ、彼女の歌声が漏れた。
「――風よ、記憶を解いて。王の言葉を、いま、紡がせて」
その瞬間、祭壇に刻まれた紋章が光り始める。
音もなく浮かび上がる“詩の文字”たち。過去の継承者たちが残した、風の詩だった。
「これは……風王の願い……?」
シャルロッテが解読を進める傍らで、リリィが呟く。
「“風の支配ではなく、共鳴を望む”……だって」
「共鳴……か」
イッセイは自分の胸に手を当てる。
これまで出会った風、守った風、感じた風――それはすべて、“誰かの想い”だった。
「だったら……この儀式も、きっと“風との対話”なんだ」
「じゃあさ、イッセイ。あたしにもできることある?」
リリィが、はにかんだように笑って言う。
「……商人の言葉も、届ける力になるなら、歌ってみようかなって」
「もちろんだよ、リリィ」
彼は微笑みながら、そっと音叉をリリィに渡した。
「君の“風”を、歌にしてくれ」
「ふふっ、任せて」
リリィは深呼吸し、風を抱くように両手を掲げた。
「――風よ、遊び心と夢を運んで。声と想いが、世界を結ぶ」
その声は、初めての“風の詩”だった。
緊張も不安も、けれどリリィらしい自由さと輝きに満ちていた。
やがて、風が応えた。
祭壇に巻き起こる螺旋の風。音叉の振動が広がり、彼女の歌声が空を満たしていく。
「届いてる……!」
エリュアの頬に、風精の光が触れた。
「精霊たちが……笑ってる……!」
その一瞬、誰もが見た。
空の果てに、淡く浮かぶ巨大な影。
それは、翼を広げた“風王の魂”のように――彼らを見つめていた。
「イッセイくん……これは、きっと“最後の問い”だよ」
シャルロッテが小さく囁いた。
「風王は、自分の魂を封じてまで、“未来に委ねた”……その答えを、私たちが出さなきゃいけないの」
イッセイは頷いた。
「そのために――全ての神柱を目覚めさせよう。“空の未来”を、この手で選ぶために」
そして、彼らは再び歩き出す。
風が後ろから押してくれた。
それはもう、ただの空気の流れじゃない。
仲間たちの想い、失われた風王の願い――
すべてを繋ぐ、歌のような風だった。
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