侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

風に舞う決意、繋がる魂

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「風って、こんなにあたたかいものだったんだね」



リリィが微笑みながら、頬に流れる風を感じていた。

彼女の“風の詩”から数日。方舟全体を包んでいた緊張感は、ゆるやかに溶けていた。



しかし――。



「……変ね。まだ、何かが引っかかってるウサ」



フィーナが風の流れに耳を澄ます。ピクリと耳が動いた。



「風そのものは穏やかになったけど、根っこの方に……濁りが残ってる。奥底に、声が閉じ込められてるウサ」



「“声”? それって精霊の?」



イッセイの問いに、フィーナはこくりと頷く。



「そう……誰かが、まだ“助けて”って呼んでる気がするウサ」



「じゃあ、そこへ行かなきゃだね。――風の奥、魂の在処へ」



シャルロッテが結界の書を開きながら、視線を《風の根》へと向ける。



エリュアも静かに歩み寄ってきた。



「……“王の魂”が、まだ完全には目覚めていない。

このままでは、いずれ再び風は乱れ、空は墜ちる……」



「そうなる前に、止める」



イッセイは強く言った。



「“空の命”を、もう誰にも壊させない。僕たちで……守る」



彼の言葉に、仲間たちも頷いた。



「ふふん、スパを空の名物にするまでは、倒れられないからね」



「……なにかが違うような気もするけど……まあ、うん」



セリアが呆れつつも、リリィの肩をぽんと叩く。



「さて、じゃあ行こうか。王の魂に、僕たちの声を届けに」



イッセイたちは再び《風の祭壇》へと向かった。



* * *



最奥の祭壇に再び立つと、あの日と同じように風が渦巻いた。



ただし今回は違った。



「――“風の継承者たち”よ、問う」



低く、確かな声が空間に響く。



「お前たちは、風の自由を知っているか? 風の痛みを知っているか? 風に、命を見たことはあるか?」



イッセイは一瞬、言葉を失った。



その声は、誰でもなかった。

まるで“この世界そのもの”が彼らに問いかけているようだった。



「自由……痛み……命……」



シャルロッテが、かすかに震える声で呟いた。



「風は、ただの空気の流れじゃない。……命なんだ。想いなんだ」



「うん。出会ってきた風は、どれも誰かの願いだった」



イッセイが前に出る。



「僕は……守りたい。この空を。この風を。この場所を――」



「その言葉が、真実かどうか。試してやろう」



ゴォッ……と突風が吹き荒れた瞬間、周囲に十二の石柱が浮かび上がる。



その中心に、ひときわ輝く風の渦が現れた。



「これが……“風王の魂”……?」



リリィが震える声で呟く。



「ちがう。これは“魂のかけら”……まだ全ては戻っていない。

けれど、その一部が、お前たちに応えるために姿を現す」



風の渦が凝縮され、少女の姿をとった。



透き通る髪、風の羽衣、金と白を基調とした鎧――

それはかつて神柱として自らを封印した者、“ヴェイア”とは異なる存在だった。



「……あなたは……誰?」



「私は“シリル”。第二柱《逆流の風》の守人」



少女は静かに目を開け、イッセイたちを見つめた。



「この世界がかつて失った風の記憶を、私はここで眠りながら守っていた」



「……記憶?」



「そう。風王が堕ちたその日から、この空は“自分自身の記憶”を封じたの」



シリルは、ひとつ深呼吸するように風を吸い込んだ。



「だが、思い出した。君たちの声で。君たちの歌で。――私は、帰ってきた」



「帰ってきたなら、お願いがある」



イッセイが一歩、踏み出した。



「この空を守りたい。風王を目覚めさせたい。そのために、君の力を貸してほしい」



「それは、簡単なことではないわ」



シリルの目が、鋭く光った。



「あなたたちに“風の記憶”を託すこと、それはつまり、“風の重み”を背負うことになる」



「構わない。僕たちには、風を守りたい理由がある」



「理由……?」



「この空に生きる人たちがいる。

エリュアも、アエリス族も、精霊たちも――リリィも、シャルロッテも、皆がこの空を好きになった。

それを……絶対に失わせたくない」



イッセイの声は、空にまっすぐ伸びていく。



「ならば……証を見せて」



シリルは軽く右手を振ると、風が剣に変わった。



「私と戦って。“契約の試練”――魂を、重ねてみせて」



ゴォッ――!



風刃がイッセイに向かって飛ぶ。すぐに彼は魔導障壁を展開し、同時にセリアが援護に走る。



「来るってわかってたけど……これが“風柱”の力……!」



「でも、怖くない!」



リリィが叫ぶ。



「風が、あたしに教えてくれたもん! この空が、あたしたちを選んでくれたって!」



「だったら、歌ってくれ、リリィ!」



イッセイが叫ぶと同時に、再び風が渦巻く。



「“契約の歌”を!」



リリィは、音叉を握りしめ、口を開いた。



「――風よ、忘れないで。君が愛した空を。

私たちが、その続きを守るから――!」



風の流れが止まり、空が光に満ちた。



シリルの剣が停止し、彼女の瞳が、ほんの少し潤んだ。



「……いい歌。思い出したわ。かつて私が風王と交わした、誓いの旋律」



そして、シリルはゆっくりと頭を下げた。



「私は目覚めよう。風王を導く十二の柱のひとつとして。

次の地で、次の記憶と出会いなさい。“風の継承者”たちよ」



イッセイは、小さく深呼吸して微笑んだ。



「ありがとう、シリル。……次も、必ず見つける」



風が吹いた。



それは確かに、祝福のようだった。
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