侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

風の王座、呼び声は天より

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 瘴風を払った空は、しばし穏やかさを取り戻した。

 方舟の上空には、薄く白い雲が流れ、青が深く広がっている。



「……静か、ですね」

 広場の縁でエリュアがそっとつぶやく。頬に触れる風は心地よく、つい数日前までの緊張が嘘のようだ。



「本当に、あの嵐が嘘みたいだよ」

 リリィが肩にかかる髪を払いながら空を見上げる。彼女の笑顔に、ようやく安堵が滲む。



 だが、イッセイの胸の奥はまだざわついていた。

 ヴェイアとの共鳴の時に見た光景――空の奥に眠る巨大な影の残像が、脳裏から離れない。



(……あれが、風王……なのか?)



 その瞬間、耳をくすぐるような低い音が風に混じった。

 ヒュゥゥゥゥ……ゴォォ……

 ただの風の音にしては、妙に心臓に響く。思わず振り返ると、シャルロッテも眉をひそめていた。



「……イッセイ、今の聞こえましたか?」

「ああ……風が、鳴いているみたいだ」



 彼女は小さく頷き、足元の精霊陣を指でなぞる。

「風の精霊たちが落ち着きません……まるで、呼ばれているように」



 その言葉に、エリュアが息を呑む。

「……まさか、風王が……?」



 瞬間、方舟全体に低い震動が走った。

 空の色がわずかに濃くなり、遠くの雲が吸い寄せられるように回転を始める。



「おいおい……まさか、もう次のトラブルかよ……」

 ミュリルが耳を伏せ、尻尾を揺らしながら呟く。



「これは……不穏だウサね……」

 フィーナも耳をピンと立て、周囲を警戒する。



 その時、広場に駆け込んできたのは空の民の学者、シオンだった。

「皆さん、古文書庫から緊急報告です! 古の記録にありました……」

 彼は息を整えながら、手にした羊皮紙を広げる。



「風王は――十二柱がすべて揃う前に覚醒すれば、必ず“空を試す”……と」



 その言葉に、広場の空気が凍る。



「試す……って、どういう意味?」

 リリィが恐る恐る尋ねる。



「古文書にはこうあります。

 ――《風は己を映す。強き魂は守られ、弱き魂は墜ちる》」



 エリュアの顔色が青ざめた。

「まさか……空全体が、選別の試練に……」



 その時だった。

 空一面に、低く唸るような風が走り、陽光が遮られる。



「……え?」

 リリィが見上げ、目を見開く。



 遠く、雲の群れが渦を巻き始めていた。

 竜巻――いや、もっと巨大で、空そのものがひっくり返るような回転。

 中心から伸びる影が、まるで大きな手で空を裂くかのように迫る。



「ひ、ひぃっ……な、何あれ……!」

 フィーナが耳を塞ぐ。



 イッセイは無意識に息を呑み、目を凝らした。

 風が形を成している――それは、巨大な影の輪郭だ。



(……風王……! 俺たちを……見ている……!)



 脳裏に直接響くような低い声がした。



――来たれ、選ばれし者よ。



 次の瞬間、方舟の周囲の風が逆巻き、竜巻がいくつも生まれた。

 空の青が裂け、白い閃光が交錯する。



「全員、退避を!」

 セリアが叫ぶが、足がすくむ空の民も多い。



 イッセイは胸に手を当て、心臓の鼓動を感じた。

(怖い……でも、逃げられない。ここで立ち向かわなきゃ……!)



 エリュアが隣に立ち、風を掬うように両手を広げた。

「……この風は、呼んでいる……イッセイ、あなたに!」



 風の唸りがさらに強くなる。

 まるで空そのものが心臓を持ち、脈打つような音。



「……分かった。逃げないよ」

 イッセイは剣の柄を握り、仲間たちに振り向いた。



「みんな、覚悟はあるか!」

「当然だにゃ!」

「ウサッ、やるしかないでしょ!」

「ええ、空は……私たちの旅の道ですもの」



 空の王座に向かう試練が、今、幕を開けようとしていた――。
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