侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第十二章 蒼穹の方舟と、空に還る想い

空よ、裂けるなかれ

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「見て……空が……割れていく……」



セリアの声が震えていた。空の彼方――祭壇の天蓋を超えた先に、“亀裂”が走っていた。まるで青空そのものにヒビが入ったように、白い閃光が空間を断ち割っている。



「これは……時空の裂け目?」



シャルロッテが即座に解析を口にする。



「でもおかしい……ただの転移や魔力衝突じゃ、こんな風にはならない……!」



「じゃあ何なんだウサ!?」



「わからない。でも……あれは、間違いなく“こっちを見てる”」



シャルロッテの指差した先、その裂け目の奥には――“瞳”があった。

巨大な、底知れぬ、風とは無関係な“異質”の存在。空の理に属さぬ何かが、こちらを覗いている。



「これって……セフィールの目覚めと関係あるのか?」



イッセイが音叉を握りしめ、セフィールの残響に問いかける。



『……ごめんなさい……私が目覚めたことで、封印の均衡が崩れたの。』



『本来なら、十二柱すべてが順に目覚め、風王がその力を束ねるまで、“空の鍵”は動かないはずだった。でも……この空には、もうひとつの意志が潜んでるの……』



「もうひとつの意志……?」



その瞬間、空が“砕けた”。



ドオオオン――ッ!!



空の裂け目から、漆黒の雷鳴が響く。その中から現れたのは、風の加護を否定するような、黒き風の精霊体――いや、“風を穢した存在”だった。



「なにあれ……風の……獣?」



リリィの呟き通り、それは確かに“風の姿”をしていた。だが、その風は腐っていた。

禍々しく濁った緑灰色の風は、方舟の祭壇ごと包み込み、空気を腐蝕させてゆく。



「これは……“瘴風”だ!」



「瘴風って……!?」



「風そのものが呪われた現象。空気が毒になる……! 古代の空の民の記録にあった、空を堕とす“疫風”――!」



「こんな奴……放っておけるかよ!」



イッセイが風刃を展開する。だが、剣が“風”を斬っても、瘴風は霧散せず、むしろ“吸収”して渦を巻くように拡大する。



「っち……効かない!」



「これは……意思を持ってるわ。風のようで風じゃない、“何か別のもの”が混じってる……!」



ミュリルが震えながらも霊術を構える。



「いま、私が共鳴できれば……!」



「いや、俺が行く」



イッセイは音叉を掲げ、セフィールの力が宿った響きを周囲に満たした。

神器は、瘴風の波に飲まれることなく、静かに風を震わせる。



「……“空は風の家。風は命の器”。セフィールがそう言った。なら……その命を、守るために!」



イッセイが踏み出す。



「オレたちは、“空の崩壊”を止めに来たんだ!」



瘴風の塊が形を成し、“竜のような風獣”が現れる。

その身体は風でありながら、瞳だけが赤黒く濁り、明確な殺意を帯びていた。



「イッセイ、こっちも準備できたウサ!」



フィーナが符術を展開し、瘴風の渦を凍らせる。



「セリア! 狙撃できるか!?」



「やってみせる!」



セリアの矢が放たれる――瘴風の目へ、一直線に。



ドンッ――!!



炸裂する矢。だが風獣は崩れない。

その身体が、まるで何か“囚われた魂”でできているような歪みを持っていた。



「これ……まさか!」



「シャルロッテ、わかったのか?」



「これ……“封印の揺らぎ”で漏れ出した、神柱の残響が……変質してる!? 神柱の意志が、瘴気に囚われて……化け物になってる!」



「ってことは……これは、まだ“神柱の一部”なんじゃ……!」



誰もが言葉を飲み込む。



――風の守り手が、瘴風に堕ちてしまったのかもしれない。



「なら、目覚めさせてやろう」



イッセイの声が、静かに響いた。



「もう一度、風に還るように。俺たちの声と、魂で」



風刃が再び展開する。セフィールの力が共鳴し、音叉が高らかに鳴る。



「“風よ、道をひらけ”――!!」



叫びと共に、イッセイの刃が風獣の核心を貫く。



ザアァァァ――!!



瞬間、瘴風が裂けた。



空が、ようやく“青さ”を取り戻していく。



「……やったの?」



「……いや」



ミュリルが、静かに首を振った。



「これは……まだ始まり。風王が目覚める前兆にすぎない」



「次の神柱が……呼んでる気がする」



イッセイは空を見上げた。



風は、また少し強くなった気がした。



――この空は、まだ歌を止めていない。
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