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第十三章 秘湯の湯けむりと、恋の悩み相談
エピローグ 星空の下、まだ冷めない火照り
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その夜、俺は部屋の縁側で一人、火照った身体を夜風に冷ましていた。脳裏には、湯けむりの向こうの光景が、何度も何度もフラッシュバックする。繰り返し再生される、禁断の映像。クラリスの驚愕に染まった白い肌、ルーナの悪戯っぽい唇、フィーナの柔らかな尻の感触、リリィの胸の谷間の甘い香り……。
(……どう考えても、俺が悪かった……よな……)
自己嫌悪で頭を抱える。俺の未熟な魔力制御が引き起こした、世紀の大事故。彼女たちに怪我がなかったことだけが、唯一の救いだった。だが、俺の心には、彼女たちの肌の感触よりもずっと深く、その瞳に宿っていた様々な感情が焼き付いていた。怒り、羞恥、そして……ほんの少しの、喜び?
(いや、気のせいだ。きっとそうだ。そうでなければ、俺は……)
俺がブツブツと自己弁護と自己嫌悪のループに陥っていると、そっと隣に誰かが座る気配がした。振り向くと、そこにいたのはシャルロッテだった。湯上がりでほんのり上気した頬が、月光を浴びて白磁のように輝いている。
「……眠れないのですか? イッセイ様」
彼女は、今日の騒動には直接関わっていなかった。いや、正確には、最後の魂の交感(テレパシー)という、最もタチの悪い“事故”の当事者だった。
「……まあ、な。色々と考え事をしていて」
「……今日のことは、事故だったと皆、分かっています。……でも、少しだけ、嬉しそうでしたわ。クラリス様も、ルーナ様も」
「え?」
俺が驚いて聞き返すと、シャルロotteはくすりと小さく笑った。
「あなたの“人間らしい”一面が見られて、安心したのかもしれません。いつも完璧で、私たちを導いてくれるあなたが、あんな風に慌てて、真っ赤になって……。……少しだけ、可愛らしいと、思ってしまいました」
(可愛い……俺が? あの地獄絵図の中で?)
「それに……」
彼女は言葉を続ける。
「あの時、わたくしの心に流れ込んできたあなたの感情……とても温かかったです。パニックの中にも、私たちを心から大切に想う気持ちが……伝わってきましたから」
その言葉に、俺の顔がカッと熱くなる。魂を直接見られたようで、羞恥心でどうにかなりそうだった。シャルロッテはそんな俺の様子を楽しげに眺めると、静かに星空を見上げた。その横顔は、月の光を浴びて神々しいほどに美しい。
彼女はふと、俺の方に向き直ると、悪戯っぽく微笑んだ。
「……わたくしも、今度は“事故”に巻き込まれてみたいものですわ。魂だけではなく……その、身体の方の」
「シャルロッテさん!?」
その純粋無垢な瞳で放たれた爆弾発言に、俺の心臓は再び大きく跳ねた。清純派の彼女までが、この戦線に参加するというのか!?
シャルロッテが静かに部屋に戻っていくと、入れ替わるように、今度はぱたぱたと軽い足音が二つ、近づいてきた。
「イッセイくーん、見ーつけたウサ!」
「こんなところで一人で涼んでるなんて、ずるいにゃん」
フィーナとミュリルだった。二人とも枕を抱えている。
「どうしたんだ、二人とも。もう寝る時間だろ?」
「それが、眠れないんだウサ。さっきのドーン!がすごくて、お部屋の天井がミシミシ言ってる気がするウサ」
「ミュリルも怖くて眠れないにゃ。だから、ここで一緒に寝るにゃん」
そう言うと、二人は何の躊躇もなく、俺の左右にぴったりと身を寄せた。右からはフィーナの、左からはミュリルの、シャンプーの甘い香りと柔らかな体温が伝わってくる。
「おい、ちょっと……」
「イッセイくん、あったかいウサ……。これなら安心して眠れる……」
「にゃ……イッセイくんの隣、一番落ち着くにゃ……すぅ……」
言うが早いか、二人は俺の肩に頭を預け、本当にすうすうと寝息を立て始めた。
(……おいおい、マジかよ)
俺は、両脇を可愛らしい獣人娘に固められ、完全に身動きが取れなくなった。これは罠か? 無垢を装った高度な罠なのか? だが、そのあどけない寝顔を見ていると、邪な考えは霧散し、ただただ愛おしいという感情だけが胸に満ちてくる。
(……これは……ある意味、拷問だな。最高に、幸せな拷問だ……)
俺が身動きの取れないまま硬直していると、今度はリリィとサーシャが呆れたような顔で現れた。
「あらら、早い者勝ちってわけね。……ほら、イッセイ」
リリィはそう言うと、小さな小瓶を俺に差し出した。
「これ、あたし特製の安眠オイル。今日の“お詫び”よ。……まあ、あたしは結構楽しかったけどね」
そのぶっきらぼうな優しさが、心に沁みた。
「……イッセイ殿」
サーシャは俺の前に正座すると、真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。
「今日の拙者の失態、重ねて詫びる。……だが、あの時、貴殿に触れたことで、拙者は改めて誓った。この温かい命を、この手で必ず守り抜くと」
その真摯な言葉は、どんな甘い囁きよりも、俺の魂を揺さぶった。
リリィとサーシャが、眠っている二人をそっと引き取って部屋へと運んでいく。ようやく解放された俺が安堵の息をついたのも束の間、最後の、そして最強の二人が、静かにその姿を現した。クラリスとルーナだ。
「……ようやく二人きりになれましたわね、イッセイ様」
クラリスは、いつもの高飛車な態度の裏に、隠しきれない熱を瞳に宿していた。
「今日の件、わたくし、まだ納得しておりませんの。あなたがわたくしの胸に触れたという事実は、決して消えません。その“責任”は、きちんと取っていただかなくては」
「……だから、それは事故で……」
「ええ、分かっていますわ。ですから、これは命令です。……明日、わたくしと二人きりで、この里を散策していただきます。これは、王女としてではなく、クラリスという一人の女からの、“罰”ですわ。……断ることは、許しません」
それは、拒否権のない、甘い罰の宣告だった。
俺がその言葉に圧倒されていると、今度はルーナが、俺の背後に回り込み、耳元で囁いた。
「クラリスは相変わらず堅いわねぇ。責任の取り方なんて、もっと簡単なのに」
「……え?」
「あたしにも、責任、取ってくれるんでしょ? イッセイくん」
彼女の吐息が、耳をくすぐる。
「あたしは、明日までなんて待てない。……今夜、あなたの部屋で、待ってるわ。……もちろん、これは“事故”のお詫びを、じっくり聞かせてもらうため、よ? ふふっ……」
彼女は最後に、俺の耳朶を軽く食むと、満足げな笑みを浮かべてクラリスと共に去っていった。
……残された俺は、もはや言葉もなかった。
命令と、誘惑。
王女と、小悪魔。
俺の心臓は、もはや限界だった。
この温泉旅行で癒されたのは身体の疲れだけではなかったらしい。ヒロインたちとの距離、そして俺自身の心もまた、大きく変化し始めていた。次の旅路は、きっとこれまでとは少し違う、甘くて、少しだけ気まずい空気に満ちたものになるだろう。
まあ、それも悪くないか。
俺は星空に向かって、疲れ果てた、しかしどこか満たされた笑みを浮かべた。
鈍感の鎧が砕け散った今、俺の本当の戦いは、ここから始まるのかもしれない。
(……どう考えても、俺が悪かった……よな……)
自己嫌悪で頭を抱える。俺の未熟な魔力制御が引き起こした、世紀の大事故。彼女たちに怪我がなかったことだけが、唯一の救いだった。だが、俺の心には、彼女たちの肌の感触よりもずっと深く、その瞳に宿っていた様々な感情が焼き付いていた。怒り、羞恥、そして……ほんの少しの、喜び?
(いや、気のせいだ。きっとそうだ。そうでなければ、俺は……)
俺がブツブツと自己弁護と自己嫌悪のループに陥っていると、そっと隣に誰かが座る気配がした。振り向くと、そこにいたのはシャルロッテだった。湯上がりでほんのり上気した頬が、月光を浴びて白磁のように輝いている。
「……眠れないのですか? イッセイ様」
彼女は、今日の騒動には直接関わっていなかった。いや、正確には、最後の魂の交感(テレパシー)という、最もタチの悪い“事故”の当事者だった。
「……まあ、な。色々と考え事をしていて」
「……今日のことは、事故だったと皆、分かっています。……でも、少しだけ、嬉しそうでしたわ。クラリス様も、ルーナ様も」
「え?」
俺が驚いて聞き返すと、シャルロotteはくすりと小さく笑った。
「あなたの“人間らしい”一面が見られて、安心したのかもしれません。いつも完璧で、私たちを導いてくれるあなたが、あんな風に慌てて、真っ赤になって……。……少しだけ、可愛らしいと、思ってしまいました」
(可愛い……俺が? あの地獄絵図の中で?)
「それに……」
彼女は言葉を続ける。
「あの時、わたくしの心に流れ込んできたあなたの感情……とても温かかったです。パニックの中にも、私たちを心から大切に想う気持ちが……伝わってきましたから」
その言葉に、俺の顔がカッと熱くなる。魂を直接見られたようで、羞恥心でどうにかなりそうだった。シャルロッテはそんな俺の様子を楽しげに眺めると、静かに星空を見上げた。その横顔は、月の光を浴びて神々しいほどに美しい。
彼女はふと、俺の方に向き直ると、悪戯っぽく微笑んだ。
「……わたくしも、今度は“事故”に巻き込まれてみたいものですわ。魂だけではなく……その、身体の方の」
「シャルロッテさん!?」
その純粋無垢な瞳で放たれた爆弾発言に、俺の心臓は再び大きく跳ねた。清純派の彼女までが、この戦線に参加するというのか!?
シャルロッテが静かに部屋に戻っていくと、入れ替わるように、今度はぱたぱたと軽い足音が二つ、近づいてきた。
「イッセイくーん、見ーつけたウサ!」
「こんなところで一人で涼んでるなんて、ずるいにゃん」
フィーナとミュリルだった。二人とも枕を抱えている。
「どうしたんだ、二人とも。もう寝る時間だろ?」
「それが、眠れないんだウサ。さっきのドーン!がすごくて、お部屋の天井がミシミシ言ってる気がするウサ」
「ミュリルも怖くて眠れないにゃ。だから、ここで一緒に寝るにゃん」
そう言うと、二人は何の躊躇もなく、俺の左右にぴったりと身を寄せた。右からはフィーナの、左からはミュリルの、シャンプーの甘い香りと柔らかな体温が伝わってくる。
「おい、ちょっと……」
「イッセイくん、あったかいウサ……。これなら安心して眠れる……」
「にゃ……イッセイくんの隣、一番落ち着くにゃ……すぅ……」
言うが早いか、二人は俺の肩に頭を預け、本当にすうすうと寝息を立て始めた。
(……おいおい、マジかよ)
俺は、両脇を可愛らしい獣人娘に固められ、完全に身動きが取れなくなった。これは罠か? 無垢を装った高度な罠なのか? だが、そのあどけない寝顔を見ていると、邪な考えは霧散し、ただただ愛おしいという感情だけが胸に満ちてくる。
(……これは……ある意味、拷問だな。最高に、幸せな拷問だ……)
俺が身動きの取れないまま硬直していると、今度はリリィとサーシャが呆れたような顔で現れた。
「あらら、早い者勝ちってわけね。……ほら、イッセイ」
リリィはそう言うと、小さな小瓶を俺に差し出した。
「これ、あたし特製の安眠オイル。今日の“お詫び”よ。……まあ、あたしは結構楽しかったけどね」
そのぶっきらぼうな優しさが、心に沁みた。
「……イッセイ殿」
サーシャは俺の前に正座すると、真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。
「今日の拙者の失態、重ねて詫びる。……だが、あの時、貴殿に触れたことで、拙者は改めて誓った。この温かい命を、この手で必ず守り抜くと」
その真摯な言葉は、どんな甘い囁きよりも、俺の魂を揺さぶった。
リリィとサーシャが、眠っている二人をそっと引き取って部屋へと運んでいく。ようやく解放された俺が安堵の息をついたのも束の間、最後の、そして最強の二人が、静かにその姿を現した。クラリスとルーナだ。
「……ようやく二人きりになれましたわね、イッセイ様」
クラリスは、いつもの高飛車な態度の裏に、隠しきれない熱を瞳に宿していた。
「今日の件、わたくし、まだ納得しておりませんの。あなたがわたくしの胸に触れたという事実は、決して消えません。その“責任”は、きちんと取っていただかなくては」
「……だから、それは事故で……」
「ええ、分かっていますわ。ですから、これは命令です。……明日、わたくしと二人きりで、この里を散策していただきます。これは、王女としてではなく、クラリスという一人の女からの、“罰”ですわ。……断ることは、許しません」
それは、拒否権のない、甘い罰の宣告だった。
俺がその言葉に圧倒されていると、今度はルーナが、俺の背後に回り込み、耳元で囁いた。
「クラリスは相変わらず堅いわねぇ。責任の取り方なんて、もっと簡単なのに」
「……え?」
「あたしにも、責任、取ってくれるんでしょ? イッセイくん」
彼女の吐息が、耳をくすぐる。
「あたしは、明日までなんて待てない。……今夜、あなたの部屋で、待ってるわ。……もちろん、これは“事故”のお詫びを、じっくり聞かせてもらうため、よ? ふふっ……」
彼女は最後に、俺の耳朶を軽く食むと、満足げな笑みを浮かべてクラリスと共に去っていった。
……残された俺は、もはや言葉もなかった。
命令と、誘惑。
王女と、小悪魔。
俺の心臓は、もはや限界だった。
この温泉旅行で癒されたのは身体の疲れだけではなかったらしい。ヒロインたちとの距離、そして俺自身の心もまた、大きく変化し始めていた。次の旅路は、きっとこれまでとは少し違う、甘くて、少しだけ気まずい空気に満ちたものになるだろう。
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