11 / 214
第一章 覚醒編
泡と香りと商売と
しおりを挟む
「あのさリリィ、最近思ったんだけど――この世界、美容に関しては驚くほど未開だよね」
「……いきなり何の話!?」
王都《クリム商会》の事務所で帳簿と格闘していたリリィが、眉をしかめながら顔を上げた。
僕はさりげなく、袋から小瓶を数本取り出して机の上に並べる。
「これはね、僕が作った“美”のアイテムたち。名前は……シャンプー、リンス、トリートメント、化粧水にファンデーション」
「どれも聞いたことない名前ね。……魔道具?」
「違う。魔法でも薬でもない、ただの液体。でも、使えば人生が変わるよ」
⸻
始まりはほんの些細な会話だった。
母上の「最近、髪がまとまらないのよね」に、姉様たちが「乾燥して肌がカサつくわ」と嘆いていた日のこと。
この世界には香油や薬草湯はあっても、髪や肌を“整える”という文化がない。ならば、作ってしまえばいい。
「今から、ひとつ試してみよう。モデルは君、リリィ」
「へっ!? ちょ、ちょっと待って!? いきなり!?」
「安心して。目は開けていていいよ。君の髪と肌に敬意を持って丁寧にやるから」
⸻
商会裏手の湯処。くしゅくしゅと泡を立てながら、僕は指で優しくマッサージをする。
「うぅっ……な、なにこれ……泡!? ぬるぬるするのに……気持ちいい……」
「頭皮をほぐすことで血行が良くなり、泡が汚れと匂いを包み込んで落としてくれる。そしてこれがリンス、潤いを残す仕上げさ」
ザブン、と湯をかければ、リリィの赤髪は見違えるようにしっとりと艶めいた。
「……あ……すごい……私の髪、別人みたい……!」
⸻
「これ、売ろう。絶対に売れる!」
湯上がりの彼女は、自分の髪を撫でながらすぐさま帳簿を取り出していた。
「上流貴族向けは高級瓶で香り別、平民向けは小分けで展開。試供品も用意して、まずは話題性を……!」
「ブランド名は《ヴィーナス・ブレッシング》。女神の祝福って意味さ」
「……ほんと、変なところでセンスあるんだから」
⸻
数日後、貴族街の体験会。
「こちらは“洗う香り”という新しい文化です。頭皮を洗い、髪を整える。ただし泡で、です」
「まぁ……ふわふわ……」「香りがほんのり残るのが上品ね!」
上品な婦人たちの髪がふわりと揺れるたび、会場に香りが立ちのぼる。
彼女たちの目は驚きと期待に満ちていた。
「あなた……ただの少年ではないわね?」
「ええ、ただのお手伝いです。今日の主役は、この泡と香りですから」
⸻
その夜。
「ねぇイッセイ……もしかして、世界変えられるかもしれないよ?」
「うん、そう思う。これはまだ序章。次は“香る旅人セット”を作る予定。携帯用の泡ボトルと香り袋付きのね」
「……マジで本気なんだ。面白いじゃない……ついていくわよ、どこまでも」
リリィは瞳を輝かせながら言った。
その表情は、ただの商人以上に、未来を見据えるパートナーの顔だった。
「……いきなり何の話!?」
王都《クリム商会》の事務所で帳簿と格闘していたリリィが、眉をしかめながら顔を上げた。
僕はさりげなく、袋から小瓶を数本取り出して机の上に並べる。
「これはね、僕が作った“美”のアイテムたち。名前は……シャンプー、リンス、トリートメント、化粧水にファンデーション」
「どれも聞いたことない名前ね。……魔道具?」
「違う。魔法でも薬でもない、ただの液体。でも、使えば人生が変わるよ」
⸻
始まりはほんの些細な会話だった。
母上の「最近、髪がまとまらないのよね」に、姉様たちが「乾燥して肌がカサつくわ」と嘆いていた日のこと。
この世界には香油や薬草湯はあっても、髪や肌を“整える”という文化がない。ならば、作ってしまえばいい。
「今から、ひとつ試してみよう。モデルは君、リリィ」
「へっ!? ちょ、ちょっと待って!? いきなり!?」
「安心して。目は開けていていいよ。君の髪と肌に敬意を持って丁寧にやるから」
⸻
商会裏手の湯処。くしゅくしゅと泡を立てながら、僕は指で優しくマッサージをする。
「うぅっ……な、なにこれ……泡!? ぬるぬるするのに……気持ちいい……」
「頭皮をほぐすことで血行が良くなり、泡が汚れと匂いを包み込んで落としてくれる。そしてこれがリンス、潤いを残す仕上げさ」
ザブン、と湯をかければ、リリィの赤髪は見違えるようにしっとりと艶めいた。
「……あ……すごい……私の髪、別人みたい……!」
⸻
「これ、売ろう。絶対に売れる!」
湯上がりの彼女は、自分の髪を撫でながらすぐさま帳簿を取り出していた。
「上流貴族向けは高級瓶で香り別、平民向けは小分けで展開。試供品も用意して、まずは話題性を……!」
「ブランド名は《ヴィーナス・ブレッシング》。女神の祝福って意味さ」
「……ほんと、変なところでセンスあるんだから」
⸻
数日後、貴族街の体験会。
「こちらは“洗う香り”という新しい文化です。頭皮を洗い、髪を整える。ただし泡で、です」
「まぁ……ふわふわ……」「香りがほんのり残るのが上品ね!」
上品な婦人たちの髪がふわりと揺れるたび、会場に香りが立ちのぼる。
彼女たちの目は驚きと期待に満ちていた。
「あなた……ただの少年ではないわね?」
「ええ、ただのお手伝いです。今日の主役は、この泡と香りですから」
⸻
その夜。
「ねぇイッセイ……もしかして、世界変えられるかもしれないよ?」
「うん、そう思う。これはまだ序章。次は“香る旅人セット”を作る予定。携帯用の泡ボトルと香り袋付きのね」
「……マジで本気なんだ。面白いじゃない……ついていくわよ、どこまでも」
リリィは瞳を輝かせながら言った。
その表情は、ただの商人以上に、未来を見据えるパートナーの顔だった。
427
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる