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第六章 冒険編 〜ヒノモトの侍
月影の決戦、仮面の王
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「この城……どこか、異様に静かだな」
イッセイが呟いた。
瘴気の神社での死闘を終え、主城へと続く山道を抜けて辿り着いた先にあったのは、異様な沈黙と霧に包まれたヒノモトの中心、かつての栄華を象徴する大城――しかしその威容は、今や不気味な沈黙の殻と化していた。
「サーシャ、あなたの故郷……あまりにも様変わりしていて……」
クラリスが、憂いを含んだ眼差しで城を見上げる。
「……あぁ、こんなの、私が知っているヒノモトじゃない」
サーシャは唇を噛み締めた。
その時、城門前の広場に集まる人々のざわめきが耳に届いた。
「――民衆が……何か騒いでるウサ」
フィーナが不安げに耳を澄ます。
そこには、仮面をつけた男が壇上に立ち、人々に向けて高らかに演説をしていた。
「我が名はクロガネ=オウ。旧ヒノモト王家の血を引きし者なり! 我こそが新たなる時代の覇者、真なるヒノモトの王である!」
群衆はその言葉に喝采をあげていたが、その次の言葉に一行の表情は凍りついた。
「ヒノモトを瘴気に沈めた元凶、カグヤの血を引く反逆の一族……サーシャ=カグヤ。その者とその仲間たちを捕らえよ!」
「なっ……!? ふざけるなっ!」
サーシャが叫ぶも、人々の目はすでに扇動され、怒りと恐れに満ちていた。
「誤解だ! 話を聞いてくれ!」
イッセイが前へ出るが、群衆は一斉に押し寄せてきた。
「やめて! わたしたちは……!」
ルーナが叫ぶが、その声は届かず、一行は捕縛されてしまう。
暗く湿った牢獄。
「……くっ、どうしてこうなるのよ……」
セリアが壁を蹴る。
「冷静になってにゃん。あいつら、完全に騙されてるにゃん」
ミュリルが低く唸る。
「……あの仮面の男、ただの扇動者じゃない。裏に何かある」
イッセイは思案を巡らせながら、サーシャを見る。
「私は……この国を、守るって決めたのに……」
サーシャが項垂れたその時だった。
カシャン、と何かが外れる音。
「お待たせしました、お姫さま方」
月影のように現れたのは、黒装束に身を包んだ少女――旧ヒノモト家のくのいちだった。
「あなたは……!」
「名を、ユエと申します。元将軍家直属の密偵隊、現在は、主家再興のため動いています」
ユエの導きで一行は牢を抜け出し、地下道を通じて脱出。
「……ここが、旧ヒノモト家の隠れ家……?」
忍びたちが静かに動き回るその屋敷は、精緻な木造建築でありながら、あらゆる方向に逃走経路が張り巡らされていた。
そこに現れたのは、威厳ある老忍――ニンジャマスター「ハンゾウ」。
「そなたらが……将軍家の娘と、その仲間か」
「はい、サーシャ=カグヤと申します。どうか、この国を……取り戻すために力を貸していただけませんか」
サーシャが深く頭を下げた。
「……よかろう。我らの誓いはいまだ絶えておらぬ」
ハンゾウの言葉に、一同が静かに頷いた。
「明日、主城を取り戻す。カグヤの隠れ里と味方領主に援軍を要請する。夜明けと共に、決戦だ」
イッセイは剣の柄を握りしめた。
「終わらせよう、この瘴気に覆われた悲劇を」
闇夜に沈む主城の城壁を、静かに影が這っていく。
「ここが……忍びの隠れ家か」
瓦屋根と竹垣に囲まれた、趣ある古民家。その奥に潜むのは、ヒノモト旧王家に忠誠を誓い、闇に身を隠していた忍びたちである。
「ようこそ、我が隠れ家へ」
「イッセイ殿、サーシャ姫。まずは救出を喜ばせていただこう」
「ありがとう、助かった。だが……このままでは終われない」
イッセイの目は既に、仮面の男との決戦を見据えていた。
「主城の奪還には、奇襲しかない」
「だが、民衆が敵に回っている現状では……」
サーシャが眉をひそめる。
「殿。誤解を解く手段は、ある」
くのいちの一人が名乗りを上げる。彼女はサーシャの乳姉妹でもあるという。
「情報を拡散し、真実を告げれば、民の中にも立ち上がる者が現れましょう」
「それでも時間は限られてるウサ。明日の満月の夜、首領は“新たな王政”を布告すると発表してる」
フィーナが焦燥をにじませる。
「なら、今夜が勝負か」
イッセイが剣の柄に手をかける。その顔は冷静だが、全身から闘志が溢れていた。
「奇襲部隊、城内突入班、民衆工作班。それぞれに分かれて動くにゃん」
ミュリルが巻物を広げながら作戦を立てる。
「……いざとなれば、我らが前に立ちます」
クラリスとルーナが同時に言った。
「イッセイくん、私たちも一緒に戦うから」
「もちろんだ。全員で、生きて帰ろう」
そして——
夜明け前――ヒノモトの主城の周囲には、数百を超える決起軍が静かに息を潜めていた。忍びたちが展開した幻術の霧が、城壁を包み込み、まるで月影が戦の舞台を静かに見下ろしているかのようだった。
「作戦通り、北門から陽動をかける。俺たちは西の地下道から侵入だ」
ハンゾウと呼ばれる老練な忍び――忍者衆を束ねるニンジャマスターが、鋭い眼差しで指示を飛ばす。
「皆、準備はいいか?」
イッセイが振り返ると、サーシャをはじめとする仲間たちは力強く頷いた。
「拙者、刀に誓いを」
サーシャの眼差しは炎のように燃えていた。
「いっせいくん……絶対、戻ってきてね」
ルーナがいつになく真剣な顔で袖を引く。
「この戦いが終わったら、一緒にまた旅を続けましょう」
クラリスも微笑みながらも、強い意志を宿す瞳で彼を見つめた。
「リリィのファンの前で負けたりしたら、商会の評判が落ちるからねー?」
リリィが軽口を叩きながら、そっとイッセイのマントを直す。
イッセイは一人一人に頷き、剣の柄を握り直す。
忍びの導きにより、一行は城の地下道へと侵入する。道中、罠と闇ギルドの配下たちが現れるも、ハンゾウを筆頭とする忍びたちが道を切り開く。
そして、ついに玉座の間へと辿り着いた。
「ようこそ、反逆者ども……我が新たなる秩序の礎となるがいい」
玉座に座していたのは、仮面の男。漆黒の仮面、背後に渦巻く闇の魔力、異形の瘴気をまとい、その姿はもはや人とは思えない。
「お前が……全ての元凶か!」
イッセイが怒りに燃えた声を上げる。
「この国は、腐り果てた王族どもに支配されていた。新たなる秩序こそ、この国の真の救済だ」
「お前はただの暴君だ……! 自分の欲望を正義にすり替えるな!」
サーシャが剣を構える。
仮面の男が手をかざすと、闇精霊が現れ、その身体と融合するように溶け込んだ。
「来るがよい……死をもって、正義の終焉を見届けろ」
イッセイとサーシャが同時に駆け出した――
鋼と鋼が激突し、魔力がぶつかり合い、玉座の間は戦火の渦となった。イッセイの剣技は凄まじいが、仮面の男の力はそれを凌駕する。
「がっ……!?」
イッセイの胸に闇の爪が突き刺さり、彼の身体が吹き飛ぶ。
「イッセイくんっ!!」
悲鳴が上がる中、イッセイの命の火が消えかける……しかし、その時。
「……まだ、終われない……!」
最後の力で彼は「神命の雫」を取り出し、胸元で輝きを放つ。命が蘇り、傷が癒えていく。
「立て……イッセイ」
サーシャの背後から、風の精霊が現れた。その名は――【スイレン】。
「貴女の想い、我が風が受け取った」
サーシャの髪が風に舞い、剣が青白く輝き出す。
「風よ、我が刃となれ……!」
イッセイも仲間たちの加護を受けて再び立ち上がる。
「イッセイくん、バフ、いっくよー!」
ルーナの魔法が彼の身体を覆い、クラリスが強化魔法を重ねる。
「見てなさい……あなたは、独りじゃないわ」
クラリスが優しく囁いた。
「サーシャ、いけるか!」
「応!」
イッセイとサーシャは息を合わせ、渾身の奥義を放った。
「蒼刃風迅・双華断!!」
一閃。
仮面の男の身体を光と風が切り裂いた。
「ぐあああああああ……ッ!」
崩れ落ちる仮面。そこには苦悶に歪んだ男の顔。
「……我らが主、魔王さまの……夜は……これからだ……」
呟きを残し、男は黒い塵となって消え去った。
ヒノモトに、再び光が戻りつつあった――
イッセイが呟いた。
瘴気の神社での死闘を終え、主城へと続く山道を抜けて辿り着いた先にあったのは、異様な沈黙と霧に包まれたヒノモトの中心、かつての栄華を象徴する大城――しかしその威容は、今や不気味な沈黙の殻と化していた。
「サーシャ、あなたの故郷……あまりにも様変わりしていて……」
クラリスが、憂いを含んだ眼差しで城を見上げる。
「……あぁ、こんなの、私が知っているヒノモトじゃない」
サーシャは唇を噛み締めた。
その時、城門前の広場に集まる人々のざわめきが耳に届いた。
「――民衆が……何か騒いでるウサ」
フィーナが不安げに耳を澄ます。
そこには、仮面をつけた男が壇上に立ち、人々に向けて高らかに演説をしていた。
「我が名はクロガネ=オウ。旧ヒノモト王家の血を引きし者なり! 我こそが新たなる時代の覇者、真なるヒノモトの王である!」
群衆はその言葉に喝采をあげていたが、その次の言葉に一行の表情は凍りついた。
「ヒノモトを瘴気に沈めた元凶、カグヤの血を引く反逆の一族……サーシャ=カグヤ。その者とその仲間たちを捕らえよ!」
「なっ……!? ふざけるなっ!」
サーシャが叫ぶも、人々の目はすでに扇動され、怒りと恐れに満ちていた。
「誤解だ! 話を聞いてくれ!」
イッセイが前へ出るが、群衆は一斉に押し寄せてきた。
「やめて! わたしたちは……!」
ルーナが叫ぶが、その声は届かず、一行は捕縛されてしまう。
暗く湿った牢獄。
「……くっ、どうしてこうなるのよ……」
セリアが壁を蹴る。
「冷静になってにゃん。あいつら、完全に騙されてるにゃん」
ミュリルが低く唸る。
「……あの仮面の男、ただの扇動者じゃない。裏に何かある」
イッセイは思案を巡らせながら、サーシャを見る。
「私は……この国を、守るって決めたのに……」
サーシャが項垂れたその時だった。
カシャン、と何かが外れる音。
「お待たせしました、お姫さま方」
月影のように現れたのは、黒装束に身を包んだ少女――旧ヒノモト家のくのいちだった。
「あなたは……!」
「名を、ユエと申します。元将軍家直属の密偵隊、現在は、主家再興のため動いています」
ユエの導きで一行は牢を抜け出し、地下道を通じて脱出。
「……ここが、旧ヒノモト家の隠れ家……?」
忍びたちが静かに動き回るその屋敷は、精緻な木造建築でありながら、あらゆる方向に逃走経路が張り巡らされていた。
そこに現れたのは、威厳ある老忍――ニンジャマスター「ハンゾウ」。
「そなたらが……将軍家の娘と、その仲間か」
「はい、サーシャ=カグヤと申します。どうか、この国を……取り戻すために力を貸していただけませんか」
サーシャが深く頭を下げた。
「……よかろう。我らの誓いはいまだ絶えておらぬ」
ハンゾウの言葉に、一同が静かに頷いた。
「明日、主城を取り戻す。カグヤの隠れ里と味方領主に援軍を要請する。夜明けと共に、決戦だ」
イッセイは剣の柄を握りしめた。
「終わらせよう、この瘴気に覆われた悲劇を」
闇夜に沈む主城の城壁を、静かに影が這っていく。
「ここが……忍びの隠れ家か」
瓦屋根と竹垣に囲まれた、趣ある古民家。その奥に潜むのは、ヒノモト旧王家に忠誠を誓い、闇に身を隠していた忍びたちである。
「ようこそ、我が隠れ家へ」
「イッセイ殿、サーシャ姫。まずは救出を喜ばせていただこう」
「ありがとう、助かった。だが……このままでは終われない」
イッセイの目は既に、仮面の男との決戦を見据えていた。
「主城の奪還には、奇襲しかない」
「だが、民衆が敵に回っている現状では……」
サーシャが眉をひそめる。
「殿。誤解を解く手段は、ある」
くのいちの一人が名乗りを上げる。彼女はサーシャの乳姉妹でもあるという。
「情報を拡散し、真実を告げれば、民の中にも立ち上がる者が現れましょう」
「それでも時間は限られてるウサ。明日の満月の夜、首領は“新たな王政”を布告すると発表してる」
フィーナが焦燥をにじませる。
「なら、今夜が勝負か」
イッセイが剣の柄に手をかける。その顔は冷静だが、全身から闘志が溢れていた。
「奇襲部隊、城内突入班、民衆工作班。それぞれに分かれて動くにゃん」
ミュリルが巻物を広げながら作戦を立てる。
「……いざとなれば、我らが前に立ちます」
クラリスとルーナが同時に言った。
「イッセイくん、私たちも一緒に戦うから」
「もちろんだ。全員で、生きて帰ろう」
そして——
夜明け前――ヒノモトの主城の周囲には、数百を超える決起軍が静かに息を潜めていた。忍びたちが展開した幻術の霧が、城壁を包み込み、まるで月影が戦の舞台を静かに見下ろしているかのようだった。
「作戦通り、北門から陽動をかける。俺たちは西の地下道から侵入だ」
ハンゾウと呼ばれる老練な忍び――忍者衆を束ねるニンジャマスターが、鋭い眼差しで指示を飛ばす。
「皆、準備はいいか?」
イッセイが振り返ると、サーシャをはじめとする仲間たちは力強く頷いた。
「拙者、刀に誓いを」
サーシャの眼差しは炎のように燃えていた。
「いっせいくん……絶対、戻ってきてね」
ルーナがいつになく真剣な顔で袖を引く。
「この戦いが終わったら、一緒にまた旅を続けましょう」
クラリスも微笑みながらも、強い意志を宿す瞳で彼を見つめた。
「リリィのファンの前で負けたりしたら、商会の評判が落ちるからねー?」
リリィが軽口を叩きながら、そっとイッセイのマントを直す。
イッセイは一人一人に頷き、剣の柄を握り直す。
忍びの導きにより、一行は城の地下道へと侵入する。道中、罠と闇ギルドの配下たちが現れるも、ハンゾウを筆頭とする忍びたちが道を切り開く。
そして、ついに玉座の間へと辿り着いた。
「ようこそ、反逆者ども……我が新たなる秩序の礎となるがいい」
玉座に座していたのは、仮面の男。漆黒の仮面、背後に渦巻く闇の魔力、異形の瘴気をまとい、その姿はもはや人とは思えない。
「お前が……全ての元凶か!」
イッセイが怒りに燃えた声を上げる。
「この国は、腐り果てた王族どもに支配されていた。新たなる秩序こそ、この国の真の救済だ」
「お前はただの暴君だ……! 自分の欲望を正義にすり替えるな!」
サーシャが剣を構える。
仮面の男が手をかざすと、闇精霊が現れ、その身体と融合するように溶け込んだ。
「来るがよい……死をもって、正義の終焉を見届けろ」
イッセイとサーシャが同時に駆け出した――
鋼と鋼が激突し、魔力がぶつかり合い、玉座の間は戦火の渦となった。イッセイの剣技は凄まじいが、仮面の男の力はそれを凌駕する。
「がっ……!?」
イッセイの胸に闇の爪が突き刺さり、彼の身体が吹き飛ぶ。
「イッセイくんっ!!」
悲鳴が上がる中、イッセイの命の火が消えかける……しかし、その時。
「……まだ、終われない……!」
最後の力で彼は「神命の雫」を取り出し、胸元で輝きを放つ。命が蘇り、傷が癒えていく。
「立て……イッセイ」
サーシャの背後から、風の精霊が現れた。その名は――【スイレン】。
「貴女の想い、我が風が受け取った」
サーシャの髪が風に舞い、剣が青白く輝き出す。
「風よ、我が刃となれ……!」
イッセイも仲間たちの加護を受けて再び立ち上がる。
「イッセイくん、バフ、いっくよー!」
ルーナの魔法が彼の身体を覆い、クラリスが強化魔法を重ねる。
「見てなさい……あなたは、独りじゃないわ」
クラリスが優しく囁いた。
「サーシャ、いけるか!」
「応!」
イッセイとサーシャは息を合わせ、渾身の奥義を放った。
「蒼刃風迅・双華断!!」
一閃。
仮面の男の身体を光と風が切り裂いた。
「ぐあああああああ……ッ!」
崩れ落ちる仮面。そこには苦悶に歪んだ男の顔。
「……我らが主、魔王さまの……夜は……これからだ……」
呟きを残し、男は黒い塵となって消え去った。
ヒノモトに、再び光が戻りつつあった――
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