侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第六章 冒険編 〜ヒノモトの侍

黒ノ瘴気、神社の封印

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「この先に、封印の神社がある……だが、様子が……」

 サーシャが足を止め、腰に差した刀へ手を添えた。



「瘴気の濃度が明らかに違うね、イッセイくん」

 ルーナが袖で口元を覆いながら、真剣な表情を向ける。



「これ以上は無策に進むのは危険だな。警戒を強めよう」

 イッセイは頷き、仲間たちへ指示を飛ばす。



 地元の精鋭剣士たち――五人の男たちは、どれも歴戦の顔ぶれだった。だが、その表情に油断はなく、むしろ焦りが色濃く見て取れる。



「道中の廃村を経由して進むルートが安全です」

 案内役の剣士が地図を指差し、進路を確認する。



 一行は再び歩を進めた。足元の枯葉がしっとりと濡れ、木々の影に何かが蠢いているような錯覚に襲われる。霧の中、ただ一つ確かなもの――それはサーシャの背にある刀の輝きだった。



「……懐かしいな、この辺り」

 サーシャが呟く。



「昔、ここで修行していたの?」

 クラリスが尋ねると、サーシャは静かに首を振った。



「いや……私が幼い頃、家族で訪れたの。今はもう、この霧のせいで……見違えてしまったけれど」



 霧の向こうに、廃村が姿を現す。崩れた屋根、割れた障子、そして静まり返った空気。



「ここで一度、休憩を取りましょう」

 イッセイの提案に、仲間たちは頷く。セリアは見張りに立ち、ミュリルとフィーナは傷の手当てを行っていた。



「サーシャ、何か思い出すことはある?」

 イッセイがそっと訊ねる。



 サーシャはしばし沈黙した後、ぽつりと口を開く。



「私の父は、この近くの村の出身。母は武家の娘だった。二人は駆け落ちして……小さな庵で暮らしていた。だが、瘴気が広がった時、家は……焼かれた」



 リリィが眉をひそめ、そっとサーシャの背に手を置く。

「……よく、ここまで来られたね」



「強くならねばと思った。誰かのせいで、大切なものを奪われたくないから」



 その言葉に、一行の空気が引き締まった。



 その瞬間だった。



「来るッ!」

 セリアが叫ぶ。霧の奥から、黒くねじれた影――瘴気獣が複数、姿を現した。



「数は七! 油断するな!」

 イッセイが剣を抜き、最前列へ躍り出る。



「フィーナ、ミュリル! 後方支援お願いウサ!」

「了解にゃん!」



「私も行くわ、イッセイくん!」

 ルーナが短杖を構え、魔法陣を展開。雷光が一閃し、先頭の獣を吹き飛ばした。



「サーシャ、右を任せる!」

「了解……我が刃、赤き誓い!」



 剣閃が瘴気を裂き、サーシャの背に赤い羽衣のようなオーラが現れる。



 激しい戦いの末、瘴気獣たちは倒れた。



「はぁ……終わった?」

 クラリスが肩で息をしながらも、気丈に周囲を見回す。



「まだだ。神社の封印を確認しないと」

 イッセイが鋭く前を見据える。



 その視線の先――霧の向こうに、巨大な鳥居の影が揺れていた。



「ここが……封印の神社か」



深い霧に包まれた山の奥、その頂にひっそりと佇む古びた社。石段は苔むし、朱塗りの鳥居は風化し、何よりも、全体にまとわりつくような瘴気の重圧が一行の足を鈍らせていた。



「感じる……この瘴気、ここから溢れ出しているのは間違いないウサ」

フィーナが神妙な顔で呟いた。



「結界も……破られているにゃん。これじゃ、中に何がいてもおかしくないにゃん」

ミュリルが周囲を警戒しながら呟く。



「皆、気を引き締めて。これはただの神社じゃないわ」

クラリスが背筋を伸ばし、冷静に言い放つ。



「おぉ? 客人とは思えん面構えじゃな」

突如、鳥居の先から声が響いた。



姿を現したのは、白と黒の装束をまとった男と女。目は虚ろで、肌は不気味な蒼白さを湛えている。その背後には、異形の魔物がぬらりと蠢いていた。



「闇ギルドの……幹部か」

イッセイが剣を構える。



「やはり来たか、将軍家の落胤とその取り巻きども」

女の幹部が冷笑を浮かべる。「サーシャ=カグヤ。お前の首は、我らが主の供物として申し分ない」



「貴様らのような穢れ者に、この神社を踏み荒らさせはしない!」

サーシャが剣を抜き放つ。その眼には迷いのない怒りの炎が宿っていた。



「ふふ……感情に任せて飛び込んでくるがいい。貴様らの希望ごと、喰らってやろう」

男の幹部が手を振ると、魔物が一斉に襲い掛かってきた!



「前衛、構えろ!」

イッセイの号令と共に、剣が交差する。



「くらえッ!」

サーシャの刀が魔物の腕を断ち切る。



「援護します!」

クラリスが氷の魔法を放ち、魔物の動きを封じる。



「こっちも行くわよ、イッセイくん!」

ルーナが雷撃を走らせ、魔物の隙を作る。



「セリア、敵の横合いから挟むぞ!」



「言われなくても分かってるわ!」

セリアが一気に飛び込み、敵の背後を突く。



「回復魔法――《癒光》!」

フィーナが負傷した仲間に光を降らせる。



「まだ……まだ来るにゃん!」

ミュリルが前に出て、クラリスを守るように立ちはだかった。



激戦の中、イッセイとサーシャは幹部二人に迫る。



「イッセイ、連携でいくぞ!」

「任せて、合わせる!」



サーシャの剣が素早く振り抜かれ、敵女幹部の脇を裂く。

イッセイはその隙を突いて、男幹部に斬り込む。



「クッ、忌々しい!」

幹部たちは後退しつつ、禁呪の構えを取った。



「来るぞ、全員、身構えろッ!」



轟音と共に、瘴気の奔流が爆発的に広がる。



「ぐっ……くぅ……!」

イッセイが吹き飛ばされ、地に伏す。



「イッセイくん!」

ルーナの叫びが木霊した。



その時、サーシャの身体がまばゆい光に包まれた。



「これは……精霊の加護……!」



風のように、剣が舞った。



「我が刃は正義のために……汝らを赦さぬ!」



サーシャの剣とイッセイの剣が、再び交差するように幹部たちに襲いかかった――



轟音と共に弾け飛ぶ瘴気の奔流。

その衝撃波に吹き飛ばされ、イッセイは硬い地に叩きつけられた。

全身に走る激痛と共に、視界がぐにゃりと揺れる。



「イッセイくんっ!!」



ルーナの悲鳴混じりの叫び声。

だがその時、まばゆい光が、サーシャの身体を包んだ。



「これは……精霊の加護……!」



風が吹いた。

剣が舞った。



「我が刃は正義のために……汝らを赦さぬ!」



サーシャの剣が、煌めきながら幹部の女へと走った。

その刹那、イッセイも立ち上がる。

血を拭い、剣を強く握りしめる。



「サーシャ、合わせるぞ」

「うむッ!」



イッセイは跳んだ。

サーシャの剣が敵の剣を受け止め、その瞬間、イッセイの刃が側面から鋭く斬り込む!

女幹部は呻き声を上げ、後退。



「なぜ……この程度の者どもに……!」



男幹部が呪詠を始める。

だが、それはクラリスの氷魔法によって阻まれた。



「――《氷鎖結界》!」



幹部の足元に氷が這い上がり、動きを封じる。



「イッセイくん、今よっ!」



ルーナが雷撃を放つ。

それはイッセイの剣へと伝導し、雷の刃と化した。



「はああああッ!!」



雷光の一閃。

幹部の男の鎧が裂け、叫びと共に膝をついた。



「こ……この程度で……終わるものかぁぁああ!」



最後の抵抗のように、幹部たちは互いに手を取り合い、瘴気を解放する。

異形の魔物と融合しようとしていた。



「止めさせてもらう」



イッセイとサーシャが同時に跳び込む。

一方は雷、一方は風。

二つの奥義が交差し、巨大な光刃が幹部たちを貫いた。



「ぐあああああああああッ!!」



爆音。

衝撃。

そして静寂。



瘴気が、徐々に晴れていく。

幹部たちの姿はすでにない。



「ふっ……間に合った、か……」



サーシャが膝をつき、剣を地に立てて支えとした。



「よく……やったな、サーシャ」

イッセイが笑みを浮かべ、彼女の肩に手を置く。



「……ありがとう、イッセイ」



その時、残響のように幹部の声が届いた。



「……主城は……すでに……手遅れ……フフフ……」



言葉は風に消え、静寂が戻る。



「封印の損傷は……この《応急結界》でなんとか繋げるわ」

クラリスが光の魔法陣を描き、神社の本殿を覆う。



「これで、一時的に瘴気の拡散は防げるウサ」

フィーナも頷く。



「にゃんとも、危なかったにゃん……」

ミュリルがへたり込みながら、ほっと胸を撫で下ろす。



「ここで止めなきゃ、ヒノモトが本当に終わってたわね」

セリアも剣を収めて、肩を回す。



「……まだ終わっていない」



サーシャがゆっくりと立ち上がり、北を睨んだ。



「主城に行かねばならぬ。全てを終わらせるために」



イッセイが彼女に並び立つ。



「ああ、行こう。皆でな」



その言葉に、全員が静かに頷いた。



神社の瘴気は抑えられた。

だが、闇はまだ北の城に潜んでいる――。
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