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第六章 冒険編 〜ヒノモトの侍
遥かなる東方、因果の里へ
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「……あれが、ヒノモトの外門だよ」
朝靄に包まれた東の平野を抜けた先、丘の斜面から見下ろしたその光景に、一行は思わず足を止めた。遠くに見えるのは、漆黒の瓦屋根と白壁を配した、和の様式で築かれた巨大な城門。そして、その周囲をまるで濁った水墨画のように覆い尽くす──不気味な瘴気の霧。
「っ……あれが、瘴気ってやつか。近づくほどに息苦しくなるな……」
イッセイが額に汗を滲ませながらつぶやくと、隣でルーナがハンカチを取り出して手渡した。
「はい、イッセイくん。汗、拭いてあげる」
「ありがとう、助かる」
そのとき、サーシャは無言のまま視線を門の先に注ぎ続けていた。彼女の瞳には、かつての故郷が瘴気に蝕まれている現実が、何よりも鋭く突き刺さっていた。
「私の、帰る場所が……」
静かに絞り出されたその声には、怒りでも悲しみでもない、無力感が滲んでいた。イッセイはそんな彼女の肩に手を置いた。
「取り戻そう。君の故郷も、人々の暮らしも、全部。俺たちでさ」
「……うん」
その時だった。門の方角から、甲高い警鐘と兵士たちの怒号が響いてきた。
「瘴気獣だァーッ! 門前に三体、突破されるぞ!」
「くっ、行こう!」
イッセイは腰の剣を抜き、サーシャも長刀を引き抜いて霧の中へと駆け出す。続いてクラリス、ルーナ、セリア、ミュリル、フィーナと仲間たちもそれぞれ武器を構えた。
城門前では、まるで獣と鬼が混ざったような異形の存在──瘴気獣が、兵たちを蹴散らしていた。体表から常に瘴気を噴出し、目は赤黒く濁っている。
「囲め! 正面は私が取る!」
サーシャが地を滑るように前へ出て、鋭く斬り込む。
刃が触れた瞬間、瘴気を吹き飛ばす風のような音と共に、獣の前脚が弾け飛んだ。
「おおおおおおっ!」
兵士たちの士気が上がる。
イッセイも剣を構え、瘴気獣の背後に回り込んだ。
「《剣風・破断》!」
剣から放たれた真空の斬撃が獣の胴を一閃。
断末魔をあげて崩れ落ちると、残りの二体も仲間たちによって瞬く間に倒された。
「……ふぅ、これでどうにか城門は守れたか」
イッセイが剣を納めると、周囲の兵士たちが駆け寄ってきた。
「助太刀、感謝いたします! まさか門まで瘴気獣が来るとは……」
「何が起こっているんだ? この国で」
ルーナがやや眉をひそめて問うと、兵士は険しい顔で語り出した。
「二月前、王都でクーデターが起きました。将軍家が襲撃され、今は“名代”と名乗る者が統治を……。それと同時期に、各地に瘴気が現れ始めたんです」
「偶然にしては出来すぎているわね」
クラリスが静かに言い、サーシャが唇を噛んだ。
「それって……まさか、闇ギルドの仕業か?」
「ええ、おそらく。裏では“黒幕”が動いていると噂されています。地方領主の中には闇ギルドと結託した者も多く、街道は閉ざされ、流通も絶たれた状態です」
「……この国を、壊そうとしている誰かがいる」
イッセイは城門の内へと視線を向けた。
そこに広がるのは、かつて「四季の楽園」と呼ばれたヒノモトの景観──しかし今は、瘴気に霞み、木々は枯れ、河は濁っている。
「私の、思い出が……こんな……っ」
サーシャが拳を握りしめる。その肩をイッセイがそっと叩いた。
「進もう、サーシャ。君の隠れ里に。きっと、希望はまだ残ってる」
「……うん。案内するわ。皆、ついてきて」
「……ここが、わたしの故郷……“カグヤの隠れ里”よ」
山深い渓谷を抜け、苔むした石段を登った先に広がっていたのは、霧に包まれた静謐な里だった。
瓦屋根の家々が整然と並び、庭先には手入れの行き届いた苔庭と風鈴が揺れている。
瘴気がうっすらと漂うものの、外の荒廃と比べれば奇跡的に保たれていた。
「わあ……なんだか、幻想の世界みたいウサ」
「空気が違うにゃん……でも、やっぱり少し重たい気もする」
フィーナとミュリルが里の空気を感じ取りながら目を細める。
そんななか、ひときわ背筋を伸ばした老剣士が門の奥から現れた。
「……サーシャか。生きておったか」
「長老……!」
サーシャが駆け寄り、礼を取る。
イッセイたちも頭を下げると、長老は深くうなずき、静かに手を招いた。
「そなたらも、よく来てくれた。……わしは、この里の長老・ツラギ。事情はすでに聞いておる。部屋を用意した、まずは座って話そう」
***
囲炉裏の火がぱちぱちと鳴る静かな座敷。
お茶の香りと、懐かしいような木のぬくもりに包まれながら、一同は膝を揃えた。
「まずお伝えせねばならぬことがある。……この里を、そしてヒノモトを覆う瘴気の根源について、じゃ」
ツラギ長老は目を閉じ、長く息を吐いた。
「数百年前、この国には“黒炎ノ魔”という災厄が封じられておった。剣の始祖・アマカゲと、霊術師たちによって深山の“封魂殿”に封印され、それ以来この地は安寧を保ってきたのじゃ」
「黒炎ノ魔……?」
イッセイが眉をひそめると、ツラギはうなずく。
「今、瘴気が拡がり始めた地は、その封印に繋がる霊脈の要所ばかり。……何者かが、意図的にその結界を弱らせておる。やがて封印が完全に破られれば──この国は再び“黒炎”に呑まれよう」
「……それが、闇ギルドの狙いなのか」
クラリスが低く呟くと、ルーナがふっと冗談めかして笑った。
「イッセイくん、今回もまた世界を救う旅ってわけね」
「……なんだか、毎回スケールが大きくなってる気がするな」
イッセイが肩をすくめて言うと、皆がクスリと笑った。
だが、その空気を打ち払うように、襖がスッと開く。
「……サーシャ、帰っていたのか」
現れたのは、白と藍の装束を身にまとった、整った顔立ちの青年剣士。
腰には二本の刃、背筋はまっすぐ、ただその眼差しはどこか複雑だった。
「カズヒト……!」
「随分と騒がしいと聞いていたが……他国の者を連れて、何を企んでいる」
「企んでなんかいない! わたしは、ヒノモトを救うために戻ってきたのよ!」
きっぱりと言い切るサーシャ。だが青年──カズヒトは、その視線をイッセイへと移した。
「そちらが……お前の“連れ”か」
「はい、私はイッセイ・アークフェルド。この国と、サーシャを助けたいと思っています」
「……ふん。そう簡単に言うものじゃない。口先だけで“救う”などと」
カズヒトの言葉には、刺々しさと、そして――わずかな嫉妬がにじんでいた。
イッセイは静かに微笑を返す。
「口先だけじゃ、信じてもらえないのは分かってます。でも、やるべきことはきっとある。剣と、想いで証明しますよ」
「……ふむ」
サーシャが少し困ったように苦笑した。
「カズヒトは、わたしの幼馴染で、今はこの里を守っている剣士よ。……ちょっと口が悪いけど、腕は確かよ」
「そちらの剣士さまも、ずいぶんとイッセイくんにご執心ね」
ルーナがくすっと笑い、クラリスは黙ってイッセイの隣にぴたりと寄った。
「さて……長老、この先の計画を聞かせてくれませんか」
イッセイの問いに、ツラギは目を開けて言った。
「黒炎ノ魔の封印地、“封魂殿”への道はすでに瘴気で覆われておる。その前に、三つの“霊灯”を浄化せねばならぬ。霊灯とは、この地を護る三つの結界石──今はそれぞれの地で、守人を失い暴走しておる」
「そこを浄化しながら進むってことね」
「面白くなってきたにゃん」
イッセイは仲間たちの顔を見渡し、真っ直ぐにうなずいた。
「──行こう、サーシャ。君の大切な場所を、取り戻しに」
カグヤの隠れ里を出たイッセイ一行は、山間の獣道を進んでいた。目的は、里の霊灯──ヒノモトに伝わる霊的結界の中枢を浄化すること。霊灯は本来、周囲の瘴気を浄化し、精霊との調和を保つために設けられた神聖な場所だ。
「サーシャ、霊灯ってのは具体的にどうなってるんだ?」
「ふむ。社やしろのような構造の中央に『霊珠れいじゅ』が安置されておる。それが穢れると、霊灯の力も弱まる……という寸法でござるな」
会話を交わしながら、濃くなる瘴気にマフラーを当てて進む一行。途中、崩れた鳥居や倒れた石灯籠が無惨な姿を晒し、かつて神域だった場所が見る影もなく朽ちていた。
「空気が、どんどん重くなってるウサ……」
「ミュリル、前を頼むにゃん。反応があれば教えてにゃ」
「了解にゃんっ」
瘴気の濃度が増す中、前方に精霊の嘆きが渦巻くような気配が満ちていた。やがて、森の奥から異形の唸り声が響く。
「出るぞ、構えろ!」
イッセイが声をかけた瞬間、瘴気の中から現れたのは、獣と蛇が融合したかのような巨大な魔物だった。瞳は濁り、体表は黒い瘴で覆われている。
「瘴気獣──これほど大きいとは……!」
サーシャが構えを取るや否や、カズヒトもすかさず横に立つ。
「イッセイ殿、左右から挟む形で!」
「了解。セリア、援護を」
「は、はい! イッセイ様、後ろは任せてくださいっ」
バトルが始まる。瘴気獣は大蛇のように体を蠢かせ、尾で地面を薙ぎ払う。飛び散る土砂。フィーナが空中から雷撃魔法で牽制し、ミュリルが風の障壁を張る。
「せぇいっ!」
「そこだ、斬るッ!」
サーシャとカズヒトの連携は見事だった。イッセイは一瞬の隙をつき、気を纏った剣で瘴気獣の腹部を斬り裂く。しかし──
「なっ、再生している!?」
斬られた肉が、黒い瘴気を糸のように絡めて繋がっていく。
「瘴気による自己修復か。ならば、浄化するまで斬るだけ!」
イッセイの剣が光を放つ。サーシャとカズヒトも気を一点に集中させ、三者同時の斬撃が放たれる。
「──光輪・断滅こうりん・だんめつッ!!」
閃光とともに、魔物の体が音を立てて砕け散った。
霧が晴れ、静寂が訪れる。
「……終わったか」
セリアが安堵の吐息を漏らし、ミュリルとフィーナが傷の確認に回る。やがて、崩れた神域の奥に、目的の霊灯が姿を現した。
「霊珠が……泣いておる」
サーシャの呟きに、全員の表情が引き締まる。
「やろう。俺たちにできることを」
イッセイは霊珠に手をかざし、仲間たちとともに静かに気を注ぐ。その光は穏やかに、しかし確かに瘴気を押し返し、清らかな風が一帯に吹き渡る──。
「ありがとう、皆」
サーシャの目に、涙が滲んでいた。
その背後で、森のさらに奥に続く別の気配に、イッセイはふと目を向ける──。
(……まだ何かが、ある)
朝靄に包まれた東の平野を抜けた先、丘の斜面から見下ろしたその光景に、一行は思わず足を止めた。遠くに見えるのは、漆黒の瓦屋根と白壁を配した、和の様式で築かれた巨大な城門。そして、その周囲をまるで濁った水墨画のように覆い尽くす──不気味な瘴気の霧。
「っ……あれが、瘴気ってやつか。近づくほどに息苦しくなるな……」
イッセイが額に汗を滲ませながらつぶやくと、隣でルーナがハンカチを取り出して手渡した。
「はい、イッセイくん。汗、拭いてあげる」
「ありがとう、助かる」
そのとき、サーシャは無言のまま視線を門の先に注ぎ続けていた。彼女の瞳には、かつての故郷が瘴気に蝕まれている現実が、何よりも鋭く突き刺さっていた。
「私の、帰る場所が……」
静かに絞り出されたその声には、怒りでも悲しみでもない、無力感が滲んでいた。イッセイはそんな彼女の肩に手を置いた。
「取り戻そう。君の故郷も、人々の暮らしも、全部。俺たちでさ」
「……うん」
その時だった。門の方角から、甲高い警鐘と兵士たちの怒号が響いてきた。
「瘴気獣だァーッ! 門前に三体、突破されるぞ!」
「くっ、行こう!」
イッセイは腰の剣を抜き、サーシャも長刀を引き抜いて霧の中へと駆け出す。続いてクラリス、ルーナ、セリア、ミュリル、フィーナと仲間たちもそれぞれ武器を構えた。
城門前では、まるで獣と鬼が混ざったような異形の存在──瘴気獣が、兵たちを蹴散らしていた。体表から常に瘴気を噴出し、目は赤黒く濁っている。
「囲め! 正面は私が取る!」
サーシャが地を滑るように前へ出て、鋭く斬り込む。
刃が触れた瞬間、瘴気を吹き飛ばす風のような音と共に、獣の前脚が弾け飛んだ。
「おおおおおおっ!」
兵士たちの士気が上がる。
イッセイも剣を構え、瘴気獣の背後に回り込んだ。
「《剣風・破断》!」
剣から放たれた真空の斬撃が獣の胴を一閃。
断末魔をあげて崩れ落ちると、残りの二体も仲間たちによって瞬く間に倒された。
「……ふぅ、これでどうにか城門は守れたか」
イッセイが剣を納めると、周囲の兵士たちが駆け寄ってきた。
「助太刀、感謝いたします! まさか門まで瘴気獣が来るとは……」
「何が起こっているんだ? この国で」
ルーナがやや眉をひそめて問うと、兵士は険しい顔で語り出した。
「二月前、王都でクーデターが起きました。将軍家が襲撃され、今は“名代”と名乗る者が統治を……。それと同時期に、各地に瘴気が現れ始めたんです」
「偶然にしては出来すぎているわね」
クラリスが静かに言い、サーシャが唇を噛んだ。
「それって……まさか、闇ギルドの仕業か?」
「ええ、おそらく。裏では“黒幕”が動いていると噂されています。地方領主の中には闇ギルドと結託した者も多く、街道は閉ざされ、流通も絶たれた状態です」
「……この国を、壊そうとしている誰かがいる」
イッセイは城門の内へと視線を向けた。
そこに広がるのは、かつて「四季の楽園」と呼ばれたヒノモトの景観──しかし今は、瘴気に霞み、木々は枯れ、河は濁っている。
「私の、思い出が……こんな……っ」
サーシャが拳を握りしめる。その肩をイッセイがそっと叩いた。
「進もう、サーシャ。君の隠れ里に。きっと、希望はまだ残ってる」
「……うん。案内するわ。皆、ついてきて」
「……ここが、わたしの故郷……“カグヤの隠れ里”よ」
山深い渓谷を抜け、苔むした石段を登った先に広がっていたのは、霧に包まれた静謐な里だった。
瓦屋根の家々が整然と並び、庭先には手入れの行き届いた苔庭と風鈴が揺れている。
瘴気がうっすらと漂うものの、外の荒廃と比べれば奇跡的に保たれていた。
「わあ……なんだか、幻想の世界みたいウサ」
「空気が違うにゃん……でも、やっぱり少し重たい気もする」
フィーナとミュリルが里の空気を感じ取りながら目を細める。
そんななか、ひときわ背筋を伸ばした老剣士が門の奥から現れた。
「……サーシャか。生きておったか」
「長老……!」
サーシャが駆け寄り、礼を取る。
イッセイたちも頭を下げると、長老は深くうなずき、静かに手を招いた。
「そなたらも、よく来てくれた。……わしは、この里の長老・ツラギ。事情はすでに聞いておる。部屋を用意した、まずは座って話そう」
***
囲炉裏の火がぱちぱちと鳴る静かな座敷。
お茶の香りと、懐かしいような木のぬくもりに包まれながら、一同は膝を揃えた。
「まずお伝えせねばならぬことがある。……この里を、そしてヒノモトを覆う瘴気の根源について、じゃ」
ツラギ長老は目を閉じ、長く息を吐いた。
「数百年前、この国には“黒炎ノ魔”という災厄が封じられておった。剣の始祖・アマカゲと、霊術師たちによって深山の“封魂殿”に封印され、それ以来この地は安寧を保ってきたのじゃ」
「黒炎ノ魔……?」
イッセイが眉をひそめると、ツラギはうなずく。
「今、瘴気が拡がり始めた地は、その封印に繋がる霊脈の要所ばかり。……何者かが、意図的にその結界を弱らせておる。やがて封印が完全に破られれば──この国は再び“黒炎”に呑まれよう」
「……それが、闇ギルドの狙いなのか」
クラリスが低く呟くと、ルーナがふっと冗談めかして笑った。
「イッセイくん、今回もまた世界を救う旅ってわけね」
「……なんだか、毎回スケールが大きくなってる気がするな」
イッセイが肩をすくめて言うと、皆がクスリと笑った。
だが、その空気を打ち払うように、襖がスッと開く。
「……サーシャ、帰っていたのか」
現れたのは、白と藍の装束を身にまとった、整った顔立ちの青年剣士。
腰には二本の刃、背筋はまっすぐ、ただその眼差しはどこか複雑だった。
「カズヒト……!」
「随分と騒がしいと聞いていたが……他国の者を連れて、何を企んでいる」
「企んでなんかいない! わたしは、ヒノモトを救うために戻ってきたのよ!」
きっぱりと言い切るサーシャ。だが青年──カズヒトは、その視線をイッセイへと移した。
「そちらが……お前の“連れ”か」
「はい、私はイッセイ・アークフェルド。この国と、サーシャを助けたいと思っています」
「……ふん。そう簡単に言うものじゃない。口先だけで“救う”などと」
カズヒトの言葉には、刺々しさと、そして――わずかな嫉妬がにじんでいた。
イッセイは静かに微笑を返す。
「口先だけじゃ、信じてもらえないのは分かってます。でも、やるべきことはきっとある。剣と、想いで証明しますよ」
「……ふむ」
サーシャが少し困ったように苦笑した。
「カズヒトは、わたしの幼馴染で、今はこの里を守っている剣士よ。……ちょっと口が悪いけど、腕は確かよ」
「そちらの剣士さまも、ずいぶんとイッセイくんにご執心ね」
ルーナがくすっと笑い、クラリスは黙ってイッセイの隣にぴたりと寄った。
「さて……長老、この先の計画を聞かせてくれませんか」
イッセイの問いに、ツラギは目を開けて言った。
「黒炎ノ魔の封印地、“封魂殿”への道はすでに瘴気で覆われておる。その前に、三つの“霊灯”を浄化せねばならぬ。霊灯とは、この地を護る三つの結界石──今はそれぞれの地で、守人を失い暴走しておる」
「そこを浄化しながら進むってことね」
「面白くなってきたにゃん」
イッセイは仲間たちの顔を見渡し、真っ直ぐにうなずいた。
「──行こう、サーシャ。君の大切な場所を、取り戻しに」
カグヤの隠れ里を出たイッセイ一行は、山間の獣道を進んでいた。目的は、里の霊灯──ヒノモトに伝わる霊的結界の中枢を浄化すること。霊灯は本来、周囲の瘴気を浄化し、精霊との調和を保つために設けられた神聖な場所だ。
「サーシャ、霊灯ってのは具体的にどうなってるんだ?」
「ふむ。社やしろのような構造の中央に『霊珠れいじゅ』が安置されておる。それが穢れると、霊灯の力も弱まる……という寸法でござるな」
会話を交わしながら、濃くなる瘴気にマフラーを当てて進む一行。途中、崩れた鳥居や倒れた石灯籠が無惨な姿を晒し、かつて神域だった場所が見る影もなく朽ちていた。
「空気が、どんどん重くなってるウサ……」
「ミュリル、前を頼むにゃん。反応があれば教えてにゃ」
「了解にゃんっ」
瘴気の濃度が増す中、前方に精霊の嘆きが渦巻くような気配が満ちていた。やがて、森の奥から異形の唸り声が響く。
「出るぞ、構えろ!」
イッセイが声をかけた瞬間、瘴気の中から現れたのは、獣と蛇が融合したかのような巨大な魔物だった。瞳は濁り、体表は黒い瘴で覆われている。
「瘴気獣──これほど大きいとは……!」
サーシャが構えを取るや否や、カズヒトもすかさず横に立つ。
「イッセイ殿、左右から挟む形で!」
「了解。セリア、援護を」
「は、はい! イッセイ様、後ろは任せてくださいっ」
バトルが始まる。瘴気獣は大蛇のように体を蠢かせ、尾で地面を薙ぎ払う。飛び散る土砂。フィーナが空中から雷撃魔法で牽制し、ミュリルが風の障壁を張る。
「せぇいっ!」
「そこだ、斬るッ!」
サーシャとカズヒトの連携は見事だった。イッセイは一瞬の隙をつき、気を纏った剣で瘴気獣の腹部を斬り裂く。しかし──
「なっ、再生している!?」
斬られた肉が、黒い瘴気を糸のように絡めて繋がっていく。
「瘴気による自己修復か。ならば、浄化するまで斬るだけ!」
イッセイの剣が光を放つ。サーシャとカズヒトも気を一点に集中させ、三者同時の斬撃が放たれる。
「──光輪・断滅こうりん・だんめつッ!!」
閃光とともに、魔物の体が音を立てて砕け散った。
霧が晴れ、静寂が訪れる。
「……終わったか」
セリアが安堵の吐息を漏らし、ミュリルとフィーナが傷の確認に回る。やがて、崩れた神域の奥に、目的の霊灯が姿を現した。
「霊珠が……泣いておる」
サーシャの呟きに、全員の表情が引き締まる。
「やろう。俺たちにできることを」
イッセイは霊珠に手をかざし、仲間たちとともに静かに気を注ぐ。その光は穏やかに、しかし確かに瘴気を押し返し、清らかな風が一帯に吹き渡る──。
「ありがとう、皆」
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