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第八章 聖なる記憶と千年の封印
決戦前夜と心の剣
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聖なる山脈を背にそびえる神殿都市ラストリア。その外縁部に位置する巡礼者用の宿泊地は、今夜も多くの灯火に彩られていた。
だが、その夜の空気は、まるで世界の命運を包み込むような重苦しさを孕んでいた。
「……いよいよ明日、だな」
木製のベンチに腰掛けたイッセイは、夜風に吹かれながら呟く。静寂に包まれた中庭。月光が彼の白い旅装を照らし出し、その眼差しには迷いと決意が入り混じっていた。
「イッセイくん、こんなところで一人きりなんて、寂しいじゃない」
そう言って現れたのはルーナだった。彼女は髪を緩くまとめ、手には温かいハーブティーを二つ持っていた。
「ありがとう、ルーナ。……眠れなかったのか?」
「そりゃあね。明日、わたしたち、たぶん……」
言葉を飲み込むルーナに、イッセイは微笑を返す。
「明日、誰かが傷つくのは避けたい。でも、それ以上に、誰かを守るために戦わなければならないんだ」
ルーナは一瞬だけ涙ぐんだが、すぐに誇らしげな笑みを浮かべた。
「イッセイくんがそう言うなら、私は信じるよ。絶対、全部守って帰ってくるって」
その言葉に、彼は力強く頷いた。
一方、神殿近くの小高い丘では、サーシャが一人、月に向かって木刀を振るっていた。
「……未熟。まだまだ、これしきでは心が乱れる」
その声に応えるように、草の音を立てて現れたのはシャルロッテだった。彼女は羽織を肩から掛け、どこか緊張した面持ちで立ち尽くしていた。
「サーシャ。……明日が怖い?」
「怖くなどない。だが……仲間を失うのはもうごめんだ」
一拍の沈黙の後、シャルロッテがぽつりと口を開いた。
「私も……森を守れなかったこと、今でも夢に見る。でも、あのときイッセイ様たちが手を取ってくれたから、今こうしてここにいられる」
「ならば、私たちが次に手を伸ばす番か」
サーシャの声は凛としていて、剣士の覚悟がこもっていた。
夜が更け、宿舎ではそれぞれの部屋で仲間たちが最後の準備を進めていた。
ミュリルは布団に寝転がったまま、窓の外に浮かぶ月を見上げていた。
「にゃん……明日、誰も泣かせたくないにゃん……」
「きっと、大丈夫ウサよ」
隣のベッドでフィーナが微笑む。彼女は明日のための魔道具を丁寧に整えていた。
「私たち、何度も乗り越えてきたウサ。今回も、信じて前に進むウサ!」
「うんにゃん……イッセイ、絶対守るにゃん!」
その瞬間、扉の向こうで声がした。
「おい、女子たち、まだ起きてるのか?」
セリアだった。
「ツンデレ騎士、就寝命令違反でありますな!」
「違うわよっ! あんたたちが騒いでるから……って、ちょっとだけ様子見に来ただけよ!」
そこにクラリスも顔を出した。
「みんな……怖がっているのね。でも、だからこそ私は王族として、命を懸けてこの旅に意味を与えるわ」
重い空気を、あえて騒がしさで打ち消すような彼女たちのやりとりは、まるで“決戦前の家族の団らん”のようだった。
イッセイはその様子を廊下から見守りながら、心の中で強く誓った。
(絶対に……全員で、無事に帰る)
その誓いは、確かに月夜に響いた。
――そして、運命の朝が近づいていた。
聖女リアナが眠る神殿の前。焚き火の火が静かに揺らめく中、イッセイは一人、剣を膝に置いて座っていた。
「……来るか」
背後の気配に気づいたイッセイが振り返ると、ルーナがそっと近づいてきた。月光の下、彼女の銀髪が揺れる。
「イッセイくん、こんな夜中に……眠れないの?」
「ま、そういう夜ってあるだろ。……明日が決戦だって考えると、な」
ルーナは隣に腰を下ろし、焚き火に手をかざした。
「みんな、気丈にしてるけど、やっぱり怖いんだと思う。……私も、怖い」
「それでも来てくれた。おまえたちがいるから、俺は折れずにいられる」
そう言ったイッセイの声は静かで、しかし確かに強さを秘めていた。
「……私ね、明日、死ぬかもしれないって思ったら、どうしても伝えたくて」
ルーナはそっとイッセイの腕に触れる。
「ありがとう。イッセイくん。私、あなたと一緒に旅ができて、本当に幸せだった」
イッセイはその手を握り返し、微笑んだ。
「生きて帰ろう、ルーナ。必ず」
二人が見つめ合ったその瞬間、草陰からひょこっと頭を出したのはミュリルだった。
「にゃ、夜のお散歩かと思ったら……お邪魔だったかにゃ?」
「ミュリル……おまえ、覗きか?」
「ちがうにゃ! たまたま通りかかっただけにゃん!」
そこへ、リリィとクラリス、セリアも加わり、次々と集まってくる。気づけば、焚き火の周囲はおなじみの顔ぶれでいっぱいになっていた。
「まったく……ロマンチックも何もあったもんじゃないわね」
「でも、それもイッセイらしいというか……ふふっ」
笑い合う中、イッセイはふっと立ち上がった。
「みんな、来てくれてありがとう。俺も正直、怖い。だけどな……」
イッセイは仲間たちを見渡す。
「おまえたちがいるから、負ける気がしない。おまえたちが背中を預けてくれる限り、俺は何度でも立ち上がる」
その言葉に、皆がうなずいた。
「行こうぜ、勝って、リアナを救うんだ」
「うん……絶対に!」
「……我らが剣と魔法は、希望のために」
「ぐずぐずしてたら置いてくにゃ!」
イッセイの剣に、仲間たちの思いが宿る。いま、一つの心が剣となった。
夜は静かに明けていく。決戦の幕は、もうすぐ上がる――。
だが、その夜の空気は、まるで世界の命運を包み込むような重苦しさを孕んでいた。
「……いよいよ明日、だな」
木製のベンチに腰掛けたイッセイは、夜風に吹かれながら呟く。静寂に包まれた中庭。月光が彼の白い旅装を照らし出し、その眼差しには迷いと決意が入り混じっていた。
「イッセイくん、こんなところで一人きりなんて、寂しいじゃない」
そう言って現れたのはルーナだった。彼女は髪を緩くまとめ、手には温かいハーブティーを二つ持っていた。
「ありがとう、ルーナ。……眠れなかったのか?」
「そりゃあね。明日、わたしたち、たぶん……」
言葉を飲み込むルーナに、イッセイは微笑を返す。
「明日、誰かが傷つくのは避けたい。でも、それ以上に、誰かを守るために戦わなければならないんだ」
ルーナは一瞬だけ涙ぐんだが、すぐに誇らしげな笑みを浮かべた。
「イッセイくんがそう言うなら、私は信じるよ。絶対、全部守って帰ってくるって」
その言葉に、彼は力強く頷いた。
一方、神殿近くの小高い丘では、サーシャが一人、月に向かって木刀を振るっていた。
「……未熟。まだまだ、これしきでは心が乱れる」
その声に応えるように、草の音を立てて現れたのはシャルロッテだった。彼女は羽織を肩から掛け、どこか緊張した面持ちで立ち尽くしていた。
「サーシャ。……明日が怖い?」
「怖くなどない。だが……仲間を失うのはもうごめんだ」
一拍の沈黙の後、シャルロッテがぽつりと口を開いた。
「私も……森を守れなかったこと、今でも夢に見る。でも、あのときイッセイ様たちが手を取ってくれたから、今こうしてここにいられる」
「ならば、私たちが次に手を伸ばす番か」
サーシャの声は凛としていて、剣士の覚悟がこもっていた。
夜が更け、宿舎ではそれぞれの部屋で仲間たちが最後の準備を進めていた。
ミュリルは布団に寝転がったまま、窓の外に浮かぶ月を見上げていた。
「にゃん……明日、誰も泣かせたくないにゃん……」
「きっと、大丈夫ウサよ」
隣のベッドでフィーナが微笑む。彼女は明日のための魔道具を丁寧に整えていた。
「私たち、何度も乗り越えてきたウサ。今回も、信じて前に進むウサ!」
「うんにゃん……イッセイ、絶対守るにゃん!」
その瞬間、扉の向こうで声がした。
「おい、女子たち、まだ起きてるのか?」
セリアだった。
「ツンデレ騎士、就寝命令違反でありますな!」
「違うわよっ! あんたたちが騒いでるから……って、ちょっとだけ様子見に来ただけよ!」
そこにクラリスも顔を出した。
「みんな……怖がっているのね。でも、だからこそ私は王族として、命を懸けてこの旅に意味を与えるわ」
重い空気を、あえて騒がしさで打ち消すような彼女たちのやりとりは、まるで“決戦前の家族の団らん”のようだった。
イッセイはその様子を廊下から見守りながら、心の中で強く誓った。
(絶対に……全員で、無事に帰る)
その誓いは、確かに月夜に響いた。
――そして、運命の朝が近づいていた。
聖女リアナが眠る神殿の前。焚き火の火が静かに揺らめく中、イッセイは一人、剣を膝に置いて座っていた。
「……来るか」
背後の気配に気づいたイッセイが振り返ると、ルーナがそっと近づいてきた。月光の下、彼女の銀髪が揺れる。
「イッセイくん、こんな夜中に……眠れないの?」
「ま、そういう夜ってあるだろ。……明日が決戦だって考えると、な」
ルーナは隣に腰を下ろし、焚き火に手をかざした。
「みんな、気丈にしてるけど、やっぱり怖いんだと思う。……私も、怖い」
「それでも来てくれた。おまえたちがいるから、俺は折れずにいられる」
そう言ったイッセイの声は静かで、しかし確かに強さを秘めていた。
「……私ね、明日、死ぬかもしれないって思ったら、どうしても伝えたくて」
ルーナはそっとイッセイの腕に触れる。
「ありがとう。イッセイくん。私、あなたと一緒に旅ができて、本当に幸せだった」
イッセイはその手を握り返し、微笑んだ。
「生きて帰ろう、ルーナ。必ず」
二人が見つめ合ったその瞬間、草陰からひょこっと頭を出したのはミュリルだった。
「にゃ、夜のお散歩かと思ったら……お邪魔だったかにゃ?」
「ミュリル……おまえ、覗きか?」
「ちがうにゃ! たまたま通りかかっただけにゃん!」
そこへ、リリィとクラリス、セリアも加わり、次々と集まってくる。気づけば、焚き火の周囲はおなじみの顔ぶれでいっぱいになっていた。
「まったく……ロマンチックも何もあったもんじゃないわね」
「でも、それもイッセイらしいというか……ふふっ」
笑い合う中、イッセイはふっと立ち上がった。
「みんな、来てくれてありがとう。俺も正直、怖い。だけどな……」
イッセイは仲間たちを見渡す。
「おまえたちがいるから、負ける気がしない。おまえたちが背中を預けてくれる限り、俺は何度でも立ち上がる」
その言葉に、皆がうなずいた。
「行こうぜ、勝って、リアナを救うんだ」
「うん……絶対に!」
「……我らが剣と魔法は、希望のために」
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夜は静かに明けていく。決戦の幕は、もうすぐ上がる――。
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