侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第八章 聖なる記憶と千年の封印

神の座、真実の奇跡

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 静謐な朝――。

 聖教国アルフェリアの聖域《神光の聖堂》。その奥深く、神話に語られる「神の座」へと続く封印の扉が、今まさに開かれようとしていた。



「……これが、神の座か」

 イッセイは足を止め、白銀に輝く巨大な石柱群を見上げる。空から降り注ぐ光はまるで天の裂け目のようで、見上げた者の魂すら浄化するかのようだった。



「これ、空間そのものが……魔力の海に満たされてるウサ」

 フィーナが魔導センサーを手にしたまま呟く。



「霊的密度が高すぎる……これはただの封印空間じゃない。ここには“神格”に近い存在がいた痕跡がある」

 シャルロッテが精霊語の碑文を指差す。「記録によれば、ここは“神に選ばれし者”だけが入ることを許された聖域だって――」



「つまり……リアナ様がここで、最後の封印を……」

 クラリスの声が震える。聖女リアナ。千年前、魔王を封印したとされる奇跡の巫女。

 だが、彼女の記録は一切の公的文献から削除されていた。



「私は信じてるよ。リアナ様は“記録を消された存在”じゃない。きっと“真実を守るために、姿を隠された存在”だ」

 ルーナの静かな言葉に、一同は黙ってうなずいた。



 そして、扉が開かれる――。



 ゴゴゴゴゴッ……!



「イッセイくん……っ! 気をつけて!」

 ルーナの声に、イッセイは剣を抜いた。



 開かれた聖域の中には、かつて見たこともない機構と魔術式が整然と並んでいた。中枢には、一基の台座――。その中央に、光に包まれた《封印の核》が静かに浮かんでいた。



「これは……“世界記憶封印装置”」

 レミィが驚愕に目を見開く。「伝説級の術式だよ。これは、単なる人間じゃ到底組めるものじゃない」



「つまり、リアナは人間ではなかった可能性もある、ということか」

 イッセイが口にしたその瞬間、――空間が、歪んだ。



『ようこそ、賢者たちよ』

 声が響く。それは言葉ではなく、直接脳内へと伝わってきた。



『我は神の代行者――かつてこの地に《神の光》をもたらした者……我が名は――』



 その瞬間、光の柱が炸裂し、幻影が浮かび上がる。



 そこには、白い衣を纏った一人の女性――



「……リアナ、様……?」

 クラリスの目に涙が滲む。

 幻影はうっすらと微笑んだ。



『我が名はリアナ。この世界に《奇跡》をもたらした者――しかし、それは《神々の禁忌》に触れた代償であった』



 その言葉に、誰もが息を呑む。



『封印は破られつつある。世界が再び、“魔王の血”に蝕まれようとしている――』



 リアナの幻影が消えると同時に、台座が震え、装置の一部が崩れた。



「これは……! 封印が不安定に……っ!」

 フィーナが叫ぶ。



「間に合わないかもしれない――!」

 セリアが剣を構える。



 そして、空間の裂け目から現れたのは――黒衣の女、ヴァルティア。

 “偽りの聖女”として地下で語られていた、もう一つの聖女。



「……やはり来たか、神の座に相応しくない者たち」

 ヴァルティアの瞳は、氷のように冷たく――その背後には、異形の魔物が蠢いていた。



「神の名の下に、この座を穢す者どもを粛清する――」



 かくして、“真の奇跡”を巡る戦いが、幕を開ける。



 白銀の空間が一変し、狂気と瘴気に染まりゆく。



「くっ、これは……瘴気の波動……!?」

 ミュリルが身を縮め、猫耳を立たせて警戒する。



 神の座に降り立った“偽りの聖女”ヴァルティアは、漆黒のドレスを翻しながら一歩前へ。背後には異形の魔物――腐肉を纏った龍蛇のような獣が唸り声を上げていた。



「神の奇跡など、所詮は欺瞞。真に世界を救うのは“選ばれた者の力”だけ」

 ヴァルティアの声には確かな狂信が宿っていた。「私こそが“神の奇跡”そのもの……!」



「言ってる意味がまるでわかんないウサ!」

 フィーナが叫ぶ。「神の座で暴れるとか、いちばんやっちゃダメなやつウサ!!」



「……それでも、ここを守らなければ……!」

 クラリスが震える手で杖を握りしめる。目の奥には、リアナの幻影の残光が宿っていた。



「行くよ、みんな!」

 イッセイの号令と同時に、空間が震えた。



 ──激戦が始まる。



「剣よ、雷鳴と共に我が刃となれ!《雷迅の構え・壱ノ型!》」

 イッセイが地を蹴り、ヴァルティアへと一閃。青白い雷が刀身を走る。



 しかし――。



「……甘い」

 ヴァルティアの手から放たれたのは、純粋な“拒絶”の力。空間を歪ませ、攻撃を受け流す。



「っ、ぐ……!? この魔力、まるで……重い空気を殴ってるみたいだ……!」



「援護に入るウサ!」

 フィーナが空中に魔導陣を展開。「《泡光結界》、発動!」



 眩い泡の結晶が弾け、衝撃を和らげた瞬間――



「《黒爪連牙陣》、にゃん!」

 ミュリルが宙を舞い、影のような斬撃を立て続けに放つ。



「チッ……小賢しい真似を」

 ヴァルティアは髪を払うようにしながら、禍々しい魔導術式を発動。魔物が口を開き、瘴気の奔流を吐き出した。



「うっ、これはヤバい……っ!」

 ルーナがリリィと共に後衛を守るために立ち塞がる。



「《清浄の光》……!」

 リリィの石鹸のような香りと共に、空間を洗い流す清浄魔法が広がった。



「無駄だ、私の“闇”は信仰の光すら覆い尽くす……!」



「させるかよ!」

 イッセイが叫び、再び突撃する。



「《霊神雷閃・奥義──封刃雷迅穿》!」



 稲妻が迸る。ヴァルティアは避けきれず、肩口に斬撃を受けるも笑みを浮かべた。



「……さすがは“選ばれし者”イッセイ。でも、ここで死んでもらう」



 次の瞬間、彼女の背後――空間が裂け、闇そのもののような“魔核”が姿を見せる。



「これが……瘴気の本体!?」

 レミィが震える。「まさか、リアナ様の封印を逆に……!」



「サーシャ!」

 イッセイが叫ぶ。



「ああ、わかっておる」

 サーシャが神妙な面持ちで剣を構える。「これ以上、この地を穢させはせぬ!」



 精霊の声が響く。



《汝、契約者。祈りを我が刃に……》



「《真・霊装解放》……!」

 サーシャの体が淡く光に包まれ、銀の羽織が現れる。



「イッセイ殿……参るぞ」



「――ああ、一緒に決着をつけるんだ!」



 二人は息を合わせ、最後の奥義を放つ。



「《霊雷双斬・終之型》!!」



 雷と精霊の輝きが交差し、空間を一刀両断する。



「……なぜだ……私こそが、神の……」

 ヴァルティアの身体が砕け、闇と共に消えていく。



「……ありがとう……リアナ……」



 その場に残された封印装置が、再び穏やかな光を放つ。



 イッセイたちは、破壊されかけた《神の座》を一時的に修復し、深い呼吸をついた。



「……奇跡は、奪うものじゃない。信じる者が生むんだ」

 イッセイの言葉に、皆が静かにうなずいた。



 こうして、“真実の奇跡”は守られた。

 だが、それはまだ序章に過ぎなかった。



 ――闇の中、何者かの“視線”が、彼らを見つめていた。
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