侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

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第九章 浮遊諸島の聖女と時の遺跡

封印の守護者と時の門

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浮遊諸島の中心、風と光の精霊が交差する聖域。イッセイたちは封印の神殿「時の門」へと到達していた。



「……ここが、聖域の中枢か」



神殿の前に立つイッセイは、風にたなびく白い外套を押さえながら、古代の意匠が施された大扉を見上げた。複雑な紋章と幾重にも重ねられた封呪の刻印が、まるで時の流れそのものを閉ざしているかのようだった。



「見て、イッセイくん。この扉……魔法文字じゃない、これ、精霊語よ」



ルーナが金の瞳を見開いて声を上げた。



「しかも、相当古いわ。記録されているだけでも数百年前の言語体系……ここに来るべくして来たのね、私たち」



「封印の奥には、まだ何かが眠っているのかもしれません」



シャルロッテが低く呟き、神殿の土台に膝をついて耳を澄ませる。



「……聞こえる。時の精霊たちの囁き。彼らは“選ばれし者”を待っている。門の奥には、時間を超えた記憶があるって」



「時を超えた記憶、か……。つまり、この門をくぐれば、千年前の真実に触れられる可能性があるってことか」



イッセイが腕を組みながら、扉に刻まれた「時の審問」という文字に視線を落とした。



「しかし問題は――これをどう開けるかだな」



「その必要は、ないのだよ」



突如、静寂を裂くように声が響いた。空間がわずかに歪み、ゆらりと姿を現したのは、一人の男だった。



「っ……お前は、前に一度見かけた……!」



「ふふ、覚えていて光栄だよ、イッセイ=アークフェルド殿。闇ギルド――ではなく、『調停者』として名乗らせてもらおう」



長髪をなびかせたその男は、宙に浮いたまま、まるでこの空間すらも己の領域であるかのような振る舞いで立っていた。どこか機械的な笑みを浮かべ、彼は軽く右手を掲げる。



「神殿の封印は、この“時の鍵”で解かれる」



男の掌に浮かんだのは、精霊石と同じ波動を放つ六角形の鍵。



「待て……なぜお前がその鍵を?」



「理由は一つ。これが、“選別の儀”だからさ」



彼の言葉とともに、神殿の扉が軋むように震えた。そして……次の瞬間。



バアァァン――!



突如、空間が激しく震え、周囲に風の渦が巻き起こる。封印が強引に解かれていく。



「やめろ! その門は、勝手に開いていい場所じゃない!」



「承知しているよ。だがね、試練の先に立つ者こそが“真実”に触れるべきだと、私は考えている。――君たちがその資格を持っているか、確かめさせてもらうよ」



神殿の扉が開かれると同時に、光の中から無数の影が溢れ出した。人の形をした幻影、剣を携えた戦士、獣のような異形。それらは過去に神殿を守った“守護者たち”の記憶であり、試練そのものだった。



「こっちにくるよっ! イッセイくん、構えて!」



ルーナが叫び、杖を構える。



「くっ、完全に狙われているにゃ……!」



ミュリルが後方に飛びのき、仲間たちに癒しの結界を張る。



「どうやら――ここで力を示すしかなさそうだな」



イッセイが剣を抜き、仲間たちへと視線を向ける。



「――行くぞ! 俺たちの力で、この“時の門”を超える!」



吹き荒れる風の中、試練の影が舞い、仲間たちは次々と構えを取った。



神殿の扉が完全に開いたその先に、過去と未来が交錯する「審問の間」が広がっているとも知らず――。



「ルーナ、左からもう一体来るぞ!」



「ええ、わかってる!」



白銀の閃光が空を裂き、ルーナの魔術が幻影の戦士を一掃する。だが、それはほんの一部にすぎなかった。



神殿の内部、「審問の間」はまるで迷宮のように複雑に広がっていた。幾何学模様に沿って配置された石柱。時間が凍てついたような静寂。そして、その中心に浮かぶ水晶の祭壇。



「この空間……時が歪んでる。現実と記憶の境界が、曖昧になってる……」



シャルロッテが息を詰めながら呟いた。彼女の耳が微かに震え、精霊語の囁きに集中している。



「ここには、過去に挑んだ者たちの記憶が刻まれているの。生きて帰った者はいない……それが、時の門の“審問”」



「つまり、こいつらは“選ばれなかった”奴らってわけか……」



イッセイが歯を食いしばりながら剣を構え直す。その刃は既に数度、幻影の剣と交わっていたが、疲労は増すばかり。



「ちょっと、まだ来る気!? セリア、援護っ!」



「言われなくても!」



セリアが短剣を一閃し、背後から迫っていた幻影を払い落とす。続けざまに、クラリスが剣を抜いて叫ぶ。



「……皆、囲まれてる! 一点突破を!」



「了解――ミュリル、結界を展開してくれ!」



「にゃん、任せてにゃ!」



仲間たちが連携し、空間の中心、水晶の祭壇へと向かって突き進む。瘴気ではない、記憶の瘴霧ともいえる存在が足元からからみつき、心を鈍らせようとしていた。



「これは“試練”じゃない。“選別”よ……!」



シャルロッテが立ち止まり、精霊語で何かを唱える。祭壇が一瞬、淡く輝き、幻影の動きが止まった。



「今よ、イッセイくん!」



「――行くぞッ!!」



イッセイが跳躍し、剣を真一文字に振るう。刃が水晶に触れた瞬間、空間が砕けるように波紋を広げ――すべての幻影が霧散した。



「……消えた?」



「これは、祭壇に触れることで“試練”を超えたと判断されたのかもしれません」



シャルロッテが浅く息をつきながら、そっと水晶を見つめた。



「中に……記録があるわ」



水晶の中には、淡く光る記憶の結晶が浮かんでいた。映し出されたのは、かつての聖女リアナの姿。



「この場所で……封印が行われたのか」



映像は静かに語り出した。千年前、魔王との最終決戦。世界の崩壊を防ぐため、聖女リアナは己の命と記憶を代償に封印を施した。そして、それが“歴史”から抹消された理由だった。



「……だから、誰も彼女のことを語らないんだ」



クラリスが拳を握る。その横でルーナも小さく頷いた。



「封印が続く限り、彼女は“いなかったこと”になる……でも、それも限界が近いってこと」



「見て。封印の柱が……微かに、亀裂が……」



シャルロッテの指差す先、聖域の奥に伸びる巨大な柱の一角が、音もなく崩れかけていた。



「これは……封印の“ほころび”……?」



「時間の流れで、封印の魔法が劣化してるにゃ……!」



「つまり、このままだと……魔王が復活するということか」



イッセイの言葉に、誰もが沈黙した。



だが次の瞬間、ルーナが前を向いて言った。



「なら、今度は私たちが守ればいいのよ」



「聖女リアナが守った世界を、今度は私たちが守る。それだけじゃない」



クラリスも進み出て、言葉を継ぐ。



「――彼女の存在も、記憶も。絶対に“消させない”。それが、私たちの“次の使命”」



「ふふ……やっと、旅が“本当の冒険”になってきたにゃ」



ミュリルが微笑み、フィーナが小さく呟いた。



「世界を巡る旅……データとしても、最高の変化ウサ」



そして、イッセイは皆を見渡しながら、静かに頷いた。



「行こう。――今度こそ、世界の真実を知るために」



そして一行は、再び進む。封印の奥に眠る“記憶”と、失われた“祈り”の真実を求めて――。
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