侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。

文字の大きさ
85 / 214
第九章 浮遊諸島の聖女と時の遺跡

聖女の記憶と微笑みの幻影

しおりを挟む
「ここが……“聖女の眠りし泉”――か」



イッセイは霧の立ちこめる森の奥、淡く光る水面を見つめた。周囲は静まり返り、まるで時間そのものが止まっているかのような感覚に包まれていた。



「気配が……柔らかくて、でもどこか儚いにゃ……」



ミュリルが猫耳を揺らしながら、そっと足音を殺して周囲を見渡す。



聖都から精霊碑の導きを辿ってたどり着いたこの泉こそ、かつて聖女リアナが「最後の祈り」を捧げたとされる場所。



「精霊の流れが穏やかです。ここは……記憶の眠る“聖域”かもしれません」



シャルロッテが目を閉じ、森の空気に耳を澄ます。その表情はどこか緊張と畏敬を帯びていた。



「本当にここに“聖女リアナ”の記憶があるの?」



クラリスが問いかけると、フィーナが頷いた。



「泉の底に、“記録結晶”があるはずウサ。けど、そう簡単には……」



その言葉と同時に、泉の中央が波打ち、ひとりの少女の幻影が現れた。



「……っ! 誰……?」



イッセイが警戒して前に出ようとするのを、ルーナが手で制した。



「……待って。あれは――」



幻影の少女は、純白の法衣を纏い、澄んだ瞳でこちらを見つめていた。だが、その表情はどこか虚ろで、記憶の底から掘り起こされたような曖昧さを宿していた。



「――リアナ……?」



誰からともなく漏れた声に、幻影の少女がふわりと微笑んだ。



「ようこそ……旅人たち。ここは、私の“祈りの終着点”」



その声は風に溶けるように優しく、けれどどこか寂しさが滲んでいた。



「リアナ様……本当に、あなたが……?」



クラリスが一歩踏み出し、震える声で尋ねた。



幻影は首を振る。



「私は……記憶の残滓。ただ、ここに刻まれた“想い”が形を取ったもの。あなたたちがこの地に辿り着いた時、その魂が呼応しただけ」



「記憶……なら、あなたは私たちに“何を”見せようとしてるの?」



シャルロッテの問いに、幻影はゆっくりと手を差し伸べた。



「この泉の底に、“真実”がある。それは痛みでもあり、希望でもある。知る覚悟があるのなら――」



彼女の指先が光り、泉の水が波紋を描くように広がっていく。そして、映し出されたのは千年前の戦場――。



「これ……っ!」



「魔王との最終戦……?」



イッセイたちは声を呑んだ。そこには、聖女リアナが剣を掲げ、数多の仲間たちと共に絶望に立ち向かう姿が映っていた。



「私は、世界を救うために“記憶の封印”を選んだ。けれど、それは仲間の存在さえも、世界から消し去ることになった」



リアナの幻影が、水面に手を触れながら語る。



「私が消えたあと……誰も、私たちの戦いを語らなくなった。歴史が、思い出が、“存在そのもの”を閉じ込めてしまったの」



「……辛かったんだね、リアナさん」



ミュリルがそっと涙を拭いながら呟く。



「ねぇ……助けられないの? 今からでも、あなたのことを“もう一度”世界に伝えることって……」



その言葉に、幻影が静かに微笑んだ。



「ありがとう。けれど、それはあなたたちの“選択”に委ねられるべきこと。私はもう……ここで祈り続けるだけ」



そう言った瞬間、水面が急激にざわついた。



「っ!? 何か来るわ、魔力の乱流よ!」



シャルロッテが身構え、同時に幻影のリアナが急ぎ口を開く。



「急いで……この泉の底にある記録結晶を――!」



「でも、この気配は……!」



「魔力の“監視者”ウサ! 記録に干渉しようとする者を消すための防衛機構だウサ!」



水面から這い出してきたのは、黒いマントを纏った無数の影。それぞれが不気味な仮面をつけ、異様な魔力を纏っていた。



「っ、来るよイッセイくん!」



「行くぞ――全員、配置につけ! ここで退いたら、リアナの記憶は……!」



彼らが再び剣を握るその横で、幻影のリアナは静かに口を開いた。



「私は……あなたたちを、信じてる」



その言葉が、戦いの始まりの鐘となった。



――その声とともに、黒き“監視者”たちが動いた。



「数が多すぎるっ! 一体、どこから湧いて――!」



クラリスが後退しながら叫ぶ。仮面の影たちは静かに滑るように地を這い、無音で接近してくる。まるで意志を持たぬ死者の群れのように、ただ“記録結晶を守る”という機能だけを遂行するかのようだった。



「お、おそろしいのにゃ……っ。でも、やるしかないにゃ!」



ミュリルが小さな体で結界を展開し、仲間たちの周囲に光の壁を作り出す。



「イッセイ、前に出るわよ! リリィ、支援を!」



「了解っ、攻撃魔法――泡泡バースト・展開!」



リリィの杖から無数の泡が飛び出し、監視者たちの視界を覆った。その隙に、イッセイとサーシャが一気に突撃する。



「――はあっ!」



「そこっ、隙ありだッ!」



二人の剣が黒き監視者たちを次々に斬り裂いていく。が、それはまるで“虚無”を斬るような感触。傷ついても倒れず、幾度でも立ち上がってくる。



「くっ、切っても切ってもキリがない……!」



「イッセイ、奴らは“存在”を固定されていない。これは――概念的な守護者ウサ!」



フィーナが叫ぶ。



「ならば、“存在を確定させる魔力”で打ち破るしかない――!」



「任せてっ!」



シャルロッテが指を鳴らすと、彼女の足元から精霊文字が発光し始めた。



「風よ、星の加護よ……我に“真理の名”を!――《精霊結印・名顕ノ印章》!」



シャルロッテの魔法が発動すると、監視者たちの動きが一瞬鈍った。



「今だっ!」



イッセイとサーシャが間をすり抜け、泉の中央へと走る。



その先――そこに、淡い金色の結晶が水底で輝いていた。



「これが……リアナの“記録結晶”……!」



だが、その瞬間、最後の監視者が巨大な姿をとって立ちはだかった。



「ぐっ……お前が“主格個体”か……!」



仮面の中央が割れ、中から黒い炎のような魔力が噴き出す。



「イッセイ、下がれ。これは……私が斬る!」



サーシャが抜刀の構えを取った。



「――“抜けば斬る”。それが、我が剣の定め……!」



風が止まった。



サーシャの瞳が、研ぎ澄まされた刃のごとく鋭くなる。



「――“彼岸閃華・朧月”!」



サーシャの剣がひと閃。闇の巨影を――縦に裂いた。



「……ふっ……」



剣を収めた瞬間、巨影は崩れ、闇は晴れた。



水底の結晶が、静かに浮かび上がる。



「……終わった……のか?」



イッセイが力なく膝をつく。ミュリルが急いで駆け寄り、治癒魔法をかける。



「にゃんとも大変だったにゃ……でも、これで……」



「――リアナ様の、記憶が……!」



クラリスが結晶をそっと手に取ると、淡い光があたりを包み込んだ。



「ありがとう、皆さん……」



再び幻影となったリアナが、微笑みながら姿を現す。



「この記録を……どうか、真実として受け取ってください。そして、あなたたちの“未来”に繋げてください」



そう語ると、彼女の姿は再び霧のように消えた。



「……私たちは、彼女の意志を背負って旅をしてるんだね……」



シャルロッテがそっと呟く。



「その記録が、きっとこの先の手がかりになるわ」



クラリスが記録結晶を胸に抱く。



「行こう、イッセイ。まだ、やるべきことがあるはず」



ルーナが微笑んで手を差し伸べる。



「――ああ。まだ終わりじゃない。リアナの想いも、世界の真実も……ここからだ」



そして、一行は再び歩き出す。



リアナの記憶を胸に、次なる場所へ――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...