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スピンオフ短編 『悪役令嬢、ぷに堕ち前夜』
氷の華が溶けるまで
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これは、悪役令嬢ティアナ・ルクレールが「ぷるぷる女王」になる、ほんの少し前の物語。
彼女がまだ、誰にも心を開かない、孤高の“氷の華”だった頃のお話。
【1】追放令嬢、孤独の館にて
辺境の地に追放されたティアナに与えられたのは、森の奥にひっそりと佇む、古びた貴族の館だった。
かつての栄華は見る影もなく、家具には埃が積もり、窓ガラスはひび割れている。侍女も護衛もいない、完全なる孤独。
「……結構じゃないの」
ティアナは、誰に聞かせるともなく呟いた。
その声は、震えていなかった。泣いてもいなかった。ただ、凍てつくだけだった。
悪役令嬢としてのプライドが、彼女の心を氷の鎧で固めていたのだ。
食事は、カビ臭いパンと冷たい水。眠るのは、硬く冷たい客間のベッド。
それでも彼女は、決して涙を見せなかった。
夜ごと、一人、暖炉の火も起こさずに、冷え切った紅茶を見つめているだけだった。
【2】ぷるぷる、現る
そんな生活が三日ほど続いた嵐の夜。
雨漏りのする廊下で、ティアナは“それ”に出会った。
床の染みに擬態するように、小さな、青いスライムがひとつ、ぷるぷると震えていたのだ。
「……スライム? こんなところにまで……」
かつての彼女なら、侍女を呼んで即座に処分させていただろう。
だが、今の彼女には、その相手すらいない。
ティアナは、ただそれを無言で見下ろした。スライムは、敵意も示さず、ただ静かにそこにいるだけだった。
ティアナはため息をつくと、その小さな存在を無視して、自室へと戻った。
【3】はじめての「おはよう」
翌朝。
ティアナが目を覚ますと、ベッドの足元に、あのスライムがちょこんと座っていた。
いつの間に入り込んだのか。彼女を守るつもりなのか、それともただの気まぐれか。
「……バカじゃないの。ぷにぷにしているくせに」
悪態をつきながらも、彼女はスライムを追い払わなかった。
そして、その次の日の朝。
「……おはよう。あなたも、まだいたのね」
ぽつりと、自分でも驚くほど穏やかな声が漏れた。
悪役令嬢だった自分が、ただのスライムに朝の挨拶を口にした。その事実に、ティアナの心の氷が、ほんの少しだけ、音を立てて軋んだ気がした。
【4】涙とぷにと、温かいパン
ある寒い日のことだった。
食料も尽きかけ、最後の一個となった硬いパンをかじりながら、ティアナの堪忍袋の緒が、ついに切れた。
「……もう、いや……。私、ずっと一人なの……?」
一度溢れ出した涙は、止まらなかった。
悪役令嬢の仮面が剥がれ落ち、そこには、ただ寂しさに打ち震える一人の少女がいるだけだった。
その時。
足元にいたスライムが、突然ぷにっと跳ねて、彼女が持つ冷たいパンを、その小さな身体でそっと包み込んだ。
ふんわりと、温かい湯気が立ち上る。
パンが、じんわりと温められていた。
「……なに、それ……。加温機能……? あなた、もしかして……私を、慰めてくれているの……?」
スライムは、何も言わずにぷるぷると震えた。
でも、その無言の優しさが、どんな慰めの言葉よりも、ティアナの凍てついた心を、じんわりと溶かしていった。
【5】名前をあげた日
その日以来、ティアナはスライムに話しかけるようになった。
そして、ある晴れた午後、彼女は決めたように言った。
「あなた、今日から“スリィ”と名乗りなさい。わたくしが、この世界で三番目に好きになった存在、という意味を込めて」
一番は両親、二番は昔飼っていた猫。そして、三番目が、この小さなスライム。
彼女がそう告げた瞬間、スライムが、今まで見たこともないほど眩い光を放った。
『……承知いたしました。私の名は、スリィ。これより貴女に仕え、ぷにの限りを尽くします』
「…………しゃべったァアアアア!?!?」
【6】そして、“ぷに堕ち”へ
その日を境に、ティアナの追放生活は一変した。
スリィは、彼女が知らない森の知識や、生活の知恵を次々と教えた。
ティアナは、スリィと共に過ごすうちに、掃除、炊事、洗濯、そして「ぷにっとしたおやつ作り」など、ありとあらゆる“庶民ぷにスキル”を習得していく。
気づけば、彼女の顔から氷のような表情は消え、穏やかな笑顔が増えていた。
かつて人々を震え上がらせた“氷の華”は、辺境の地で、誰にも知られず、静かに溶けていったのだ。
「ねぇ、スリィ……。わたくし、もう“悪役”じゃないわよね?」
『いいえ、ティアナ様。今の貴女は──“ぷに役”令嬢です』
「ぷに役って何よ! どんな役なのよ!」
笑いながら、でもちょっぴり泣きながら、ティアナは、世界で一番幸せな“ぷに堕ち”を果たしたのだった。
――これは、すべてのぷにの原点にして、愛のはじまりの物語。
悪役令嬢は、ゼリーのような小さな出会いに、その魂を救われたのだ。
彼女がまだ、誰にも心を開かない、孤高の“氷の華”だった頃のお話。
【1】追放令嬢、孤独の館にて
辺境の地に追放されたティアナに与えられたのは、森の奥にひっそりと佇む、古びた貴族の館だった。
かつての栄華は見る影もなく、家具には埃が積もり、窓ガラスはひび割れている。侍女も護衛もいない、完全なる孤独。
「……結構じゃないの」
ティアナは、誰に聞かせるともなく呟いた。
その声は、震えていなかった。泣いてもいなかった。ただ、凍てつくだけだった。
悪役令嬢としてのプライドが、彼女の心を氷の鎧で固めていたのだ。
食事は、カビ臭いパンと冷たい水。眠るのは、硬く冷たい客間のベッド。
それでも彼女は、決して涙を見せなかった。
夜ごと、一人、暖炉の火も起こさずに、冷え切った紅茶を見つめているだけだった。
【2】ぷるぷる、現る
そんな生活が三日ほど続いた嵐の夜。
雨漏りのする廊下で、ティアナは“それ”に出会った。
床の染みに擬態するように、小さな、青いスライムがひとつ、ぷるぷると震えていたのだ。
「……スライム? こんなところにまで……」
かつての彼女なら、侍女を呼んで即座に処分させていただろう。
だが、今の彼女には、その相手すらいない。
ティアナは、ただそれを無言で見下ろした。スライムは、敵意も示さず、ただ静かにそこにいるだけだった。
ティアナはため息をつくと、その小さな存在を無視して、自室へと戻った。
【3】はじめての「おはよう」
翌朝。
ティアナが目を覚ますと、ベッドの足元に、あのスライムがちょこんと座っていた。
いつの間に入り込んだのか。彼女を守るつもりなのか、それともただの気まぐれか。
「……バカじゃないの。ぷにぷにしているくせに」
悪態をつきながらも、彼女はスライムを追い払わなかった。
そして、その次の日の朝。
「……おはよう。あなたも、まだいたのね」
ぽつりと、自分でも驚くほど穏やかな声が漏れた。
悪役令嬢だった自分が、ただのスライムに朝の挨拶を口にした。その事実に、ティアナの心の氷が、ほんの少しだけ、音を立てて軋んだ気がした。
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ある寒い日のことだった。
食料も尽きかけ、最後の一個となった硬いパンをかじりながら、ティアナの堪忍袋の緒が、ついに切れた。
「……もう、いや……。私、ずっと一人なの……?」
一度溢れ出した涙は、止まらなかった。
悪役令嬢の仮面が剥がれ落ち、そこには、ただ寂しさに打ち震える一人の少女がいるだけだった。
その時。
足元にいたスライムが、突然ぷにっと跳ねて、彼女が持つ冷たいパンを、その小さな身体でそっと包み込んだ。
ふんわりと、温かい湯気が立ち上る。
パンが、じんわりと温められていた。
「……なに、それ……。加温機能……? あなた、もしかして……私を、慰めてくれているの……?」
スライムは、何も言わずにぷるぷると震えた。
でも、その無言の優しさが、どんな慰めの言葉よりも、ティアナの凍てついた心を、じんわりと溶かしていった。
【5】名前をあげた日
その日以来、ティアナはスライムに話しかけるようになった。
そして、ある晴れた午後、彼女は決めたように言った。
「あなた、今日から“スリィ”と名乗りなさい。わたくしが、この世界で三番目に好きになった存在、という意味を込めて」
一番は両親、二番は昔飼っていた猫。そして、三番目が、この小さなスライム。
彼女がそう告げた瞬間、スライムが、今まで見たこともないほど眩い光を放った。
『……承知いたしました。私の名は、スリィ。これより貴女に仕え、ぷにの限りを尽くします』
「…………しゃべったァアアアア!?!?」
【6】そして、“ぷに堕ち”へ
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気づけば、彼女の顔から氷のような表情は消え、穏やかな笑顔が増えていた。
かつて人々を震え上がらせた“氷の華”は、辺境の地で、誰にも知られず、静かに溶けていったのだ。
「ねぇ、スリィ……。わたくし、もう“悪役”じゃないわよね?」
『いいえ、ティアナ様。今の貴女は──“ぷに役”令嬢です』
「ぷに役って何よ! どんな役なのよ!」
笑いながら、でもちょっぴり泣きながら、ティアナは、世界で一番幸せな“ぷに堕ち”を果たしたのだった。
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