『転生悪役令嬢、スライムで世界を変える』 ~追放先で見つけたヌルヌルが産業革命を巻き起こしました~

のびすけ。

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第三部 ぷるぷる銀河航海記

無(ゼロ)の生命体と“感じない”心

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トゲトゲ惑星に「ぷにカラテ」という新文化を芽吹かせた私たち「ぷにツアー」一行は、宇宙船「NURU-2号・改」のラウンジで、ささやかな祝勝会を開いていた。

「いやー、それにしても見事だったわね、ティアナ! あの硬派な老師を、抱き枕一つで陥落させるなんて!」
シャルロッテが、ぷにゼリーの入ったグラスを片手に笑う。

「ティアナ師匠の“ぷに包容力”は、宇宙一ですわ!」
リムナが、目をキラキラさせながら私を称賛する。
仲間たちの温かい言葉に包まれ、私は心からこの旅の成功を喜んでいた。
だが、その時だった。

『警告。警告。船外より、正体不明の物体が超光速で接近中』

船の管制を担うスリィの冷静な声が、ラウンジの陽気な空気を切り裂いた。
メインスクリーンに映し出されたのは、漆黒の宇宙空間に浮かぶ、一つの“球体”。
それは、光を一切反射せず、星々の輝きすら吸い込んでしまうかのような、完全な「黒」。

ルフ博士が、観測モニターを食い入るように見つめ、叫んだ。
「なんだこりゃあ!? 魔力反応ゼロ、生命反応ゼロ、熱源反応もゼロ! まるで、宇宙に開いた“穴”だ!」
『……いえ、違います』

スリィの声に、これまでになく深刻な響きが混じる。
『これは、ゼロなのではない。“マイナス”です。周囲のぷにエネルギーを、吸収し、無に還している……! これは、“反ぷに存在”です!』

その言葉の意味を、私たちが理解するよりも早く、スクリーンに映る黒い球体から、直接、私たちの脳に語りかけてくるような、平坦で、感情のない声が響いた。

『――我々は、“感覚否定種族”ノー・フィール』
『貴様らが銀河にばら撒く“ぷに文化”によって、宇宙の理が乱されていることを、ここに警告する』

その声は、まるで機械の合成音声のようだった。温かさも、冷たさも、喜びも、怒りも、何も感じられない。ただ、事実だけを告げる、空虚な響き。

『我々は、触れない。感じない。反応しない。故に、争わない。我々にとって、“感情”とは、宇宙に混乱をもたらすだけの毒にすぎない』

私は、思わず言い返した。
「なんですって!? 感情が、毒ですって!?」

『その通りだ。喜びは慢心を、悲しみは憎しみを、愛は執着を生む。全ての争いの根源は“感覚”にある。故に、我々はそれを否定し、完全なる“無”を目指すことで、宇宙に真の平穏をもたらす』

それは、あまりにも歪んだ、しかし、一つの完成された哲学だった。

『貴様らの“ぷに”は、その対極。無意味な感覚を助長し、宇宙を感情の汚泥で満たす、最も排除すべき存在。よって、我々は、ぷに文化の発信源である地球を、ぷにごと無に還す』

それは、宣戦布告だった。
私たちのぷにが、全く通用しない、最悪の敵。
仲間たちに、緊張が走る。

ライオネル「……殴っても、手応えがなさそうだな」
フォン「経済交渉も、文化交流も、そもそも“心”がなければ成立しない……。これは、厄介ですね」

だが、私は怯まなかった。
「面白いじゃない。だったら、教えてあげるわ。あなたたちが捨ててしまった“心”が、どれだけ温かくて、どれだけ強いものなのかを!」



私たちは、NURU-2号を最大戦速で後退させながら、対話の席を設けた。
スクリーンに映る黒い球体――ノー・フィールの代表“ヌル”と、私は向き合う。

『貴様の発する音声は、我々には意味をなさない。我々の内部には“反応”という概念が存在しないからだ』
「あら、そうなの? でも、さっきからあなたのその球体、ほんの少しだけ、振動しているように見えるけれど。それは、ぷにへの恐怖の表れかしら?」
『……機械的な現象だ。意志ではない』

何を言っても、暖簾に腕押し。糠に釘。ぷにに鉄槌。
このままでは、埒があかない。
私は、覚悟を決めた。

「スリィ。やるわよ。私たちの、最高の“ぷに”を」
『……了解しました。ティアナ様、シンクロ率を最大に。我々の切り札、“ぷに=インフィニティ”を展開します』

私とスリィは、目を閉じて、意識を集中させる。
私たちの心を、一つに重ねていく。
辺境の村で感じた温もりを。仲間たちと笑い合った記憶を。聖硬山で見た、老師の涙を。ゼログラビティアで交わした、初めてのハグを。
私たちが、この旅で出会った、全ての“ぷるぷるな想い”。
その全てを、エネルギーに変換し、解き放つ!

「届けなさい! 私たちの“心”を!!」

NURU-2号から、目に見えない、しかし宇宙そのものを震わせるような、温かく、柔らかい波動が放たれた。
それは、空間そのものを“ぷに”へと書き換えていく、究極の共感フィールド。

その波動が、黒い球体“ヌル”に到達した瞬間。
ヌルの完全な黒が、初めて、ぐにゃりと歪んだ。

『……ッ……!? こ、これは……なんだ……!? 解析不能……! 我々の“無反応核(ゼロ・コア)”に、未知の共振が……!?』

今まで何も感じなかった存在に、無理やり“感覚”を叩き込む。
それは、荒療治だったかもしれない。でも、彼らに心を思い出させるには、それしかなかった。

ヌルの内部で、何かが悲鳴を上げる。

『やめろ……! 入ってくるな……! 色が、音が、匂いが……! 痛い、熱い、嬉しい、悲しい……! 感覚、感情、恐怖、歓喜、愛―――そんなもの、我々には必要ない……! 必要ない……はず、なのに……!』

ヌルの視界(?)に、忘れ去っていた記憶の断片が、濁流のように流れ込んでくる。

――遠い昔、まだ、自分たちが“形”を持っていた頃の記憶。
――誰かの、温かい手に、触れられた記憶。
――優しく、名前を呼ばれた、声の記憶。

「泣いても、いいのよ」

私の言葉が、彼の心の最後の壁を、打ち砕いた。
『……なぜ……涙が……。我は、一体、何を……』

黒い球体に、亀裂が走る。そこから、光が溢れ出す。
完全な“無”の殻が砕け散り、中から現れたのは──傷つき、迷子になったような瞳をした、一人の“少年”の姿だった。

『……再感覚化、確認。ぷに効果、対象の魂にまで、完全伝達完了』

スリィが、静かに告げる。
少年は、震える声で、呟いた。

「……昔……まだ、あったんだ。感情が……。触れた手の……温もり……。母さんの……声……」
「そうよ。あなたは、最初から“無”なんかじゃなかった」

私は、彼にそっと手を差し伸べた。
「私たちの船に来なさい。温かいお茶でも、淹れてあげるわ」



その後、ヌルと名乗った少年は、私たちの船で、生まれて初めて“ぷにティー”を飲んだ。

「……すごいね。これが……“あたたかい”って、ことか」

そのカップの温もりが、彼の心を、ゆっくりと溶かしていく。
彼の故郷、ノー・フィール星系の全ての民に、彼の“感覚”が伝播し、長い間、色も音も失っていた彼らの世界に、再び“感情”という名の光が灯り始めたのを、私たちはモニター越しに確認した。

私たちのぷにツアーは、宇宙の果てで“感じない心”すらも、ぷにで包み込むことに成功したのだ。
それは、“ぷに”が、ただの癒しや文化ではなく、宇宙における“心”そのものを守るための、力であることを証明した瞬間だった。
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