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第二章 学園の偶像(アイドル)は、勇者に啼く
戦闘狂の魂を焦がす、敗北と交尾の味
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賢者との知的な交わりを終えた翌日。翔太が次に向き合うのは、炎のように猛々しい格闘家の少女、王麗華だった。
待ち合わせ場所である彼女の実家の道場は、街の喧騒から切り離されたように静かで、古くも手入れの行き届いた木の匂いと、張り詰めた気の匂いが満ちていた。
「おう、来たアルな、翔太!」
道場の中心で一人、汗を流していた麗華が、翔太の姿を認めると、子犬のように駆け寄ってくる。
すでに修行着である真紅のチャイナドレスに着替えており、そのモチベーションの高さが伺えた。
「ああ。準備はいいかい、麗華」
「いつでもOKネ! で、どこに行くアルか? とにかく強い奴がいるところがいいヨ!」
目をきらきらさせながら、早く戦いたくてうずうずしている彼女に、翔太は苦笑しながら「まあ、待って」と制した。
彼は道場の隅にあったホワイトボードを引っ張り出すと、マジックペンを手に取った。
「え、何アルか? お勉強の時間ネ?」
「まあ、そんなところだ。ただ闇雲に戦うだけじゃ、効率が悪いからね」
翔太は、さらさらとホワイトボードに地図や図形、数式のようなものを書き込んでいく。
「まず、今日僕たちが行くのはA級ダンジョン『修羅のコロッセオ』。
ここは遮蔽物がほとんどない闘技場のような構造で、出現するモンスターは一体一体がボス級のパワーとタフネスを誇る。小細工は一切通用しない、純粋な戦闘力が試される場所だ」
「おお! 燃えるアルな!」
「次に、君の戦闘スタイルについて。麗華、君の長所は圧倒的な手数とパワー、そして何より折れない心だ。でも、短所もある。わかるかい?」
翔太の問いに、麗華はうーん、と少しだけ考え込む。
「えーっと…腹が減ると力が出ないことアルか?」
「それもあるかもしれないけど…」
翔太は、麗華の動きを模倣するように、鋭い踏み込みから大ぶりの蹴りを放つ型を見せた。
「君の攻撃は、一撃の威力を重視するあまり、どうしても動きが大振りになりがちだ。つまり、カウンターを合わせられやすい。格下の相手ならそれでも押し切れるだろうけど、格上と戦う時、その一瞬の隙が命取りになる」
麗華は、はっとした表情で翔太の言葉に聞き入っている。
彼女も、本能だけではなく、武術家としてその弱点を薄々自覚していたのだろう。
「今日の修行の目的は二つ。一つは、相手の攻撃の『起こり』を見切り、最小の動きでカウンターを合わせる技術の習得。もう一つは、無駄な気の消耗を抑え、奥義を放つべき瞬間まで力を温存する、気のコントロールだ。最終目標は、君のジョブ『格闘家』を、その上位職である『拳聖』へと進化させること。制限時間は、今日の夕暮れまで。何か質問は?」
そこまで淀みなく説明され、麗華は完全に呆気に取られていた。
やがて、その表情が、驚きから感嘆、そして絶対的な尊敬へと変わっていく。
「…すごいアル。お主、ただめちゃくちゃ強いだけじゃないネ。ちゃんと、頭も使って戦ってるアル」
「当たり前だよ。異世界じゃ、そうしないと生き残れなかったからね」
翔太の言葉には、十年という歳月の重みが滲んでいた。
麗華は、それまで抱いていた「自分より強い、興味深い男」という認識を、改めざるを得なかった。
目の前にいるのは、自分など足元にも及ばない、遥か高みに立つ、真の『武』を極めた師。
彼女は、その場で深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします! 師父(シーフ)!」
「し、師父はやめてくれ…」
こうして、麗華の翔太への好感度は、訓練が始まる前から、すでに臨界点に近づいていた。
彼女は、固く拳を握りしめ、心の中で誓いを立てる。
(この修行、絶対にやり遂げるアル。そして、強くなったワタシで、師父に…翔太に、ワタシの気持ちを伝えるネ…!)
ーーーーー
A級ダンジョン『修羅のコロッセオ』は、翔太の説明通り、古代ローマの闘技場を彷彿とさせる、広大で殺風景な場所だった。
乾いた風が砂塵を巻き上げ、観客席と思わしき場所からは、亡霊たちの怨嗟の声が聞こえてくるようだ。
闘技場の中央に立つ二人の前に、地面が盛り上がり、巨大なミノタウロスが雄叫びを上げながら出現した。
「いくアル、我の拳、受けてみろネ!」
「いや、今日の君の相手は、僕だ」
翔太はそう言うと、ミノタウロスを一瞥しただけで、その身から放たれる闘気だけで完全に消滅させた。
「えぇっ!?」
「ミノタウロスなんかに手間取っている時間はない。僕を倒せなければ、君のジョブ進化はあり得ないと思ってくれ」
翔太の瞳から、いつもの優しさが消える。
そこにいるのは、一切の油断も容赦もない、最強の武術家だった。
麗華はごくりと喉を鳴らし、覚悟を決めて翔太に襲い掛かった。
しかし、その一撃一撃は、まるで幻影を殴っているかのように、空を切る。
翔太は最小限の動きで彼女の攻撃を全ていなし、逆に一本背負いで投げ飛ばしたり、流れるような動きで関節技を極めたりした。
「んくっ…! つ、強いアル…! さすが我が見込んだ男ネ!」
何度地面に転がされても、彼女は諦めなかった。
泥と汗にまみれ、チャイナドレスは破れ、肌には無数の擦り傷ができている。
それでも、その瞳から闘争の光が消えることはない。
それは憎しみではなく、自分を超える強者への、どこまでも純粋な尊敬と信頼に満ちていた。
「違う! 蹴りの後の重心がブレている!」
「もっと気の流れを読め! 攻撃に転じる一瞬前、相手の気は必ず揺らぐ!」
翔太の厳しい檄が飛ぶ。麗華は、歯を食いしばりながらその教えを身体に叩き込んでいく。
何十回、何百回と打ち込みを繰り返すうちに、彼女の動きは明らかに変わっていった。
無駄な力みが抜け、攻撃は鋭く、防御はしなやかに。
そして、ついにその瞬間が訪れる。
翔太が放った掌底を、麗華は紙一重で身をかがめて避け、その懐に潜り込むと、渾身の寸勁を叩き込んだ。
バチィンッ!!
それは、翔太の腹筋に、ほんのかすり傷をつけただけだった。
しかし、紛れもなく、初めてクリーンヒットした一撃だった。
「…はぁ…はぁ…やった、アル…!」
「ああ。よくやったな、麗華。見事な拳だった」
翔太が、満足そうに微笑む。その笑顔を見た瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れ、麗華はその場にへたり込んだ。
スパーリング形式の訓練が終わる頃には、二人は互いの汗でぐっしょりと濡れていた。
陽光に照らされ、麗華の汗が、鍛え上げられた小麦色の肌の上をきらきらと滑り落ちていく。
汗で身体に張り付いた真紅のチャイナドレスが、彼女の美しい身体のラインをくっきりと浮かび上がらせ、翔太は思わず目を逸らした。
その時、天から降り注ぐように、眩い光が麗華の身体を包み込んだ。
ステータスを見ると『格闘家』から『拳聖』に進化していた。
全身に、今までとは比べ物にならないほどの力がみなぎるのを感じながら、麗華は、それ以上に、心の奥から込み上げてくる熱い感情を、もう抑えることができなかった。
ーーーーー
修行を終え、ダンジョンから帰還した後の、静かな夕暮れ。
闘技場の観客席の跡に腰を下ろし、二人は並んで空を眺めていた。
心地よい疲労感と、達成感が、無言の二人を優しく包む。
麗華は、隣に座る翔太の横顔を、盗み見ていた。
夕日に照らされたその顔は、いつもよりずっと大人びて見えて、心臓がドキドキと音を立てる。
(…言うアル。今、言わなきゃ、絶対後悔するネ…!)
彼女は、もじもじと自分の太ももの上で拳を握ったり開いたり、深呼吸を繰り返したりしている。
普段の快活な彼女からは想像もつかない、乙女そのものの仕草だった。
そんな彼女の葛藤に気づいたのか、翔太が優しく声をかけた。
「どうしたんだい? 疲れたか?」
そう言って、大きな手で、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。
その、子供扱いするような、でも、どこまでも優しい感触が、彼女の心の最後の堰を、完全に決壊させた。
彼女は、弾かれたように立ち上がると、そのまま翔太の胸に、全力で飛び込んだ。
「翔太ッ!」
「うおっ!?」
「お願いがあるアル!」
翔太の胸に顔を埋めたまま、くぐもった、しかし決意に満ちた声で彼女は叫んだ。
「ワタシを、翔太の女に…。して欲しいアル!」
「…え?」
「大好きなの…! 初めて会った時から、ずっと! 翔太の強さに、優しさに、全部に惚れたアル! お願いだから、ワタシをアンタのそばに置いて欲しいネ…!」
その時、翔太の脳裏に、【鑑定】スキルが強制的に情報を表示した。
【王麗華】
ステータス:好意:MAX(限界突破) 性的興奮度:98 独占欲:測定不能(ERROR)
数値が、バグを起こしている。
今まで見たことのない現象だった。
好意のメーターは振り切れ、独占欲の項目は意味不明なエラー表示になっている。
このままでは、彼女の精神が、この制御不能な感情の奔流に飲み込まれてしまうかもしれない。
直感が、翔太にそう告げていた。
「ダメ…?アルか…?」
翔太が黙り込んでいるのを、拒絶と受け取ったのだろう。
麗華は、潤んだ瞳で彼を見上げ、さらに強く抱きついてくる。その柔らかい胸の感触と、必死な想いが、翔太の心を揺さぶった。
彼は、覚悟を決めた。暴走しかけている彼女の感情を、鎮める方法は、おそらく一つしかない。
翔太は、彼女の背中に手を回し、その引き締まったお尻を、そっと撫でた。
「ひゃんっ♡!?」
麗華の身体が、可愛くびくんと跳ねる。
その瞬間、翔太の脳内の鑑定結果の数値が、ほんの一瞬だけ、正常値に戻った。
やはり、そうだ。この熱を冷ますには、肌で、身体で、応えてやるしかない。
(…また一人、増えるか。陽奈美には、きちんと説明しなきゃな)
心の中で、愛しい恋人に謝罪しながら、翔太は麗華の身体を優しく抱きしめ返した。
「…わかったよ。僕も、麗華のことが好きだ。君のその真っ直ぐなところも、強いところも、全部。僕の、恋人になってくれるかい?」
「!…うんッ! もちろんアル!」
その言葉を聞いた瞬間、麗華は、ぱあっと顔を輝かせ、世界で一番幸せそうな笑顔を、翔太に向けたのだった。
待ち合わせ場所である彼女の実家の道場は、街の喧騒から切り離されたように静かで、古くも手入れの行き届いた木の匂いと、張り詰めた気の匂いが満ちていた。
「おう、来たアルな、翔太!」
道場の中心で一人、汗を流していた麗華が、翔太の姿を認めると、子犬のように駆け寄ってくる。
すでに修行着である真紅のチャイナドレスに着替えており、そのモチベーションの高さが伺えた。
「ああ。準備はいいかい、麗華」
「いつでもOKネ! で、どこに行くアルか? とにかく強い奴がいるところがいいヨ!」
目をきらきらさせながら、早く戦いたくてうずうずしている彼女に、翔太は苦笑しながら「まあ、待って」と制した。
彼は道場の隅にあったホワイトボードを引っ張り出すと、マジックペンを手に取った。
「え、何アルか? お勉強の時間ネ?」
「まあ、そんなところだ。ただ闇雲に戦うだけじゃ、効率が悪いからね」
翔太は、さらさらとホワイトボードに地図や図形、数式のようなものを書き込んでいく。
「まず、今日僕たちが行くのはA級ダンジョン『修羅のコロッセオ』。
ここは遮蔽物がほとんどない闘技場のような構造で、出現するモンスターは一体一体がボス級のパワーとタフネスを誇る。小細工は一切通用しない、純粋な戦闘力が試される場所だ」
「おお! 燃えるアルな!」
「次に、君の戦闘スタイルについて。麗華、君の長所は圧倒的な手数とパワー、そして何より折れない心だ。でも、短所もある。わかるかい?」
翔太の問いに、麗華はうーん、と少しだけ考え込む。
「えーっと…腹が減ると力が出ないことアルか?」
「それもあるかもしれないけど…」
翔太は、麗華の動きを模倣するように、鋭い踏み込みから大ぶりの蹴りを放つ型を見せた。
「君の攻撃は、一撃の威力を重視するあまり、どうしても動きが大振りになりがちだ。つまり、カウンターを合わせられやすい。格下の相手ならそれでも押し切れるだろうけど、格上と戦う時、その一瞬の隙が命取りになる」
麗華は、はっとした表情で翔太の言葉に聞き入っている。
彼女も、本能だけではなく、武術家としてその弱点を薄々自覚していたのだろう。
「今日の修行の目的は二つ。一つは、相手の攻撃の『起こり』を見切り、最小の動きでカウンターを合わせる技術の習得。もう一つは、無駄な気の消耗を抑え、奥義を放つべき瞬間まで力を温存する、気のコントロールだ。最終目標は、君のジョブ『格闘家』を、その上位職である『拳聖』へと進化させること。制限時間は、今日の夕暮れまで。何か質問は?」
そこまで淀みなく説明され、麗華は完全に呆気に取られていた。
やがて、その表情が、驚きから感嘆、そして絶対的な尊敬へと変わっていく。
「…すごいアル。お主、ただめちゃくちゃ強いだけじゃないネ。ちゃんと、頭も使って戦ってるアル」
「当たり前だよ。異世界じゃ、そうしないと生き残れなかったからね」
翔太の言葉には、十年という歳月の重みが滲んでいた。
麗華は、それまで抱いていた「自分より強い、興味深い男」という認識を、改めざるを得なかった。
目の前にいるのは、自分など足元にも及ばない、遥か高みに立つ、真の『武』を極めた師。
彼女は、その場で深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします! 師父(シーフ)!」
「し、師父はやめてくれ…」
こうして、麗華の翔太への好感度は、訓練が始まる前から、すでに臨界点に近づいていた。
彼女は、固く拳を握りしめ、心の中で誓いを立てる。
(この修行、絶対にやり遂げるアル。そして、強くなったワタシで、師父に…翔太に、ワタシの気持ちを伝えるネ…!)
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A級ダンジョン『修羅のコロッセオ』は、翔太の説明通り、古代ローマの闘技場を彷彿とさせる、広大で殺風景な場所だった。
乾いた風が砂塵を巻き上げ、観客席と思わしき場所からは、亡霊たちの怨嗟の声が聞こえてくるようだ。
闘技場の中央に立つ二人の前に、地面が盛り上がり、巨大なミノタウロスが雄叫びを上げながら出現した。
「いくアル、我の拳、受けてみろネ!」
「いや、今日の君の相手は、僕だ」
翔太はそう言うと、ミノタウロスを一瞥しただけで、その身から放たれる闘気だけで完全に消滅させた。
「えぇっ!?」
「ミノタウロスなんかに手間取っている時間はない。僕を倒せなければ、君のジョブ進化はあり得ないと思ってくれ」
翔太の瞳から、いつもの優しさが消える。
そこにいるのは、一切の油断も容赦もない、最強の武術家だった。
麗華はごくりと喉を鳴らし、覚悟を決めて翔太に襲い掛かった。
しかし、その一撃一撃は、まるで幻影を殴っているかのように、空を切る。
翔太は最小限の動きで彼女の攻撃を全ていなし、逆に一本背負いで投げ飛ばしたり、流れるような動きで関節技を極めたりした。
「んくっ…! つ、強いアル…! さすが我が見込んだ男ネ!」
何度地面に転がされても、彼女は諦めなかった。
泥と汗にまみれ、チャイナドレスは破れ、肌には無数の擦り傷ができている。
それでも、その瞳から闘争の光が消えることはない。
それは憎しみではなく、自分を超える強者への、どこまでも純粋な尊敬と信頼に満ちていた。
「違う! 蹴りの後の重心がブレている!」
「もっと気の流れを読め! 攻撃に転じる一瞬前、相手の気は必ず揺らぐ!」
翔太の厳しい檄が飛ぶ。麗華は、歯を食いしばりながらその教えを身体に叩き込んでいく。
何十回、何百回と打ち込みを繰り返すうちに、彼女の動きは明らかに変わっていった。
無駄な力みが抜け、攻撃は鋭く、防御はしなやかに。
そして、ついにその瞬間が訪れる。
翔太が放った掌底を、麗華は紙一重で身をかがめて避け、その懐に潜り込むと、渾身の寸勁を叩き込んだ。
バチィンッ!!
それは、翔太の腹筋に、ほんのかすり傷をつけただけだった。
しかし、紛れもなく、初めてクリーンヒットした一撃だった。
「…はぁ…はぁ…やった、アル…!」
「ああ。よくやったな、麗華。見事な拳だった」
翔太が、満足そうに微笑む。その笑顔を見た瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れ、麗華はその場にへたり込んだ。
スパーリング形式の訓練が終わる頃には、二人は互いの汗でぐっしょりと濡れていた。
陽光に照らされ、麗華の汗が、鍛え上げられた小麦色の肌の上をきらきらと滑り落ちていく。
汗で身体に張り付いた真紅のチャイナドレスが、彼女の美しい身体のラインをくっきりと浮かび上がらせ、翔太は思わず目を逸らした。
その時、天から降り注ぐように、眩い光が麗華の身体を包み込んだ。
ステータスを見ると『格闘家』から『拳聖』に進化していた。
全身に、今までとは比べ物にならないほどの力がみなぎるのを感じながら、麗華は、それ以上に、心の奥から込み上げてくる熱い感情を、もう抑えることができなかった。
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修行を終え、ダンジョンから帰還した後の、静かな夕暮れ。
闘技場の観客席の跡に腰を下ろし、二人は並んで空を眺めていた。
心地よい疲労感と、達成感が、無言の二人を優しく包む。
麗華は、隣に座る翔太の横顔を、盗み見ていた。
夕日に照らされたその顔は、いつもよりずっと大人びて見えて、心臓がドキドキと音を立てる。
(…言うアル。今、言わなきゃ、絶対後悔するネ…!)
彼女は、もじもじと自分の太ももの上で拳を握ったり開いたり、深呼吸を繰り返したりしている。
普段の快活な彼女からは想像もつかない、乙女そのものの仕草だった。
そんな彼女の葛藤に気づいたのか、翔太が優しく声をかけた。
「どうしたんだい? 疲れたか?」
そう言って、大きな手で、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。
その、子供扱いするような、でも、どこまでも優しい感触が、彼女の心の最後の堰を、完全に決壊させた。
彼女は、弾かれたように立ち上がると、そのまま翔太の胸に、全力で飛び込んだ。
「翔太ッ!」
「うおっ!?」
「お願いがあるアル!」
翔太の胸に顔を埋めたまま、くぐもった、しかし決意に満ちた声で彼女は叫んだ。
「ワタシを、翔太の女に…。して欲しいアル!」
「…え?」
「大好きなの…! 初めて会った時から、ずっと! 翔太の強さに、優しさに、全部に惚れたアル! お願いだから、ワタシをアンタのそばに置いて欲しいネ…!」
その時、翔太の脳裏に、【鑑定】スキルが強制的に情報を表示した。
【王麗華】
ステータス:好意:MAX(限界突破) 性的興奮度:98 独占欲:測定不能(ERROR)
数値が、バグを起こしている。
今まで見たことのない現象だった。
好意のメーターは振り切れ、独占欲の項目は意味不明なエラー表示になっている。
このままでは、彼女の精神が、この制御不能な感情の奔流に飲み込まれてしまうかもしれない。
直感が、翔太にそう告げていた。
「ダメ…?アルか…?」
翔太が黙り込んでいるのを、拒絶と受け取ったのだろう。
麗華は、潤んだ瞳で彼を見上げ、さらに強く抱きついてくる。その柔らかい胸の感触と、必死な想いが、翔太の心を揺さぶった。
彼は、覚悟を決めた。暴走しかけている彼女の感情を、鎮める方法は、おそらく一つしかない。
翔太は、彼女の背中に手を回し、その引き締まったお尻を、そっと撫でた。
「ひゃんっ♡!?」
麗華の身体が、可愛くびくんと跳ねる。
その瞬間、翔太の脳内の鑑定結果の数値が、ほんの一瞬だけ、正常値に戻った。
やはり、そうだ。この熱を冷ますには、肌で、身体で、応えてやるしかない。
(…また一人、増えるか。陽奈美には、きちんと説明しなきゃな)
心の中で、愛しい恋人に謝罪しながら、翔太は麗華の身体を優しく抱きしめ返した。
「…わかったよ。僕も、麗華のことが好きだ。君のその真っ直ぐなところも、強いところも、全部。僕の、恋人になってくれるかい?」
「!…うんッ! もちろんアル!」
その言葉を聞いた瞬間、麗華は、ぱあっと顔を輝かせ、世界で一番幸せそうな笑顔を、翔太に向けたのだった。
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