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第九章 十年越しの、聖なる初夜
乙女たちへのオリエンテーション
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あの「ハーレム同盟」結成の夜から数日後。
僕が(現代組と異世界組の板挟みによる)疲労困憊でダンジョン攻略から帰還し、自室で(今夜は理奈と瑠奈の襲撃だな…)と覚悟を決めていた頃。
僕の知らない場所で、再び「彼女たち」だけの円卓会議が開かれていた。
「――さて、皆さん。本日は、我がハーレム同盟の最重要課題、『異世界組(ウブ)への閨(ねや)オリエンテーション』を開始します!」
場所は、またしてもあの豪華すぎるゲストルーム。
仕切り役は、当然、僕の「正妻」こと鮎川陽奈美。
その隣には、現代組(モダン・ガールズ)の面々が、どこか楽しげに、あるいは真剣な面持ちで座っている。
そして、向かい合う異世界組(ワールド・トラベラーズ)の四人は… 既に、顔が真っ赤だった。
「け、閨(ねや)オリエンテーション、ですって…!?」
セラフィーナが、王女の威厳もどこへやら、淑女(しゅくじょ)にあるまじき大声で叫ぶ。
「な、なんと、はしたない響き…!」
「フン…」
ルナリアが、必死に平静を装って腕を組む。
「妾(わらわ)は書物で知識は完備しておる。下等な人間に教わることなど…」
「ふーん?」
陽奈美が、ニヤリと笑ってルナリアを見つめる。
「じゃあ、ルナリアさん。『キス』の先、どうするか知ってる?」
「むっ…! そ、それは…その…唇の次は、首筋、そして鎖骨(さこつ)へと…」
「その先は?」
「う、胸部…」
「その先は?」
「ふ、腹部…そして…その…下腹部…」
「で、どうするの?」
「……書物には、『互いの魔力を感じ、高め合う』と…」
「「「「((((ダメだこりゃ)))) 」」」」
現代組の四人が、盛大にため息をついた。
「魔力感じてる間に、翔太、寝ちゃうわよ!」
陽奈美が、ビシッとセラたちを指差す。
「いい!? まず、あんたたちの性知識が、どれだけヤバいか、あたしたちが把握するから!」
そこから始まった、異世界組の「性知識」確認。
その結果は、現代組の想像を遥かに絶するシロモノだった。
セラフィーナ:「勇者様の『種』を、わたくしの聖なる『器』で受け止め、神聖なる『聖婚(せいこん)の儀』を完了いたします!」
(※キス=契約、セックス=子作り儀式、と思っている)
ブリジット:「団長の『命令』とあらば、この身、いかなる『試練』にも耐えてみせます!」
(※セックス=主君への奉仕、痛みを伴うもの、と思っている)
ルナリア:「肉体的な接触は、魔力交歓(まりょくこうかん)のための、前段階(ぜんだんかい)に過ぎぬ」
(※セックス=効率の悪い魔力交換、と思っている)
ミミ:「ご主人様と、ぎゅーってして、ちゅーってして、そしたら赤ちゃんができるんだぴょん!」
(※キス=妊娠、と思っている)
「「「「(((((深刻すぎる…ッ!!))))) 」」」」
陽奈美は、頭を抱えた。
「これ…中学生レベルどころじゃないわよ…。今時の中学生、もっと進んでるわ…!」
「仕方ありませんわね」
それまで黙っていた凛花さんが、スッと伊達(だて)メガネを押し上げた。
「データが皆無(かいむ)の状態では、最適解(さいてきかい)は導き出せません。わたくしたちが、基礎(きそ)から『流れ』というものを、インプットしますわ」
そこから、現代組による、必死の「セックス・レクチャー」が始まった。
「いい!? まずね!」と陽奈美が教壇(きょうだん)(テーブル)を叩く。
「いきなり『挿(い)れる』なんて、ダメ! 絶対! そこに至るまでの『流れ』…『ムード』が一番大事なの!」
「む、むーど…?」
「そう!」
今度はエレオノールが、頬を染めながらも、騎士の教官のように厳しく説く。
「まずは、雰囲気(ふんいき)ですわ! 部屋を少し暗くしたり、優しい言葉をかけあったり…そして、焦(じ)らして、焦らして…」
「じ、焦らす…!?」
セラフィーナの顔から、カッと火が噴(ふ)きそうだ。
「そうアル!」
麗華が、ニカッと笑う。
「スパーリングと一緒ネ! いきなり奥義(おうぎ)は出さないアル! じわじわと、相手の『弱いトコ』を攻めるネ!」
「よ、弱いトコ…!?」
ブリジットが、ゴクリと唾(つば)を飲む。
「そして…」
陽奈美が、くい、と自分の首筋を指差した。
「キスも、唇だけじゃないの。耳とか、首とか…あと、ここ」
彼女の指が、鎖骨(さこつ)へ、そして胸の谷間(たにま)へと、ゆっくり降りていく。
異世界組の四人が、その指先を、まるで神託(しんたく)でも見るかのように見つめている。
「そ、そそそ、そんな場所まで…っ!」
セラフィーナが、もじもじと自らの豊かな胸元を押さえる。
「は、はしたない…!」
「はしたなくない!」
陽奈美が、一喝(いっかつ)する。
「翔太はね、そういうのが…ううん、男の子はみんな、そういう『流れ』が、大好きなんだから!」
「そして、いよいよ、ってなっても、すぐに『おちんちん』を受け入れちゃダメ」
「「「「お、おちんちん!?」」」」
(ミミ以外が)異世界組の顔が、爆発しそうなくらい真っ赤になる。
「ま、まあ、その…『勇者様の剣(つるぎ)』?
(ルナリア談)
『団長の槍(やり)』?
(ブリジット談)
『ご主人様のニンジン』
(ミミ談)
陽奈美も、さすがに恥ずかしくなってきたのか、顔が赤い。
「そ、その…『そこ』に触れる前に、お互いの『そこ』を、指とか…舌とかで…」
「「「「((((舌(した)ぁあああ!?)))) 」」」」
セラフィーナとルナリアとブリジットが、あまりの衝撃に、完全にフリーズした。
「あ、ああ、あの、神聖なる『器』を、舌で…!?」
「書物には、そのような記述(きじゅつ)は、一切…!」
「じ、自分の『そこ』を、団長に…!? あ、いや、団長の『そこ』を、自分が…!?」
三人が、完全にキャパオーバーを起こしている。
「…はぁ」
陽奈美は、もう一度、深いため息をついた。
「もう、いい! 理屈(りくつ)はいいから、これだけ覚えて!」
彼女は、真剣な顔で、ウブな乙女たちを見つめた。
「最後は、素直(すなお)に、甘えちゃえばいいのよ」
「あまえる…?」
「そう。翔太は、優しいから。絶対に、あんたたちが嫌がることはしない」
陽奈美の瞳が、ふっと、愛(いと)しさに細められる。
「だから、もし、翔太がしてくれることで、気持ちよかったら…ちゃんと、言葉にして伝えてあげて?」 「『そこ、気持ちいい…♡』とか、『もっと、欲しい…♡』とか」
「そしたらね…」
陽奈美は、とろけるような、悪戯(いたずら)っぽい笑みを浮かべた。
「翔太は、すごいから♡」
その一言が、異世界組の乙女たちの、貧弱(ひんじゃく)な想像力を、限界まで膨(ふくら)ませた。 ((((翔太(勇者様)(主様)(団長)が…すごい…♡))))
四人(ミミは「赤ちゃんいっぱいだウサ!」と喜んでる)は、まだ見ぬ快感(かいかん)への妄想(もうそう)で、顔を真っ赤にして、ふわふわと、完全に使い物にならなくなっていた。
◇
「――セラフィーナさん」
オリエンテーション(という名の拷問(ごうもん))が終わり、ゲストハウスに戻ったセラフィーナに、陽奈美が声をかけた。
「ひゃ、ひゃい!? な、なんですの!?」
さっきまでの王女の威厳はゼロ。
すっかり「教え子」の顔になったセラが、びくんと肩を揺らす。
「早速(さっそく)だけど、今夜、いきなさい」
「え」
「えええええええええええええええっ!?」
セラフィーナの素っ頓狂(すっとんきょう)な声が、廊下(ろうか)に響き渡った。
「こ、こ、今夜(こんや)!? い、いきなり!? で、ですが、わたくし、心の準備が…! そ、それに、勇者様のご都合も…!」
「大丈夫。翔太には、あたしから言っとくから」
陽奈美は、ニヤリと笑う。
「どうしたの? 十年待ったんでしょ?」
彼女は、急にしおらしくなった王女様の耳元で、悪魔のように囁(ささや)いた。
「…『しない』の?」
「…………っ!」
セラフィーナは、カッと顔を赤らめ、ぷるぷると震えた。
そして、腹を括(くく)った聖女の顔で、陽奈美をキッと睨み上げた。
「……し、」
「しますッ!!!」
「はい、わかりました…!」
彼女は、スカートの裾(すそ)をぎゅっと握りしめ、深呼吸を一つ。
「が、がんばりますわ…!」
◇
その夜。
僕は、自室で(今日は誰の番だっけ…)と、恐怖のローテーションに備えていた。
コンコン、と控えめなノック。
「(…来たか! 今日は誰だ!?)」
身構(みがま)える僕の前に現れたのは、意外にも、陽奈美だった。 しかも、一人で。
「陽奈美? どうしたの、今日は確か、エレオノールの番じゃ…」
「…ちょっと、変更」
陽奈美は、部屋に入ってくると、僕の前に、まっすぐに立った。
その顔は、いつもの太陽みたいな笑顔じゃなく、どこか、泣き出すのを必死にこらえているような、そんな顔だった。
「翔太」
「…うん」
「…今夜は、セラフィーナさんのところへ、行ってあげて」
「え?」
僕は、何を言われたのか、一瞬、理解できなかった。
「な、なんで…? 陽奈美、あんなにセラたちのこと…」
「…うるさいな」
陽奈美の瞳から、ついに、堪(こら)えていた涙が、一粒、ぽろり、とこぼれ落ちた。
「あたしだって、嫌(いや)に決まってるでしょ…!」 彼女の声が、震える。
「翔太は、あたしだけの翔太でいてほしい…! 他の誰にも、触(ふ)れさせたくない…! 今だって、こんなこと言うの、胸が張り裂(さ)けそうなくらい、痛くて、苦しいんだから…!」
わっ、と、彼女は子供みたいに泣き出した。
「…でも」
陽奈美は、ぐしぐしと涙を拭(ぬぐ)うと、僕の胸を、ドン、と押した。
「…でも、あたし、翔太に、十年越しの『約束』 を破(やぶ)らせるような、そんな、ケチな女には、なりたくないの…!」
「陽奈美…」
「十年だよ!? あたしが翔太に会えなかった十年、あの子たちは、あんたのことだけを信じて、待ってたんでしょ…!? そんなの、あたしが勝てるわけ、ないじゃん…」
「だから、行きなさいよ、バカ翔太!」
彼女は、僕の背中を、小さな両手で、思いっきり押した。
「…その代わり」 陽奈美は、最後に、僕の服の裾を、ぎゅっと掴んで、上目遣(うわめづか)いで、こう言った。
「ちゃんと、…『大切』に、してあげるのよ」
彼女の優しさと、覚悟と、そして、どうしようもないほどの深い愛情に、僕は胸を打たれた。
(…敵(かな)わないな、陽奈美には) これが、僕の「正妻」の器(うつわ)か。
僕は、彼女の頭を、一度だけ、強く、優しく撫でた。
「…うん。ありがとう、陽奈美」
彼女に背を向け、部屋を出る。 背後で、陽奈美が、声を殺して泣き崩れる音が、小さく聞こえた。
その音を胸に刻みつけ、僕は、異世界組が待つゲストハウスへと、真っ直ぐに向かった。
セラフィーナの部屋の、扉の前。
ごくり、と、自分の喉(のど)が鳴るのが分かった。
十年越しの、約束の夜が、今、始まろうとしていた。
僕が(現代組と異世界組の板挟みによる)疲労困憊でダンジョン攻略から帰還し、自室で(今夜は理奈と瑠奈の襲撃だな…)と覚悟を決めていた頃。
僕の知らない場所で、再び「彼女たち」だけの円卓会議が開かれていた。
「――さて、皆さん。本日は、我がハーレム同盟の最重要課題、『異世界組(ウブ)への閨(ねや)オリエンテーション』を開始します!」
場所は、またしてもあの豪華すぎるゲストルーム。
仕切り役は、当然、僕の「正妻」こと鮎川陽奈美。
その隣には、現代組(モダン・ガールズ)の面々が、どこか楽しげに、あるいは真剣な面持ちで座っている。
そして、向かい合う異世界組(ワールド・トラベラーズ)の四人は… 既に、顔が真っ赤だった。
「け、閨(ねや)オリエンテーション、ですって…!?」
セラフィーナが、王女の威厳もどこへやら、淑女(しゅくじょ)にあるまじき大声で叫ぶ。
「な、なんと、はしたない響き…!」
「フン…」
ルナリアが、必死に平静を装って腕を組む。
「妾(わらわ)は書物で知識は完備しておる。下等な人間に教わることなど…」
「ふーん?」
陽奈美が、ニヤリと笑ってルナリアを見つめる。
「じゃあ、ルナリアさん。『キス』の先、どうするか知ってる?」
「むっ…! そ、それは…その…唇の次は、首筋、そして鎖骨(さこつ)へと…」
「その先は?」
「う、胸部…」
「その先は?」
「ふ、腹部…そして…その…下腹部…」
「で、どうするの?」
「……書物には、『互いの魔力を感じ、高め合う』と…」
「「「「((((ダメだこりゃ)))) 」」」」
現代組の四人が、盛大にため息をついた。
「魔力感じてる間に、翔太、寝ちゃうわよ!」
陽奈美が、ビシッとセラたちを指差す。
「いい!? まず、あんたたちの性知識が、どれだけヤバいか、あたしたちが把握するから!」
そこから始まった、異世界組の「性知識」確認。
その結果は、現代組の想像を遥かに絶するシロモノだった。
セラフィーナ:「勇者様の『種』を、わたくしの聖なる『器』で受け止め、神聖なる『聖婚(せいこん)の儀』を完了いたします!」
(※キス=契約、セックス=子作り儀式、と思っている)
ブリジット:「団長の『命令』とあらば、この身、いかなる『試練』にも耐えてみせます!」
(※セックス=主君への奉仕、痛みを伴うもの、と思っている)
ルナリア:「肉体的な接触は、魔力交歓(まりょくこうかん)のための、前段階(ぜんだんかい)に過ぎぬ」
(※セックス=効率の悪い魔力交換、と思っている)
ミミ:「ご主人様と、ぎゅーってして、ちゅーってして、そしたら赤ちゃんができるんだぴょん!」
(※キス=妊娠、と思っている)
「「「「(((((深刻すぎる…ッ!!))))) 」」」」
陽奈美は、頭を抱えた。
「これ…中学生レベルどころじゃないわよ…。今時の中学生、もっと進んでるわ…!」
「仕方ありませんわね」
それまで黙っていた凛花さんが、スッと伊達(だて)メガネを押し上げた。
「データが皆無(かいむ)の状態では、最適解(さいてきかい)は導き出せません。わたくしたちが、基礎(きそ)から『流れ』というものを、インプットしますわ」
そこから、現代組による、必死の「セックス・レクチャー」が始まった。
「いい!? まずね!」と陽奈美が教壇(きょうだん)(テーブル)を叩く。
「いきなり『挿(い)れる』なんて、ダメ! 絶対! そこに至るまでの『流れ』…『ムード』が一番大事なの!」
「む、むーど…?」
「そう!」
今度はエレオノールが、頬を染めながらも、騎士の教官のように厳しく説く。
「まずは、雰囲気(ふんいき)ですわ! 部屋を少し暗くしたり、優しい言葉をかけあったり…そして、焦(じ)らして、焦らして…」
「じ、焦らす…!?」
セラフィーナの顔から、カッと火が噴(ふ)きそうだ。
「そうアル!」
麗華が、ニカッと笑う。
「スパーリングと一緒ネ! いきなり奥義(おうぎ)は出さないアル! じわじわと、相手の『弱いトコ』を攻めるネ!」
「よ、弱いトコ…!?」
ブリジットが、ゴクリと唾(つば)を飲む。
「そして…」
陽奈美が、くい、と自分の首筋を指差した。
「キスも、唇だけじゃないの。耳とか、首とか…あと、ここ」
彼女の指が、鎖骨(さこつ)へ、そして胸の谷間(たにま)へと、ゆっくり降りていく。
異世界組の四人が、その指先を、まるで神託(しんたく)でも見るかのように見つめている。
「そ、そそそ、そんな場所まで…っ!」
セラフィーナが、もじもじと自らの豊かな胸元を押さえる。
「は、はしたない…!」
「はしたなくない!」
陽奈美が、一喝(いっかつ)する。
「翔太はね、そういうのが…ううん、男の子はみんな、そういう『流れ』が、大好きなんだから!」
「そして、いよいよ、ってなっても、すぐに『おちんちん』を受け入れちゃダメ」
「「「「お、おちんちん!?」」」」
(ミミ以外が)異世界組の顔が、爆発しそうなくらい真っ赤になる。
「ま、まあ、その…『勇者様の剣(つるぎ)』?
(ルナリア談)
『団長の槍(やり)』?
(ブリジット談)
『ご主人様のニンジン』
(ミミ談)
陽奈美も、さすがに恥ずかしくなってきたのか、顔が赤い。
「そ、その…『そこ』に触れる前に、お互いの『そこ』を、指とか…舌とかで…」
「「「「((((舌(した)ぁあああ!?)))) 」」」」
セラフィーナとルナリアとブリジットが、あまりの衝撃に、完全にフリーズした。
「あ、ああ、あの、神聖なる『器』を、舌で…!?」
「書物には、そのような記述(きじゅつ)は、一切…!」
「じ、自分の『そこ』を、団長に…!? あ、いや、団長の『そこ』を、自分が…!?」
三人が、完全にキャパオーバーを起こしている。
「…はぁ」
陽奈美は、もう一度、深いため息をついた。
「もう、いい! 理屈(りくつ)はいいから、これだけ覚えて!」
彼女は、真剣な顔で、ウブな乙女たちを見つめた。
「最後は、素直(すなお)に、甘えちゃえばいいのよ」
「あまえる…?」
「そう。翔太は、優しいから。絶対に、あんたたちが嫌がることはしない」
陽奈美の瞳が、ふっと、愛(いと)しさに細められる。
「だから、もし、翔太がしてくれることで、気持ちよかったら…ちゃんと、言葉にして伝えてあげて?」 「『そこ、気持ちいい…♡』とか、『もっと、欲しい…♡』とか」
「そしたらね…」
陽奈美は、とろけるような、悪戯(いたずら)っぽい笑みを浮かべた。
「翔太は、すごいから♡」
その一言が、異世界組の乙女たちの、貧弱(ひんじゃく)な想像力を、限界まで膨(ふくら)ませた。 ((((翔太(勇者様)(主様)(団長)が…すごい…♡))))
四人(ミミは「赤ちゃんいっぱいだウサ!」と喜んでる)は、まだ見ぬ快感(かいかん)への妄想(もうそう)で、顔を真っ赤にして、ふわふわと、完全に使い物にならなくなっていた。
◇
「――セラフィーナさん」
オリエンテーション(という名の拷問(ごうもん))が終わり、ゲストハウスに戻ったセラフィーナに、陽奈美が声をかけた。
「ひゃ、ひゃい!? な、なんですの!?」
さっきまでの王女の威厳はゼロ。
すっかり「教え子」の顔になったセラが、びくんと肩を揺らす。
「早速(さっそく)だけど、今夜、いきなさい」
「え」
「えええええええええええええええっ!?」
セラフィーナの素っ頓狂(すっとんきょう)な声が、廊下(ろうか)に響き渡った。
「こ、こ、今夜(こんや)!? い、いきなり!? で、ですが、わたくし、心の準備が…! そ、それに、勇者様のご都合も…!」
「大丈夫。翔太には、あたしから言っとくから」
陽奈美は、ニヤリと笑う。
「どうしたの? 十年待ったんでしょ?」
彼女は、急にしおらしくなった王女様の耳元で、悪魔のように囁(ささや)いた。
「…『しない』の?」
「…………っ!」
セラフィーナは、カッと顔を赤らめ、ぷるぷると震えた。
そして、腹を括(くく)った聖女の顔で、陽奈美をキッと睨み上げた。
「……し、」
「しますッ!!!」
「はい、わかりました…!」
彼女は、スカートの裾(すそ)をぎゅっと握りしめ、深呼吸を一つ。
「が、がんばりますわ…!」
◇
その夜。
僕は、自室で(今日は誰の番だっけ…)と、恐怖のローテーションに備えていた。
コンコン、と控えめなノック。
「(…来たか! 今日は誰だ!?)」
身構(みがま)える僕の前に現れたのは、意外にも、陽奈美だった。 しかも、一人で。
「陽奈美? どうしたの、今日は確か、エレオノールの番じゃ…」
「…ちょっと、変更」
陽奈美は、部屋に入ってくると、僕の前に、まっすぐに立った。
その顔は、いつもの太陽みたいな笑顔じゃなく、どこか、泣き出すのを必死にこらえているような、そんな顔だった。
「翔太」
「…うん」
「…今夜は、セラフィーナさんのところへ、行ってあげて」
「え?」
僕は、何を言われたのか、一瞬、理解できなかった。
「な、なんで…? 陽奈美、あんなにセラたちのこと…」
「…うるさいな」
陽奈美の瞳から、ついに、堪(こら)えていた涙が、一粒、ぽろり、とこぼれ落ちた。
「あたしだって、嫌(いや)に決まってるでしょ…!」 彼女の声が、震える。
「翔太は、あたしだけの翔太でいてほしい…! 他の誰にも、触(ふ)れさせたくない…! 今だって、こんなこと言うの、胸が張り裂(さ)けそうなくらい、痛くて、苦しいんだから…!」
わっ、と、彼女は子供みたいに泣き出した。
「…でも」
陽奈美は、ぐしぐしと涙を拭(ぬぐ)うと、僕の胸を、ドン、と押した。
「…でも、あたし、翔太に、十年越しの『約束』 を破(やぶ)らせるような、そんな、ケチな女には、なりたくないの…!」
「陽奈美…」
「十年だよ!? あたしが翔太に会えなかった十年、あの子たちは、あんたのことだけを信じて、待ってたんでしょ…!? そんなの、あたしが勝てるわけ、ないじゃん…」
「だから、行きなさいよ、バカ翔太!」
彼女は、僕の背中を、小さな両手で、思いっきり押した。
「…その代わり」 陽奈美は、最後に、僕の服の裾を、ぎゅっと掴んで、上目遣(うわめづか)いで、こう言った。
「ちゃんと、…『大切』に、してあげるのよ」
彼女の優しさと、覚悟と、そして、どうしようもないほどの深い愛情に、僕は胸を打たれた。
(…敵(かな)わないな、陽奈美には) これが、僕の「正妻」の器(うつわ)か。
僕は、彼女の頭を、一度だけ、強く、優しく撫でた。
「…うん。ありがとう、陽奈美」
彼女に背を向け、部屋を出る。 背後で、陽奈美が、声を殺して泣き崩れる音が、小さく聞こえた。
その音を胸に刻みつけ、僕は、異世界組が待つゲストハウスへと、真っ直ぐに向かった。
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ごくり、と、自分の喉(のど)が鳴るのが分かった。
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【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
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少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
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間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
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真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
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"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
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最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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