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9・庭で拾ったもの
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ひとりと一匹におやすみの挨拶をした杏は、母屋に戻るため暗い庭を歩き出した。
庭の奥まで来たのは久しぶりだ。
立ち止まり、もう一度庭を振り返る。
庭の奥は、山へ続く梅林が広がっていた。
梅林の真ん中には、大きな庭石が置いてある。
幅は2メートル、奥行は1メートルほどある石だ。
なかなか立派な庭石で高価なものらしいのだが、父が造園の仕事で訪れたどこかのお屋敷から「じゃまだから引き取ってくれないか」と頼まれ運んできたものらしい。
これだけ大きな石を置いておくには広い庭が必要だったから、簡単には次の貰い手は見つからず、園田家で引き取ることになったのだ。
そんな石をひどく気に入っていたのは杏の母だった。
石は腰掛けるのにちょうど良い高さで、幼かった杏は母とここに座って庭を眺めたものだ。
天気の良い日は石の上にレジャーシートを敷いておやつを食べたり、本を読んだり、一日の大半をこの庭で遊んで過ごしていた。
たしかあの日もそうだった。
忘れたくても忘れることができない。
この庭で母は死んだのだ。
辛い記憶を振り払いたくて、杏は石から目をそらした。
と、その視界の端に何か光るものが見えた。
暗闇の中で何かが光っていた。
吸い寄せられるように足が動き出していた。
サンダルで芝生を踏み分けていくカサカサという音が、やけに大きく聞こえる。
光の発生する場所にたどり着いた杏は、目を凝らした。光は蛍に似ているが、季節外れだし点滅していない。
かがみこんでそっと拾い上げたのは、小さな丸い物体だった。
それは杏の手のひらの上で弱く発光している。
「…きれい。でも何で光るんだろ?」
蓄光素材のおもちゃか何かのプラスチック片だろうか。
庭に来る鳥か動物が、気まぐれに運んできたのかもしれない。
ぽいと、投げ捨ててしまってもよかったができなかった。
丸い物体は杏の手のひらになじみ、どうにも気になって目が離せない。
もう少しよく見ようと、杏が顔を近づけたときだ。
突然、強い風が吹きつけた。
体を持っていかれそうになり、杏はぐっと足に力をいれた。
同時に光るものが飛ばされないよう、同時に手のひらをきつく握りしめた。
風は強く、杏の周りを枯葉が旋回するように飛んでいる。
バタバタとなつめのテントは音をたて、ハスが激しく吠える声がする。
杏は手の中のものを、さらにぎゅっと握りしめ目を閉じた。
手の中でそれが熱をもったように温かくなっている。
以前もこんなことがあった。
あれはいつだろうか?
何かを思い出しそうな気がしていた時だ。
「あれ杏?まだいたの?」
なつめがランタンを手に、こちらへ近づいてきた。
「いま、すごい風が…」
杏は言いかけて気づいた。
いつの間にか風は止んでいた。
「風?風なんか吹いてないよ?ずっと静かだったけど」
近づいてきたなつめが不思議そうに杏を見た。
何だったんだろう今のは?
杏は乱れた髪をなでつけながら、木の葉の散った庭を見渡した。
なつめがテントに入りながら、杏に手を振った。
「あたしは大丈夫だからさ、早く家に戻りなよ。おやすみ」
「あ、うん。おやすみ」
杏はあわてて手を振り返そうとして、無意識に手の中の物をエプロンのポケットにしまった。
何か変だったけど、家に戻らなくちゃ。
母屋を目指して杏はかけだした。
頭の中でいつものように、家事の段取りをつけていく。
台所の片付けをして米を研いだらお風呂に入って、それからアイロンをかけながら健康番組の録画チェックをしよう。
庭の奥まで来たのは久しぶりだ。
立ち止まり、もう一度庭を振り返る。
庭の奥は、山へ続く梅林が広がっていた。
梅林の真ん中には、大きな庭石が置いてある。
幅は2メートル、奥行は1メートルほどある石だ。
なかなか立派な庭石で高価なものらしいのだが、父が造園の仕事で訪れたどこかのお屋敷から「じゃまだから引き取ってくれないか」と頼まれ運んできたものらしい。
これだけ大きな石を置いておくには広い庭が必要だったから、簡単には次の貰い手は見つからず、園田家で引き取ることになったのだ。
そんな石をひどく気に入っていたのは杏の母だった。
石は腰掛けるのにちょうど良い高さで、幼かった杏は母とここに座って庭を眺めたものだ。
天気の良い日は石の上にレジャーシートを敷いておやつを食べたり、本を読んだり、一日の大半をこの庭で遊んで過ごしていた。
たしかあの日もそうだった。
忘れたくても忘れることができない。
この庭で母は死んだのだ。
辛い記憶を振り払いたくて、杏は石から目をそらした。
と、その視界の端に何か光るものが見えた。
暗闇の中で何かが光っていた。
吸い寄せられるように足が動き出していた。
サンダルで芝生を踏み分けていくカサカサという音が、やけに大きく聞こえる。
光の発生する場所にたどり着いた杏は、目を凝らした。光は蛍に似ているが、季節外れだし点滅していない。
かがみこんでそっと拾い上げたのは、小さな丸い物体だった。
それは杏の手のひらの上で弱く発光している。
「…きれい。でも何で光るんだろ?」
蓄光素材のおもちゃか何かのプラスチック片だろうか。
庭に来る鳥か動物が、気まぐれに運んできたのかもしれない。
ぽいと、投げ捨ててしまってもよかったができなかった。
丸い物体は杏の手のひらになじみ、どうにも気になって目が離せない。
もう少しよく見ようと、杏が顔を近づけたときだ。
突然、強い風が吹きつけた。
体を持っていかれそうになり、杏はぐっと足に力をいれた。
同時に光るものが飛ばされないよう、同時に手のひらをきつく握りしめた。
風は強く、杏の周りを枯葉が旋回するように飛んでいる。
バタバタとなつめのテントは音をたて、ハスが激しく吠える声がする。
杏は手の中のものを、さらにぎゅっと握りしめ目を閉じた。
手の中でそれが熱をもったように温かくなっている。
以前もこんなことがあった。
あれはいつだろうか?
何かを思い出しそうな気がしていた時だ。
「あれ杏?まだいたの?」
なつめがランタンを手に、こちらへ近づいてきた。
「いま、すごい風が…」
杏は言いかけて気づいた。
いつの間にか風は止んでいた。
「風?風なんか吹いてないよ?ずっと静かだったけど」
近づいてきたなつめが不思議そうに杏を見た。
何だったんだろう今のは?
杏は乱れた髪をなでつけながら、木の葉の散った庭を見渡した。
なつめがテントに入りながら、杏に手を振った。
「あたしは大丈夫だからさ、早く家に戻りなよ。おやすみ」
「あ、うん。おやすみ」
杏はあわてて手を振り返そうとして、無意識に手の中の物をエプロンのポケットにしまった。
何か変だったけど、家に戻らなくちゃ。
母屋を目指して杏はかけだした。
頭の中でいつものように、家事の段取りをつけていく。
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