影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様

佐藤 あまり

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 2週間と、少したった。もう本当に待ちきれなくて一日に何度も確認に行ってしまった。

 もういいかな?いいよね、すり鉢はなかったけど、乳鉢もっとざらざらバージョンみたいなのを持ってきてもらった。すりこぎじゃなくて、めん棒も。

 お皿を伏せてプチプチと取っていく、沢山あるから大変だ。その後すり鉢(仮)で、もみすり、一合分くらいは欲しいからせっとせと大量の稲を捌いていく。

 僕の腕が痛くなった頃、やっと終わった。腕が痛い、痛すぎる……久しく感じてなかった筋肉痛に、こんな感じだったってなるやつ。 
 もう今日は寝る!起きたら全部治ってる、眠りに全てを託してベッドにダイブ、あいきゃんふらーい。


 翌日、トントン、トントン、トントン、トントン……終わらない。負けるな、挫けるな、米を食べるんでしょ?
 僕の中の天使が励ましてくる、けど、もし食べれなかったらどうするの?雑草だよ?不味い可能性だってあるじゃん、似てるだけで、全然違う植物かもしれないよ?今やってる方法も合ってるか分からないのに、続けるの?

 ……悪魔の囁きがすごい、まっ負けない!僕は絶対、諦めない!1人小芝居で何とかモチベーションを保ちつつ、トントン、トントン……

 結局、終わったのは数日後の事だった。不思議なことに、前に自分で精米した時は薄茶色だったのに、真っ白の、売ってるみたいな色になった。
 ……どうしよう、ほんとに似てるだけの全然違う植物だったら。ぶんぶん、嫌な想像を振り払い、キッチンを使えないかとラトさんに聞いてみる。

 「今はまだ人がいますので、話を通して来ますね。」

 あわわわ、そんなに大掛かりじゃないくていいから、ちょっとでいいから、お鍋1つ分でいいから!
 思えばアーサー様に会った以来、ラトさん以外に会うのは久しぶりだ。
 ちゃんとしなければ、キリッ、顔、キリッ、鏡の前で表情チェックをする。よしっなんとか大丈夫、かな?

 いざ、キッチンへごー!

 ラトさんの先導で廊下を歩いていると、部屋から離れるに連れ、だんだんと人を多く見掛けるようになってきた。
 みな、冷たい瞳でこちらを見てくる。中にはあからさまに顔を顰める人もいた。
 ……そんな視線ばかりで、ワクワクしていた気持ちがみるみる萎んでいく。

 やにわに、睨んできた人達が目を逸らした。リオン様でもいたのかと思ったけど、違ったみたいだ。
 それからこちらを睨んだ人が次々と目を逸らしていく。あれは、冷や汗?
 なんでかみんな壁に張り付いて行って、気分は完全にモーゼだった。

 ようやくキッチンに着いて中に入る。やっぱりいい顔はされない…と思ったら揃ってザッ!っと壁によった。
 さっきからなんなんだ、そんなに僕が嫌いなのかよ。米炊いちゃうもんね、炊きあげちゃうもんね!と、まず浸水から。暖かいので、30分ちょい浸水させる。部屋でやっておけば良かった……と少しだけ後悔する僕。

 壁にはっついたままのコックさん達に、作業していていいって伝えたかったけど、なんて言ったらいいか分からなかったので、ラトさんに通訳をお願いした。

 動き出すキッチン、僕は木箱に腰を下ろして、音に耳を傾ける、包丁の音、鍋の音、人が料理をしている音はなんだか心地よくて、ついぼぉっとしてしまった。

 浸水が終わったみたいなのでお米をといでいく。あの日から手袋はあんまり外さないようにしているんだけど、しょうがない。

 といだお米を火にかけていく、うちが鍋炊飯でよかったなぁ、としみじみ思った。うちには炊飯器がなくって、世の炊飯器レシピが試せないのが残念だった。ケーキとか、巨大たこ焼きとか、ハンバーグとか。でも今思いっきし鍋炊飯の経験が役に立っているので、良しとしよう。
 
 炊きあがりをワクワクしながら待っていると、1人のコックさんが小麦の穂をまんま抱えて、歩いてきた。えっ?
 魔道具っぽい大きめの機会の中に入れる。なんということでしょう、粉になって出てきたではありませんか。
 魔法かな?あっ魔道具だった。えっ何それ、何その超便利なの。

 その時、ふわりといい香りがして、僕は沸き上がる気持ちを抑えるのに精一杯だった。お米の!お米の香りがするよ!

 時間にしてそんなに長くないはずなのに、永遠にも感じる時間を過ごし、ようやく炊き上がった米を恐る恐る食べてみる。
 っ……美味しい。お米の、味がする。やっと食べることができた、懐かしい味。

 「やっと……」

 涙ぐんでしまう、ラトさんが心配そうにこちらを見てきた。

 「大丈夫ですか?」

 そうだ、ラトさんにも食べてもらおう。

 「嫌じゃなかったら、食べる?」

 「よろしいのですか?では…」

 ラトさんのは塩むすびにして渡した。ドキドキ、異世界の人に米はどういう反応をされるんだろうか。
 冷静に考えるとねこじゃらしを美味しいよ!って差し出された感じだったりして……ラトさん、すごいガッツだ、尊敬の眼差しを送る。
 
 「……っとても美味しいです!なんですか、これは?」

 まさかのなにか知らずにに食べていたパターン!確かに言ってなかった……ガッツがありすぎだよラトさん!

 「えっと、お米、じゃなくて、オリュ草」

 「これが、オリュ草?」

 「まだ、工程が大変なところがあるから、そこはこれから頑張ろうと思って」

 さっき見たあの便利なやつを上手く改良できないかな……そうだ!あの人に頼んでみよう。国1番の魔道具職人、ガルムさんに。次やることが決まった。
 今日は異世界で米が食べられた記念日と名ずけよう。そんなことを考えた。


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次回sideラトです。
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