わんこ騎士団長は伝えたい!〜2度目の異世界転移、助けた子犬が大型犬に成長してました〜

佐藤 あまり

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2 薬草摘みで大ピンチ!

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 「おい、おい、大丈夫か?」

 うう…ん、明るい?瞼の裏が光で満たされている。さっきまで夜だったのに…俺は、死んだのか?まさかここは死後の世界?

 「おい!生きてるか!」

 「…?! い、生きてる…?」

 びっくりして目を開くとそこは壁、ではなくむっきむきの胸筋であった。
 
 「自分の名前は言えるか?」

 「俺は柊怜で……ふぁっくしゅ!」

 「とりあえずギルドに来い、そのままじゃ風邪をひくだろう」

 何も分からないがとりあえず着いて行こう……

 むっきむきの人、もといギルドマスターだというベルグさんに連れられギルドの2階に、そしてあれよあれよという間にお風呂に突っ込まれ、上がったら声かけろよ~と取り残された。怒涛の急展開である。

 えーと、状況を整理しよう。

 さっきまでの俺→怪しいお祭りに参加して、怪しい店主から怪しい刀を買って、浴衣で、夜の海に落ちる。

 今の俺→真昼間、恐らく剣と魔法のファンタジー世界、むっきむきのギルドマスター、風呂

 ……この流れで妖の和風ファンタジーの世界に行かないことあるんだ?!温度差に風邪をひきそうだ。物理ではなく。

 えええ……これからどうすれば、そもそも帰れるのか俺……
 とりあえず待たせちゃ悪いし、さっさと入って下に降りよう。

 木でできた階段をとすとすと降りるとさっきは裏口から入ったせいで気づかなかったのか、だいぶ賑やかだった。

 「あのー、お風呂、ありがとうございます。服まで貸して頂いて」
 
 「おう、じゃあちょっと聞きたいこ…」

 「「「ギルマスが美人攫ってきたあああ!」」」

 「この強面!ついにやったか!」

 「うるせえ!お前ら分かってて言ってんだろ!それとついにやったかって言ったやつ、後で俺が稽古つけてやるから待っとけ」

 「だって、恋愛の神に見放されたギルマスがこんな美人を……うわ腰ほっそ!まつ毛なっが!しかも風呂上がり……攫ってきたしかないでしょ!」

 「ごめんなさいうちのギルマスが、いい男なんです、顔怖くて顔怖くて顔怖いけど、子供と女性には優しい気のいい男なんです、ただ人徳の代わりに恋愛運を捨てた男なんです……」

 「ばっかおまえ、攫ってる時点で人徳も何もねえだろ!」

 「お、ま、え、ら、なぁ……後でまとめて訓練所来い」

  「「「はい!」」」

 ベルグさんはどっしりと椅子に座り、ふうと息を吐いた。

 「すまんな、悪ノリがすぎる連中なんだ」

 まるで漫才でも見ているようだった。ベルグさんは随分部下に愛されているんだな。

 「それでワケありみたいだが、何か身分を証明出来るものはあるか?」

 何も無い……首を横に振った。今更ながら本当に心許なくて泣いてしまいそうだ。

 「そうか……よし、分かった、行くところがないならしばらくうちの酒場で働いてみるか?後、冒険者登録して身分証を作るといい」

 なんて懐が深い人なんだ……!こんなどこの誰かも分からない怪しいやつに職と寝床をあてがってくれるなんて……でも

 「ありがたい、ですけど、その、俺ぶっちゃけ怪しくないですか?変な服だし……」

 「ははっ!はー、面白いな。大丈夫だ、こういうところで働いてると自然と見る目も養われてくもんでね。」

 お前はそんな悪いやつなんかじゃない、とベルグさんは口角を上げた。

 「ありがとうございます!お世話になります!」

 こうして運良く俺の当面の生活は保証された。……訳なのだが、

 「平和だぁ……」

 ぽっかぽかの草原で俺は薬草を摘んでいた。ギルドの依頼ボードにあった最低難易度の仕事は子供のお使いレベルだったようで、周りは俺よりも小さな子ばかりだ。どれが薬草が分からなくて困っていたら赤髪の元気な男の子が色々教えてくれた。

 「こっちは間違えやすいから気をつけてな!兄ちゃん!」

 ふむふむ、葉っぱがギザギザしててミントグリーンなのが薬草なのか……一応持ってきた刀を傍らに置き、子供たちに囲まれてのんびりと薬草を摘む。平和すぎて鳩でも飛んできそうだ。

 ……ほんとに飛んできた。いや、鳩?なにか分からない鳥の群れがけたたましく鳴きながらこちらに向かってくる。まるで何かから逃げるように。

 次の瞬間、バキバキバキっ!ものすごい音を立てて、俺の背をゆうに超える程大きな蛇型の魔物が近くの森から飛び出して来た。

 「逃げろ!早く!」

 魔物を追ってきた人が叫ぶ。まずい、子供たちが……!

 咄嗟に刀を握った。ぶわっ!と桜が舞い上がって、ふっと軽くなった身体が勝手に動き、気づけば魔物を切り捨て刀を鞘に収めていた。これは……いや、そんな事より子供たちはっ!

 「大丈夫か?!怪我は無い?」

 「うわああああん!」 「ふええええええ!」

 子供たちが泣きながら抱きついてきた。怖かったよな、無事で本当によかった…

 「兄ちゃん強かったんだなぁ…!それに桜がひらひらしてて綺麗だぜ!」

 そう指さされ自分を見ると、ひらひらと舞い散る桜を纏い、いつの間に着替えたのか黒い和装の俺。やっぱ怪しい刀だったか……

 普段ここは魔物なんて出ない安全な場所なのだが、暴走した魔物が突っ込んで来てしまったのだという。

 「危ない目にあわせてすまなかった……誘導出来れば良かったが、どんなに気を引いても街を目指すように止まらなくて」

 本当に良かった、ありがとうと何度も頭を下げる冒険者さんと一緒にギルマスに報告。大興奮で語るものだから、なんだなんだと集まって来てしまった皆に、目をキラキラさせながら如何に俺がかっこよくて綺麗だったかを熱弁する子供たち。

 ……ちょっと恥ずかしいな、ギルマスがキリのいいところで子供たちを帰してくれ、疲れたのかその日はベットに入った途端に寝てしまった。


 

 
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