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「そういえばさ、今日はこの三人で全員なの?」
ふいに健一が聞いた。早苗が時計を見ると、もう九時を回っていた。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
美穂も健一も最初の一言づつ口にしたきり、本題には自ら触れてこなかった。健一の話にうまい合いの手を入れたり、つっ込んだりしながら、テンポのよい会話がすっかり耳に馴染んでいた。二人とも、早苗が元気になれるなら、今日はそれでいいから、という意味も言葉を合間に挟んだりもしてくれた。自分にはどうしようもできないような大きな力が働くことってある。やなことも、辛いことも、理不尽なこともあるよね。話のそこここでエールを送ってくれた。自分たちは、早苗に辛いことを話させることは望んでいないから、今日は楽しいお酒を飲もう。そういう二人のスタンスが嬉しかった。
早苗は、もう満足だった。これで、もう明日からは、また頑張れるという気持ちになれていた。自分のことを話しても話さなくても、むなしい気分を吹き飛ばすことは、大成功であった。
「ああ、そうだよね。今日は三人?」
美穂も同じように疑問形で早苗に向いた。
「そうそう、和美からは、ここに来る途中で、メールもらってたんだよね。先約あって行けないから、早苗をよろしくっていう、メール。あと、隆史は?」
「ああ、うん。実は、隆史には、連絡し忘れちゃって」
苦い言い訳だった。
「えっ」
美穂は意外な顔をした後、すぐに思案した面持ちになった。
「あ、もしかして、気、遣ったんじゃないの?こないだ仕事いっそがしいって、言ってたから。あいつのことだもん。仕事、早退して来ちゃうかもしれないもんね」
美穂が言ったことは、一理あった。早苗も、多忙な仕事をしている隆史に声をかけるべきではない、という気持ちがなかったわけでない。
「まあね」
早苗が美穂の推測を素直に認めると、二人とも納得の表情をした。でも、それだけが理由ではなかった。
家族に降りかかったこの難局を、隆史に打ち明けたら、本気で助けを求めてしまいそうな自分が嫌だったのだ。きっと、友人としてではなく、もっと親身になって助けてほしいと思ってしまう。しかし、果たしてそんな風に、誰かに寄りかかりながらでしか歩けないような自分を、隆史は受け入れてくれるだろうか。隆史の前では、気丈で明るい自分でいたい。さまざまな不安が過って、結局誘いのメールが送れなかった。
そんな早苗の気持ちを知らない美穂が、次に話し出した内容は、早苗を驚かせた。
ふいに健一が聞いた。早苗が時計を見ると、もう九時を回っていた。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
美穂も健一も最初の一言づつ口にしたきり、本題には自ら触れてこなかった。健一の話にうまい合いの手を入れたり、つっ込んだりしながら、テンポのよい会話がすっかり耳に馴染んでいた。二人とも、早苗が元気になれるなら、今日はそれでいいから、という意味も言葉を合間に挟んだりもしてくれた。自分にはどうしようもできないような大きな力が働くことってある。やなことも、辛いことも、理不尽なこともあるよね。話のそこここでエールを送ってくれた。自分たちは、早苗に辛いことを話させることは望んでいないから、今日は楽しいお酒を飲もう。そういう二人のスタンスが嬉しかった。
早苗は、もう満足だった。これで、もう明日からは、また頑張れるという気持ちになれていた。自分のことを話しても話さなくても、むなしい気分を吹き飛ばすことは、大成功であった。
「ああ、そうだよね。今日は三人?」
美穂も同じように疑問形で早苗に向いた。
「そうそう、和美からは、ここに来る途中で、メールもらってたんだよね。先約あって行けないから、早苗をよろしくっていう、メール。あと、隆史は?」
「ああ、うん。実は、隆史には、連絡し忘れちゃって」
苦い言い訳だった。
「えっ」
美穂は意外な顔をした後、すぐに思案した面持ちになった。
「あ、もしかして、気、遣ったんじゃないの?こないだ仕事いっそがしいって、言ってたから。あいつのことだもん。仕事、早退して来ちゃうかもしれないもんね」
美穂が言ったことは、一理あった。早苗も、多忙な仕事をしている隆史に声をかけるべきではない、という気持ちがなかったわけでない。
「まあね」
早苗が美穂の推測を素直に認めると、二人とも納得の表情をした。でも、それだけが理由ではなかった。
家族に降りかかったこの難局を、隆史に打ち明けたら、本気で助けを求めてしまいそうな自分が嫌だったのだ。きっと、友人としてではなく、もっと親身になって助けてほしいと思ってしまう。しかし、果たしてそんな風に、誰かに寄りかかりながらでしか歩けないような自分を、隆史は受け入れてくれるだろうか。隆史の前では、気丈で明るい自分でいたい。さまざまな不安が過って、結局誘いのメールが送れなかった。
そんな早苗の気持ちを知らない美穂が、次に話し出した内容は、早苗を驚かせた。
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