規格外の螺子

cassisband

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午後七時。早苗が約束の焼き鳥屋の引き戸
をがたがた鳴らしながら引くと、奥の席には、
美穂の姿があった。美穂も戸を引く相手を気にしていたようで、すぐに合図を送ってきた。
「ごめんね。急に呼び出したりして」
早苗は席に着くやいなや、美穂に詫びた。
「いいよ、いいよ。ちょうど、予定も空いてたし、私も飲みたいなあ、と思っててさ」
「ありがとう」
早苗はゆっくり脱いだ上着とバックを重ねて隣の空いている席に置いた。その早苗の動作を、美穂は目を大きく見開いて見つめていた。それから、やっぱり元気ないね、と言わんばかりの顔で切り出した。
「なにか、あったの?」
「まあね」
早苗の濁した返事に、美穂は「まあ、話はあとだね!飲もうか?」とへなりとした笑顔を作って言った。
二人が注文したビールとお通し、それにおまかせのサラダは、すぐにやってきた。焼き鳥の盛り合わせには、少し時間がかかるのは、いつものことだ。
しばらくは、前回同様にたわいもない話をした。美穂の饒舌なしゃべりは、早苗を何度も笑わせた。三十分もすると、二人だというのに、場はすっかり温まった。これが、気心の知れた仲間というもののなせる技なのであろう。早苗のやりどころのないもやもやした気分も、おかげでずいぶんと和らいでいた。
健一がやってきたのは、もうすぐ八時という時間だった。
「ごめん。遅くなって」
健一は、できる限りの最短時間で駆けつけたという様子で、まっすぐに早苗たちのテーブルへ進むと、美穂の隣に腰を下ろした。
「ビール下さい」
早口に店員に注文をすると、すぐに早苗に向き直った。真剣な目をしていた。
「そんな、早苗の身に何かあった、みたいな顔しないでよ。こうして、今も元気に二人でお酒飲んでるんだからさ」
美穂は、肩で健一を小突いて見せた。美穂は、まだ早苗の身に降りかかった災難を話ていないにもかかわらず、今日、どんな気持ちで早苗が友人と飲みたかったのか、察してくれているようだった。
「あ、そうか。いや、何事があったのか、と思って」
健一は、思ったとおりのことを口にする。これが、女友達と男友達の気の使い方の違いなのだろうな、と早苗は一度解釈しかけたが、この場に隆史がいないことが頭をよぎると、そうではなくて、これは美穂と健一の違いだと改めて思った。
「七時には来たかったんだけど、帰りの環七が渋滞しててさ。五のつく日ってやつのせいかな?ほら、よく言うらしいよ、五のつく日は集金とかが多いから、道路を走ってる車の数が増えるんだって」
「それ、ほんとに?ちょっと、聞いたことないけど~」
その続きを健一が話し出そうとするのを遮るように、注文したビールが席に運ばれてきた。
「あ、すいません」
健一が小さく丁寧に店員からジョッキを受け取ると、美穂は、じゃ、と言いながら、自分のジョッキも持ち上げた。
「おつかれさま」
なみなみと注がれ、美味しそうな泡が溢れそうなジョッキに、飲みかけのジョッキ二つを、かちりと合わせた。
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