好きになった女子が愛人にしかなる気がないと言っていたので、形だけの彼女を作って愛人として付き合ってもらった。

無自信

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第10話

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 次の日は授業が午前までだったので昼休みがなかったためカジワラとハタケと話す時間があまり取れなかった。それでも、これはカジワラを俺に振り向かせるために必要なことなんだ!と自分に言い聞かせてキョウヘイを迎えに来た車に乗り込みキョウヘイの家に向かった。

車で移動中、キョウヘイが、「そういえば、ナツキには謝ったのか?」と俺に聞いてきた。

「ああ、ちゃんと謝ったよ。そういうキョウヘイの方こそ、ちゃんとナツキに謝ったのかよ?」

「俺も昨日ラインでだけどちゃんと謝ったよ。」

「そっか。ていうかお前のせいで俺は余計なことまでナツキに話しちゃったんだぞ!何かあったら責任取ってくれよ!」

「え?え?俺のせい?余計なこと?何の話だよ?分かるように話してくれよ!」

俺はナツキにカジワラに振られたことを話したことをキョウヘイに伝えた。

するとキョウヘイは納得できないという表情をして、「それって俺のせいかなぁ?セイがナツキにカジワラに振られたことを黙っていたことでナツキとの関係が悪くなったことを気に病んでいたからじゃないのか?」と反論してきた。

「確かにそうかもしれないけど、キョウヘイの一言が後押しになったことは事実だ。お前にも責任の一端はあるはずだ。」

「分かったよ!ナツキがカジワラにセイが振られたことを誰かにばらしたら俺も何かしらの方法で責任を取るよ。」

始めは責任がないと言っていたキョウヘイが急に自分の責任を認めたので不思議に思い、「それならいいけど。何で急に責任を認めたんだ?」と問いただした。

「それはよく考えてみたら、ナツキが誰かにセイがカジワラに振られたことを話すことはないなと思ったからだよ。どうせ取らなくていい責任なら認めても大丈夫だからな。」

キョウヘイに言われて、昨日はナツキのことを信じて話したのに今日になって話した責任を本気ではないとはいえキョウヘイになすりつけるなんて俺は何て奴だろう!と自己嫌悪に陥った。とりあえず今言ったことは本気じゃないってことをキョウヘイに伝えようと思い、「冗談だよ!冗談!俺もナツキが誰かに話すとは思わないよ!」と伝えた。
すると、キョウヘイは「だよな!そう思うよな!」と言って、俺の発言を追及してこなかったのでホッと胸をなでおろした。

1時半前にはキョウヘイの家に着いた。キョウヘイが「まず昼飯食べちゃおうぜ!」と言ってきたので、「そうだな。」と返事をした。

この日は事前にお昼は弁当を作ってもらうからわざわざ俺の分を用意しなくていいよ。とキョウヘイに伝えておいたので、庭に置かれたテーブルにはキョウヘイの分の昼食だけが用意されていた。俺とキョウヘイは席についてお昼を食べ始めた。

キョウヘイの昼食もお弁当だった。パッと見はわからないが中身の食材は俺のとは比べられないくらい高そうだった。学校に持ってくるお弁当はここまで豪華じゃないので、少し食材のグレードを下げているんだなと思った。

お昼を食べ終えると、まずはシュート練習を30分間行った。シュートは75本中41本入った。その後は1時間、中間試験の勉強をした。まずは今までの暗記の勉強ではあまりできていなかった数学から手を付けた。数学の問題集を広げて解き始めた。計算だけの問題は解けるが文章問題になると途端に解けなくなった。10分くらい悩んでも解けなかったのでキョウヘイに解き方を教えてもらおうとした。キョウヘイは嫌な顔一つせず「ここはこう考えるんだよ。」と解き方を教えてくれた。答えを見てみるとキョウヘイの解き方で合っているようだった。

俺は次の文章問題に取りかかったが、それは中間試験の範囲の中でもかなり難しい問題だと先生が言ってた問題だった。もちろん、俺にはちんぷんかんぷんだったので、「なあ、この問題分か……。」とキョウヘイに聞こうとしたがやめてしまった。

なぜなら、いくら俺よりは頭がいいとは言っても、学年順位が30位くらいのキョウヘイには解き方が分からないんじゃないか?と思ったからだ。それに1年の時の最後の期末試験でのキョウヘイの数学の点数は80点台だった気がしたので、数学はキョウヘイも得意ではないのではないか?と思ったのも理由に入った。

しかし途中でやめたとはいえ、話しかけていたので「どうした?分からない問題があったのか?」とキョウヘイが聞いてきた。俺は仕方なく「この問題わかるか?」と質問した。

「ああ、それ難しいよな。それはこうやって解くんだよ。」と言って、キョウヘイは解き方を教えてくれた。問題集の答えを見るとキョウヘイの解き方で合っているようだった。俺は素直に「よくこんな難しい問題解けるな。」と感心してしまった。

「このくらいの問題だったら解けるから安心して質問してくれよ!」とキョウヘイが言ってきたので、俺は「もしかしてキョウヘイ、2年になってから数学の勉強に力を入れていたのか?」と聞いてしまった。

「は?何で?」

「だってキョウヘイ、1年の最後の期末試験では80点台だったじゃないか?俺もそこまで分かるわけじゃないけど、この問題は80点台の奴に解ける問題じゃないと思うんだよな。」

「ああ、そういうことね。ちょっと待ってろ。」

そう言ってキョウヘイは自宅方へ走って行ってしまった。しばらくすると何か紙を持って戻ってきた。

「ほら……これ見てみろ。」

息を切らしてキョウヘイは手に持った紙を見せてきた。

「こ、これは……。」

キョウヘイが見せてきたのは1年の最後の期末試験の数学の解答用紙だった。
それには88点と右上の方に書いてあった。

「これが何だって言うんだよ?俺が言った通り80点台じゃないか!」

「俺が見てほしいのは点数じゃなくて正解している問題を見てほしいんだよ。」

「正解している問題?」

俺はキョウヘイの言ってることが理解できなかったが、とりあえず解答用紙の右上から下の方へ視線を移動させた。俺でも正解できた計算問題を2問間違えていたので、おいおい。こんな問題間違えてるのかよ?これでよく88点もとれたな。と心の中でキョウヘイに呆れていた。

しかし、解答用紙の一番下まで視線を移動させると、俺はとんでもない事実に気が付いた。数学の最後の問題、配点20点の文章問題をキョウヘイは20点満点で正解していたのだった。

この試験問題を考えた数学担当の千賀は最後に配点の多い文章問題を出す先生で、全部正解していなくても解答の過程があっていたら部分点をいくらかくれたが、全然当たっていなくても解こうとした意志が見えると1,2点くれるという先生だった。その千賀がこの時の最後の文章問題は満点の人は280人中3人だと言っていた気がしたので、その問題をキョウヘイが正解しているのに驚いてしまった。

「おい、何で最後の問題を正解してるんだよ?簡単な計算問題を間違えているくせにさ!」

俺が疑問をそのまま口にすると、キョウヘイがニヤリと笑いながら、「それは簡単な計算問題は満点を取らないためにわざと間違えたのさ。」と答えた。

キョウヘイの返答が俺を余計に混乱させた。

「満点を取らないためにわざと間違えた?何でだよ!テストなんていい点を取って困ることなんてないだろ?」

「俺は困るんだよ。セイは俺に4つ歳が離れた兄貴がいることは知ってるよな?」

「ああ、知ってるよ。ハジメさんだろ?何回か会ったことあるよ。それで兄貴がいることと満点を取りたくないことがどう関係しているんだよ?」

「それは……簡単に言うと兄貴と同じくらい、もしくはそれ以上に優秀だと思われないためだよ。兄貴は少し頑固なところがあって、他人からの忠告をあまり聞かないんだ。それを父さんはあまりよく思ってなくて、今のところ会社は兄貴に継がせるって言ってるけど、俺の方が兄貴より優秀だって父さんが思ったら、俺に会社を継がせるって言い出すかもしれないから、兄貴より優秀じゃないと思ってもらわなきゃいけないんだよ。俺は父さんとも兄さんとも揉めたくないからな。」

「そうか。そういう事情があったのか。でもさ、確かハジメさんが通ってる大学って……。」

「ハー〇ードだよ。」

「だよな。だったらわざと優秀じゃないふりをしなくても、ハジメさんの方が優秀なんじゃないのか?」

「それはそうかもしれないが、一応念には念を入れてな。」

「それに優秀じゃないふりをするんだったら難しい問題を正解するんじゃなくて簡単な問題を正解した方がいいんじゃないか?」

「だって最後の問題って点数調整難しいじゃんか。それなら配点が分かってて点数調整の簡単な計算問題を間違えた方がいいじゃん。」

「つまりキョウヘイは最後の問題が不正解で数学のテストの点数が80点というのは嫌だったという訳だよな?」

「要はそういうこと。80点じゃ50位以内に入れないからな。父さんに50位以内には絶対入れって言われているからな。」

「うーん?まあ、よくわからないけど、キョウヘイは定期試験では本気を出してないわけだろ?わざと間違えなければもっといい点とれるわけだろ?」

「まあな。わざと間違えなければ10位以内には入れるだろうな。」

「それを聞けて良かった。キョウヘイに教えてもらえば10位以内も夢じゃないってことだよな。よしっ!やる気出てきた!正直に言うと、20位台のキョウヘイに教わっても、良くて30位台にしか入れないんじゃないかと思ってたからさ。」

「やる気が出てきたのなら良かった。それじゃあ、時間を無駄にしないためにも、試験勉強に戻ろうか。」

「ああ。」

その後は3時半まで試験勉強をしたあと、シュート練習と試験勉強を交互に行った。本気出せば10位以内に入れると豪語した通り、キョウヘイは俺の質問にすべて答えてくれたし、全て正解していた。シュート練習は全部で291本中182本入った。シュートする位置はゴールの正面とはいえ成功率が6割を超えてきたので素直に喜んだ。


 この日は2時からシュート練習と中間試験の勉強をしていたので、いつもより早い7時に切り上げてキョウヘイの自宅に向かった。キョウヘイは、「いつもより早いし、夕飯食べていったらどうだ?」と提案してくれたが、そこまでお世話になるのは申し訳なかったので、「ありがとう。でも家に帰って食べるって母さんに言ってあるから。」と言って断った。

「そうか。それなら仕方ないな。」

キョウヘイはそう言って、何度も誘ってくることはなかった。

キョウヘイの自宅の前まで来ると、いつもなら車に乗り込む時にサンドイッチと水筒を渡してくる使用人さんがこの日はいなかった。少し残念な気持ちになったが、全然気にしない素振りで車に乗り込んだ。

キョウヘイも車に乗ると車は俺の家に向けて発進した。
車が発進するとキョウヘイがすぐに、「セイ、ごめんな。」と俺に謝ってきた。

「何で謝るんだよ?」

「実は今日は一緒に夕飯食べるもんだと思ってたから、サンドイッチを用意してもらってなかったんだ。」

「全然大丈夫だよ。むしろ今までキョウヘイの優しさに俺が甘え過ぎていたんだから。」

「あと、明日も一緒に試験勉強をしたいと思っていたんだけど、外せない用事ができちゃったから、申し訳ないけど明日は1人で試験勉強してくれるか?」

「外せない用事なら仕方ないよ。俺は大丈夫だから、気にすんなよ。」

「悪いな。あとこれは提案なんだが、来週は昼休み、図書室に行こう。」

「え?何で?」

「おいおい、忘れたのか?来週は図書委員のカジワラが図書室のカウンター係を担当する週だろ。だからセイも図書室に行ってカジワラにアピールするんだよ。」

「アピールするって何を?」

「カジワラが漫画だけじゃなくて、小説を読むのが好きなのは知ってるよな?」

「ああ知ってるよ。だから図書委員をやってるんだろ。」

「そこでカジワラが好きな小説を借りれば、いつもの漫画の話題以外の話題ができるだろ?それでもっとカジワラとの距離を詰めるんだよ。」

「そっか。俺、漫画という共通の話題があるから、カジワラが薦めて来ても苦手な活字だけの小説はあまり読んでこなかったけど、もっとカジワラに近づくためにはカジワラの好きなものを理解しないといけないよな。」

「そういうこと!やっぱり共通の話題が多い方が仲良くなれると思うんだよな。」

「分かった。来週の昼休みは図書室に行くよ。ところで……。」

「何だよ?」

キョウヘイは俺が次に何て言葉を発するか身構えていた。

「カジワラの好きな小説って何だっけ?」

「お前そんなことも知らないのかよ?ホントにカジワラのことが好きなのか?」

キョウヘイは俺の発言に心底呆れているようだった。
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