好きになった女子が愛人にしかなる気がないと言っていたので、形だけの彼女を作って愛人として付き合ってもらった。

無自信

文字の大きさ
50 / 60

第50話

しおりを挟む
 次の日、夏期講習が終わると文化祭の出し物についての話し合いが始まった。

伊東と内藤が進行役になってクラスのみんなから意見を聞いたが、誰一人として手を挙げなかった。

何かの展示で済ませようと思っていた俺が思うのもなんだが、このクラスの奴らは積極性に欠けてるんじゃないかと思った。だが、そう思っている俺も誰も意見を言わない中で手を挙げて発言する勇気はなく、結局この日の話し合いは何も決まらずに終わってしまった。


 放課後、いつもの4人で集まったが、この日も漫画の話をせずに文化祭の出し物について話し合った。

「何も決まらなかったな。」

「そうだねぇ。」

「ていうか、セイとハタケは自分の意見を言わなくて良かったのか?」

「あ!そうそう。トツカくんとミーちゃんはやりたいことがあったんじゃないの?」

キョウヘイとカジワラが気付かなくていいことに気付き、俺とハタケに尋ねてきた。

「いや、別に俺は積極的に何かの展示を薦めたい訳ではないから。誰かが何か提案したら、こんなのもあるよって提案してもいいかなぐらいの気持ちだから。俺よりもハタケだろ。意見を言わなきゃいけないのは。」

「あ!トツカくんズルい!トツカくんはただ単に誰も意見を言わなかったから、自分が最初に意見を言うのをためらっただけでしょ!」

「そう言うハタケもためらったんだろう?人のこと言えないと思うけどな!」

「ちょっと待った!俺から言い出したことでもめてるのは分かるけど、ちょっと待ってくれないか?」

俺とハタケがちょっと言い争いを始めたら、原因を作ったキョウヘイが止めに入った。

「なんだよ、キョウヘイ!邪魔すんなよ!」

俺は原因を作ったキョウヘイの言うことを聞くのが何だかしゃくに障ったので、せっかく止めに入ってくれたキョウヘイに強めに当たってしまった。

「そうだよ!元はと言えば、イチノミヤくんが言ったことから始まったんだよ!」

カジワラも同じ気持ちなのかキョウヘイに強めに当たっていた。

「それは悪いと思ってるよ!だから2人ともごめん!喧嘩の原因を作った俺が提案するのはおかしいと思うけど、2人が言い争いをしなくていい良い方法があるので聞いてくれないか?」

「なんだよ?良い方法って?」

「そうだね。一応聞いておこうか。」

「それは明日も文化祭の出し物について話し合いがあると思うから、その時にセイとハタケどちらが先に自分の意見を提案することができるかで争えばいいんじゃないかな?これならセイとハタケの意見をクラスのみんなに聞いてもらえるし、どちらが意気地なしか分かるし良い方法だと思わないか?」

「……うーん。確かにそれなら俺たちが揉めてる原因は解決できるな。でも……。」

「そうだね。原因は解決できるね。でも……。」

俺とハタケはキョウヘイの提案にある程度納得したが、一部納得できない点があった。

「キョウヘイ……。」

「イチノミヤくん……。」

「ん?どうした?」

「俺たちがいつお互いのことを意気地なしって言ったんだよ!言ってないだろ!」

「そうだよ!言いそうになったけど、まだ言う前だったよ!私もトツカくんも言ってないことを言わないでよ!」

「あれ?そうだっけか?2人ともごめん!てっきり、もう言ったものだと思ってた。」

キョウヘイという本当の敵に気付いた俺とハタケは、その後もキョウヘイのことを責め続けた。


 いつもの4人での話が終わった後は図書室へ行きハナザワさんの隣の席でハナザワさんのお薦めの本を読んだ。図書室が閉まるとハナザワさんと昇降口へ向かった。昇降口へ向かう間、お互いのクラスの文化祭の出し物について話をした。

ハナザワさんのクラスもこの日の話し合いでは出し物が決まらなかったらしい。ただし、うちのクラスと違うのはハナザワさんのクラスは出し物の案が割と出たらしく1つに決められなかったらしい。

「へー。それはちょっと羨ましいな。うちのクラスは誰も出し物の案を出さなかったから、ハナザワさんのクラスとは逆の意味で決まらなかったよ。」

「そうなんですか?昨日は何かの展示を提案するみたいなことをおっしゃってましたが、それは提案しなかったんですか?」

「え?……それはね……俺の何かの展示という案は積極的にやりたいことではないから、誰かが何か提案したら提案しなくてもいいかなと様子を見てたんだ。結局誰も何も提案しなかったから、明日の話し合いでは提案してみようと思ってるよ。」

キョウヘイと同じことを言われたので、一瞬ドキッとして言葉が出なかったが、すぐにキョウヘイの時と同じような言い訳を言った。ハナザワさんは俺の言い訳を聞くと何も言わずに右手の親指と人差し指を顎に当てて何かを考えるような仕草をした。

ちょっとおかしかったかな?クラスメートの誰も提案しないのをただ見ていたバカだって思われたかな?

俺がハナザワさんの発言をおそるおそる待っていると、ハナザワさんはパッと俺の方を見て、「トツカ先輩って優しいんですね。」と言ってきた。

「え?優しい?俺が?」

ハナザワさんの予想してない発言を聞いて、俺はそのまま聞き返してしまった。

「はい!トツカ先輩が何かの展示を提案してたら、それでいいかなと思った人たちが多かった場合、それに決まっていたかもしれないわけですし、クラスメートの人たちに余計な情報を与えずにやりたいことを提案するチャンスをあげたトツカ先輩は優しいですよ!」

ハナザワさんはそう言ってくれたが、俺はただ単に誰も何も言わない状況で何かを提案する度胸がなかっただけなので、俺を過大評価するハナザワさんの意見は聞いてて申し訳なく感じた。

しかし、それを否定する勇気もなかったので、俺は「あははは。そうかなぁ……。」とぎこちない笑顔を作ってハナザワさんの意見を受け入れていた。

そんな会話をしてるうちに昇降口に着いた。ハナザワさんと別れて自分の靴箱の所へ行って上履きから靴に履き替えてると、「セイ遅い!」と聞きなじみのある声が聞こえた。

声のした方を向くと、そこにはふくれっ面をしたナツキが立っていた。

「悪い悪い。ハナザワさんと話しながら来たから遅れたんだよ。普段は俺が待ってるんだし、ちょっと遅れたぐらいいいじゃんか?」

「まあ、そうだけど……。ところでハナザワさんは?」

「1年生の靴箱とは場所が違うから、さっき別れたけど。」

「ふ~ん?まあそれならいいけど、じゃあ帰ろっか?」

「ああ。」

いつの間にかナツキの機嫌がよくなっているので俺はホッとしていた。俺とナツキが昇降口を出ると、「トツカ先輩!」と俺を呼び止める声が聞こえた。声がした後ろを振り向くとハナザワさんが立っていた。

あまり時間を取るとナツキがまた機嫌が悪くなるかもしれないので、少しハラハラしていると、ハナザワさんは笑顔で、「また明日!」と挨拶してきた。俺は少しホッとして、「うん。また明日。」と挨拶を返すとハナザワさんはそれ以上何も言わずに下校していった。

「じゃあ帰ろうか?」と俺がナツキに言うと、ナツキは「うん。」と少し元気がないように答えた。


 学校から帰宅している間、ナツキはほとんどなにも話しかけてこなかった。それが少し怖かったが俺も何も言わずに黙っていた。だけど家の近くまで来るとナツキが急に、「ズルい!」と叫んだ。

俺は訳が分からず、「何だよ?急に?」と聞き返すと、ナツキは俯いたまま、「ハナザワさんの方がセイと一緒にいる時間が長くてズルい!私は帰宅するときしかセイと一緒にいないのに!」と言ってきた。

「仕方ないじゃん。ナツキは部活があるんだからさ。」

「じゃあ、夏休みの間、部活休む!」

「バカなこと言うなよ!ナツキが良くても、バレー部の人たちが困るだろ!それにナツキが俺と一緒にいるために部活を休んだというのがバレたらバレー部の人たちに何て言われるか分からないぞ!休むのだけはやめておいた方がいい!」

「でも、それじゃあ……。」

「分かった。夏休みの間バレー部が1日も休みがないってことはないんだろ?今度バレー部が休みの日にはナツキと必ずデートするから!それならいいだろ?」

「……うん。分かった。それでいいよ。」

ナツキは渋々だが俺の提案に納得してくれたみたいだった。

「それじゃあ、また明日な。」

「うん。また明日。」

ナツキと別れの挨拶をすると俺とナツキはそれぞれの自宅に帰宅した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...