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6.嘘つき
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ドキドキしすぎて涙が引っ込んだ。
昨日もそんな感覚に陥ったけれど、ドキドキしているのは私だけで、穂高さんは涼しい顔をしている。
「何か食べる? 珈琲と食パンくらいしかないけど」
「あ、いえ、おかまいなく……」
断ったけれど、「いいから」とそのままソファに座らされた。
穂高さんはキッチンで珈琲を入れたり食パンをトースターで焼いてくれる。そんな光景をぼんやりと見ていると、やがてダイニングテーブルに朝食が準備された。
珈琲とトースト、ジャムとバター。
香ばしい香りが部屋中に広がる。
朝食を誰かに用意してもらうのはいつぶりだろう。毎日雄一の朝食を準備して、気に入らないと文句を言われていた。朝から嫌な気分になって、朝食をとるのも面倒くさいなんて思う日もざらにあった。
「いただいてもいいんですか?」
「もちろん」
「……」
「どうした? 食パンは好きじゃなかった?」
ふるふると私は首を横に振る。
なんだろう、すごく嬉しくて胸が苦しい。
「……朝食を準備してもらえることが、嬉しくて」
「そう? それならよかった」
「……いただきます」
トーストにジャムを塗って、ぱくりとかぶりつく。甘さが口の中いっぱいに広がって、ふわっとした安心感に包まれた。不思議と心が落ち着く。
「これからのことだけど」
「はい」
「今日にでも結婚の手続きを進めようと思う」
ドキンと心臓が揺れる。
朝食ごときで微睡んでいる場合ではない。
しっかりしなくちゃ。
「私はどうしたらいいですか? ソレイユを休むわけにはいかないんです」
「そうだね。俺が手続きの準備をしておくから、莉子さんは仕事が終わったらここに戻ってきて」
「わかりました」
「絶対に一人で何かしようとしないで」
「何もできないですよ」
「心配なんだよ。何かあったらすぐに連絡すること」
「……はい」
素直に頷いた。
今朝は穂高さんの口調がだいぶ砕けている。ちょっと新鮮で、ちょっと落ち着かない。
彼はそんな風にしゃべるんだ。そりゃそうだよね。ここは穂高さんのマンションだもの。ずっと仕事モードなわけがない。雄一は段々と口調が荒くなっていったけれど、穂高さんは大丈夫だろうか。
昨日もそんな感覚に陥ったけれど、ドキドキしているのは私だけで、穂高さんは涼しい顔をしている。
「何か食べる? 珈琲と食パンくらいしかないけど」
「あ、いえ、おかまいなく……」
断ったけれど、「いいから」とそのままソファに座らされた。
穂高さんはキッチンで珈琲を入れたり食パンをトースターで焼いてくれる。そんな光景をぼんやりと見ていると、やがてダイニングテーブルに朝食が準備された。
珈琲とトースト、ジャムとバター。
香ばしい香りが部屋中に広がる。
朝食を誰かに用意してもらうのはいつぶりだろう。毎日雄一の朝食を準備して、気に入らないと文句を言われていた。朝から嫌な気分になって、朝食をとるのも面倒くさいなんて思う日もざらにあった。
「いただいてもいいんですか?」
「もちろん」
「……」
「どうした? 食パンは好きじゃなかった?」
ふるふると私は首を横に振る。
なんだろう、すごく嬉しくて胸が苦しい。
「……朝食を準備してもらえることが、嬉しくて」
「そう? それならよかった」
「……いただきます」
トーストにジャムを塗って、ぱくりとかぶりつく。甘さが口の中いっぱいに広がって、ふわっとした安心感に包まれた。不思議と心が落ち着く。
「これからのことだけど」
「はい」
「今日にでも結婚の手続きを進めようと思う」
ドキンと心臓が揺れる。
朝食ごときで微睡んでいる場合ではない。
しっかりしなくちゃ。
「私はどうしたらいいですか? ソレイユを休むわけにはいかないんです」
「そうだね。俺が手続きの準備をしておくから、莉子さんは仕事が終わったらここに戻ってきて」
「わかりました」
「絶対に一人で何かしようとしないで」
「何もできないですよ」
「心配なんだよ。何かあったらすぐに連絡すること」
「……はい」
素直に頷いた。
今朝は穂高さんの口調がだいぶ砕けている。ちょっと新鮮で、ちょっと落ち着かない。
彼はそんな風にしゃべるんだ。そりゃそうだよね。ここは穂高さんのマンションだもの。ずっと仕事モードなわけがない。雄一は段々と口調が荒くなっていったけれど、穂高さんは大丈夫だろうか。
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